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霊輝  作者: ガンミ
46/130

逃避と現実の狭間で

アレクスの日常は少しずつ進んでいく。ひかりとの何気ないやり取り、仲間たちとの霊輝の訓練、そしてアナスタシアとの特別な時間――そのすべてが彼の心に新しい感情を芽生えさせていく。だが同時に、次の少女を探す手がかりは見つからず、焦りと不安が募っていく。日常の中に潜む違和感が、やがて大きな変化へと繋がるのかもしれない。

『5月5日 / 7:22』


いつもの通学路を歩いていると、家から二つ目の角で誰かが待っているのに気づいた。にやりと笑いながら、目にはいたずらでも企んでいるような光が宿っている。


ひかりだった。


俺を見つけると、さっさと近づいてきた。


「おはよう、アレクス!学校に行くの?残念だなあ、今日はお前と一緒にいたかったのに」


小悪魔のような笑顔を浮かべている。


「なんでここで待ってるんだ?体調でも悪いのか?」


「優しいね、わたしのことを心配してくれるなんて。でも大丈夫よ。ただお前に会いたかっただけ」


その理由を聞いて、顔が熱くなった。恥ずかしい。


最近になって、ひかりが遠回しな表現なんて使わないタイプだということを改めて実感している。思ったことをストレートに言ってくるから、いつ何を言い出すかわからない。


「行く前に、連絡先を交換しない?」


電話番号を聞いてきた。別に問題はないので、スマホを取り出して連絡先を交換する。


俺の番号を手に入れたひかりは、まるで雲の上にいるような表情でスマホの画面を見つめていた。でも急に俺の方に近づいてきて言った。


「メッセージを送ってみたい!」


「え?目の前にいるのに、なんでメッセージを送るんだ?」


俺の文句を無視して、ひかりは画面をタップし始めた。


数秒後、スマホが震えた。


ひかりからのメッセージには「頑張って、愛しい人♪」と書かれていて、その後に怒った顔をした犬のアニメスタンプが続いていた。


なんでそのスタンプを送るんだ?


そう思っていると、同じ犬のスタンプが次々と送られてきた。何度も何度も。


「おい、そんなにたくさん送る意味ないだろ」


「なんで?面白いじゃん?えへへ」


馬鹿馬鹿しい状況だったが、ひかりが楽しそうにしているのを見ていると、俺まで嬉しくなってきた。これが一番大事なことだ。


ひかりと別れて、いつものように学校へ向かう。待ち合わせ場所には、いつも通りエミリーが待っていた。


「先輩、今日は霊輝の訓練をするつもりですか?」


「ああ、しばらく時間があるからな」


歩きながら、ウィリアムのことを思い出した。あの件についてエミリーが何か知っているか確認する必要がある。


「エミリー、お前の叔父さんから若菜進也の逮捕の件について何か聞いてるか?」


エミリーは話したくなさそうな表情を見せたが、頷いて話し始めた。


「うん...えっと、長くなるから省略するけど、おじさんは既に証拠を掴んでたから、警察に引き渡すのに問題はなかったのよ」


ジャーナリストというより探偵みたいだな。でも、ウィリアムのやり方を批判するつもりはない。これでひかりが安全になった。もう誰にも狙われることはないだろう。


だが、若菜進也はあの日、何かの証拠を『とある企業』――いや、『とあるコーポレーション』に送ったと言っていた。名前は思い出せないが、本当に何も起こらなければいいが……その疑念が俺を不安にさせた。あらゆる面で、考えるだけで不快だった。


考え込んでいると、突然強い風が吹いてきた。目を覆おうとした瞬間、遠くに何かが見えた。何だったのかよくわからないが、道の真ん中に誰か...いや、何かがいるような気がした。妙に落ち着かない気分になったが、結局その日は何も起こらなかった。午後は霊輝の訓練を続けて、あの時見たものが何だったにせよ、特に問題はなかった。


『5月6日 / 8:22』


授業中、次に助けるべき女の子をどうやって探すか考えていた。今回は完全に行き詰まっている。手がかりも何もない。アンジュに聞いてみるという手もあるが、あいつは街の地理がよくわからない。場所を覚えているとしても、特定の場所だけだろう。


