偽りの騎士、真の使命
短い物語から始まり、それが一人の少女に影響を与えた。
その後、アレクスは彼女と、そして共にいる三人と出会う。
奇妙で独特な彼らとのやり取りの中で、レイヴンの特異な個性と振る舞いが浮かび上がる――。
新たな謎と困惑に包まれながら、物語は進んでいく。
『???』
我が名はレイヴン。この物語を語るのは我である。
昔、森の精霊と禁じられた絆を持つ姫君がいたのじゃ。幼き頃より、他の者には見えぬものが見えていた。その姫を信じたのは、ただ一人の無名の騎士のみであった。
騎士は姫の守護者となり、心の支えとなった。人目を忍んで愛し合い、北の地、呪われた土地の向こうへと逃げることを夢見ていたのである。
しかし、運命は残酷であった。カラスの王を封じていた封印が破られた時、王国は黒き霧に包まれたのじゃ。
光の血を継ぐ姫は、混沌の拡散を止めるため、祖先の魔法を目覚めさせることを強いられた。呪文を唱える度に、魂の一部が削られていく。騎士は姫の傍らで戦ったが、魔法は触れることなく彼を蝕んでいったのである。
最後、カラスの王を再び封印することに成功したが、代償は重かった。姫は愛を感じる能力を失い、騎士は永遠の夢に囚われ、手の届かぬ場所で彼女を見続ける呪いを受けたのじゃ。
生きてはいても、共に在ることは叶わなかった。赤き月の下、言葉を交わすことなく別れを告げた。最後の眼差しを交わし、運命が二人の道を決めたことを悟ったのである。
我はこの悲恋を見届けた者として、ここに記すのであるぞ。
『5月19日 / 16:51 / アレクス』
上に乗っていた女の子が立ち上がるのを感じて、俺も慌てて起き上がった。その女の子をじっと見つめる。間違いない、異常な霊輝を感じる。人工霊輝の持ち主の一人だ。
何か言おうとした瞬間、さっきの三人がその女の子に駆け寄ってきた。心配そうな表情を浮かべている。でも、俺には話しかけなければならない。目標が目の前にいるんだ。
「おい、お前さっき上で何してたんだ?それとこの三人、知り合いか?」
女の子が俺の方を振り返り、三人も困惑した表情で俺を見つめた。すると女の子が一歩前に出て、奇妙なポーズを取った。手を顔に当てて、指で変な形を作っている。
「我こそは光の血を継ぐ姫君、レイヴンである!」
は?何を言ってるんだこいつ。
「え?それがお前の名前?」
「我が血統に疑問を抱くとは...貴様、敵であるか!?」
レイヴンの後ろにいた三人が怒った顔で近づいてくる。慌てて手を上げた。
「待て待て、ただ『レイヴン』って名前が変だなと思っただけだ」
レイヴンが再び奇妙なポーズを取る。まるで振り付けでもやってるみたいに手をくるくる動かしている。
「我が従者どもよ、案ずるでない。こやつは敵ではないぞ。よく見れば迷える子羊のようじゃ。助けてやろうではないか」
三人が手を上げて声を揃えた。
「はい!」
次の瞬間、三人が俺を押し始めた。レイヴンが歩き出すのに合わせて、俺も強制的に歩かされる。
榊が困惑した様子で、遠くから俺についてきているのが見えた。
漫画喫茶に連れて行かれた。
中に入ると、大きなテーブルがあるエリアに向かう。レイヴンが席に着いて言った。
「さあ、席に着くがよい。我が一時的な拠点である。暗霧から安全じゃぞ」
暗霧?何の話をしているんだ、こいつは。それに、レイヴンって本当の名前なのか?どうも違和感がある。
椅子に座った。榊も同じように座る。あの三人組も席についた。
改めてレイヴンを観察してみる。髪は長くもなく短くもない。ルーシーより少し長いくらいか。桜のようなピンク色だが、所々に紫のメッシュが入っている。目は海のように青い。
黒い服装で、スカートに膝下まであるブーツ、革のジャケットを着ている。首には何かのコリャーをつけていた。
観察を終えると、私は自己紹介をした。榊も名乗り。
レイヴンが満足そうに微笑んだ。
「よいぞ。では我が配下どもも一人ずつ名乗るがよい」
配下?本当にあの三人はレイヴンの知り合いなのか。ついてきてるってことは、そういうことなんだろうが...レイヴンほど変じゃないことを祈る。
最初に立ち上がったのは、長いジャケットを着た男だった。髪はぼさぼさで、妙に自信に満ちた眼差しをしている。何となく直感で分かった―こいつらも絶対レイヴンと同じタイプだ。
「吾輩の名前はレオンデルバジェである!失月記録官である!」
...は?
