終焉の前の告白
アレクスとフィリアはついに、教会での激しい対峙を迎える。狂気に飲まれた神父との戦いの中、隠されていた事実や新たな人物の登場によって、すべてが大きく動き出す。運命に導かれるように。
『6月24日 / ??:00』
ヴィクトール神父が俺とフィリアを無表情で見つめていた。慌てて立ち上がると、フィリアも一緒に立ち上がった。言い訳を考えながら口を開く。
「すまん、そんなつもりじゃ――」
「違います!ヴィクトール神父様、アレクスを責めないでください!全ては私の責任です…!」
フィリアが俺の言葉を遮った。ヴィクトール神父は俺を見て、それからフィリアを見た。この状況にも関わらず、妙に落ち着いているように見えた。
「それで済むはずがありませんね、フィリア様。貴方は聖女候補でしょう。それなのに、貴方を汚したかもしれない男性と一緒にいるなど、決して良いことではありませんかな」
事情を説明しようとして割って入る。
「誤解だ、聞いてくれ、フィリア――」
「黙りなさい、罪人!」
神父の声が高くなった。
「最も悲しいのは、フィリア様が我々に嘘をついたことです。不審者を見たと言っておきながら、実は男性をここに連れてくるためだったとは...」
何か妙だった。ヴィクトール神父の声のトーンが、微妙に...違って聞こえる。
「もう我慢できません。本当に失望しました、フィリア。聖女らしく振る舞うべきです。貴方は我々の...いえ、人類の希望なのですから」
フィリアが怒って一歩前に出ると、声を張り上げた。
「私を好きなように扱わないでください!私は聖女なんかじゃありません!ただの...人間です!」
神父は黙った。表情が完全に変わった。今度はフィリアを軽蔑の眼差しで見つめていた。それ以外の何物でもなかった。
「そうですか、そう思っているのです。しかし貴方は人間ではない。よく知っていますよ。あの時、貴方が転んだ時に見たのです。擦り傷を負って軽く出血したのに、その傷がすぐに治ったのを!そんな体は間違いなく人間のものではありません!まだ自分を人間だと言い張るつもりなら、それをどう説明するのですか?では、貴方は一体何者なのですかな?」
腹が立った。一歩前に出て、フィリアを自分の後ろに庇う。このじじいがフィリアについてそんな無知な話をするのを許すわけにはいかない。
「おい、聞けよ、じじい。フィリアがそうなったのは別の理由があるんだ。俺が必ず解放してやる」
神父は黙った。その目は俺への軽蔑だけを示しているようだった。
「無知と言いますか...ははは...ここで無知なのは、我々教会が人類のために何をしているか知らない貴方の方ですよ」
「そんなの知るか。俺はフィリアの話をしてる。それ以外はどうでもいい」
「生意気な小僧め...では教えてあげましょう。貴方の知識を照らして、無知でなくなるようにしてあげますよ」
神父の姿勢が変わった。何だか態度も少し変わったような気がした。
「教会は聖女によって祝福された。そして、聖女にはすでに一人の子孫がいる…アントニエッタという名だ。我はそれを承認しなかったが、さもなくば神聖な血筋が失われるからな。しかし…フィリア、あんたに出会った今、我はより純粋な第二の血筋を作れる。真の聖女をな。教会は、かつて失った真の道を取り戻すのだ」
神父の人格が完全に変わってしまった。それに、初めての子孫を持った聖女って何のことだ?この爺さんは一体何を話している?頭がおかしくなったのか?
