真実の血統
少しずつ日常を取り戻そうとするアレクス。
しかし彼の歩む先には、まだ知らぬ「真実」が待っていた。
彼自身の出自、そして繋がりの意味――その断片が、ついに明かされる。
『8月2日 / 8:39』
昨日の誕生日の事、まだ驚いてるんだ。ルーシーが自分の誕生日を覚えてなかったなんて... でも、みんなで彼女の誕生日をどうにか調べてみるって約束してくれた。誕生日には全員を家に連れて行った。エミリーだけは急用があって泊まれなかったけど、それでも楽しいパーティーだった。
でも今日はまた、いつもの事をしなきゃならない。次の女の子を見つけることに集中しないと。
外に出て霊輝を感じ取ろうとしたが、どれだけ探しても何も感じられない。4時間かそれ以上、家の外でマークした場所を回ってみたけど、どこにいても何も感じない。しばらくその場に留まってみても同じだった。結局、今日チェックした場所は全部選択肢から外すことにした。残りの場所をもっと調べてみよう。
『8月3日 / 11:14』
ウィリアムの家で霊輝の訓練をするために会った。今回、ウィリアムは家族全員が持ってる能力があって、それも覚えるべきだって言った。その能力は...飛ぶことだった。驚いた。霊輝を使って飛ぶなんて考えることすら不可能だと思ってたのに、実際可能なんだ。前にウィリアムが浮いてるのを見たことがあったから、俺も覚えたかった。でも簡単じゃなかった。ウィリアム曰く、完全に習得するには丸一ヶ月はかかるらしい。その日の残りはその能力の訓練をした。
『8月4日 / 12:35』
今日もまた次の女の子を探しに出かけた。今回はひかりが一緒に来てくれた。すごく助かったけど、結局色んな場所を回っても何も見つからなかった。選択肢は減ってきてるのに、何も見つからない。本当に次の子を見つけるのが難しくなってきた。
『8月5日 / 13:11』
また、ウィリアムの家で霊輝の修行を続けている。今回はエミリーも一緒にいた。そんな中、エミリーが母親からの招待の話を持ち出してきた。またもや忘れかけていたが、もう集まりの時が来たようだ。ただ、今回エミリーは決まった日付を教えてくれた—8月13日、お盆の日だった。亡くなった人々を偲ぶ特別な日に、何故かエミリーの母親はその日を指定したがっている。
「分かった」
承諾した。その日にやることができた。
『8月6日 / 8:00』
今日はライラの誕生日だ。起こしに行くことにした。部屋に入ると、ライラの姿がない。驚いていると、クローゼットから飛び出してきて俺を驚かせた。単純ないたずらだが、なぜやったのかよく分からない。
「お誕生日おめでとう、ライラ」
彼女は微笑んで抱きついてきた。この日は、ライラと一緒に遊んで過ごすことだけに時間を費やした。
『8月7日 / 11:14』
今日もまた捜索に出かけた。フィリアからメッセージが届いていて、彼女が捜索を手伝いたいと言っていた。しかし、また何も見つからない一日だった。選択肢が狭まってきている。何も見つけることができずにいると、不安になり始めた。探している特徴を持つ場所はもう10箇所しか残っていない。本当にこれらの場所のどこかにあるのだろうか...疑問が湧いてきた。
『8月8日 / 14:00』
修行を続けていると、霊輝が体を軽くするような感覚を覚え始めた。ほんのわずかだが、浮上するような奇妙な感覚だった。浮き上がる瞬間に、自分の全体重が体にかかるのを感じることができる。飛行能力をコントロールすることは、霊輝を感知することを学ぶよりもはるかに複雑だった。それでも、残りの一日を修行に費やした。
『8月9日 / 13:25』
今日はメリッサと特別な場所で会った。コスプレの特別なイベントだった。彼女がこういうのに夢中なのは当然だろう。案の定、レイヴンのコスプレをしていた。黒いレオタードみたいな体にフィットした衣装で、チェーンや装飾品がたくさん付いていて目を引く。髪を二つ編みにしてキャラクターに似せようとしていた。ウィッグは使いたくなかったようだ。まだ自分がレイヴンだと思い込んでいる傾向があるからな。それでも俺にとっては新鮮な体験だった。メリッサと過ごす時間は最高だった。