理解が追いつかないまま、レオンは座り込んだ。次に女の子が立ち上がる。ツインテールに黒い口紅、そして変なポーズまで決めている。
「下民どもにご挨拶いたしますわ!わらわはエリーゼクレーネストですわ!忘魂文庫主、お仕えいたしますわ!」
...全員こんな感じなのか?
恥ずかしくなってきた。聞いているだけで居た堪れない気分になる。
最後に立ち上がったのは、比較的まともそうに見える男だった。髪は後ろに撫で付けられていて、落ち着いた表情をしている。でも、きっとこいつも他の二人と同じくらい変なんだろう。
「拙者、しらぎりさくやと申しますであります。雅霊狩宗師、お見知り置きをであります」
やっぱりか。
何て言えばいいんだ?明らかに全員偽名だし、どう反応していいか分からない。
レイヴンが手を叩いている。なぜ拍手しているのか俺には理解できないが、彼女は続けていた。やがて俺の方を再び見つめて言った。
「それで、何が望みじゃ?明らかに先ほど我を『救おう』としたであろうが、我には必要なかったと気づいたはずぞ」
話しかけなければならないのは分かっていたが、彼女の行動があまりにも奇妙で理解することが不可能だった。その時、榊が割り込んできた。
「すみません、レイヴンさん。ちょっと話し合えますか?」
レイヴンは許可を与えるように頷いた。榊は俺に離れて話そうと促し、二人から離れた場所で話し始めた。
「アレクス、もう帰ろうぜ。あの四人...なんか変なんだよ」
帰るわけにはいかなかった。榊を遠ざけるために何か言い訳を考える必要があった。少なくとも榊だけでも。レイヴンが俺の標的だ。ここに留まらなければならないのだ。
「分かるよ、榊。でもなんで変なって言うんだ?」
榊は少し視線を逸らした。まるで何かを思い出しているかのように。
「中学の時、クラスメートで彼らみたいな奴を知ってたんだ...そいつには何もいいことが起こらなかった、ああいう風だったせいで...」
榊が自分の過去について話すとは思っていなかったが、今は興味を引かれた。
「そのクラスメートに何が起こったんだ?」
榊は諦めたようにため息をついた。本当はこのことについて話したくないようだった。
「あそこにいる四人は中二病って呼ばれるものを持ってるんだ」
中二病?そんなものを聞いたことがなかった。一体何のことなんだ?
「中二病ってのはな、ガキが自分を『特別な存在』だと思い込むことだ。魔法使いだとか闇の堕天使だとか、そんな妄想に浸りきってキャラ演じちまうんだ。分かるだろ? 現実逃避とか痛いヤツ…あれが中二の本質だよ」
俺は今やっとレイヴンと彼女の友達の行動が理解できた。あの変な話し方や動き方の理由が分かったんだ。でも、まだ疑問があった。
「治せるのか?」
「病気じゃないからな。まあ、それを乗り越えるには精神的に成熟する必要があるって感じかな」
俺は中二病が深刻なものじゃないことを理解した。むしろ、誰かが別の人間になったような気分にさせるもので、キャラクターに興奮した子供みたいなものだが、彼らはそれをさらに極端に持っていき、そのキャラクターになりきってしまうんだ。レイヴンがなぜそうなのか、まだ理由は分からないが、これが頭痛の種になりそうだということは分かった。
「榊、決めたぞ。あの子、レイヴンを助けるつもりだ」
榊は納得していない顔をして、俺の言葉を信じられないような表情を浮かべた。
「何だって!?正気か?どうやって助けるつもりだ?放っておけよ、時間が経てば治るさ」
榊の言葉は冷たく聞こえたが、それは彼女にとってその時間が存在しないことを知らないからだ。このままでいれば、彼女にとってはもっと悪くなる可能性がある。それに、重要な詳細がある。レイヴンは人工的な霊輝を持っているんだ。彼女は自分の中に力があることを自覚しているはずで、その事実が確実に彼女の中二病の側面を強化しているんだろう。
「どうする榊?一緒に来るか、それとも帰るか?」
榊は彼らに似た誰かの記憶を思い出しているようで、その考えを好まないようだった。
