監視の檻
ウィリアムとの再会が、アレクスに新たな真実を突きつける。
コーポレーションの実態、積み重なる謎、そして仲間たちの間に芽生える不安。
一方でフィリアに会うための道は険しく、教会の周囲には不穏な影が忍び寄っていた――
『6月11日 / 15:37』
学校の後、俺はエミリーを待つため入口で立っていた。ウィリアムに会いに行くためだ。エミリーが近づいてくるのを見ると、彼女が言った。
「先輩、おじさんが車で迎えに来てくれるの。あそこで待ちましょうよ」
エミリーは学校の敷地が終わる角を指差した。数分しか経たないうちにウィリアムが到着し、車での移動が始まった。しかし向かっている場所は彼が働いているあの建物ではなかった。家に向かっているようだった。エミリーは事情を知らないようで、
「待っておじさん、なんで家に行くの?」
「まあまあエミリー、うちで話した方がいいんだ」
エミリーは眉をひそめてシートの背もたれに身を預け、何も言わずに窓の外を見つめていた。
ウィリアムの家に着くと、驚くほど大きな家だった。中に入るとさらに驚いた。ウィリアムは俺たちを一つの部屋に案内した。中は少し散らかっていて、書類らしきものがたくさんあった。部屋の真ん中には長いテーブルがあった。
座ると、ウィリアムはテーブルの上にいくつかの書類を置き、プロジェクターをつけた。スクリーンに何かを映すつもりらしい。
「よく聞いてくれ。これから話すことは誰にも共有してはいけない情報だ。分かったかな?」
俺とエミリーは何も言わずにうなずいた。ウィリアムがパソコンで何かを打ち込んでいる。
「まず、ヘイブン・フロント・コーポレーションはプロセッサーからAI、ロボット開発まで、技術開発を行っている企業だ」
技術に大きな影響力を持つコーポレーションのようだが、これが力を探すことと何の関係があるんだ?
「アレクスくん、次を説明する前に一つ質問に答えてほしい」
「分かった。どんな質問だ?」
「このコーポレーションが実際に何をしていると思う...技術開発?それとも技術開発と実験?」
変な質問だな。技術開発は開発するだけだが、二番目は実験も含んでいる。たぶんそのコーポレーションがやっていることはそれなんだろう。
「技術開発と実験をやっていると思う」
「正解だ。このコーポレーションは開発だけでなく実験も行っている。もちろんそれは誰もが結局やることで、そうでなければ開発できないからな...俺が言いたいのは、彼らは別の方法で実験をしているということだ」
「別の方法」が何を意味するのか、もう分かってしまった気がする。だから黙ったまま、ウィリアムが言うのを待った。
「...人間で実験している」
予想通りだったが、ウィリアムがこんなことを見つけたなら、なぜ誰もそのコーポレーションの活動を止めないんだ?
「なぜ誰もそのコーポレーションに対して何もしないのかと疑問に思うだろうが、簡単に言えば、試みはあったんだが...」
その最後の「が」で、俺は凍りついた。まるで体の中の何かが、恐ろしいことを言おうとしていると警告しているかのように。
「そのコーポレーションで実験されている人たちは志願者だ。うちが集められた全ての情報源によると、志願者以外の痕跡は一つもない」
ひどい話だった。でも今、疑問が浮かんだ。一体どんな実験をやってるんだ?
「質問する前に言っておくが、実際にどんな実験をしているかは分からない。その件については一切情報がないんだ」
ウィリアムでさえその情報を集められなかった。本当に全てが謎だらけ...
「よし、今からこのコーポレーションについて大まかな詳細を教えよう」
プロジェクターに建物の外観写真が映し出された。
「これがヘイブン・フロント・コーポレーションだ。世界でもこの本社だけしかない。見ての通り非常に大きく、建物の黄色い色が目立ちすぎるほどだな」
確かにその場所は見た目にも巨大で、外装の大部分が黄色に塗られていた。プロジェクターに映る他の情報の中に住所があったので、スマホのメモに書き留めた。
「100年以上前から存在している。小さなコーポレーションとして始まり、別の会社の競合相手だった。これまでに計11人のCEOと、たった4人の異なるオーナーがいた」
重要な詳細なのか、それとも無関係なのか?でも一番注目すべきは100年以上も存在していることだ!もしかしたらルーシーが昔聞いたことがあるかもしれない。
「さて、ここからが一番興味深い部分だ...」
ウィリアムは俺を見て、それからエミリーを見た。まるで何かを言う前に分析しているかのように。
「彼らは最近、軍事『プログラム』に参加したんだ」
俺とエミリーは呆然とした。息が詰まりそうなほど驚いた。全てがどこに向かっているのか分かり始めた。そのコーポレーションの目的が技術開発と実験で、何らかの理由で霊輝について知っていて、この最後の情報と合わせると、戦争に関わっている可能性が...
