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五:精霊の小娘 ―母を慕う涙は炎の飛礫となりて―

 だがエライジャが見つけてきたフレイヤってガキの方は少々厄介だった。エライジャが判断に苦慮しているのがよくわかった。


「お願いだよ! あたしを連れてってよ! なんでもするから!」


 フレイヤって小娘が懇願している理由はよくわかる。自分の母親を取り返したいのだ。しかしそうはいかない理由もある。


「子どもの遊びじゃねえんだ。人の生死がかかってるんだよ。それにお前、俺を襲った時も全く弾が当たらなかったじゃねえか? そんなんで仇なんか討てるわけねえだろうが!」


 エライジャは突き放すのに必死だった。実力不足をあのマルクスのところに連れて行ってあっさりやられましたではすまないからだ。街の連中のこれからがかかっているのだから。

 もっともフレイヤ自身も自分の立場はよく分かっていた。


「わかってる。あたしじゃ力不足だってことも、それでもあたしはいかなきゃならないんだ!」

「なぜそんなに拘る?」

「だって――連れて行かれたあたしの母さんを助けたいんだ!」


 フレイヤは、涙ながらに母のことを語った。それは人間のもたらす理不尽にさらされて〝狩られる〟一方の精霊の有様そのものだった。

 そしてエライジャも、その姿にかつて救えなかった黒人奴隷の親子の姿を見ていたのだろう。思案にくれていたが、覚悟を決めたようだ。


「お前、この銃の弾倉に火炎の魔法を込められるか?」


 エライジャは手にしていた拳銃の回転弾倉を開いて見せた。中に火薬と弾丸を詰めて撃鉄で叩いて弾を発射させる。だが今はここまでの戦闘の際に使い切ったのだろう、空っぽだった。

 フレイヤは頭の方は程度がいいのがエライジャが何を求めているかは即座に理解したようだ。


「わかった! やってみるよ」


 言うが早いか指先から小さな火炎の塊を生み出し、それを回転弾倉の中へとひとつ詰める。


「できたよ」


 回転弾倉を収納して少し遠くの岩に向けて狙いを定めれば――


――カチッ!――

――ドォンッ!――


 屋根を引くのと同時に銃口から爆炎を吹いた。


――ゴォオン!――


 岩に巨大な亀裂が生まれて真っ二つに裂けた。


「悪くはねえな、鉛弾の代わりには十分になるな。それにいちいち火薬を詰め込む必要もねえ」


 エライジャは得られた結果に満足しているようだった。


「よし、お前を連れてってやる。俺の戦いを手伝ってくれ」

「ほんとう!?」

「ああ、俺の弾代わりだ。戦場でいちいち弾を詰め直すのも面倒だ。こういうのが俺には楽かもしれねえな」

「わかった!」


 そして、エライジャはフレイヤと契約を交わした。双方に名前を交わし精霊が契約者に〝聖餅〟の火傷痕を刻印することで契約は成立する。無論、フレイヤの戒めもエライジャが解除する。


「――外法!――」


 セシリアのときと同様に、フレイヤの首の周りに光の輪のようなものが浮かんだかと思うと、


――パキィイン!――


 音を立ててそれは砕けた。かくして、俺はセリシアを、エライジャはセリシアとの契約を得たのだ。


「契約成立だな」

「ああ」


 俺とエライジャがそんな風に言葉を交わせば、


「それじゃよろしく頼むよ」

「よろしくお願いします」


 セシリアとフレイヤがそれぞれに俺たちのところに寄り添ってくる。俺たちは精霊の力を得たのだった。


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