痛い仲間の本心
アレクスはついに、レイヴンの仲間たち全員と出会い、それぞれの想いに触れることになる。
一歩ずつ距離を縮め、やがてレイヴンとの「デート」も待っている。
全てが順調に進んでいるようで――逆にその静けさが、不思議な違和感を残す。
『5月21日 / 16:54』
エリーゼはその紙の上に絵を描き始めた。既にたくさんの絵で埋まっているにも関わらず、空いているスペースを見つけて描いていく。完成すると、俺に見せてきた。
見てみると、中世の騎士のような絵だった。ただし、鎧がやたらと奇抜なデザインをしている。
「絵は上手いみたいだけど、なんで俺に見せるんだ?」
疑問に思って聞くと、エリーゼは再び自分の手を擦り始めた。何かを思い出しているかのように、俺を見ずに視線をどこか別の場所に向けている。考え込んでいるか、何かを思い出しているようだった。
「わらわが手を怪我した時、世界が終わったかと思いましたわ。でもレイヴンがそれを治してくれた時、わらわは何かに気づいたのですわ」
今度はエリーゼが俺をじっと見つめてきた。その視線は、もはや役を演じているものではなく、彼女自身のもののように見えた。それでも、まだあの奇妙な話し方は続けている。
「治してもらった時、本当に能力が存在するなんて信じられませんでしたわ。そんな幻想的で超自然的なものが存在するなんて不可能だと思っていましたの。でもわらわの手は彼女のおかげで治ったのですわ。証拠はわらわの目の前にありましたの」
その言葉を聞いて考え込んだ。どうやらエリーゼは力や似たようなものを信じていなかった。懐疑的だったんだ。でもレイヴンに治してもらった時、それが変わったということか。
もしかすると、彼女は単にキャラクターを演じるゲームに付き合っているだけで、実際は見た目以上に物事を理解していて、中二病がそこまで深く根付いているわけではないのかもしれない。
「レイヴンがわらわに、本の...登場人物たちを彼女が想像する通りに描くよう頼んだので、わらわはそれを読まなければなりませんでしたの。でも物理的なコピーは存在しなかったので、オンラインで調べて読み終えましたわ。確かに悲劇的だけど希望に満ちた物語ですの」
また『レイヴン姫と無名騎士』の話だ。昨日レオンがデジタルコピーをくれたが、まだ読む時間がなかった。今日中には目を通してみよう。それは置いておいて、レイヴンに関することは全てあの本を中心に回っているようだ。エリーゼもレオンと同じように、友達だから彼女を助けている。彼女を助けた人だった。
エリーゼが言いたいことはそれで全部のようだったが、一つだけ確認したいことがあった。
「エリーゼ、レイヴンと知り合った時、レオンは既に彼女と一緒だったのか?」
エリーゼは詳しい説明もなく頷いた。特に重要な詳細ではないが、知りておきたかったんだ。
しばらくして、レイヴンがルーシーと一緒に戻ってきた。驚いたことに、二人は今や友達のようで、さっきの喧嘩なんて最初からなかったかのように一緒に笑っている。
ルーシーが俺に近づいてきた。
「アレクスくん、レイヴンってとても面白い人なのね。あたし、彼女と楽しい時間を過ごしたわ」
レイヴンも俺の隣に近づいてきて、また例の変なポーズを取る。
「無名の騎士よ、汝の友はなかなか興味深いぞ。ルーシーには我が称号を与えるに値する...だが適当な名前が思い浮かばぬ。後で考えるとしよう」
「ルーシーが『貴族の称号』なんかに興味あるとは思えないけどな」
皮肉っぽく笑った。
また一日が何事もなく過ぎていく。俺とルーシーはそれぞれの家に帰った。これでもう話すのはさくやだけだ。明日話せば、レイヴンに近づくことができる。でも今は、あの本に目を通しておかなければ。
『20:54』
部屋でベッドに横になり、スマホを取り出して本を読み始めた。見てみると、実際そんなに分厚い本じゃない。300ページちょっとぐらいだ。
読み始めると、すっかり物語に夢中になってしまった。次の数時間、本の世界に没頭していて、時間を忘れていた。気がついた時にはもうかなり遅くなっていたので、そのまま寝ることにした。でも眠りにつこうとしている間、本の内容の一部が頭の中で繰り返されていた...