決意を固めて対峙することにした。
「何くだらないことを言ってるんだ、じじい。聖女なんて存在するわけがない。たとえそうだとしても、フィリアを聖女と決めつけるのは間違いだ。彼女はただの人間なんだから」
「黙れ小僧!我の計画に干渉するなら、我自身があんたを始末してやるぜ!」
あいつはただの普通の人間だ。俺が傷つくはずがない。
「これを見ておけ...」
神父がポケットから何かを取り出した。四角い物体だったが、至る所に奇妙な刻印があり、金属のようだった。特に金色に輝いていた。
「これであんたに教訓を与えてやるさ、小僧。これが我の『ディバインギフト』だ。これであんたを片付けてやるよ!」
次の瞬間、その立方体の物体が勝手に動き出し、奴の腕の周りに奇怪な巨大な金属の拳を作り出した...一体何が起こっている?この男は普通じゃない。
次の瞬間、地面を蹴って俺に向かって滑ってきて拳を振るってきたが、霊輝のバリアで身を覆い、攻撃を回避できた。
「何だと?!どうしてそんなことが可能なんだ?あんた一体何者だ?」
この男は俺に力があるのを見て驚いている。笑みを浮かべて霊輝の連撃を放ち、じじいを攻撃した。エネルギーは当たったが、ただ後ろに押しやっただけだった。もう片方の手で壁に穴を開け、完全に破壊して土埃を舞い上がらせた。
「さあ逃げよう、フィリア!あのじじいから逃げるんだ」
手を繋いで一緒に走ったが、後ろから地面がきしむような音が聞こえた。振り返ると、地面から黄色い光の筋が立ち上がっていた。再び霊輝のバリアを張って身を守った。そこには立っていた、離れた場所に神父が、ものすごく怒っている。
マジでこの男はどんな力を持っているんだ?まさか教会にはこんな力が秘密で保管されているのか?だが今はそんなことが問題じゃない。今このじじいを止めなければ、本当に殺されるかもしれない。本気で戦わなければならない...
周りを見回した。…まだ教会の中にいるのか?それとも地下に降りたんだろうか?フィリアをちらっと見て、焦りながら聞いた。
「フィリア、ここに連れてきたのはお前だろ。出口はどこにあるか分かるか?」
「上にございます。階段で上がれる出口が一つだけです」
「じゃあ出口まで案内してくれ。この野郎を食い止めてみる」
神父が今度は手にしたその物体を動かし、エネルギーを充填しているのではなく、吸収しているように見えた。
「これを受けろ!」
エネルギーの波が俺に向かって放たれた。霊輝のバリアで防御しようとしたが、今度は障壁に当たるエネルギーがホースから出る水流のように途切れることなく続いている。霊輝のバリアが限界に近づいているようだった。
その時、後ろからフィリアが掌に霊輝エネルギーを作り出し、鳥のような形に変えた。
「行きなさい、アレクスを守って攻撃しなさい」
次の瞬間、霊輝の鳥が飛び出して神父に向かい、彼の前で爆発した。フィリアは同じことを繰り返し、霊輝の鳥を放って神父を撹乱させた。
「くそっ、フィリア様、戻れ!」
俺とフィリアは逃げ出すチャンスを掴んだが、いつでもあの男が後ろに現れそうだった。走れば走るほど、遠くに出口の階段が見えてきた。しかし再び後ろから振動が俺たちを止めた。神父が怒りの表情で歩いて近づいてくる。
「もう侮辱は許さん。終わりだ。あんたは悪魔だ、それが正体だ。フィリア様を汚すことは許さん」
選択肢がない。ライラとの訓練を思い出した。全てを解放し、霊輝に形を与えて攻撃する。それがこの状況から抜け出す唯一の方法だった。神父に向けて手を伸ばし、急速にエネルギーを集め始めた。形を与え、それを維持することが必要だった。
「喰らえ!」
掌から霊輝を解放するのを感じた。エネルギーの突風が神父に直撃した。構造物が震え始め、全てが頭上に崩れ落ちそうだった。階段を駆け上がって外に出ると、教会が震え始めていた。崩壊寸前だった。
外をよく見ると夜だった。何時だ?分からない。
俺とフィリアは正面玄関に向かって走ったが、そこには周囲を監視していた連中が全員立ち塞がっていた。唯一の出口を完全に封鎖している。彼らは皆、槍のような奇妙な武器を手にしていた。
次の瞬間、教会がバラバラに崩れ落ちたが...
教会の瓦礫から黄色い光が立ち上がり、ヴィクトール神父が宙に浮いた。
「あんた達一人一人にもううんざりだ。今すぐ全員始末してやる」
神父の手にある奇妙な物体が空中に持ち上げられ、その上にまるで小さな太陽のようなエネルギーが形成され始めた。シスター達が外に集まり始め、恐怖に震えていた。他の者達も同じで、ルーシーもその中にいて、みんな空を見上げていた。ヴィクトール神父が自分の味方すらも含めた全員にその攻撃を放とうとしている様子を。
「待ってください、ヴィクトール神父様、やめてください!」
「何をしているんですか!」
「それを放ったら俺達みんな死んでしまいますよ!」
ヴィクトール神父の配下たちが叫び声をあげていたが、神父はまるで眼中になかった。もはや彼らさえも――自らが雇った監視者たちでさえ――邪魔な駒と見なしているらしい。今、彼が狙っているのは、この場にいる全ての者を粛清することだけだ。
どうすればいいんだ?大きな霊輝のバリアを作るか?それとももっと大きな力で反撃するか?でも被害が出たらどうする?
