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六:一合の勝負

 俺は慎重に位置関係を確かめると、相手となる5人が道の往来で半円状に俺を囲んでいるのを確かめた。俺の背後には店の壁などはない。後ろに下がってかわす事はできる。

 俺と向こうの連中、双方が状況を読み合っている。

 俺から切りつけてこないのを向こうの連中はしびれを切らしたようだ。


「死ねぇ!」


 そう叫んで俺の正面にいた1人が襲いかかってくる。素人剣術そのままに大ぶりに振りかぶって剣を振り下ろしてくる。その瞬間――


――ザッ!!――


 俺は素早く飛び出す。それと同時に左腰に下げた刀の鞘を左手で掴んで半分ほど抜きながら、長脇刺しを逆手に握って半分程度抜刀する。


――ガキィイッ!――


 鋭い音がして火花が散る。向こうのダンビラと俺の長脇刺し、双方の刃が鋭く食い込んだ。そして勝負はあっけなくついた。


――ゴトッ――


 打ち付けあったところから向こうの剣はあっさりと折れた。手入れ不足で錆びていたその剣は根元からへし折れた。向こうの連中は折れた剣を呆然と眺めている。俺は皮肉交じりに言った。


「ガキのおもちゃのような剣でござんすね」


――パチンッ!――


 長脇刺しを腰に納める。そして鋭く睨みつけてくる俺に、向こうの連中は明らかに勢いを無くしていた。


「まだやりやすかい?」


 その一言に向こうの5人は慌てて帰っていく。


「ひっ! ひぃいいい!」


 到底名のある騎士様とは思えないような無様な声を上げて連中は帰っていた。俺は刀を腰に戻すと戻っていく。


「お騒がせいたしやした」


 そう告げる時店の中から歓声が沸き起こる。次に帰ってきたのは俺を称賛する声だった。


「すげぇ! あんた何者なんだ?」

「ホルデンズの親分の新しいお身内か?」

「あんた一体何をやったんだ?」


 俺が何者なのか? そして奴らの剣に対して俺が何をしたのか? 矢継ぎ早に質問が飛んでくる。ならばせめて名前だけでも答えねばなるまい。


「疾風の丈之助と言いやす。お見知りおきを」


 俺は軽く頭を下げた。あまり派手なことはしないほうがいいとはわかっているが、物には流れというのがある。ハッタリを効かせてでもかかる剣難を追いはらにゃならないときもある。今がその時だ。

 拍手と歓声が起こる中を元の席へと戻る。座ると同時にソーンスの兄貴の声が聞こえた。

 

「こんな時間に川向うの連中が来るとは思っても見なかった。しくじったぜ」

「あぁ、気を緩めすぎた」

「すまねぇな。助けてもらって」


 俺は静かに笑う。

 

「いえ、たまたま運が良かっただけでござんす。あのごろつきの連中の獲物にヒビが入っていたのが見えたんでね、一気に砕きに行ったんです。刃こぼれでもさせれば御の字だったんですが思ったよりうまくいきましたぜ」

「ヒビ?」

「へい」


 俺は店の客の連中が聞き耳を立てている中を語りつづけた。

 

「やっこさんの剣は手入れがなってねぇ、錆も浮いてりゃ、曇りもある。なにより手ひどいヒビがあった。あれじゃ騎士の肩書が泣きますぜ」

「だろうな」


 ソーンスの兄貴はうなづいた。

 

「アイツらの雇い人であるマルクスは溜め込み屋のドケチだ。使い捨ての三下に上物の武器などやるわけがない」

「下手に高い物をあたえて駄目にされたらもったいねえと」

「そう言うことだ」


 兄貴たちは苦笑する。そこで俺はもう一つ打ち明けた。

 

「それに、あっしの刀とこっちの世界で使われる剣は作りが違いやす。そもそも使い方が別なんです」

「ほう?」

「こっちの世界の刃物は、鎧を着込んだ相手に〝突き刺す〟か〝叩き潰す〟使い方をします。ですがあっしの世界の剣は〝斬る〟事が目的です。とにかく硬い刃を粘り強い鉄で包んで造ります。細身の薄い拵えに見えても斬ることはあっしの獲物のほうが上です。しかし、長い時間打ち合うと丈夫さではこっちの世界の剣のほうが上だ」

「だったら、鍔迫り合いになったら流石にやばかったな」

「へい、ですから、初手で相手の武器を壊せたのは運が良かったんですよ」


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