『8月10日 / 17:10』
ルーシーの住んでいる近くで開催される祭りに誘われた。彼女は俺と時間を過ごしたがっていたが、特に話したいことがあった。自分の誕生日のことだった。思い出せないのだ。長年のトラウマ、夢喰いとの戦いの精神的重圧、学校から学校への転校...彼女には自分の誕生日を思い出すことが不可能だった。
歩いている間、彼女はまだ齧っていないりんご飴を持っていた。人里離れた場所に着くと、彼女が言った。
「ここなら花火が見えるな」
花火を見るのを楽しみにしているようだったが、横顔を見ると憂鬱そうだった。本当に自分の誕生日を思い出したいのだろう。何か言おうと思った時、花火が始まった。
ドーン…… ドーン……
彼女は笑顔になり、目が輝いた。でも突然、何度も瞬きを始めた。何かを思い出しているようだった。
「待って...何か思い出したの」
「何を思い出したんだ?」
「昔、お父さんがあたしをこんな祭りに連れて行ってくれたのを思い出したな。色とりどりの花火を見て、りんご飴も持ってて...」
彼女は黙った。俺の方を振り返って言った。
「お父さんが言ったの。幸せを見つけなさいって」
お前の誕生日の話かと思ったが、違った。花火を見ていたが、その時ルーシーが俺の頬にキスをした。頭が真っ白になった。ルーシーの赤らんだ顔が全てを物語っていた。
「これがあたしの幸せよ...」
処理できなかった。俺がルーシーの幸せ?そんな感謝と感情の表現を受け入れることができなかった。本当にそれほど彼女にとって価値があるのか?何も言えなかった。花火の音だけが聞こえて、二人で見つめ合って...
ドーン…… ドーン……
周りの轟音が霞んで聞こえるほどの、彼女との深い沈黙の中で、無意識に、本能的に彼女に近づいた。唇が触れ合った。なぜこんなことをしたのかわからない。でも自分でやったんだ。衝動で。もうどうでもよかった。ただやったんだ。
こうしてこの日は永遠に記憶に刻まれることになった。
『8月11日 / 7:20』
昨日ルーシーと起きたことを思い出してしまった。まだ信じられない...あんなことをするなんて。キスしたのは本当に衝動だったのか?それとも自分の意志でやったのか?どちらにせよ、彼女は嫌がってもいなかったし、そんな様子もなかった。でも二人とも残りのデートの間はすごく恥ずかしがってた。
これって一体何を意味するんだ?単純に彼女への気持ちを受け入れるべきなのか?でも他の子たちはどうなる?この考えをまとめることができない。彼女たち一人一人が俺にとって大切だと感じるから。じゃあ一体どうすればいいんだ?
考え続ける前にスマホが振動した。メッセージが届いたが...送信者は不明だった。詳細を確認しようとしても、なぜかブロックされているようで何も表示されない。メッセージ自体も何も書かれていない。ただの空白のメッセージだ...これは何を意味するんだ?これが何なのかと考えると、妙な感覚が走った。メッセージを削除して、今は考えないことにした。とりあえず休むことに集中しよう。明日は訓練に戻る予定だったが、ウィリアムからのメッセージで明日は訓練できないと知らされた。
選択肢がないなら、明日は街で彼女を探そう。まだ探していない最後の場所を回ってみる。
『8月12日 / 11:32』
最後の可能性がある場所を探し回ってるが、まだ何も見つからない。一箇所から次の場所へと移動してる。残ってる場所はどれも離れていて、辿り着くのに時間がかかる。気付いた時にはもう十分遅い時間になっていて、街をこんなに遅くまで移動し続けるのは危険だった。
最後にもう一箇所だけ確認する場所が残ってる。そこでも見つからなければ、もうどうしていいか分からない。でもとりあえず明日...ついにエミリーの母親と話す日が来る。一体どんなことを教えてくれるんだろうか?
