参:エライジャの罪 ―二人の男、再起の語り合い―
するとそこにはエライジャの奴が居た。
「なかなか、帰ってこねぇんで様子を見に来たんだが――、どうやら大丈夫なようだな」
「エマの嬢さんが、魂こめて造った逸品――、無駄にしたらバチ被ります」
「じゃぁ、やるんだな?――殴り込み」
「当然でさぁ、連れ去られたエマを助けにゃぁなりません」
「だったら――」
そう呟くとエライジャも、エマの工房跡を家探しし始めた。そして、焼け焦げた大きめの木箱を見つけると中を開ける。そこから取り出したのは見慣れない形状の単筒の拳銃だった。
「俺も〝相棒〟を連れてカチ込まねぇとな」
火縄ではなく、叩いて火花を散らす――雷管式のようだ。
「そいつは?」
「俺の拳銃だ。コルトドラグーン――、向こうの世界でお尋ね者として流れ歩いている頃に、俺の命を支えてくれた相棒さ」
弾を射つ銃身の根本に蓮根のような回転弾倉がある。そして、その後ろに雷管を叩く撃鉄がある。6連発の連射式だ。
「ただ、長年使い込んだんでガタガタだった。エマと話をしたときにメンテを頼んだんだ。ダメ元でな」
「それで、それを取りに来たんですかい?」
「あぁ――、こっちの世界の銃はまだまだ未熟で、火縄式や、火打ち石式が主流だ。それがこう言う変わり種を扱えるとなれば、ここのクソ領主なら喜んで連れてくだろうぜ。その意味では俺もお前と同罪だ」
そうつぶやきエライジャは天を仰いだ。
「お前の殴り込み、俺も一枚噛ませてくれねぇか」
断る理由はなかった。戦うなら人数は多いほうがいい。ましてや、こっちの街にしがらみのない〝神落とし〟なら好都合だ。
「望むところです」
「あぁ」
そう語り合いながら俺達はお互いの手を握りあった。
「ですが、その前に向こうの〝精霊使い〟をなんとかしなきゃなりやせん」
「だろうな。どんなに刃物や銃がうまくても、精霊使いの魔法の方がアドバンテージが上だ」
「なら、精霊についての魔法とやらを教えてくれる御仁を探しませんといけませんぜ」
その時だった。現れたのはエリザだった。
「丈之助さんが日が沈んでも帰ってこないんで心配してきたんだけど――、大丈夫そうだねぇ」
そうつぶやきながらエリザの姐さんは大人しめの雰囲気のドレス姿で現れてくれた。
「エリザさん」
「エマの刀――できあがったのかい?」
「へい」
俺はエマが造った長脇差を抜いてエリザに見せてやる。
「見事な業物です。これだけの物を作れる、職人としちゃ一流でござんす」
エリザは俺が見せた長脇差を見てため息をついた。
「なんて美しい――、刃物には素人の私でも見てくれの良し悪しくらいはわかるよ。なるほど、だからあいつに連れて行かれちまったんだね」
その言葉は俺の胸に刺さった。
「だからこそです。マルクスの野郎を許すわけにゃ行きません」
「じゃあやるんだね?」
「へい」
しかし俺はそこで言葉を一区切りしてエリザに問いかけた。
「殴り込むには足らないものがあります」
「それは?」
「精霊についての魔法でござんす」
俺がその言葉を放った時、エリザの表情が変わるのがわかった。