フィリアが俺の手を握り、お互いを見つめ合った。まるでフィリアが決意を固めたかのように。
「私が彼を止めます。だって私には物理的な痛みは効きませんもの」
でも、そんなことをフィリアにさせるわけにはいかない。握っていた手を強く握り返して、行かせないようにした。
「お願いします、アレクス。私にしかできませんの。結局、これは私の責任ですから」
「そんなことない...そんなことないだろ。お前が責任を背負う必要はない。俺にも何かさせてくれ」
フィリアは何も言えなかった。二人とも心配しながら手を上げ、神父の攻撃を跳ね返すための攻撃を作ろうとしたが...
謎の声が俺たちに直接語りかけながら、ゆっくりと近づいてきた。落ち着いた足取りで一歩ずつ前に進みながら、声は続けた。
「困ったものですかな。ヴィクトール神父殿が狂われて、わたくしが彼の起こした問題を処理しなければならないとは」
背の高い男で、長い白髪、眼鏡をかけ、穏やかな表情をしていた... この男、確かに見覚えがある。記憶が閃いた――あの日、教会でヴィクトール神父のすぐ脇に立っていた男だ。警備の中でもひときわ異彩を放ち、唯一ケープを羽織っていた人物を! この男は一体誰なんだ?
次の瞬間、男は分厚い革装丁の本を外套の内側から取り出すと、素早くページをめくった。――すると本から黄色い光が迸り、ページの上に映った影が神父の方向へ伸びていった。光の中から現れたのは、半透明の巨大な手。それはヴィクトール神父の腕を鷲掴みにした。神父の絶叫が響き渡る。
「離せ!何をしているカッシウス?教会を裏切るのか!」
「もちろん違いますの、ヴィクトール神父殿。裏切られたのは貴方が最初ですの」
「何だと?」
次の瞬間、カッシウスと呼ばれた男の持つ本のページが逆方向に閉じられ、投影された手がヴィクトール神父を地面まで引きずり落とし、地面に激しく叩きつけた。神父が持っていた物体が落ち、作っていたエネルギーが一瞬で消えた。
カッシウスと呼ばれた男が倒れたヴィクトール神父に近づいた。
「では皆の衆、聞いてくださいませ。彼を逮捕しますの。司教殿のところへ連れて行き、裁判を受けさせますの」
一瞬で全てが終わった。あの男のおかげで。でも一体誰なんだ?
護衛たちがヴィクトール神父を押さえつけているが、まだ諦めるつもりはないようだった。
「聞けカッシウス!我を王都に送るなんて後悔するぞ!あんたにそんな権利はない!」
だがカッシウスは穏やかで微笑みを浮かべた表情で近づいてきた。
「そう悪く取らないでくださいヴィクトール神父殿。わたくしはこの目で見ましたの。貴方が『ディバインギフト』を使用されたのを。それだけでも重大な問題ですの。そしてもう一つ、貴方はここにいる人々全てを抹殺しようとしていらっしゃいましたね?」
「違う!我はただ制裁を加えようとしただけさ!」
「で?...どなた様が貴方に制裁を加える資格をお与えになったのですかな?誰がそう任命したか教えていただけますの?一体誰が、どのようにして貴方にその特権をお与えになったのか、お聞かせ願えますかな?」
「くう...我は神父だ、それで十分だろうぜ!」
「真剣な場で冗談はおやめくださいヴィクトール神父殿...」
今度はカッシウスの表情が非常に真剣なものに変わったが、その奥にもっと深い何かがあるように見えた。護衛たちがヴィクトール神父を連れて行ったが、俺はまだ混乱していた。
カッシウスが俺とフィリアに近づいてきて、再び穏やかで微笑んだ表情で言った。
「貴方様がフィリア殿ですね?ヴィクトール神父殿が起こしたこと、本当に申し訳ございませんでした」
頭を下げて謝罪する彼に、フィリアは困惑した様子で答えた。
「大丈夫です...何でもありません...」
「自己紹介をさせていただきますの。わたくしは教会の騎士、カッシウス・ローズソーンですの」
俺は状況を理解したかったので、一歩前に出て彼と話すことにした。
「すみません、カッシウスさん。質問があるんですが」
「もちろんお答えしますとも。わたくしも貴方殿に質問がありますからね」
表情が真剣になり、俺をじっと見つめて言った。
「正確に言うと、貴方殿への質問は二つだけですの。わたくしから先に聞かせていただいてもよろしいかな?」
「...いいです。何ですか?」
「まず、フィリア殿の状態は確かに我々が今まで見たことのないものですの。しかしヴィクトール神父殿が言うような聖女と呼ぶべきものではないと思いますの。状況を観察した限り、一つのことが分かりますの。貴方殿は彼女がなぜそのような状態にあるのかご存知ですね?」
「はい。なぜ彼女が生きているようで同時に生きていないような、年を取らず物理的なダメージも受けない状態にあるのか知っています...それは...」
「ちょっと待ってくださいな。そんなに詳細を知る必要はございませんの。わたくしの頭では処理しきれませんからね」
「え?」
「わたくしの質問は単に貴方殿がご存知かどうかでしたの。はいとお答えいただいたので、それで十分ですの。さて、二番目の質問はもう少し個人的なものですの」
今度はカッシウスが俺の高さまで屈み、肩に手を置いた。穏やかで静かな視線を俺に向けて言った。
「教えてくださいな。貴方殿はフィリア殿を愛していらっしゃいますの?」
確かに個人的な質問だが、なぜこんなことを聞くんだ?...実際、答えを迷う必要はないよな?