『8月13日 / 10:08』
ライラと一緒にエミリーの家に着いた。今日はお盆の日だ。重要な話があるから今日集まりたいと言われていた。
ドアをノックすると、エミリーが出てきた。家に入ると、エミリーの家は驚くほど目を引く作りだった。空気中に高級感が漂っているが、正直言って家にある一つ一つの物が本当にどれほどの価値があるのかは分からない。
エミリーの母親が俺たちを迎えてくれて、裏庭に案内された。そこには立派な盆棚が設えられており、先祖の位牌の前には新鮮な果物や精霊馬が供えられていた。……この家では、供養を本当に大切にしているんだな。
「アレクスさん、本来なら夕食にお招きするつもりでしたの。でも事情がこうなってしまって、申し訳ありませんわ」
「気にしないでください。俺にとっては話したいことの方が重要ですから」
「…それはそうですわね。でも私、全てをお話しできませんの」
「理由を聞いてもいいですか?」
「…それはあなたのお父様に関わることだからですの」
「お…俺の父さんに?」
「そうです。全てを理解したいなら、お父様とお話しになることが必要ですの」
どうやら彼女は見た目以上に多くのことを知っているようだ。父さんのことまで言及している。彼女は家族の盆棚をじっと見つめて話し始めた。
「まず最初に、これだけ時間が経った今、一つのことを確信できますわ。あなたのお顔をよく見て、その瞳を見ると、とてもよく覚えていますもの」
「何を覚えているんですか?」
「あなたのお父様の名前、アクセルさんでいらっしゃるでしょう?間違いありませんわ」
驚いた。エミリーの母親がどうして父さんの名前を知っているんだ?
「どうして知ってるんですか?」
「お話しできますけれど、ご本人から直接お聞きになる方がよろしいかと思いますの」
なぜこんなに謎めかすんだ?それとも父さんに真実を話す責任を委ねたいからか…もしそうなら、父さんが多くのことで俺に嘘をついてきたということを示してるだけじゃないか…
「アレクスさん、責めたりしないでくださいね。お父様とお話しになれば、きっと理解できますから」
この言葉をどう処理すればいいのか分からない。今度は彼女がライラを見て言った。
「この子に関しては、私には全くの謎です…」
「どういう意味ですか?」
「先ほどこの子とお話ししたとき、私たちの末裔である可能性があると申し上げましたの」
「何だって!?初めて聞くぞ、それ」
「ライラちゃんがあなたに隠し事をしたがることは驚きませんわ」
ライラは俺の後ろに隠れて、頭を下げた。罪悪感を感じているようで、言われたことが本当だったようだが、まだ話す準備ができていないみたいだ。
「調べてみましたの。彼女の霊輝を感じ取ると、私たちの家系の馴染みを感じますわ。おそらくヴェスパー家の末裔でしょう。でも他の家族の者たちと話した結果、否定的な答えしか得られませんでした。私たちの家系の誰も子供を見捨てたりしませんもの。では、この子は一体何者なの?どこから現れたの?」
ライラは俺の背中にさらに隠れた。エミリーの母親に威圧されているのかもしれない。
「何が言いたいんですか?ライラがどこから来たかなんて関係ない。今は俺の家族なんです」
「強い意志ですわね。でも私、この子についてもっと調べたいと思いますの。だからお願いがありますの」
彼女はライラの高さまでかがんで言った。
「ライラちゃん、あなたの血を調べさせていただけませんか?そうすれば、答えがついに明らかになりますわ」
ライラは俺のシャツの裾を掴んで、俺の背中に顔を隠した。エミリーの母親の提案に協力したくないようだ。
「これはライラちゃんのためですのよ。あなたの出自が分かったとしても、あなたの生活は少しも変わらないとお約束しますわ」
そんな言葉にも関わらず、ライラは何も言いたくないようで、同じようにじっとしていた。
混乱して少しイライラしてた。ライラがこんな風になってるのを見てられない。だから割って入った。
「すみません、お母さん。でも、これ以上ライラに無理強いするのは見過ごせません。ライラは嫌がってるんです」
彼女は言葉を失って黙り込んだ。それでも気を取り直して、また盆棚の方に歩いて行く。
「でもアレクスさん、一つだけ確実に言えることがあるわ。これはエミリーにも関わることよ」
困惑してエミリーを見た。彼女も俺と同じで、何を言おうとしてるのか全く分からないようだった。
「アレクスさん、信じられないかもしれないけど、知ってるでしょう?ウォルター家とヴェスパー家は親戚なのよ。それぞれの家系の子孫は従兄弟か叔父叔母の関係にあたるの」
「何が言いたいんです?要点を言ってください」
「せっかちね。いいわ、エミリーとあなた、遠い血筋とはいえ、まだその家系の一部なのよ。だから明かしたいの...私は確信してるわ、アレクスさん、あなたはヴェスパー家の血筋よ」