霊輝の訓練は順調に進んでいるが、一番の問題は次のターゲットの探し方だ。街中をぶらぶら歩いて異常な霊輝を感知しようとするなんて、最良の戦略とは思えない。


あまりにも深いため息をついたせいで、横を通りかかった先生に聞こえてしまった。


「朝倉さん、そんなに私の授業はつまらないですか?」


「あ!いえいえ、全然そんなことないです。すみません、藤原先生」


これについてはあとで考えよう。また何事もない平穏な一日が過ぎていった。


『5月7日 / 12:12』


昼休み。いつもの場所でルーシーとエミリーと一緒に弁当を食べながら、考えていたことを切り出した。


「ルーシー、次の女子を見つけるのに、お前とアナスタシアの力が必要だ」


「やるわ!」


即答だった。まだ何をするかも説明していないのに。


「おい、まだ何をするか言ってないぞ」


でも、ルーシーは完全に決意を固めていた。何があっても受け入れる覚悟ができているようだった。


実際、俺の計画はそれほど複雑じゃない。ルーシーとアナスタシアに霊輝を感知する方法を覚えてもらうんだ。茜がやったように。もし二人ができるようになれば、別々の場所を探して効率を上げられる。


正直、そんなに良い作戦じゃないかもしれない。でも、何かしないと見つからない。


「エミリー、お前も手伝ってくれ。二人の訓練を」


エミリーは明らかに不機嫌そうだった。でも、最終的には納得してくれた。


午後になって、約束通り霊輝感知の特訓を始めた。


ところが、なぜかひかりまで現れた。さらにはライラまで。


気がつけば、大人数での特訓になっていた。


まあ、悪くない。人数が多い方が、誰かは覚えられるかもしれない。


こうして、また一日が大きな問題もなく過ぎていった。


『5月8日 / 17:38』


昨日の霊輝探知の訓練は実を結んでいるように思えた。少なくとも、そう信じていた。


今日はショッピングセンターにいる。茜が「ルーシーとアナスタシアの進歩、確認するために実習しよか!」と提案したのだ。昨日は二人とも何かを感じ取れていたようだったし、霊輝がどんな感覚なのかを知ったことで習得が早まったのかもしれないと思っていたが...


まず、ルーシーがショッピングセンターで迷子になった。茜を探そうとして完全に道に迷い、もう少しで館内アナウンスで名前を呼ばれるところだった。


そして今度はアナスタシアが「茜さんの霊輝があそこですわ!」と自信満々に指差した先は...ゴミ箱だった。しかも、既にショッピングセンターの駐車場エリアまで来てしまっている。


完全に災害だった。昨日の訓練では二人とも「感じられる」と確信に満ちた様子だったのに、現実はまだまだ修行が必要だということがはっきりした。


それだけでも十分だというのに、ひかりがさらに状況を悪化させた。茜が二人を指導している隙を狙って俺に近づいてきたのだ。


「アレクス、わたしと二人だけで遊びに行かない?その二人は置いといてさ」


ひかりは俺にぴったりと寄り添いながら、妙に色っぽい声でそう言った。明らかに二人を馬鹿にしている。自分はもう霊輝探知ができるからという理由だけで訓練に参加し、相変わらずからかい続けているだけだった。


その時、エミリーが俺とひかりを見ていた。そして案の定、ひかりはまた他の奴らを挑発しようとしていた。


「あ!そこにいたの。ごめん、気づかなかった」


エミリーに向かってそんなことを言っている。


エミリーは明らかに怒って、視線を逸らしながら腕を組んだ。少なくとも、ひかりの悪ふざけには屈しない。もしあれを悪ふざけと呼べるならの話だが。実際のところ、周りの皆を挑発しているようにしか見えない。


午後の残りも訓練は続いた。そして、ひかりも他の奴らを困らせ続けた。


本当に誰も怒ってないよな?...


『5月9日 / 17:25』


今日一日の流れは普通だった。学校、勉強、その他諸々。最近は平穏な日々が続いている。主に霊輝の訓練で埋まっているが。


アナスタシアの家で訓練していた。今回、ライラも訓練に復帰した。彼女はもう霊輝を感知する方法について大体理解していた。茜の説明を一度聞いただけで、ライラは一回で霊輝を感知することを覚えた。


もしかしたらライラは天才なのかもしれない。それとも、俺やエミリーと同じように自然な霊輝を持っているからかもしれない。理由が何であれ、彼女の大きな進歩は確かだった。


霊輝の訓練が終わって、みんなで家の裏庭で休憩することになった。


芝生の上に寝転がって空を見上げていると、ライラが茜に近づいていく足音が聞こえた。


「茜お姉ちゃん、聞きたいことがあるなの」


「ええで、何でも聞いてや」


「茜って名前、赤い色と関係があるなの?それに紫って苗字も紫色なのに、なんで髪の毛は青いなの?」


...おい。


思わず心の中で叫んだ。そんなこと聞くか、普通?確かに茜の名前と苗字は色に関係してるし、髪の色は全然違うけど...