(レイヴン姫と無名騎士)
レイヴン姫は森の精霊たちと繋がりを持っていた。誰も信じなかった、ただ一人を除いて。その人は無名の騎士だった。偶然出会っただけだったんだ。騎士は姫を守りたかった。義務だからじゃない、姫に恋をしていたからだ。
時が経つにつれて、無名の騎士は姫の護衛になることができた。その絆が二人を結んだ。姫も無名の騎士に恋に落ちた。城の皆から愛を隠していた。二人には一緒に叶えたい夢があった。
でも第一の災いが現れた。烏王を封印していた封印が解かれ、暗い霧が王国に広がった。人々を襲う獣たちが解き放たれた。王国は混沌に陥り、戦争が無名の騎士を姫から引き離した。そこから一人一人の戦いが始まったんだ...
姫は最も愛するもの、自分の居場所を失いたくなかった。だから戦うのを助けてくれる杖を見つける旅に出た。愛するものを守るために。でも旅は危険で、一人で出発するのはもっと危険だった。
最初に出会ったのはレオン・デルバジェだった。失月記録官として知られていた。首都の地下にある水没した図書館で、姫は自分の真の魔法を見つけるために彼を探した。彼の魔力は未来を見ることで、起こらなかった物語について大量の本を書いていた。姫の旅についていくことを決めたのは、彼女について何か知っていたからか、それとも単なる好奇心からかもしれない。
西の王国へ向かい、エリーゼ・クレーネストと出会った。忘魂文庫主として知られていた女性だ。貴族の女性で、静寂の谷の塔で自分の務めを果たしていた。姫は血筋について知るため彼女の助けを求め、呪われていることを発見した。エリーゼは慰めではなく沈黙を与えた。それはエリーゼが姫を守りたかったからだ。彼女は一つのことを知っていた――実際には姫に借りがあったのだが、姫はそれを覚えていなかった...
『5月22日 / 7:14』
家を出てすぐ、学校へ向かう途中で誰かが外で待っていた。チャイムを鳴らすこともなく、ドアをノックすることもなく、ただそこに立って俺が出てくるのを待っていたんだ。それはひかりだった。
「アレクス!久しぶり!」
「ひかり!?何でここにいるんだ、こんな朝早くから?」
「ルーシーから昨日お前たちがやったことを聞いてさ、わたしを誘わなかったことにイライラしちゃって」
何を頼むつもりなのか分かっていた。ひかりが何を言うか完璧に予想できる。
「今日、そのレイヴンってやつに会いに行きたい」
指を俺に向けながらそう言った。なぜみんな一緒に行きたがるんだろう?それともレイヴンに会いたいだけなのか?諦めのため息をつきながら、待ち合わせ場所を教えてやった。ひかりは行くことに興奮していた。
「楽しみに待ってる!」
またみんなが驚くだろうなと思った。もはや繰り返しのパターンみたいになっていて、同行する人だけが変わるだけだ。でも問題ない。今のところ全てうまくいっているようだし、もしかするとレイヴンが霊輝から解放するのに一番簡単な相手かもしれない。このままいけばそうなるだろう。
でも、まだ先走りすぎかもしれない。今までレイヴンとまともな会話をしたことがないから、思っているようにいくとは限らない。そんなことを考えながら、一日は問題なく過ぎていった。
『16:44』
予想通り、ひかりとレイヴンは言葉を交わし始めると互いに挑戦し合っているようだった。そして予想通り、ひかりとレイヴンはどこかへ行って決闘か何かをするつもりらしい。レオンがまたサポートに回り、今回はさくやを残して俺と話をさせた。
さくやの前に座りながら、もしまた彼への印象を述べるとしたら、やはりみんなの中で一番まともに見えるし、とても落ち着いていて真面目そうだと言うだろう。
「やあさくや、きっともう分かってると思うけど、俺がここにいる理由。レオンが話したはずだろ?」
さくやは腕を組んで目を閉じ、頷いてそのまま黙り込んだ。何かの役になりきってるのか? まさか芝居がかったキャラクターか?