「はい。彼女は俺にとってとても大切な人です」
カッシウスは微笑んで立ち上がった。
「わたくしはフィリア殿もその状態も知りませんでしたの。教会もこの少女のことは知りませんでしたからね。それでは失礼いたしますの」
静かに歩き始め、すべての護衛が彼に従った。この男は痴呆症のふりをしてフィリアを放っておくつもりなのか?信じられなかった。
もう姿が見えなくなってから、俺はあることに気づいた...何も質問しなかった!あの男は俺の疑問を聞かずに去ってしまった。今や彼はただ突然現れて状況を救った奇妙な人として残るだけで、しかも教会が何なのかも分からない。面倒だ...でももうどうでもよかった。フィリアは安全だった。
その時、ルーシーが起こった騒動にまだ驚きながら、俺たちのところまで走ってきた。
「アレクス、何があったの?」
「長い話だし、俺も部分的にしか理解できてないんだ」
夜は騒然としていたが、家に帰らなければならない。父さんがとても心配するだろうから。フィリアが一緒に家まで送ってくれることになった。
歩いている間、夜の静寂が耳鳴りを起こすほど静かだった。でもフィリアの隣を歩くこの道のりは穏やかだった。しかし、父さんに何て言えばいいんだろう?大きなため息をついた。
フィリアが振り返って俺を見た。
「何かありますか、アレクス?」
「いや、こんな時間に家に帰ってどうやって父さんに説明しようか考えてるんだ」
「…先ほど申し上げましたが、それは私の計画に含まれておりました。実は今朝、お父様がお出かけになる前に、貴方が私の家に泊まると伝えておきましたので、問題ないかと思います」
「はあ?!」
フィリアが父さんと話したのか?あの時俺を見送った後、きっと戻って近づいて話しかけたんだろう。でも他に変なこと言ってないだろうな?
「変なこと言ってないだろうな?」
「全くです。ただ私の家に泊まると申し上げただけで、お父様は『そうか、よろしく頼む』とおっしゃいました」
なんて信頼してくれる親父なんだ。でも少なくとも説明する必要がなくなった。父さんにこういうことを説明するのは難しいからな。考えてみれば、もう嘘をつきたくないと思うほどだ。よく考えてみると、父さんも霊輝について何か知っているかもしれない。今まで起こったことを考えると、父さんが何かを隠している気がしてならない。でもいつが話すのに最適なタイミングなんだろう?
それより重要なのは、もうすべて解決したんだ。今こそフィリアを自由にする最高の時じゃないか?
これ以上待たずに立ち止まり、フィリアを見つめた。
「フィリア、明日デートしよう!」
「え?!そんな急に...」
「そのデートで必ずお前を霊輝から解放する。どうだ?」
「...はい...よろしくお願いします」
こうして問題なく家に帰った。さらに時計を見ると午前1時だった。とても遅い時間で、ほとんど眠れそうにない。明日は相当疲れることになりそうだ...。
次回、フィリア編はいよいよクライマックス。彼女を解放するために、アレクスが選ぶ道とは何か。全てが試される最後の瞬間――フィリアの運命が決まろうとしている。その先に待つのは、希望か、それとも……。