「悪いなアレクス、俺は家に帰るよ。でも後で後悔するなよ...」
榊は去っていく。背中しか見えないが、俺はいずれもっと榊の助けが必要になるかもしれないと分かっている。彼は中二病のことをよく知っているからな。
レイヴンがいた場所に戻った。
レイヴンに近づくために、彼女が本当に持っているものについて話し、それを証明しなければならないことを分かっていた。だが、言うことには注意しなければならない。座って、まずレイヴンを見つめた。最初に霊輝について言及する必要がある。それが初期計画だ。
「レイヴン、俺も力を持ってるんだ」
決意を込めて微笑んだ。レイヴンは驚き、興奮した。あの三人も同様に素早く反応した。レイヴンは両手でテーブルを叩き、立ち上がった。
「本当なのじゃ!?見せるのである!」
手を伸ばし、掌に霊輝を集中させ始めた。掌の上の青い輝きは、レイヴンとあの三人を驚かせた。
「これが霊輝だ。俺の力だ」
掌の上の霊輝を消し、皆の反応を見た。レイヴンは明らかに興奮しながら再び座った。一方、向かいにいるあの三人も驚いていた。これで一つのことを達成できるだろう、少なくとも俺はそう思う。達成したいのは彼らに近づくことだ。そうすればレイヴンを助けることができる。
突然、レイヴンが立ち上がった。
「よし!我に力を見せたからには、今度は我が力を見せてやるぞ!」
彼女が何をしようとしているのか分かっていた。始めたのは胸に手を当てることで、続いて激しい青い光が胸から放たれた。彼女は霊輝の武器を取り出したが、それを見ると少し奇妙だった。これはレイヴンと同じ長さの細長い棒のようで、金色で金属製のように見え、上端まで奇妙な装飾があるようだった。とても奇妙な霊輝の武器だった。
「それは何のつもりなんだ?」
自慢げに微笑み、おもちゃか何かのように手でくるくると回し始めた。
「これは我が聖なる杖である!」
今、確かにそれが杖のように見えることを知ったが、聖なるものだとは思えなかった。
でも今考えてみると、どうやってレイヴンと二人きりの時間を作るんだ?それよりもっと重要なのは、俺がどうやってレイヴンをあの中二病の段階から抜け出させるかだ。多分今はそれを話すベストなタイミングじゃない。まずはレイヴンと親しくなって、多分あの三人とも仲良くなる必要がある。そう思って、俺はレイヴンに声をかけた。
「レイヴン!お前に頼みがあるんだが?」
頷いたが、突然何かに気づいた様子だった。
「待つのじゃ、お主の友はどうしたのじゃ?」
「ああ、あいつは気分が悪くて帰ったんだ」
「既に回復のポーションを用意してあるぞ。これを渡して回復させるのじゃ」
「...えーっと...ああ、ありがとう?...」
「それで、我である光の血を継ぐ姫君に何を頼みたいのじゃ?」
周りを見回した。レオンって呼ばれてる奴を見て、次にエリーゼって呼ばれてる女の子を見て、最後にさくやって呼ばれてる奴を見た。もしレイヴンを助けたいなら、彼らのようになるか、少なくとも彼らの近くにいる必要がある。認められて、彼らに見放されないようにしないといけない。そう決めた。
「俺を仲間に入れてくれ!」
少し声を上げて、レイヴンを見つめた。彼女は驚いているようだった。まだ杖を手に持ったまま、少しずつ俺に近づいてきて、俺の前に立つと言った。
「本当なのか?我らに加わりたいと申すのか?」
「ああ!お前を見た時からわかったんだ...」
俺は何か言わなければならなかった。何でもいい、彼らがやるような何かを。多分そうすれば彼らやレイヴンが俺を受け入れてくれるかもしれない。恥ずかしいけど言うしかない。
「...お前を見た時から、俺はお前を助けるために生まれたんだってわかったんだ!」
自分が言ったことが恥ずかしかったが、レイヴンの顔を見ると、彼女は赤面しているようだった。
「う...う...」
彼女は言葉が出ないようだった。俺は自分が言ったことが良かったのか悪かったのかわからなかった。他の三人を見ると、彼らの顔には驚きの表情が浮かんでいた。一体何が起こっているんだ?
