心は騙さない
ルビーを霊輝から解放し、ようやく彼女に笑顔が戻った。
アレクスにとって、それは一つの区切りであり、新たな始まりでもあった。
けれど――まだ終わりではない。
残された謎と見えぬ影が、静かに次の幕を開けようとしていた。
『7月27日 / 9:06』
荷物を全部詰め終えた。もう家に帰る時間だ。でも、昨日ルビーを救えなかったことが胸に重くのしかかっている。あの夢喰いとの戦いの後、俺はもうボロボロで動くことすらできなかった。実際、俺をホテルまで運んでくれたのはルビー自身だった...背負って...。恥ずかしかったな。ホテルの人たちがみんな振り返って見てるし。
でも、そんな社会的な恥なんてもうどうでもいい。プランBを実行するしかないってことは分かってる。彼女を救わずに帰るつもりはない。すべてはルビーの返事次第だが、もし断られても、プランCまで用意してある。心配することはないだろう。
荷物を整理して、ホテルのフロントに降りると、みんながそこで待っていた。昨日起きたことは既に話してあるから、ルビーの状況と俺の計画についてはもう知ってる。荷物はすべて茜のワゴン車に積み込んだが、俺にはルビーの家に行かなければならないことがあった。戻ってくるまで待っていてくれと頼んだ。
ルビーの家まで歩いて、ドアをノックすると、彼女が驚いた表情で扉を開けた。
「何してんのよ、ここで?今日帰るんじゃなかったっけ?」
「ああ、帰る準備は出来てる。でも、まだ約束を果たしてない」
彼女は驚きと緊張の間で揺れているようで、何を言えばいいか分からない様子だった。
「ルビー、提案があるんだ」
「...中で話さない?」
うなずいて家に入った。リビングで床に座り、ルビーをじっと見つめる。これから出す提案は彼女にとってデリケートなものかもしれない。でも、彼女を確実に救える唯一の方法として思いついたのが...
「ルビー、俺と一緒に来ないか?」
「えっ!?」
そうだ。ルビーを連れて行く。それがプランBだった。――ルビーをアナの家に泊まらせてもらう。彼女も既に了承してくれてるから問題ない。でも、俺がこれを思いついたもう一つの理由があって、それは…
「お前、ずっと海の近くで生活してきたから、街で楽しめる他のことをあまり知らないだろ。だから一緒に来て欲しいんだ。俺たちと一緒に。霊輝から解放するだけじゃなく、すべてから完全に自由になって欲しい。もう前に進む時だ」
彼女は驚いたように、思考に沈んでいる様子だった。何を考えているんだろう。何を決めるんだろう。彼女が口を開くまでは分からない。しばらく沈黙が続き、彼女の視線は迷っているように思考的だった。そして言った。
「...本当に一緒に行っていいの?」
「もちろんだ」
「あんたたちと一緒にいる場所がある?」
「ああ、あるさ」
「...海はずっと、この奇妙な人生でも、ボクの人生すべての付き添いだったな」
彼女は立ち上がり、そこにあった家族の写真を手に取った。俺の方を振り返って言った。
「行こうさ!世界をもっと知りたい。あんたのこと、みんなのことをもっと知りたい。ボクは...帰る場所が欲しいんだ」
俺も立ち上がり、彼女に手を差し出した。
「じゃあ、行こうぜ!」
家を出て、みんなが待っている場所に向かった。ルビーは自分を大切に思ってくれる人たちに囲まれて、とても幸せそうに見えた。もう二度と孤独を感じることはないだろう。あとは彼女と霊輝から解放するためのもう一度の機会を作るだけだ。それは今日中にやらなければならないことになる。
『12:20』
どこに連れて行くかはもう決めていた。彼女を楽しませるために必要な物も全部揃っている。遊園地に行くつもりだった。俺は断ったんだが、茜が金を渡してくれて、思いっきり楽しんでこいと言われた。
入り口に着くと、彼女は緊張しているようだった。実際、前に遊園地に来たことがあると言っていたが、これが二回目らしい。手を差し出して言った。
「さあ、思いっきり楽しんで、お前の霊輝から解放させてやる」
ルビーは俺の手を取り、一緒に中に入った。
