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弐:因果と過ちは巡る

 意識が途切れた俺を目覚めさせてくれたのは、エリザの姐さんだった。ベッドの上で俺は全身を包帯で治療されていた。不安げな姐さんが俺をじっと見ていた。全身を痛みが襲い、体を起こすのもやっとだ。


「だめだよ無理しちゃ」

「もう少し安静にしとけ、骨折はしてないが打撲がひどい」


 そう答えるのはエライジャの旦那だった。


「ここは?」

「お前の部屋だ、マルクスの手下連中にひどい目に遭わされた後、俺の診察室に運んで治療してここで寝かせた。丸2日意識がなかった」

「2日?」


 俺は急いで飛び起きた、慌てて周囲を探せば衣装箱の上には折れた俺の長脇差が転がっていた。そしてそれが現実を突きつける。


「エマは? エマはどこに?!」


 その言葉にエライジャが静かな怒りを滲ませながら答える。


「お前の目で見てこい」


 その言葉が何を意味するのか予感がよぎる。慌てて俺は飛び出した。折れた長巻差を握りしめて。

 街を抜け、路地を抜け、川べり添いのあの場所へと、そこにはあの水車のある小屋が建っているはずだった。しかしそこには何も――


「嘘だろう――」

 

 そこにあるのは燃え尽きた瓦礫の山だけだった。

 俺はそれを目の当たりにして呆然と立ち尽くし、膝を折って崩れ落ちる。前のめりに突っぷしり俺は地面に手をついた。


「なんで、なんでこうなった」


 俺が絞り出した声、それ以外出てこなかった。その時だ、俺は不意に横飛びに吹っ飛ばされた。


――ゴッ!!――


 凄まじい衝撃の〝げんこつ〟だった。俺は地面を転げ回る。


「おい」


 野太く力強い声、聞き慣れたその声はホルデンズの親分の声だった。


「俺は言ったよな? 丈之助」


 体を起こし俺は見上げる。


「俺は言ったよな? 丈之助! 〝技を見せるな〟と!」


 俺は答えられなかった。言われたのは事実だからだ。


「自分の手でやって見せたのではなかったとしても、知恵を授けるのも技を見せたのと同じだ! お前は一体、エマに対して何をやった?」


 憤怒の形相でホルデンズの旦那は俺を睨んでいた。


「俺は――、刀の作り方を〝教えた〟――あいつが工房を取られないようにするために売り物になる全く新しい刀を作りたいと言っていたから」

「それで教えたのか、刀の作り方を」

「――――教えた」


 そこで再び、ホルデンズの旦那のげんこつが真正面から飛んできた。俺は後方へと吹っ飛ばされた、そして俺は胸ぐらを掴まれた。


「目の前を見てみろ! これがその結末だ! てめえ! このけじめどうつけるつもりだ! 付けられると思っているのか!」


 俺は立ち上がりもう一度、瓦礫になってしまったエマの鍛冶屋の工房を眺めた。


「あいつは、親父さんの形見のこの工房を守りたいと言っていた――、それが俺のガキの頃に似ていたから――無視できなかった!」


 俺は再び膝を折る。そして両手に地面をつく。腹の底から唸りをあげて俺は叫びをあげた。


「うぉおおおおおおおおおおおう!!!」


 そして俺は何度も地面を叩いた。


「うがぁあああああああああああっ!!」


 誰の言葉も聞こえないほどに俺はどうしていいかわからなかった。


慟哭が響く――

迷いと情けが過ちを生む

丈之助は過ちの真っ只中にあった

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