「アレクスくん、もう全て理解したようだね」
うなずいた。エミリーを見ると、彼女も俺と同じくらい驚愕していた。これは完全に手に負えない。今、どうすればいいんだ?絶望感を感じ始めて、激しく呼吸し始めた。みんなが気づいた。
「おい、アレクスくん、大丈夫か?」
「あ...ああ...それが持ってる情報の全部か?」
「より技術的な情報が欲しいなら別だが、今一番重要な部分を共有したところだ」
それで全てだった。そのコーポレーションについて知ることは、俺をより動揺させ、不安にさせ、そして何よりも女の子たち、特にひかりやメリッサに何かが起こるかもしれないという恐怖を感じさせただけだった。彼女たちにはそのコーポレーションに関連する問題があったからだ。
ウィリアムが近づいてきて、肩に手を置いた。
「動揺するな、アレクスくん。一人で戦ってるんじゃないことを忘れるな。うちたちを頼れるんだ」
ウィリアムはこの全てにおいて大きな支えだった。ひかりを救出してくれた時のように、そして今も。でも俺がまだ彼に話していないことがある。たぶん今がそのタイミングかもしれない。ウィリアムがそれを発見しようと主張していなかったから今まで話さなかったが、ウィリアムがこんなに俺を助ける気でいるなら、俺も同じ恩返しをして、今体験していること全てを話すべきじゃないか...
「ウィリアム、話さなければならないことがある...」
ウィリアムは腕を組んで机に座った。俺は体験している全てを話し終えた。救わなければならない女の子たち、人工霊輝、夢喰い、全て話した...
全部話し終えた時、アンジュのことも話すか迷った。でも黙ってたら嘘をつくのと同じだろ。アンジュについても話した。ウィリアムは黙って聞いてるだけで、何も反応しなかった。こんなこと、驚かないのか?
「大変な人生を送ってるんだな、アレクスくん」
それだけだった。何か言ってくれるか反応してくれると思ったのに...理解できない。それとも、もっとひどいことに慣れすぎてるのか?
「驚くなよ、アレクスくん。君が話してくれたことはうちの知ってる霊輝の常識を完全に超えてる。家族の記録をもっと詳しく調べるか、他の親戚を訪ねる必要があるな...」
それ以上は言わなかった。この情報交換の集まりで起こったのはそれだけだ。帰り道、ウィリアムに全部話したことが頭から離れなかった。肩の荷が下りたような感じがする。あのコーポレーションについて大体のことがわかったから、警戒を怠らず、公の場での行動に気をつけるしかない。どこにでもいる可能性があるからな...