最初に向かったのは、俺が始めるとは思わなかった場所だった。お化け屋敷だ。なぜここから始めることにしたんだ?本当に理解できないし、聞く気もなかった。彼女がそうしたいなら、それで十分だった。
お化け屋敷の中を歩き始めると、恐ろしい演出があちこちにあったが、夢喰いを見慣れている俺にとって、この程度の恐怖は何でもなかった。ルビーも同じようで、ただこういうものを見て楽しんでいるだけだった。
お化け屋敷を出ると、彼女は既に次の目標を決めていた。ローラーコースターを指差して、興奮している様子だった。付き合うことにした。
この手の乗り物は、速度と動きのせいで俺を少し混乱させる。ローラーコースターから降りた時は少しめまいがしたが、しっかりしていなければならなかった。なぜなら、彼女は既に次を決めて、スプラッシュマウンテンを指差していたからだ。
ルビーはかなりアドレナリンが出ているようだな、と思い始めた。行く場所ごとに前よりも激しくなっている。今回は、滑り台を下る時のアドレナリンを感じ、水しぶきが上がったのは楽しかった。そして何より、ルビーが楽しんでいる姿を見るのが満足だった。
降りた時、驚いたことに彼女が言った。
「メリーゴーランド乗りたいんだ」
今までやってきたことを考えると、驚くほど穏やかな選択だった。回転している間、彼女は笑顔で一瞬一瞬を楽しんでいた。メリーゴーランドでの回転が終わった時、スタッフの誰かが今日の特別アトラクションを宣伝している声が聞こえた。
ルビーはすぐに興味を示した。理由は、彼女がプロレスリングという言葉を聞いたからだった。どうやら特別イベントは『プロレスリング・サンダードーム』と呼ばれているらしい。
「これ見に行こうよ!すっげー面白そうだ」
彼女は非常に興奮していた。肩をすくめて、俺はルビーと一緒にこの特別イベントが行われる場所へ向かった。
会場内でプロレスの試合が行われていた。特別なイベントらしく、子供の頃にテレビでこの手の娯楽を見たことはあったが、趣味だと考えたことはなかった。でもルビーはとても興奮していた。
イベントが始まり、レスラーたちがリングに登場し始めた。最初の試合は二人のレスラーで、派手な名前を持っていた。一人は「タイタン」、もう一人は「デーモン・カレイド」と呼ばれていた。
ルビーは彼らの動きを見て興奮し始めた。
「見てよアレクス!ムーンサルトプレスやってるじゃない!すげーと思わない?ボクもそんなことできたらいいのになー」
試合が進むにつれ、彼女は技の説明を続けた。
「見て見て!シューティングスタープレスやってる!あの前方宙返り、すげーじゃない?」
ついにメインイベントが来た。「エル・トロ」という覆面の男と、「Mr. K」という威圧的な外見の相手だった。彼女は再び試合中に見たものを実況した。
「うわー!あのトペ・スイシーダすげかったな!ロープを越えて外にいる相手を攻撃するなんて!」
試合が終わりに近づいているように見えた時、観客全体が興奮して叫び始めた。
「ラリアット!!」
ルビーも同じように叫んだ。
「え?今のは何だった?」
「知らないの?あれは彼の打撃技よ。ラリアットって呼ばれてるんだ。あの音聞こえなかった?頭が吹き飛びそうだったじゃない!」
彼女がこの手のことを当然のように話すのに驚いた。
最後にイベントが終わった。こういうものを見ることができて超嬉しそうだった。結局、彼女はこういうものが好きなんだ。戦いに情熱を持ち、アドレナリンに満ちているようで、その爆発的な態度を止めようとしないようだった。初めて会った時に感じたあの感覚を、今はもっとよく理解できた。
でも、もう時が来ていた。彼女を解放しなければならない時だった。しばらく二人きりでいられる場所を考えた。思い浮かんだのは一つの場所だけだった。観覧車だ。
「ルビー、あそこに行ってみないか?」
「うん」
どうやらあそこでの一周は15分くらいかかるらしい。彼女と時間を過ごし、そして解放するには十分な時間のはずだった。