慌てて耳を澄ませた。茜がどう答えるのか気になって仕方がない。


「ははは!面白いこと聞くなあ。実はな、ウチの親は芸術家やってん」


...え?


芸術家?そんなこと一度も聞いたことがなかった。てっきりもっと「普通」の...まあ、普通って何だって話だけど、そういう家庭だと思ってたのに。


「兄もこの髪色で、お母ちゃんもそうやった。お父ちゃんだけ赤毛やってんけどな。でも面白いのは、お父ちゃんの苗字が紫やったから、ウチに茜って名前つけたんやて」


何それ、ちょっと複雑すぎないか?

茜が何を考えているのか、さっぱりわからなかった。両親が自分の名前をつけた経緯を話しているだけなのに。


「でもな、赤と青を混ぜたら『紫』になるやろ?ウチの苗字と同じや。すごない?」


ライラは目を輝かせて茜の話を聞いていた。


「それってとっても素敵なのー!あなたのお名前の由来、ロマンチックなの!」


どうやら茜の名前についての不思議な話は終わったらしい。でも...


「でもな、実は両親、色盲やったんや。色を完全に間違えてもうて、それで茜って名前になってん」


...はあ?


本気で言ってるのか、それとも冗談なのか、もう判断がつかなかった。


その時、アナスタシアが隣に座ってきた。


「明日、時間ある?」


突然の質問だった。でも、断る理由もない。


どうやらアナスタシアは、俺たちが約束していたデートの話を持ち出したらしい。明日、アナスタシアとデートすることになった。


『5月10日 / 11:35』


アナスタシアと過ごした一日は、思っていた以上に楽しかった。


服を選んでいる時の彼女の真剣な表情、ゲーセンでクレーンゲームに夢中になっている姿、色々な店を見て回りながら時々見せる無邪気な笑顔。どれも新鮮だった。


レストランで食事を済ませた後、公園を歩いていると、アナスタシアが突然立ち止まった。


「あら、この子...」


小さな子犬が一匹、迷子になってキャンキャン吠えていた。アナスタシアはすぐにしゃがみ込んで、優しく子犬を抱き上げる。


「大丈夫よ。飼い主さんを探しましょう」


しばらくして、慌てた様子の老人が現れた。どうやら散歩中に逃げ出してしまったらしい。


「本当にありがとうございました!」


老人にお礼を言われながら、アナスタシアは子犬の頭を優しく撫でていた。


その瞬間、俺の心に何かが込み上げてきた。


彼女が太陽のように輝いて見えた。以前の彼女とは明らかに違う。いや、これが本来の彼女なのかもしれない。本当の彼女に戻ったのかもしれない。


胸の奥から、言葉にできない幸福感が溢れ出してきた。


帰り道、俺たちは並んで歩いていた。特に話すことはなかったが、気まずい沈黙ではない。むしろ心地よかった。


「あたくし、霊輝の探知練習を続けますわ」


突然、アナスタシアが口を開いた。


「アレクスのお役に立てるよう、できる限りのことをしたいの。それと...今日のデートのお礼も言いたくて」


「礼なんていらない。俺たちが決めたことだろ」


微笑みを浮かべた彼女の視線は、どこか遠くを見つめているようだった。


数歩歩いた後、また話し始めた。


「そういえば、数日前にひかりがあたくしを『アナ』って呼んでくれたの。驚いたわ。お父様がそう呼んでくださっていたから」


父親の話をしているのに、彼女は悲しそうではなかった。むしろ、懐かしそうな笑顔を浮かべている。


「長い間、誰もそう呼んでくれなかったから...だからお願いがあるの」


「何だ?」


「...これからあたくしのことを『アナ』って呼んでもらえる?」


彼女の表情が急に明るくなった。まるで子供のように期待に満ちている。


そのあだ名には、きっと特別な意味があるのだろう。家族との大切な思い出が込められているに違いない。


恥ずかしさを感じながらも、俺は頷いた。


「ああ...分かった」


アナが立ち止まった。俺も足を止める。


視線が俺に向けられていた。彼女の瞳は、俺が『アナ』と呼ぶことを受け入れた喜びでキラキラと輝いていた。


「アレクス...」


「ん?アナ?」


微笑みを浮かべた。その笑みとともに、目を大きく見開き、さらに嬉しそうに近づいてきた...