「まず聞きたいんだが、レイヴンとどうやって知り合ったか教えてもらえるか?」
さくやは溜息をついて再び目を開け、俺をじっと見つめた。
「ある夜、家族に...父に、祖父にうんざりして家を飛び出したのであります」
今度はテーブルに腕を置いて指を組んだ。
「理由は奴らが家系の遺産を継げと...理学部で勉強しろと言うからであります。だが、それは拙者が望むことではなかったのであります」
どうやらさくやは科学者の家系か何かの出身らしい。道理でいつもあの真面目な顔をしてるわけだ。
「レイヴンと出会った夜、拙者はすべてを終わらせたかった。何も気にならなかったのであります。だがレイヴンがあの奇妙な力を使って拙者を救ったのであります...科学と実証のみを信じる家系出身の拙者にとって、あの力を見た時は本当にどう考えればいいのか分からなかったであります」
多分自分を傷つけようとして、レイヴンがそれを治したんだろう。論理では説明できないことが目の前で起こるのを見た時の感覚、俺にも分かる。
「その論理を理解できないまま、拙者は個人的な理由でレイヴンを追うことにしたのであります。主に彼女のような存在がどうして可能なのか観察したかったからであります...まあ、考えてみればお主も同じような奇妙な力を持っているではありませんか」
「あ...そうだな、エヘヘ…」
「レイヴンは拙者に一冊の本について話したのであります...その本は数時間で読み終えました。ただの幻想世界で誰かが書いた物語でしたが、彼女にとってはそれ以上の深い意味を持っていたのであります...」
レオンの時と同じ理由を知ってるようだが、明かさなかった。それはレイヴンだけが話すべきことだと尊重してるんだろう。分かる。
「ご存じの通り、レオン、エリーゼ、そして拙者は皆違う年齢でありますが、レイヴンはずっと同じ年齢に閉じ込められているのであります...」
実際、これは俺も知ってる。どうやらレイヴンは三人に自分の身体的状況について話したらしい。この部分は邪魔したくなかったので、ただ聞いていた。
「アレクス...」
突然声のトーンが変わった。実際、中二病的な部分を完全に捨てたようだった。
「実を言うと、俺はただレイヴンと遊んでるだけなんだ。それが俺を嫌な気分にさせる。架空のキャラクターを演じるゲームに付き合ってるだけだが...分かってる。彼女の場合は俺や他の二人とは全然違うって。レイヴンは本当にあの考え方に囚われてるんだ」
さくやは普通に話していた。中二病の演技を完全にやめて、それ以上に真剣に話していた。レイヴンのために何かしたいと思っているのが顔に現れていて、彼女を助けたいという絶望感が見て取れた。
「どうしてそうなのか知ってるのか?」
「はい...でも彼女への敬意から君には言えない。彼女自身から聞く必要がある」
予想通りだった。さくやも、きっとレオンもエリーゼも、レイヴンの過去について知っているんだろう。三人とも助けたいと思ってるが、これ以上何をすればいいか分からないんだ。頭に疑問が浮かんだ。
「さくや、もしかしてレオンとエリーゼも単にレイヴンに合わせてるだけなのか?あの二人は...どう言えばいいか、普通なのか?」
「...中二病があるかないかって意味なら、答えは明確だ。俺も彼ら二人も、ただ彼女の話に合わせてるだけだ。でも傷つけたくない。彼女が持ってるファンタジーな旅に付き合ってるだけなんだ。だからこんな風に振る舞ってる」
さくやの言いたいことは理解できた。彼らはレイヴンが一人にならないよう、その演技に付き合ってるだけなんだ。きっとレイヴンが過去について話したからだろうし、レイヴンが三人を救ったから、友人への借りを感じて、彼女を助けるためにここまでしているんだ。
突然さくやが話して、考えから引き戻された。
「アレクス、一つ聞きたいことがある」
「何だ?」
「君は数日前、レイヴンと同じような力があることを俺たちに見せた。それで君も彼女と同じように特別だし、君の出現は偶然じゃないって分かってる...君は彼女を探してたんだろう?」
さくやは正しかった。正確ではないが、直接レイヴンを探していたわけじゃない。ただ誰が時々現れるかを探していただけだ。時には偶然で、その他は...まあ、よく考えてみれば全部偶然に見えるが...
