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霊輝  作者: ガンミ
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女王の手に夜は咲く

紫さんのもとを訪れたアレクスたちの前に現れたのは、謎めいた彼女。彼女の態度と、心の奥に秘められた強い執着――その理由は何なのか。やがて物語は視点を変え、彼女自身の過去へと遡る。一体どんな記憶が、その心を縛りつけているのか……。

『4月 25日 / 21:33』


部屋に入った瞬間、予想していたものとは全く違っていた。カジノのような外観とは正反対に、ここは畳が敷かれた静かな部屋だった。まるで誰かの寝室のような落ち着いた雰囲気で、この街には不釣り合いな伝統的な雰囲気が漂っている。


彼女は床に膝をついて座り、俺たちも座るように手で示した。


床に座るのか...何か伝統的な作法でもあるのだろうか。そんなことを考えながら、言われた通り彼女の前に座った。


「紫、お茶を持ってきて」


その言葉を聞いた瞬間、紫さんの表情が変わった。嫌そうな視線を彼女に向けて、そして俺の方を見る。その目は明らかに不快そうだった。


紫さんがこの状況を避けようとしていたのは分かっていた。それでも結局、こうなってしまった。


紫さんは襖まで歩いて行き、中に入ると勢いよく扉を閉めた。

部屋が静寂に包まれる。


「わたしの名前はひかり。堅苦しい挨拶は抜きにして、お前たちの名前を教えなさい」


ルーシーとアナスタシアが自己紹介を始めた。続いて俺の番だ。


「俺はアレクスだ。単刀直入に聞くが、お前が親分だろう?」


ひかりが挑戦的に笑った。その笑顔を見た瞬間、紫さんを思い出した。あいつとほぼ同じような笑い方をしていた。


「そうよ、わたしがこのグループの親分――」


言いかけて、慌てたように言い直す。


「つまり、この組よ。そう...」


挑戦的だった笑顔が急に緊張したものに変わった。自分が率いているものを二つの違う呼び方で言うのは妙だった。


「わたしがこの組を代表してるけど、実際に組を作ったのは紫なの」


話し方から察するに、こいつは自分の組が何をしているのか、どうやって運営しているのかもよく分かっていないようだった。ただここにいるだけ、そんな印象を受けた。


その短い説明が終わると、ひかりは再び俺を見た。今度は歯を見せて笑った。まるでサメの歯のように見えて不気味だった。


「お前、霊輝を持ってるでしょ?騙そうとしても無駄よ、感じ取れるから」


彼の視線に圧力を感じた。でも、どういうわけか、彼女が俺が助けなければならない女の子だと分かった今、その緊張や圧迫感はそれほど苛立たしいものではなかった。


直接的に行くことにした。


「お前も霊輝持ってるんだろう?」


一瞬、ひかりが驚いたような表情を見せた。でも、すぐにまた挑戦的な態度に戻る。


「それがどうしたのよ」


やはり、何か俺の言葉に対して挑発的な態度を取っているようだった。でも、確認しなければならない。俺が求めているのは、ただ彼女を助けることだけだ。


「探してたんだ、ひかり。お前を助けたい」


その言葉を聞いて、ひかりは眉を上げた。明らかに困惑している。


「...ちょっと待って待って、何を急に言ってるのよ...やばい、抱きしめたりしちゃダメだった...わたし、ちょっとやりすぎて、お前をわたしに夢中にさせちゃったのかしら」


