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異世界三度笠無頼 ―凶状持ちの渡世人が、精霊の異郷へ旅立った―  作者: 美風慶伍
〈第十一章/感謝〉大恩人に別れを告げた
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四:男と女 ―無頼漢と精霊―

 ガードナーの始末をつけた後、夜の薄暗がりの中、ホルデンズの旦那の屋敷の建物の裏手で、俺はエライジャの旦那と目配せするように話し合った。


「エライジャの旦那」

「一つ片付いたな」

「小物が勝手に池にはまっただけです」

「ああ、ここから先が本番だ」


 するとそれまで俺とエライジャの背中で姿を消していたセシリアとフレイヤがひょっこりと顔を出す。


「いよいよ殴り込むのかい?」とセシリア、

「私も手伝うよ」とフレイヤ、


 だが俺は2人をたしなめた。


「裏切り者のガードナーの一件が片付いたことで、土地の領主の連中も本格的に動き出すでしょうぜ。ただ真夜中に乗り込むのはちとやりづらい」


 エライジャも頷く。


「むしろ向こうも夜襲は頭の中に入ってるだろうし夜の闇夜じゃ視界が効かない。ここは向こうの警戒が集中力を無くし始める〝早朝〟だろうな」

「朝討ちでござんすね」

「ああ」


 セシリアが俺にしなだれかかってニヤリと笑う。


「いいね、朝の風と一緒に殴り込みっていうのも」

「朝日の中の、早立ちってのもオツなもんでござんすよ」


 かたやエライジャはフレイヤに、色々と約束事を教えていた。


「今日は早く寝ろよ。明日は日が出る前にここ出るからな」

「うん、分かった。私は何すればいいの?」

「基本的には俺が合図したら拳銃の中に火弾の魔法を込めてくれりゃいい」

「山でやって見せたみたいにだね?」

「そうだ。俺の部屋で練習しよう。現場でしくじりたくねえからな」

「うん!」


 フレイヤと言う精霊の娘はまだまだ未熟だが性根はまっすぐだ。全ては母親を救うためだ。


「それじゃ旦那、ひとまず体を休めるとしましょうぜ」

「ああ、朝、日の出前に館の入り口で」


 俺たちは示し合わせてそれぞれの部屋へと向かうのだった。



§



 この二ヶ月、体を預けた寝床だったが、おそらく今夜限りだろう。


 寝処のベッドの上に旅支度となる衣装や道具や装備を並べて整理する。

 三度笠や革製のマント、革のサンダルなんかも不備がないか確かめる。肩に背負う振り分け荷物は乗り込む時には持っていかないが、酒場のイリスにでも預けておこう。

 そして最後に左腰に下げる長脇差、狂いがないか、しくじりがないか、一つ一つ確かめて鞘に納め直す。


 もともと物持ちはしない方だが、2ヶ月も滞在すれば情も湧く。酒飲みのグラスや、賭け事の勝ち金のコイン、人足仕事の時に怪我をしないためのまじないの護符なんてのあった。下着の替えもそれなりの枚数になった。だが、流れ旅にはどれもいらない代物だ。

 未練は残すまい。


「みんな置いていっちまうのかい?」

「へい、旅は身軽な方がようごさんすからね」

「いつも、身一つってわけか」

「風のように流れる――、それが無宿の渡世人の生き方です。どこかで命が消えるまで、あてもなく流れるだけでござんすよ」


 だがセシリアは俺の耳元でそっとつぶやいた。


「でもここからはあんた1人じゃないよ」

「いいんですかい? 俺みたいな男で」

「風は気まぐれだよ、どこへ流れるかわからないなんて最高じゃないか」


 そしてセシリアの方から俺に口づけしてきた。


「知ってるかい? 精霊でも人間の男と肌を重ねられるんだよ? 試してみるかい?」

「そいつは是非、お願いしたいところでござんすね」

「それじゃ――」


 俺が笑って答えるとセシリアも笑みを浮かべた。着物を脱ぎながらセシリアと肌を重ねていく。月明かりがさす薄暗がりの中、俺とセシリアは情を交えたのだった。


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