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五:親父 ―ギルドの紋章―

 宴が終わり人々が帰っていく、エリサさんとセリーナさんは、ホルデンズの旦那の邸宅に当分の間は厄介になるのだという。

 そして今、店に残っているのは、俺とエライジャとホルデンズの旦那だけだ。エリザの姐さんは、店の外でタバコを吸うと言っていた。

 私は3人だけで言葉を交わした。


「2人ともご苦労だったな」


 しみじみとした言葉が伝わってくる。


「旦那も深手を負ったんでしょう? 大丈夫でござんすか?」

「ああ、内臓には届かなかったからな、かなりの針数を縫ったがどうってことはない」

「それはようござんした」


 そうして旦那は俺たちを引き止めた理由となる言葉を口にし始めた。


「悪いが2人とも明日の朝、日の出とともに、この土地から出た方がいい」


 エライジャも盛大にため息をついた。


「やっぱりそうなるよな」


 そう言いつつ顔には苦笑いが浮かんでいた。


「あれだけ派手に暴れた上に、領主もその副官も側近も、ばっさりやっちまったんだからお偉いさんに目をつけられないはずがねえぜ」

「これだけ派手に、貴族様のメンツをぶっ潰したんです。それ相応の動きがあるのは当然でしょうぜ」


 ホルデンズの旦那も憮然とした表情で目線を合わせていた。


「お前たちの言う通りだ、おそらくは明日にでも王国政府の役人がすっ飛んでくるだろう。そうなる前にここから旅立つ以外にない。残念ながら今の俺は、騎士でも貴族でも何でもねえ、荒くれ者を束ねただけのただのごろつきだ。次にどんな領主が来るか? それに身構えるだけで精一杯だ――」


 そして旦那は深々と頭を下げた。


「本当にすまない」


 男が頭を下げる――、それがどんな意味を持つのか? 考えただけでも旦那の腹の中には忸怩たる思いでいっぱいだろう。


「仕方ありやせん。あっしらはそのために刀を抜いたんですから」

「そういうことだ。それに俺たちは元々、人殺しのお尋ね者だからな。いつか素性がバレれば疎ましいと思うやつは必ず出てくる。これでいいんだ」


 そう言ってエライジャもニヤリと笑った。

 そんな俺たちにホルデンズの旦那は懐に持っていた革の袋を2つ取り出した。

 いかにもずっしり重そうなそれは――


「当面の間、旅路を行くために必要な路銀が入っている。それとこれも渡しておく」


 旦那が金の入った革の袋と一緒に俺たちに渡してくれたのは銀メッキのされた手のひらほどの大きさの紋章のプレートだった。剣と雷光が刻まれている。


「ソーンスが馬を飛ばして急いで手に入れてきたものだ」

「これは一体何でござんすか?」

「――ギルド――の紋章だ」

「ギルド?」


 俺たちのつぶやきに旦那は頷いた。


「戦闘職を生業とし、あちこちを流れ歩く、剣士や魔法使い、その他いろいろな技を持つ職業の者たちが、身の安全と仕事の確保を目的として非合法に作った組織だ。一般に〝冒険者ギルド〟と呼ばれている。たとえお尋ね者でも、腕さえあれば受け入れてくれる。この紋章はギルドのメンバーの証だ。これを頼りに生きていくがいい」


 そしてホルデンズの旦那は寂しそうに笑った。


「俺がお前たちにしてやれる最後の手助けだ」


 この人は最後の最後まで俺たちの〝オヤジ〟だった。


「ありがとうにござんす」

「本当にすまない、最後の最後まで」


 俺たちがそう告げると旦那は俺たちの肩をそっと叩いたのだった。


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