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弐:最後の魔法使い ―女が心の傷と、消せない過ちを語る時―

 俺たちはイリスの姐さんに導かれて下線の奥裏の方へと行った。そこには彼女の私室があった。鍵がかかって厳重に戸締りがされている。中を他人に見られないようにしているのだ。

 鍵を開けて中へと入る。そこは書物や魔法の道具、水晶や宝石の類、呪術のこしらえの素材にするのだろう、様々な生物の乾燥物や瓶詰めが並んでいた。

 彼女は椅子を3つ取り出すと部屋の中に座る。俺たちは彼女と向き合う位置に座った。そして彼女は静かに語り出した。


「もともとわたしは精霊の力を使役する術に長けてたんだ」


 それは懐かしい過去を思い出すというよりは、己の罪を悔いるような重い口調だった。


「いろいろな権力者や軍属に精霊使役の呪文について伝授し、戻ってきた報酬で裕福に暮らしていた時もある。だが、精霊使役の術を教えたことで、強制使役される精霊が増えたばかりか、権力者が精霊の力を独占することで支配力を強め、圧政を敷くようになり、街の人々を市民を苦しめはじめた。私はこの時、自分がとんでもないことをしてしまったとやっと気づいた」


 彼女の声が震えている。さらなる罪を口にしようというのだ。


「それでその後どうしたんですかい」

「弟が状況を打破するためと言って精霊の山に登ろうとした。私はお前じゃ無理だと何度も止めたんだけど弟の決意が固くてね。結局私は根負けした。

 あたしから精霊使役の術を学んで精霊の山へと登り、精霊との契約を目指したが失敗――、弟は死んじまった。街の権力者に逆らうために精霊の力を手に入れようとした男の亡骸なんか誰も気にしてくれなかった。墓だって建てられなかった。今は心の底から後悔している」


 イリスの姐さんの目から後悔そのものを表すように一筋の涙がこぼれ落ちた。


「自分の過ちを、愚かさを、痛感した私は魔道士としての過去を封印し酒場女に身をやつして糊口をしのいで今日までやってきた。でも、弟の顔は一度たりとも忘れちゃいない。今でも何度も夢に見るんだ。本当に弟の亡骸、拾ってくれるんだろうね?」


 彼女のその鬼気迫る表情と声に俺たちは素直な気持ちをぶつけた。


「天地神明とこの命にかけて必ず亡骸を拾ってきやす」

「神に誓って」


 俺とエライジャは腹の座った口調で気持ちをぶつけた。その時ようやく彼女は涙を拭った。


「いいよ、教えてあげる精霊を調伏する魔法を」


 俺たちは彼女を説得することに成功したのだった。


「あたしが伝える最後の精霊使役の術になるだろう」


 イリスの姐さんは俺たちに精霊使役の術と、この世界の精霊の存在の真実について語り始めた。


「前振りとして長くなるけど重要な話だからしっかり聞いてくれ。そもそも精霊とは何か? これを理解しないと正しく彼らの力を借りることはできないからね」


 イリスの姐さんの真剣な表情に俺たちは頷いた。


「そもそも――、太古の神と魔の戦いにおいて、人間は神の側について戦い、精霊は魔の側について戦った。そして神が勝利し地上を支配した。

 人間は神の加護により繁栄を約束されたが、魔は地下に封印され、精霊は神に罰せられた。精霊たちは山や海や深い森と言った様々な場所に封印され自由を奪われる事となった。

 そして神は人間に精霊を使役するための魔術と契約の呪文をもたらし、精霊は人間に使役される存在となった――、それが世界に流布している公の歴史さ」

「精霊が神に罰せられた?」


 エライジャの言葉に姐さんは意味深に頷いた。神様ってやつは本当にあれこれと考えているようだ。


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