観覧車のゴンドラがゆっくりと上昇していく中、目の前にはルビーが座っていた。重要なことを話さなければならない。フィリアにも同じことをした。霊輝の解放が起こったとき、あまりにも辛くならないように。
「ルビー、霊輝から解放される時のことで話してなかったことがあるんだ」
真剣な表情を見て、彼女は怯えているようだった。
「悪いことが起こったり嘘をついたりしたくないが、言えないことがあった。でも今、知っておく必要がある」
彼女は視線を下げ、窓の外を見つめてから何も言わずに俺の隣に座った。横顔だけが見えていた。話を聞く準備はできているようだ。
「まず、言わなかったことを謝りたい。でも...霊輝から解放したら、俺のことを忘れてしまう」
そう言っても彼女は何も言わない。反応もしない。ただ思考にふけり、視線を下げたまま虚空を見つめている。しばらく沈黙が続いた後、彼女が言った。
「バランスを取るための代償ってことなんだな...」
何と言えばいいのか分からなかった。言うべきだったのだろうか?フィリアの場合は違った。彼女は思い出すことができた。でもルビーの場合、同じことが起こる保証は何もない...
最後に彼女は俺に近づき、俺の肩に頭を預けて言った。
「いいさ。忘れても、今まで通りでいられると思うから」
「今まで通りでいられる。確信してる」
彼女はポケットからネックレスを取り出し、俺に渡した。
「解放する時、このネックレスをもう一度渡して欲しいんだ」
「なぜ?」
「こうすることで、何らかの形であんたを思い出せる気がするから」
「...そんなに単純じゃない」
「思い出すって言ってるわけじゃないさ。きっと、あんたとの記憶は消えるんだろうけど、このネックレスをもう一度渡してくれれば、解放された時のボクが何をすべきか分かる。自由になったボクが、何に直面するのかを理解するはずだ」
何を考えればいいのか分からなかった。でも彼女がこれを確信しているなら、彼女の望むことに従うしかない。ネックレスを受け取ると、視線が合い、顔が近づきながら彼女が囁いた。
「ありがとう、アレクス...」
唇が触れ合った瞬間、光が生まれ、影からアンジュが現れて言った。
「この場所、狭すぎるのよ!」
刀の先端がルビーの霊輝を少しずつ吸収し始める。青い光が徐々に消えていき、ルビーが俺の腕の中に倒れ込んだ。アンジュは向かいの座席に座り、腕を組んだ。
「何してるんだ?」
「目覚めた時を観察していたいのよ」
驚いた。最近のアンジュにしては、これはあまりにも予想外だった。
彼女が大きく変わっている――そう、俺は確信した。いつもなら、人工霊輝を回収するとすぐに去っていくのに、今回は違う。彼女は留まっている。
数分後、観覧車の周回がほぼ終わりかけた頃、ルビーが目を覚まし始めた。目を開けると、周りを見回して非常に混乱している様子だった。何も言わずに彼女を見つめていると。
「あんた誰だ?なんでボクここにいるんだ?」
頭に手を当て、痛んでいるようだった。落ち着くのを待ってから、手を伸ばしてネックレスを見せた。ルビーは驚いて目を大きく見開き、何度も瞬きしてから何とか言葉を発した。
「そ、それは...ボクのネックレスだ」
「お前は渡してくれって頼まれたんだ。理由はよく分からないが、渡すよ」
完全に困惑した表情でそれを受け取った。観覧車の周回が終わり、先に降りながら言った。
「これで全部だ。ついに自由になったな...元気でいろよ」
歩き始めるとアンジュが不機嫌そうな表情で近づいてきた。
「ちょっと、なんで彼女をあそこに置いていくのよ?」
「今は一人の時間が必要なんだ...そっとしておくしかない...」
アンジュは俺の言ったことに納得していないようだった。彼女が振り返り、ルビーを見ながら言った。
「ねぇアレクス、オマエの考えは完全にうまくいかなかったみたいよ」
「なぜそう思う?」
「だって、彼女はあんたを忘れても、感情は残ってるもの」
その瞬間、後ろから誰かが俺の手を掴んでいるのを感じた。振り返ると、そこにはルビーがいた。頭を下げ、髪で視線を隠しながらも...俺の手を握って...