『6月12日 / 16:17』
昨日、みんなにメッセージを送ってアナの家に集まってもらった。発見したことについて話さないといけないし、何とかして彼女たちにも自分を守れるようになってもらわなきゃ。周りを見回すと、みんなリビングに集まってる。
「みんな聞いてくれ、とても重要な話がある」
昨日得たあのコーポレーションに関する情報を全部話した。彼女たちを訓練して自分を守れるようにする計画についても言おうとしたが、説明を終える前にひかりが割り込んできた。
「ちょっと待って、なんでそのコーポレーションにそんなに怯えてるの?」
「当たり前だろ。あの時、お前を屋敷に連れ込んだ男は、コーポレーションの話をしていた。——お前の情報を持ってる連中だ。お前自身がその標的だって、まだ気づいてないのか?」
「でも本当にそうなら、なんで今まで何も起きてないの? 今は茜と一緒に別の場所に住んでるし…」
「監視されてるかもしれないだろ!」
「大げさすぎると思うわ」
ひかりは何かが起こる可能性について懐疑的だった。今度はメリッサが話そうとした。
「す...すみません...わたし、アレクスが正しいと思うの」
ひかりが振り返って苛立った視線を向ける。
「何ですって!」
メリッサはひかりに怯えて視線を逸らし、隠れようとするような仕草を見せたが、それでも話し続けた。
「わたしが言いたいのは、監視されてるかもしれないってことよ...わたしの場合、二人の男が無理やり連れて行こうとしたの...それにあの時、その男たちのシャツに変なロゴがついてるのが見えたの。もしかしてそのコーポレーションのものかもしれないわ」
急いでネットでそのコーポレーションのロゴを検索してメリッサに見せた。
「これか?」
「あ...それよ、あの男たちのシャツで見たロゴ」
ひかりは今度こそ、この背後に本当に何かが隠されてるという事実を受け入れたようだった。黙って座り直し、何も言わなくなった。
間違いなく、あのコーポレーションは霊輝について何か知ってる。そんな中で、ある考えが浮かんだ...直接そのコーポレーションを見に行ったらどうだろう?実際にその場所がどんなところか見てみたい。中に入るのは無理かもしれないが、少なくとも外から見ることはできる。場所の住所はもう分かってるしな。
みんなを見回して、明日その場所を近くで見に行くつもりだと言った。みんな動揺して、同時に話し始めた。その後みんな黙り込んで、お互いを見つめ合った。まるで視線で合意したかのように、一人ずつ話し始めた。
一瞬の沈黙を破り、真っ先に口を開いたのはひかりだった。
「本当に危険だって分かってるのに、なんで真っ先に敵の場所を見に行こうって思うわけ?」
確かにひかりの言う通りだ。そんなことをするのは良い計画とは言えない。でも考えてみれば、これも悪くない計画かもしれない。敵の縄張りがどんなものか知ることができるからな。
次にルーシーが話し始めた。
「あたしは別の方法でその場所を調査した方がいいと思うな。例えば、アンジュとか」
「...確かにそうだな。あいつは普通の人には見えないから、問題なくそこに入れるはずだが、最近アンジュは呼んでも返事しない。他の用事で忙しいんだと思う」
そうなんだ。アンジュもセレステも頼りにできない。いくら呼んでも現れないし、あの二人が今何をしているのかさっぱり分からない。
次にライラが話した。
「お兄ちゃん、わたしが別の方法で手伝えるなの。わたしの霊輝を戦闘に使えるから、もしよければその建物を破壊しに行くなの、えへへ」
「暴力的になるな、ライラ。確かにあいつらは軽蔑すべき人間かもしれないが、中にいる全員がそうとは限らない。それに全員人間なんだ。俺たちは理由もなく人を殺して回る狂人じゃない」
何も言わなかった。それより、ライラの提案に驚いた。暴力的な方法だった。ひかりからなら予想できたかもしれないが、ライラからは絶対に予想していなかった。
次にエミリーが話した。
「先輩、わたしもライラと似たようなことを考えてるの。破壊じゃなくても、彼らの結果を狂わせるような何か違うことを試してみるべきかもしれないの」
提案は悪く聞こえなかったが、とても曖昧だった。これはエミリーもそれを達成するために具体的に何をすべきか分からないということを示していた。
次にメリッサが話した。
「...わたしはどう考えればいいか分からない。もしお前が計画を持ってるなら、できる限りのことをするよ...」
彼女はこの手のことをあまり考えないタイプだ。以前は何も恐れない態度を見せていたが、今の彼女は違う。
最後にアナが話した。
「アレクス、君があたくしたち全員をとても心配してくれているのは分かるけれど、特に何もしない方がいいとも思うわ」
「それはどうしてだ?」
「そういう場所がどう機能するか知ってるのよ。何度かそういう所にいたことがあるの。あたくしのお父様が何をしていたか覚えてる?」
もちろん覚えている。アナがこの手のことをよく知っているのは間違いない。技術開発が生活の一部だった環境で育ったからな。
「今のところ大したことをする必要はないと思うの。そのコーポレーションは自分たちのやっていることを上手く隠蔽しすぎてるわ。だから本当に何かをする必要はないと思うの。もし安全策を言うとすれば、ひかりとメリッサだけはあまり外出しない方がいいということかしら」
それでも、そのコーポレーションをちらっと見に行きたかった。もう決めた。明日一人で見に行こう。まだいくつか疑問はあるが、それが俺のやりたいことだ。
みんなに別れを告げた後も、彼女たちの霊輝はまだ近くに感じられた――馴染み深い、穏やかなリズムだった。だが同時に、電柱の上から一つの霊輝だけが異質に脈打っているのを感知した。あの鳥だ。その霊輝は人工的に調整された機械のような鼓動を放ち、まるで監視装置のようだった...いや、気のせいか? この違和感がますます俺を苛立たせる。明日はあの場所を確かめに行く。フィリアにも会わねばならない。間違いなく、このプレッシャーは限界に近い...