突然、レオンという奴が立ち上がって俺を指差した。
「貴様!まさか、無名の騎士ではないか!?」
無名の騎士?何のことを言ってるのか全然分からなかったが、とりあえず話を合わせることにした。
「さあな...でも、そうかもしれないぜ」
レオンが俺の側に駆け寄ってきて、上から下まで俺をじっくりと観察し始めた。その視線が気持ち悪くて仕方がない。
「なるほど!それで奴にあの力があるのである!すべて合点がいったぞ、レイヴン!」
レイヴンがレオンの方を振り返る。まだ顔を赤くしているが、困惑した表情を浮かべていた。
「...本気で言っているのじゃ、レオン...彼が...我の...無名の騎士なのか?」
「間違いないである!事実、あの力を我輩たちに見せてくれたではないか!」
何の話をしているのか分からなかったが、とりあえず状況は悪くなさそうだった。
すると、レイヴンが咳払いをして言った。
「よろしい!貴殿が無名の騎士で我らに加わりたいのなら、跪いて祝福を授けてやるぞ!」
これをやるのかと思うと気が重い。漫画喫茶の店内には何人かの客がこっちをチラ見していて、恥ずかしさが込み上げてくる……だが、やるしかない。
膝をついた。レイヴンが杖を持って、俺を「無名の騎士」として「洗礼」する儀式のようなものを始めた。
再び立ち上がってレイヴンを見ると、彼女は俺の視線を避けて背中を向けてしまった。
重要な進歩を遂げることができた。その後、レイヴンを含めた全員と連絡先を交換した。これで連絡を取り合えるだろう。
もう遅くなってきていて、家に帰る時間だった。あの三人は一緒に帰っていく。俺は少し考えた...あいつらはいつもあんな風に過ごしているのか。変な奴らだ。それに、俺の霊輝を見てもそれほど驚かなかったのも妙だった。
漫画喫茶の外で、レイヴンと二人きりになった。話しかけるチャンスだ。
「おい、レイヴン、ちょっといいか」
しかし、彼女は俺を無視して背中を向けたままだった。なぜそんなことをするのか分からない。顔を見ようと回り込もうとしたが、レイヴンは俺に見られないように動き回る。
さっきからずっと変な態度を取っている。理由が全く分からない。これ以上何も得られそうにないので、家に帰ることにした。
「...また明日な、レイヴン...」
彼女は頷いたが、それでも背中を向けたままだった。現在の彼女の態度が理解できずに、俺は家に向かった。
家に着くと、アンジュに驚くべきことに次の女の子を見つけたと話した。レイヴンがどんな子かを説明し終えると、アンジュは何か動揺しているようだった。
「あぁ、ダメよ...オマエが言ってるその子、もう思い出したわよ...」
アンジュはレイヴンと彼女の霊輝について何かを言おうとしているようだった。
「彼女の霊輝について説明してあげるわよ。まず『特性』から始めましょう。これはどんな物理的な痛みでも癒すことができるのよ」
そんな話を聞いて驚いた。治癒能力か...確かにすごい力だが、彼女にそんな力があって何の意味があるんだ?
「オマエがそんな力を持っても意味がないって思ってるでしょう?彼女の『特性』について詳しく説明してあげるわよ。治癒というより、実際には物理的なダメージを無効化するの。人工霊輝使いの本来の状態よりもさらに再生能力が高いのよ」
アンジュの説明がよく理解できなかった。今まで見てきた少女たちは皆、人工霊輝を持っていると不死身のように見えた。でも、レイヴンがその『特性』を持っていることで何が変わるんだ?単純に人工霊輝を持っているだけで既に不死身なのに...変だな。
「まだ混乱してるようね、アレクス。もっと分かりやすく説明してあげるわよ。彼女は言わば『治療師』みたいなものなのよ」
それでも完全には理解できなかったが、一つだけ明確だったのは、レイヴンの霊輝がかなり複雑だということだった。
「今度は彼女の『個性』について説明するわよ。さっきオマエが彼女の霊輝の武器を見たって言ったでしょう?杖だったわよね」
頷いた。あの杖は本当に目立つ。長さだけでなく、そのデザインも印象的だった。
「あの杖には『投影』の能力があるのよ」
投影?アンジュが何を言っているのか分からなかった。投影って何のことだ?
「オマエには理解するのが難しいようね...投影というのは、彼女が物質的なものを具現化したり、創造したり、さらには変化させたりすることができるということよ」
レイヴンの霊輝について、どう処理すればいいのか分からなかった。複雑で危険に見える。物理的ダメージを無効化する部分を思い出した。あの時、彼女を捕まえようとしたけど、痛みを全く感じなかった。多分それがアンジュの言っていた「物理的な痛みを無効化する」ということなんだろう。
彼女の霊輝が持つ他の全てを置いといて...
レイヴンについて考慮しなければならないことが山ほどある。まず第一に、あの性格だ。あの中二病的な態度。俺はどうやって彼女のゲームに付き合うか、それとも彼女をもっと真剣に話せるように理性に戻すか。
もしかすると鍵は、彼女に付き添っているあの三人かもしれない。彼らそれぞれと話して、レイヴンの状況をもっとよく理解する必要がある。
ベッドに倒れ込んだ。疲れがどっと押し寄せている。今、やることが山ほどある。この状況にどう対処すりゃいいんだ…場当たり的にやるしかないかもな。それに加えて、新しいことも理解しなきゃ──彼女の中二病が何を意味するのか、そして…もしかしたら、あの子の霊輝が問題を引き起こすかもしれないってことさ。
知らないうちに、これらすべての思考を頭に巡らせながら眠りに落ちていた。
次回、アレクスはさらにレイヴンに歩み寄ろうとする。
彼女に近づくことで、どんな真実や困難が待ち受けるのか。
新たな仲間、新たな疑問――そしてアレクス自身の選択が試されていく。