『ルビー』
空中に浮いてるような感覚だった。でも何か暖かいものが側にある...感じられる。眠ってるのか?よくわからない。本当に眠ってるのか?人生の思い出が急に頭の中を駆け巡ってくる。でもある時点で何かが消えた感覚がする。
何かが足りない...何だった?もうそれには気づいてる、確信してる。でも目を開けたくない。誰かが側にいるのを感じてる。嫌じゃない、むしろ暖かい感覚で、本当にその人が誰なのか知ってるような気がする。
何かがすごく変だ。ここ数日のことをほとんど覚えてない。何人かの女の子たちと過ごしたのは覚えてる。
ライラ、メリッサ...ビーチでのトーナメント。でも誰と一緒にプレイしたんだっけ?ルーシーやエミリーと話したのは覚えてる。でも誰かが足りない。ボートにいたことも覚えてる。他の女の子たちと一緒で、話をした。特にアナって呼ばれてた子が何か言ってた。その時は理解できなかった。『記憶を失っても、感情が残っているとしたら、どうなさいますか?』って。今ならその言葉が理解できる。
何か変なものを感じる。何かを失った。でも何を失ったかわからない。あのネックレスを思い出した。ポケットにあるはずだ。そっと手を動かして確かめようとしたけど...感じられない。ポケットにない。ネックレスがないことに気づいて目を覚ました。
側にいたのは穏やかな表情をした男の子だった。心配することなんて何もないって知ってるみたいに、とても落ち着いてる。彼から少し離れて、思わず言ってしまった。
「あんた誰だ?なんでボクここにいるんだ?」
彼はまだ冷静だった。ボクの質問にも動じない。誰なのかわからない。でもずっと側にいた。何が起こってるのか理解できない。覚えてないことと関係あるのか?...そうに違いない。他に何があるって言うんだ?
突然、彼がネックレスを見せてくれた。ボクのネックレスだ。また混乱した。
「そ、それは...ボクのネックレスだ」
彼は言うのよ、昔のボクが『このネックレスを今のボクに渡してくれ』って頼んだって。困惑しながらそれを受け取った。なんで彼がネックレスを持ってたんだ?何かおかしい。でも彼がすべての原因のような気もする。
観覧車が終点に着いて、彼が先に出ていこうとした。『もう自由だ、元気でいろよ』って言いながら。どんなに思い出そうとしても、誰なのかわからない。でもそんな風に言うのを聞くと、まるでお別れを言ってるみたいだった。
心の奥底で何かが壊れそうになった。彼を行かせたくない。彼はあった、目を覚ました時に側にあった。実際、また生きてるって感覚が戻ってきてる。額に汗、お腹が食べ物を欲しがってる...覚えてない感覚が戻ってきた。彼がいるからこうなったんだろ?だったらなんで覚えてないんだ?...
観覧車の係員が言った。
「すみません、お嬢さん、降りていただけますか?」
係員を見て、降りた。そしてあの男の子が去っていくのを見た。背中がとても遠く感じる。なんで行っちゃうんだ?なんで残って質問に答えてくれないんだ?
彼に向かって走った。近づいて手を掴んだ。彼は驚いた表情で振り返った。走って彼に追いついたせいで疲れてる。体がとても疲れた感じがする。体の中にあったあの力は消えた。彼のおかげなのか?そうなら、なんで去るんだ?なんで、大切にすべき人だって感じるんだ?
