弐:焦る男 ―無宿渡世人の勘―
ガードナーに対して問いかける。
「随分焦ってるようですが、一体何の騒ぎでござんすか?」
突然ドアを開けて入ってきた俺たちに皆が驚く中で蒼白の表情だったのはもちろんガードナー本人だ。
「じょ、丈之助――」
「へい、ただいま戻りやしたぜ」
「お前ら無断でどこに行ってた!」
「精霊の山に――、一応ホルデンズの旦那には言っといたんですがね」
「俺はお前の上司だぞ! 俺には何も言わなかったじゃねえか!」
「へい、仕事場でもずっと俺のことはほったらかしですからね。ですから一番話のわかるホルデンズの旦那に直接、仁義を入れときました。多分、ソーンスの兄貴あたりは知ってたんじゃないですかね?」
俺の言葉にソーンスの兄貴は頷いた。
「丈之助たちが精霊の山に登ったとなれば騒ぎになるからな、だから誰にも黙ってたんだ」
「恩にきりやす」
「おう」
まさに阿吽の呼吸というやつだ。もともとガードナーのやつになびく人間はいなかったが、全員の敵意がガードナーへと集まろうとしていた。この機を捉えて俺はあえて挑発的に言った。
「そもそも何で、職人街のエマさんの刀鍛冶の工房が焼き討ちされたのか? ご存知ですかい? 理由は明白、誰かが〝チクった〟からでござんすよ」
「〝内通者〟だな?」とソーンス、
「へい、あんなにあからさまな裏切りは久しぶりですぜ」
「丈之助、お前がエマのところに足繁く通っていたことをバラしたやつがいるんだよな」
「そうとしか考えられません。何しろあっしは元々、人殺しの〝凶状持ち〟――昼も夜も追われる人生です。人の気配を察するのは人一倍です。〝渡世人の勘〟ってやつです。それができなきゃ野垂れ死にます」
「そのお前の行動が新領主の側に筒抜けだったとなれば、誰かが教えていたとしか考えられねえよな」
「そういうことでござんす」
いまや空気は一変し、ガードナーに疑いの視線が集まっていた。俺はガードナーのやつに鋭く告げた。
「あっしみたいな逃げ隠れしてきた無宿の渡世人には、裏切り者の動きってのは匂いで分かるもんです」
すると、別な扉の向こうで俺たちの声を聞いていたのだろう、ホルデンズの旦那も姿を現した。
「頭!」
「ホルデンズの旦那!」
俺とエライジャに目配せしつつ旦那はきっぱりと言った。
「ガードナー、お前とは長い付き合いだったが、これで終わりだな」
「そ、そんな――、俺は」
誰もガードナーをかばわない、誰も奴になびかない。圧倒的不利な空気の中、ガードナーはいたたまれなくなったのかその場から逃げ出した。
ホルデンズの旦那の声が響く。
「追うぞ」
「へい!」
俺たちはけじめをつけるため一斉に動いたのだった。




