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異世界三度笠無頼 ―凶状持ちの渡世人が、精霊の異郷へ旅立った―  作者: 美風慶伍
〈第十二章/決起〉朝焼けに狼煙を上げた
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壱:出陣の朝 ―エリザ、見送る―

 アルヴィアの街は、川を挟んで南北に分かれている。

 南側は貧しい連中の街、北側は金持ちの街――

 そして、クソ領主に尻尾を振っている連中は北側に住んでいた。人通りの絶えた早朝のアルヴィアの街、その東の外れにある大きな橋、そこが北と南をつなぐ唯一の場所だった。

 俺達は各々に旅姿でその橋へと向かっていた。時折、風が吹き抜け、俺達のマントをたなびかせる。

 橋のたもとは広場になっていて、そこには為政者からの報せや、晒し者の刑罰の咎人が繋がれていた。思えばエリザの姐さんと出会ったのもここだった。


「丈之助さん、エライジャ――」


 物影からひょっこりと顔を出したのは、エリザ本人だった。仕事用のドレス着の上にショールを羽織っている。


「エリザの姐さん」


 俺がそう答えて顔を見れば不安が浮かんでいた。


「行くんだね」

「へい、けじめつけにゃなりません」


 エライジャも言葉を返した。


「いい加減、白黒つけなきゃな。泣かなくていい涙が増え続ける」

「それに流れ者のごろつき2人、こういうことでなきゃ世の中の役に立ちませんぜ」

「そういうことだ」


 俺の言葉にエライジャも笑った。

 そしてそれまで俺たちの背中で気配を消していたセシリアとフレイヤが姿を現す。


「大丈夫だよ、私らがついてるから」

「精霊たちも苦しまなくていいようにしたいんだ」


 2人の言葉にエリザの姐さんは静かに頷いた。


「イリスの店で待ってるからね」


 そう言いながら彼女はずっと俺たちを見守っていた。その視線を受けながら、俺たちは橋を渡る。その先には、領主の城に向けてまっすぐに道が伸びていた。

 一度だけ振り返り、エリザにむけて手を降る。彼女はずっと俺たちを見守っていたのだった。

 


§



 朝焼けを背に俺達は歩く。向かう先はこのアルヴィアの街を牛耳る悪党の根城――マルクスの野郎が居座る居城だ。


「見えてきましたぜ」

「あれか」


 アルヴィアの街の北側――、その小高い丘陵地帯にその城はそびえている。灰色の漆喰の壁、4つ鋭くそびえ立つ尖塔、街のすべてを見下ろすような天守廊、あそこにすべての悪行の元締めが居るのだ。そこへと至る道は広く、その道の両側には豪奢な邸宅が立ち並ぶ。

 あのクソ領主に連なる金持ち共や貴族共、そして、そいつらに尻尾を振ってくっついている矜持なき荒くれ者共だ。

 エライジャが懐から紙巻きタバコを取り出し咥える。それに気づいたフレイヤがタバコに火を付ける。

 

「はい」

「ありがとよ――、それにしても」


 エライジャは周囲を見回した。

 

「腹が立つくらいにお綺麗な建物ばっかりじゃねぇか」


 フレイヤが悪戯っぽく笑いながら言う。

 

「燃やしちゃおうか?」


 ここいらの金持ち共の建物が弱い奴らから吸い上げた金でできていると思うとそれも悪くないと思う。だが――

 エライジャはタバコを勢いよく吸い込み、紫煙を吐いた。


「それも悪くないが――」


 右腰のホルスターからコルトドラグーンを引き抜いてフレイヤに視線を投げる。


「――ふぅ――、先に燃やす連中が居るぜ」

 

 フレイヤも手慣れた手つきで、コルトドラグーンの空弾倉に6発の火弾を仕込むと、エライジャはホルスターに戻す。そしてタバコを一気に半分まで吸うと指先で摘んで道の上に弾く。俺の肩越しにセシリアも姿を表し、俺の肩に軽やかに腰掛ける。

 

「ひねくれた気配がするね。それも20や30じゃきかないくらい」


 セシリアの言う通り、物陰に人の気配がする。それもあからさまに敵意を宿した剣呑な気配だ。

 俺も周囲に視線を配りながら左腰の長脇差の鯉口を切った。

 

「これまた随分豪勢な歓迎でござんすね」

「パーティーの始まりだろう? 花火でも打ち上げてやらねえとな」


 そう告げて、エライジャは背中に背中側に隠していた〝長物〟の小銃を左手で取り出す。

 俺とエライジャ、得意の獲物を手に戦いの火蓋は切って落とされた。


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