「しつこく見えるかもしれないが、もう一つ聞きたいことがある、アレクス...レイヴンに対する本当の意図は何だ?友人として、誰でも彼女に近づくことは許さない...」
さくやの視線は怖かったが、これは当然だった。これはただ彼がレイヴンを守りたいということを示してるだけだ。
「心配するな、さくや。俺の目的は彼女を霊輝から解放することだ」
「霊輝?それって何だ...もしかして彼女が持ってるあの力のことか?」
霊輝について一般的な説明を始めた。詳細には触れずに、なぜ俺が彼女を救えるのかを話した。さくやは俺の話を真剣に聞いていて、説明が終わると—
「...どう言ったらいいか、正直信じられないが、受け入れるしかないな...唯一気になるのは、そんな力がキスで解放されるなんて、異常に奇妙だということだが」
まあ、俺にとってはもう普通のことだった。それに、なぜそうなのかの具体的な理由は説明しなかった。それを話すとなるとアンジュの存在を明かすことになるし、そんなことを一般人に軽々しく話すわけにはいかない。
突然、さくやが俺に手を差し出してきた。
「改めて正式に自紹介させてもらう。俺の名前は当然さくやじゃない。小野拓海だ。よろしく、アレクス」
拓海と握手を交わしていると、拓海が言った。
「レイヴンとのデートを手伝ってやるよ。そうだろう、お前ら?」
拓海の視線が俺の後ろに向いた。振り返ると、そこにはレオンとエリーゼが歩いてきて座っていた。二人も中二病の仮面を脱いだようだった。
まずレオンが口を開いた。
「まず自己紹介させてもらうぜ。俺の本当の名前はダリオモンテスだ」
続いてエリーゼが話した。
「あたしの本当の名前はニーナケラーよ」
こうして全員が集まったということは、みんなが俺に希望を託しているということでしかない。
ダリオが話し始めた。
「どうやら俺たちは一致してるな。お前が本気で彼女を助けたいと思ってることに。毎日俺たちの話を聞いて、レイヴンについて理解しようとしてる。疑う理由がないだろ」
どうやらあの試練は、実際には彼ら三人が俺が本気なのか、それとも別の何かを求めているだけなのかを確かめる方法だったようだ。
三人ともう少し話し合って、明日のデートの計画を立てた。急な話だったが、決まったことは決まったことだ。
数分後、レイヴンがひかりと一緒に戻ってきた。他の女の子たちとは違って、二人とも何も話していない。なんだかお互いにイライラしているようだった。ひかりのことを知っている俺としては、きっと何か余計なことを言って、レイヴンを怒らせたんだろう。
何か言おうとする前に、ダリオが中二病全開の興奮した様子で口を開いた。
「レイヴンよ、聞け!貴様に重要な知らせがあるのである」
レイヴンは困惑した表情でダリオを見た。
「何のことじゃ、レオン。重要でなければ許さぬぞ」
「聞くがよい!未来が吾輩に語りかけた。ついに時が来たのである。貴様は無名の騎士と共に行かねばならぬ」
「無名の騎士と?どこへじゃ?」
「...デートにである!!」
レイヴンは固まった。何度も瞬きを繰り返して、ダリオが今言ったことを処理しようとしている。そして、レイヴンの顔が赤くなった。
「ななな、何を言っておるのじゃレオン!本当にもうそんな時なのか?」
「そうである!忘れるな、吾輩は未来を見通す者であるぞ」
「...他の者はどうじゃ?賛成しておるのか?」
レイヴンがニーナと拓海を見ると、二人とも賛成のポーズを取っていた。レイヴンは理解できずにいるようだった。俺を見たが、目が合うとすぐに視線を逸らした。
ひかりはそのやり取りを聞いて、さっそくレイヴンをからかおうと、躊躇なく割り込んだ。
「どうしたのレイヴン〜?アレクスが嫌ならわたしと交代してもいいよ」
レイヴンはひかりを少しムッとした表情で見て、歯を食いしばった。それからもう一度俺を見て、とても緊張して恥ずかしそうに言った。
「わ、分かったじゃ...明日、探しに出かけるのである...そ...その...」
最後まで言えずに、両手で顔を覆った。とても恥ずかしがっている。でも俺には分からなかった。デートのことで恥ずかしがっているのか、それともあの本の話と何か関係があるのか...
準備は整った。明日の午後はレイヴンとデートだ。でも、その前に今日もう少しあの本を読まなければならない。レイヴンがあの本に執着する理由を理解するために。まだ読むべきページが残っている。幸い、前回は100ページ以上進めた。
あの本を読み終えたら、レイヴンのことを理解できるようになるのだろうか?
それにしても、彼女とのデートが何の大きな問題もなく実現できるなんて、まだ信じられずにいる。全てが順調すぎる...あまりにも順調で、問題が起きていないのが逆に怪しく感じるほどだ。
まあ、どうであれ、明日はついにレイヴンについてもっと知ることができる。そして、それを止められるものは何もない...そうだろう?
次回、アレクスとレイヴンの「デート」がついに実現。
果たして彼女の心に近づけるのか、それとも思わぬ出来事が二人の行く手を遮るのか。
物語は新たな局面へ――ぜひお楽しみに。