『6月13日 / 17:17』
学校の後、地下鉄とバスを乗り継いでここまで来なければならなかった。街の北の方にあって、このコーポレーションの場所は遠かった。歩いていると、遠くからでも建物が見えてきたが、道の途中に警備の詰所があった。これ以上近づくことはできない。ここから遠くに見るだけだった。そこに続く道路を見たが、他に車は通っていなかった。右側には建物はなく、空き地があるだけ。左側を見ると、工場らしきものしかないようだった...もう少し深く考えてみた。こんなに長い旅をして、遠くから建物を見るためだけに来たのか?しかも何も得られずに...本当にこの道のりは大して価値がなかった。それ以上何もせず、帰ることにした...
『6月14日 / 8:39』
今日は土曜日だから、フィリアに会いに行けるかもしれない。最近会えていないし、彼女も優先事項だ。霊輝から解放してやりたい。ルーシーにメッセージを送って、今日会う方法を考えられるか聞いてみたが、ルーシーは警備がより厳しくなったと返事してきた。今度はシスターたちが教会を見張っているのではなく、奇妙な服装をした人たちが周辺を警備しに来ているという。あの教会でも何か変なことが起きている。問題は増える一方だ...
『6月15日 / 10:24』
今はフィリアのこと以外何も考えられなかった。今日、どうしても彼女に会いに行かなければならない。極端な手段が必要なら、それもやってやる。
教会に近づくと、霊輝を感知する自分の能力が反応を示した――確かに、奇妙な服装の人々があちこち歩き回っているのが見えた。
その服装を描写するとしたら...黒いロングコートに十字の形をした装飾品が付いていて、ロングブーツを履き、全員がクロスネックレスとレースグローブを身に着けている。だが神父のすぐ脇に立つ一人の男だけが異彩を放っていた――背が高く、長い白髪が肩にかかり、銀縁の眼鏡をかけた穏やかな表情の男だ。彼だけが深紅の裏地を持つ黒いケープを羽織っており、その姿はひときわ目を引いた。
間違いなく、あの連中は怪しい。よく考えてみれば「ゴシック・ヴィクトリアン」みたいなスタイルだった。この時代にはかなり古風な服装だが、それは今の問題じゃない。
その人たちの霊輝を探知しながら、なんとか身を隠して中に潜入し、ついにルーシーの部屋にたどり着いた。フィリアの部屋がどこかわからないから、ルーシーに聞くしかなかった。ルーシーによると、この廊下のもっと奥にあるということだった。
足音を忍ばせて歩き、扉を叩いた。フィリアが扉を開けると、俺を見て呆然とした。
「アレクス?何をしてらっしゃるんですか?どうやって入ってこられたんですか?」
「まず中に入らせてくれ。見つかりたくない」
部屋に入ると、座卓の前の床に座った。フィリアはまだ驚いているようだったが、これは彼女と話す絶好の機会だった。…少しでも彼女と繋がれないなら、霊輝から救う方法などない。この機会を逃すわけにはいかない。
フィリアの目を見つめていると、時間の感覚がなくなった。沈黙が続くほど、こちらの胸が締め付けられる。……あの霊輝のせいで、お互いこんなにぎこちないのか?
次回、事態はさらに動き出す。
誰も気づいていない裏で、フィリアが隠している「何か」が明らかになるのか?
アレクスと仲間たちを待ち受けるのは、真実か、それともさらなる混迷か。




