おまけ:エリザ、ついてくる
その日の午後、エリザがイリスの店に現れた。そして、丈之助たちの姿を探し始めたのだが。
「えーーーーーーーっ! あの二人行っちゃったの?!」
「お? おう――」
「なんで教えてくれないのよ!」
悲鳴を上げているのはエリザ、問い詰められているのはホルデンズだった。
「仕方ねぇだろ――、状況が切羽詰まってたし、こっちも王国政府に身構えるので精一杯だ」
丈之助がこの街に来てからずっと一緒だったエリザだ。平和になったらもっと親しく――と思うものもあったのだろう。
イリスがエリザの様子を苦笑しつつ見守っている。
「どうするの? イリスちゃん?」
「決まってるでしょ! 追っかける!」
「はぁあ?」
これに驚いたのはホルデンズだった。
「正気か?! あいつは今や国中のお尋ね者だ! 巻き添え食うぞ!」
「それでも行く! あの人と一緒になりたいんだ!」
そして、イリスにもこう告げる。
「姐さん、今まで世話になってたけどごめん! 私行くね!」
「気をつけてね、何かあったらいつでも戻っておいで」
「うん! それじゃ!」
本気になった女の行動は早い。
別れの言葉もそこそこにエリザは旅支度を整えると飛び出すようにアルヴィアの街を出ていった。
そして――
アルヴィアから、南に向かった街道筋、丈之助たちは道端に腰を下ろして休んでいた。昼飯代わりに街で買っていたパンを齧っていた。
「さて、そろそろ行きやすかい」
「あぁ、夕暮れまでには次の街につきてえ」
丈之助とエライジャがそう語り合っていたときだった。
「おーーーーい!」
二人には聞き慣れた声がする。
「なんだ?」
「あれは? エリザの姐さん?!」
「追いかけてきたのか?」
それは旅支度姿のエリザだった。雨風に強そうな木綿のワンピースドレスに、厚手のロングのフード付き外套を着て、脚にはブーツを履いている。腰はベルトでしっかりと締めて護身用の剣を下げて、肩から斜めに荷物を詰めたカバンを下げていた。
驚く二人をよそに、追いついたことで顔をほころばせていた。
「よかった! 追いついた!」
丈之助が言う。
「どうしたんですか? 姐さん」
「どうした――って決まってるだろ?」
エリザはにこりと笑った。
「一緒に行くよ」
その笑顔の裏には覚悟が見えた。
「楽な旅じゃありませんぜ?」
「それがどうしたってんだ。今までだって苦労のしどうしだったんだ。これ以上どうってこと無いよ」
そうだ、エリザは辛酸を嘗めるような日々を送ってきたのだ。だからこそだ。
「アンタと一緒に居たいんだ」
エリザは丈之助の目を見て言った。エライジャが苦笑し、セシリアがちょっとムッとしている。
だが、丈之助も思うところはある。
「シノギはどうするんですかい?」
「あたしゃ娼婦だよ? 体一つでどうともなるさ。それに、リカルドが連れてたマリネアさんがあたしの体の傷を消してくれてね、やっと気兼ね無く仕事ができるようになったからさ」
意外なつながりだった。エリザの腰に残っていたひどい火傷痕。あれがエリザの過去の残渣だったが、ようやくそれが晴れたのだ。
「女はしたたかだな」
エライジャが言う。
「だろ? それに道案内は必要だろ?」
「それを言われちゃ、逃げようがねぇですぜ」
「ふふ、じゃあ決まりだね」
エリザは喜んで丈之助の腕にすがる。
フレイヤは楽しげにそれを眺め、セシリアは悪態をついた。
「あんまりくっつくなよ!」
「いいじゃないのさ、減るもんじゃなし」
同じ男に惚れた女同士、譲れないところがあるのだろう。でも、拒絶はしなかった。
丈之助たちも覚悟を決めた。
「ダメだと言ってもついてくるでしょうぜ。ですが、自分の身は自分で守ってくだせぇ」
「わかってるよ。これでも、娼婦になる前は一度は街を離れてたんだ。多少の荒事もできる。迷惑はかけないよ」
つまり、エリザも衝動的に出てきたばかりではないのだ。ならば致し方あるまい。
「それじゃ行くか」とエライジャ。
「よろしくね」とエリザ。
そして、丈之助は歩き出す。
「それじゃ行きやすかい」
人間3人と精霊2人――、旅路は賑やかに続いたのだった。