「そんなバカな!そんなこと知るはずがない!その姓すら持ってませんよ!」
「分かるのよ、だってあなたが今使っている『朝倉』という姓は、実はあなたのお母さんから受け継いだものだから。お父様側の名字じゃない」
「えっ!?」
「言ったでしょう、詳細はお父様と話すのが一番よ」
「信じられない...」
「だから言ったように、あなたがヴェスパー家なら、エミリーの遠い従兄弟にあたるの。そう、あなたとエミリーは遠い従兄弟同士よ」
「...!?」
言ってることが信じられなかった。エミリーも俺と同じぐらい衝撃を受けてるみたいで、何も答えられない。正しく考えることもできない。本当に俺が彼らの子孫だって?エミリーが従姉妹だって?全部処理しきれない。
そのとき、彼女がまた話し始めた。
「これがあなたにとって衝撃的なのは分かるわ。でも私も全部悪いのよ...こんなに長い間、今になってようやく物事を変えようとするなんて。私も馬鹿だったの」
何を言ってるんだ?彼女の言葉が理解できない。エミリーを見ると、彼女は下を向いて考え込んでいる。
「私たちの家族について一つお話しさせて。これは『MP の呪い』と呼べるものよ」
なぜか彼女の方を振り返った。いつものような厳しい表情がより和らいで、落ち着いて話している。
「この所謂"呪い"は、私たちの種族がいつもバランスを取らなければならないということなの。ウォルター家の誰かは必ずヴェスパー家の誰かの近くにいなければならない。必ず、間違いなく、絶対に起こるの。ウォルターは常にその相手、ヴェスパーと一緒にいるのよ」
彼女はエミリーのところに行って、肩に手を置きながら話を続けた。
「あなたたちの場合、運命が再びあなたたちを結び付けたの。きっと思いもよらない方法で出会ったでしょう。それがMP の運命よ。いつもペアになるの。私たちの家族間の絆はそのレベルなのよ」
「それって霊輝と何か関係があるんですか?」
「いいえ、これが私たちの正体なの。私たちの種族は人間とのハーフだけど、元々は"M"と"P"という別々の種族だったのよ。10世代以上前からこの地球に存在してる。それが単純に、その起源を持つ存在としての私たちの本質なの」
全部処理することができない。自分の手を見て、エミリーを見て、彼女の母親を見ても、霊輝を除けば人間と区別するものが何も見つからない。でも種族として、俺の背後には隠された多くのことがあって、それが...恐怖を感じさせる...。
エミリーの母親がもう一度厳しい視線を向けてきた。
「ところで、はっきりさせておくけれど、私がウォルター家の誰かがヴェスパー家の誰かの近くにいつもいるって言ったのを、勘違いしないでちょうだい。一緒にいるっていうのは仲間としてよ、恋愛的な意味じゃないの。だから変な考えを起こさないでくれる?」
「はい、分かります、分かってます。そんなこと考えてませんから...」
それでも、こんなことが起こるなんて信じられなかった。今明かされたことすべて。エミリーも混乱しているみたいだったし、動揺しているようだった。彼女も何も知らなかったんだ。あまりにも重すぎる。でも残りの答えは父さん次第だ。
今度どうやって父さんの顔を見ればいいんだ?真実を隠していたって知ってしまった今。父さんが嘘をついていたって分かった今、どうやって父さんを見ればいいんだ?何を考えればいいのか分からなかった。
そんな考えに沈んでいると、エミリーの母親が肩に手を置いてきた。
「他人を守る優しさを持ちながら、自分には厳しいのね、アレクスさん。……あの言葉、ライラちゃんに返すように、今はあなたに返すわ」
認めたくないが、彼女の言う通りだ。自分の出自が分かったところで、俺のままだ。結局のところ。でもこれを全部冷静に受け止めたとして、父さんとどう話せばいいんだ?まだどうすればいいのか分からない。
結局、ライラと一緒にエミリーの家を後にした。エミリーには何も言えなかった。ただあのまま置いてきてしまった。もし彼女が従姉妹で、出会うのが運命の一部だったなら、今後どう接すればいいんだ?
実際のところ、それを疑う必要はないだろう?だって自分でも分かってる。ただ同じでいればいいんだ。エミリーとはまた今度、もっと落ち着いてから話そう。
その後、午後にライラと一緒に家で母さんの盆棚も作った。物事があまりにも変わりすぎている。でもこの変化は前に進むためのプロセスの一部なんだ。変化がなければ前に進めないから。
次回――
自らの血に秘められた真実を知ったアレクスは、混乱の中で答えを探そうとする。
だがその裏で、エミリーの心には小さな亀裂が生まれ始めていた。
この真実は、誰を救い、誰を傷つけるのか……。