時が止まったような感覚だった。

頬に柔らかい感触。アナが俺の頬にキスをしていた。

完全に不意打ちだった。


「えっ...」


アナはすぐに離れた。顔が赤くなっているのが分かる。俺の顔も熱くなっているのを感じた。


「それでは、また今度お会いしましょうわ」


そう言って走り去っていく。あっという間に姿が見えなくなった。

俺は呆然としたまま、キスされた頬に手を当てた。

まだ温かい感触が残っている。


答えははっきりしている。アナが何を感じているのか、他の女子たちが何を思っているのか。分かりきったことだ。


でも認めたくない。考えたくもない。


なぜなのかは自分でも分からない。ただ、そういうことを受け入れるのを拒んでいる自分がいる。


混乱と確信が頭の中でぐるぐる回っている。災害級の状態だった。


とりあえず家に帰ろう。

それしか考えられなかった。


『5月11日 / 8:37』


日曜日の朝、自分の部屋の机で寛いでいた。 霊輝の修行は順調に進んでいるものの、次の女の子を探す手がかりが全くない。


時間を無駄にするわけにはいかない。アンジュしか、この状況を解決できる者はいないだろう。


「アンジュ!」


いつものように影から現れると思っていたが、今回は違った。突然、背後から声がした。


「何よ?」


振り返ると、いつの間にかアンジュが俺の後ろに立っていた。


「そんな風に驚かせるなよ」


心臓が止まりそうになった。てっきり影から出てくると思っていたのに。


アンジュは机の上に腰を下ろした。


「ねえ、もう一週間も経ってるのよ。まだ次の子を見つけてないじゃない。怠けるのはやめて、さっさと探しなさいよ!」


「怠けてなんかいない。霊輝の修行をしてるんだ」


修行なんてどうでもいいとでも言いたげな表情を浮かべている。でも、何か手がかりか情報が必要だった。彼女が唯一の情報源なのだから。


「アンジュ、探す手がかりがないから聞くけど、女の子たちを見かけた場所で覚えてるところはあるか?」


アンジュは顎に手を当てて考え込んだ。


「うーん...あ!何か思い出したわよ!」


立ち上がったかと思うと、俺のノートとペンを取って、何かを書き始めた。いや、描いているのか?


終わると、ノートを俺に差し出した。


「これは何だ!?」


「私の地図よ」


「ただの落書きじゃないか。幼稚園児の絵みたいだぞ」


アンジュは俺の言葉に腹を立てたようで、腕を組んだ。


「そうね、それじゃあ説明するわ。アナスタシアの古い家に繋がっていた橋、覚えてる?そこからもっと北に行った辺りで、確か一人の女の子に出会ったのよ...ただ...まあ、その場所って街の中心部なのよね」


アンジュの説明を聞きながら、頭の中で街の地図を思い浮かべた。


街の中心部…アンジュが言うのは、間違いなく『都心』のことだ。 超高層ビルが林立し、昼夜を問わず人で溢れかえるエリア。街の経済と文化が凝縮された場所で、必要なものは何でも揃う…文字通りの『都市の心臓』だ。


あんな場所にいったいどんな女の子が住んでいるんだろうか。いや、住んでいるとは限らない。もしかすると、よく通う場所なだけかもしれない。


可能性を考えても仕方がない。都心に行くのは簡単じゃないが、今のところ唯一の手がかりだ。


とはいえ、その女の子がまだあの辺りにいるかどうかも分からない。でも、今は待つしかない。この捜索は明日にするか、それともルーシーとアナの準備が整い次第にするか...


どちらにしても、できるだけ早く行動に移すべきだろう。

次回、霊輝の訓練と共に捜索も本格的に動き出す。だが、進めば進むほどに複雑さを増すこの旅路――その先にアレクスは何を見つけるのか?訓練の成果、そして新たな手がかり。全てが次第に一つの道へと繋がっていく。

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