彼の手をきつく握って言った。
「教えてよ...なんで行っちゃうんだって教えてよ?」
彼の目を見つめたら、もっと驚いた。突然彼がボクを抱きしめて「ごめん」って言った。
彼が足りなかった何かだったんだって感じた。間違いない。彼の抱擁はとても暖かくて、久しぶりに感じる感覚で、手放したくなかった。
彼の名前を知った。アレクスって言うんだ。少しずつ、今まで起こったこと全部を話してくれた。話すこと全てがボクの断片的な記憶と一致してる。もう確信した。心は嘘をついてなかった。
しばらく話してたら、なんか腹が立ってきた。
「ねぇ、なんでさっきは帰ろうとしてたのよ?こうやって全部話してくれる代わりにさ」
「え?まあ、すまん...一人の時間が必要かと思って」
「バカ!ボクが必要なのは混乱した頭をスッキリさせることだっての!」
アレクスが緊張しながら笑ってる。でも、これで全部はっきりした。元の自分に戻るチャンス。あの時から続きを生きられる。あの感覚をもう一度味わいたい。でも今度は特別な人が隣にいる。もう迷うことはない。やっと本当の未来に向かって進める。
立ち上がって、アレクスに手を差し出した。
「帰りましょ、アレクス!」
二人で手を繋いで家に向かった...まあ、友達の一人、アナの家にだけど。あの子、ボートで言ったあの時、何か企んでるみたいだった。何かを知ってるか、狙ってるみたいな感じで。
アナの家に着いて、アレクスがさよならして、ボクはアナの家に入った。
「家に泊めてくれてありがと」
敬意を込めてアナにお辞儀した。家に入れてくれたんだから。
「そんなに堅苦しくすることはないわ」
でもボクは知ってる。アナがあれを言ったのは、何かを企んでるからじゃないのか?どっちにしろ、疑問を抱えたままでいたくない。
「ねぇアナ、聞きたいことがあるんだ」
「ええ、何かしら?」
「アレクスとの記憶がぼやけてるの。っていうか、彼がそこにいなかったみたいな変な感覚なのよ」
「ええ、その感覚を知ってるわ。あたくしも今日まで同じ苦しみを味わってるもの...あたくしを救ってくれた人を思い出せないっていう」
「...あの日、ボートであんたが言ったこと思い出せたの。何か企んでるでしょ?わざと言ったのよね?なんで?」
「...どうしてそう思うのかしら?」
「よく考えてみたら、あんたがあんな風に言ったのは、ボクが忘れるって知ってたからでしょ?アレクスが言ってたけど、最初からその詳細を知ってたら解放されなかったかもって。じゃあ、あんたがあれを言ったのは何かを理解させるためよね?」
アナが黙り込んで、別の方を向いた。ボクの顔を見たくないみたい。これはボクの疑問を避けてるってことだな。
「知りたいのよ、アナ。何を企んでるの?」
今度はボクをじっと見つめて言った。
「その通りだわ、ルビー。あれを言ったのは何かを企んでいるからだわ。でもこれは悪いことじゃないわ、君にも誰にも。むしろ逆だわ」
近づいてきて、耳元で囁いた。
「これはアレクスのためだわ」
どう反応していいかわからなかった。明らかにアナは企んでることを明かすつもりはない。悪いことじゃないって言ってるけど、なんか納得できない。アナはそのまま台所に向かって、夕飯を作りに行くって言った。
「あまりお腹空いてない」
でも台所に入る前に立ち止まって笑った。
「ふふっ、嘘はいけないわよ、ルビー。人間の感覚と感情を取り戻したばかりなのだもの。きっととってもお腹が空いているはずだわ」
食べ物のことを考えたら、よだれが出そうになった。確かにお腹空いてる。でも、アナと一緒にいるのが本当にベストな選択だったのかな?他に住む場所を探し始めた方がいいかも。アナの何かが納得できないから。せめてアナがあの時なんでああ言ったのか、何を企んでるのかを明かしてくれるまでは...
でも認めるけど、その夜はアナの料理の上手さにびっくりした。
ルビーの救出を終えた今、アレクスは次の少女を探し始める。
だが、その裏でまだ解決していない問題――夢喰いの影が再び動き出す。
彼の知らぬところで、すべてを繋ぐ「何か」が静かに蠢いていた……。




