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壱:長脇差「昇り龍」

 その後どれくらいそこにそうしていたのか――、俺は気がつけば瓦礫の山を片付け始めた。なぜそうしたのか俺にも分からない。ただ体と心が無意識と不思議にそうしていた。

 燃え残りを片付け、まだ無事だった道具を取り分ける、地道な作業を何度も何度も繰り返した。気がつけば周りの職人街の親父さんたちも手伝ってくれていた。

 そうした中の1人が俺に言ってくれた。


「あんたが悪いわけじゃないさ。みんな分かってるよ」

「悪いのは領主の野郎さ」

「――マルクスですかい」

「ああ」


 誰かが大きくため息をついた。


「この職人街の連中は川向こうの連中に何でもかんでも安く買い叩かれてる。少しでも反発すればあのごろつきどもがやってくる。結局言う事を聞くか、商売を諦めてどこかへ行くかそれしかないんだ。そんな中でもあの子は、エマはよくやっていたよ」

「でも、奴らの上の方の連中が出てくると誰も歯が立たねえぇ」

「どういうことで?」

「あんたも焼かれたろう? 凄まじい炎で、あれは奴らが持っている〝精霊〟の力さ」

「精霊?」


 驚く俺にそのおっさんは町の北の山に向けて指をさした。


「あれが精霊の山だ。そもそもこの街は先代の領主様があの山を守るために城を作ったのが始まりだったんだ。精霊は山に囚われて自由自在に動くことができない。そして人間には精霊を使役する魔法がある。だから人間たちはあの山に押し入り、精霊たちに鎖でもつけるかのように無理やり連れて行く」

「人狩りの奴隷でござんすね」

「そうだあれは奴隷だ、精霊奴隷だ。先代のご領主様はそれを哀れに思い、誰も手を出せないように、ここに城と街を作った」


 俺の視線の先には富士の霊峰のごとくそびえる山が見えていた。

 

「山の名前は?」

「モッシュクラウド、その裾野に精霊が住む森林地帯が拡がっている。行くならそれなりの腕っぷしと精霊についての魔法が必要だがな」


 そして、太陽が沈んだあとのことだった。

 

――ガリッ――


 俺は地面に埋もれた瓦礫を掘り起こしていた、その時地面の中に異様な感触を感じた。急ぎ、更に掘り起こせば、そこには頑丈な布で覆われた細長いものが隠れていた。

 

「なんだ? 細長く、やけに薄いぞ?」


 周りの驚く声の中、布をほどけば中から現れたのは――

 

「なんだ? 剣?」

「ちがう、オリエンタルソード?」


 俺はそれを取り出すと右手で天に向けて掲げる。

 

「――刀! 打刀!」

「なんて見事な!」

「側面の模様と装飾――なんて見事なオリエンタルドラゴンだ」


 それは俺の長脇差と同じ長さの打刀だった。両側面には俺が肩に彫った昇り龍がそのままに描かれていた。いつ来たのか俺の背後にホルデンズの旦那が立っていた。

 

「見事なオリエンタルブレードじゃねぇか、それと剣の意匠を取り込んでいる。丈之助、お前の世界の刀と、こっちの世界の剣の見事な融合だな――」

「へい! これがエマさんの〝魂〟の成果」


 エマは俺の教えを守りつつ、自分のこれまでの経験を注ぎ込んだのだ。そして、この龍の刀がその証なのだ。


「エマさんが魂を込めて作り上げた紛れもない本物のカタナです。これにはエマのお嬢さんの鍛冶としての誇りが詰まってます」

「それでこれをどうする?」


 俺はエマが鍛え上げた刀をしっかりと握りしめると、川向うの領主の城を睨んで言った。


「これで立たなきゃ男が廃ります。ケジメ、しっかり付けますぜ」


 ホルデンズの旦那が俺の肩を叩いた。


「それでこそ俺が見込んだ男だ!」

「へい!」


 そして、俺は立ち上がる。今一度、再起を目指して。俺はまだ負けるわけには行かないのだから。


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