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異世界三度笠無頼 ―凶状持ちの渡世人が、精霊の異郷へ旅立った―  作者: 美風慶伍
〈第十一章/感謝〉大恩人に別れを告げた
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参:愚か者は勝手に堕ちる ―街の制裁―

 俺たちはガードナーを追い、夕暮れの南側の街をひた走った。街の連中も俺たちの異様な雰囲気に何か気づいたのだろう、逃げ惑うガードナーを遮るように人垣を作る。まさに前門の虎、後門の狼――、逃れる場所はなかった。


「ありゃぁ、ホルデンズの旦那のところのガードナーじゃねえか」

「何やらかしたんだ?」

「エマの工房が焼かれた時もうろついてたよな?」

「まさか――」


 ひそひそとかわされる言葉は全てガードナーを疑っていた。その言葉を信じる者たちはさらに集まってくる。その状況にガードナーは冷や汗をかいていた。

 街の連中と、ホルデンズの旦那をはじめとする俺たちがガードナーを取り囲む。その中でガードナーの奴と対峙すると俺はやつを問いただした。


「ガードナーの旦那、あんた、月の出ていない暗い夜に必ず出かけるね。どこに行きなすってた?」


 月明かりの無い夜――、その言葉が出た時にやつの目は泳いだ。


「し、知らねえ! なんのことだ?」

「しらばっくれちゃ困りますぜ。あっしはこの目と耳でしっかりと見てるんでね」


 ここぞとばかりに俺はガードナーを睨んだ。俺の視線からやつは逃げようとする。


「しょ、証拠はあるのか! いい加減言ってんじゃねえぞ!」


 大声を出して見せるが迫力も何もない。馬脚を現し追い詰められた男の気迫なんてのは、ガキの喧嘩の役にも立たない薄っぺらいしろものだ。


「証拠――、証拠ねぇ――」


 俺はわざとため息をついた、こっちの余裕を見せつけるために。


「旦那――、あっしはもともと凶状持ちのお尋ね者でござんす。朝も昼も、もちろん夜も、どこで追っ手の目が光ってるかわかりゃしねえ毎日を送ってきました。ほんのわずかな気の緩みが死に繋がる――寝ても覚めてもそれしかない毎日です。飯を食ってまともにうまいなんて感じたことは一度もねえ。夜だってまともに寝たことはござんせん。それこそ石が転げても目が冷めます」


 異常なまでに研ぎ澄まされた勘――、それが俺の全てだ。それがガードナーにも伝わったのだろう。底知れない恐怖を顔に浮かべていた。

 俺はとどめとばかりに畳みかけた。


「なのにあんなに毎晩のように出歩かれちゃ、こちとら寝不足ですぜ。あんたが毎夜のように出かけるのはすべて見てるんですよ。月の出ていない暗い夜、朝まで一体どこにいってたんですかい? まさか、あのクソ領主の城ですかい?」


 ここでやつにまだ心の余裕があるのなら〝デタラメを言うな!〟と叫んだだろう。だがそれすらもやつからは聞こえてこなかった。これでは自分が裏切り者だと白状したようなものだ。

 今や街の連中は、1人残らずガードナーを睨んでいた。おそらくは今までにも、エマのようにひどい目に遭わされたやつがいたはずなのだ。

 焦ったガードナーはとんでもないことを口走った。


「俺がいなければ、お前たちは新領主に滅ぼされていたんだ! 俺のおかげだ! 俺のおかげで――」

「馬鹿かてめえは!」


 ホルデンズの旦那の怒号がガードナーの声を遮った。


「考えてもみろ! あの計算高い商人上がりの男が、なんの利益もなしに争いを起こすわきゃねえだろうが! いいか? ヤツらが俺達を潰さなかったのは――〝儲からない〟からだよ!」


 旦那の言葉を俺は補強した。


「あっさり殺して潰すより、生かさず殺さずで搾り取る方が悪党には金になりやすからね」


 誰もが頷くような説得力があたりに満ちていた。それでもやつは何とか自分が正しいと主張したかったのだろう。


「だ、だって俺は確かにマルクスに身の安全を――」


 最後の方は声がか細くて聞き取れないほどだった。ホルデンズの旦那は呆れ果てたように吐き捨てた。


「ガードナー――、お前程度の小物の小細工なんかクソほどにも役に立たねぇよ」


 崩れ落ちるようにガードナーのやつは地面に膝をついた。事ここにいたっては自ら始末をつける必要もないだろう。


「行くぞ」

「へい」


 ホルデンズの旦那を先頭に俺たちは戻っていく。俺たちの背後で誰かが叫んでいた。


「やっちまえ!」


 1人の人間を集団で殴る蹴る音が聞こえる。だが、愚か者がどうなろうが俺たちの知ったことじゃない。


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