冗談で言っているのか、本気なのか分からない。でも、そんなことはどうでもいい。俺が本気だということを示さなければ。


「変な風に思うなよ。お前を探してた理由は、助けたいからだ」


ひかりはさらに困惑した表情になり、左右を見回した。目が理解できないといった感じだった。


「あの二人も霊輝を持っていて、俺がそれから解放してやったんだ。お前もその霊輝から解放したい」


その言葉を聞いた途端、ひかりの表情が困惑から不快そうなものに変わった。視線を逸らし、表情がだんだん暗くなっていく。


「...必要ないわよ」


その返事を聞いて、今度は俺が驚いた。


「え!?」


思わず言葉を漏らす。理解が追いつかない。いや、理解したくなかったのかもしれない。


「なぜ?」


そう聞いてみたが、ひかりはさらに苛立っているようだった。誰の方も見ようとしない。でも、明らかに歯を食いしばっているのがわかった。


もう一度言ってみたくなった。


「手伝いたいんだ。きっと霊輝がお前に大きく影響して――」


「嫌だって言ってるでしょ!!」


突然、ひかりが叫んだ。俺の言葉を聞きたくないかのように。


震えているようだった。膝の上で手を強く握りしめて。


「霊輝はわたしのすべてなの...それを失ったら、わたしは何でもなくなる...」


胸に手を当てて、さらに強く握りしめた。

何と言えばいいのかわからなかった。理解したかったが、話したがらないようで。


でも、突然ルーシーが口を開いた。


「ひかりさん!それは危険よ。あたしはよく知ってる...その霊輝を持つことの意味を理解しているはずよ..」


ひかりは何も言わなかった。地面をじっと見つめて、誰とも目を合わせない。


ルーシーは続けた。


「その霊輝から解放されないと、もしかしたら――」


「黙れよ、クソが!!!」


さっきよりも大きな叫び声がルーシーの言葉を遮った。怒りと悲しみが混じった声だった。泣いてはいなかったが、震えていて、胸を強く押さえていた。


「これしかないの。わたしにはもう、これしか」


声は次第に掠れ、力を失っていった。その表情は読み取れなかったが、空気は明らかに――壊れていた。


沈黙が満ちる中、ルーシーがゆっくりと立ち上がった。彼女の動きには焦りも怒りもなかった。ただ、誰かを大切に思う人の、まっすぐな優しさだけがあった。


「ひかりさん、あたしたちは責めてるわけじゃない。ただ……霊輝は異常な力よ。持っているだけで、命に関わることもあるの」


ルーシーがひかりの隣に座り込んで、優しく話しかけ始めた。


「霊輝は力じゃない...異常なの。何かを...壊してしまうものなのよ」


ひかりはその言葉を聞いていたが、受け入れたくないように両手で耳を塞いで頭を振り始めた。


「やめて!!聞きたくない!」


ルーシーは俺と同じように心配そうな表情を浮かべている。アナスタシアも何か言いたそうにしていたが、ひかりが聞こうとしない状況では言葉が出せずにいた。


突然、ひかりの緊張がさらに高まった。隣にいたルーシーを勢いよく押し倒してしまい、ルーシーが背中から床に倒れ込む。


立ち上がって助けようとしたが、ひかりの叫び声が部屋に響いた。


「失いたくない...これを失ったら、わたしが誰だったかの証拠も失くしちゃう...それなら...死んだ方がマシ!!!」


声は明らかに緊張していて、混乱と苛立ちが入り混じっていた。なぜそこまで霊輝に固執するのか、理由がまだ分からない。


その時、襖がスッと開いた。


全員がそちらを向くと、水の音がひかりの頭上に響いた。頭に水をかけられる音だけが部屋を包み、その水をかけていたのは...


紫さんだった。


「……えっ?」


呆然としながら顔を上げた彼女の視線の先にいたのは、空になった水瓶を手にした紫さんだった。


紫さんは別人のようだった。表情は怒りというよりも苛立ちに近く、でもその目は赤く見えた...泣いていたのか?なぜだ?態度も明らかに違っていた。今まで見せていた絶対的な自信と決意が完全に消え失せている。


空になった瓶をひかりの頭に向けて落とすと、怒りを込めて叫んだ。


「ふざけんといて……!」


ひかりは紫さんの叫び声に反応して肩をびくっと震わせ、視線を逸らそうとしなかった。


「死にたいんか!? ふざけんといて、この自棄めっ! 死にたいなんて言うなや、このアホ!! お前の命、軽く見んといて!!」


紫さんは明らかにひかりに対して腹を立てていた。おそらく先程の叫び声のせいだろう。なぜこんな風に事態が悪化してこんな結果になったのか、俺には理解できなかった...


舌打ちを響かせると、紫さんは何も言わずに走り去ってしまった。


ひかりは紫さんが開けっ放しにして出て行ったドアを見つめているだけだった。何も理解できずにいるのは、彼女も俺も、ルーシーもアナスタシアも同じだった。この状況には説明が必要だが、ひかりの様子を見ると、彼女もあの開いたドアをただ見つめているだけだった。


部屋には、凍りついたような沈黙が訪れた。誰もが言葉を失っていた。


ひかりは、ぽつんと座ったまま、濡れた髪から水滴を垂らしながら、ぼんやりと地面を見つめていた。


拳はほどけ、肩も落ちていた。今はまるで、抜け殻のようだった。


ひかりの視線は今、虚ろで孤独に満ちていた。その状態を見ただけで、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。何かしなければならない。これは俺の責任だ。


ルーシーとアナスタシアを振り返る。


「少し、席を外してもらえるか?」


二人は戸惑いの表情を浮かべて見つめ合った。でも、ルーシーが頷く。


俺のもとに近づいてきて、小声で言った。


「彼女はあたしたちとは違う...気をつけて」


ルーシーが部屋を出ていく。続いて、アナスタシアが俺に近づいてきた。


「彼女の苛立ちを理解しようとした方がいいわ...」


アナスタシアの忠告を心に留めておこう。


扉が閉まると、ひかりに近づいた。濡れた髪を見て、周りを見渡す。引き戸の向こう側にタオルがあった。それを取って、ひかりの隣に座る。

湿った髪を乾かし始めた。


ひかりは困惑したような表情で俺を見つめてくる。何も言わずに、ただ観察している。なぜこんなことをしているのか理解できないようだった。


「やめて...」


手を止めて、タオルを脇に置く。


「悪い...でも、これを見てたら責任を感じてしまって」


ひかりはその言葉を信じていないようだった。


「ふん...マジで?」


皮肉っぽく笑ってしまった。こんな状況でも、ひかりは俺の言葉に懐疑的だった。


今、俺にできることは一つだけ。

話を聞くことだ。


真剣な表情でひかりを見つめる。疑問を抱えたまま進むわけにはいかない。


「ひかり...なぜ霊輝を失いたくないんだ?」


ひかりは俺の視線を避けるように下を向いた。何も答えようとしない。


わかってる。彼女に話させなければならない。今は彼女を理解することが最優先だ。


これまで出会った女の子たちは皆、霊輝を手放したがっていた。でもひかりは違う。必死に手放すまいとしている。だからこそ、理解する必要がある。


エミリーとの霊輝の訓練を思い出した。もしひかりが何かの証明を求めているなら、あるいは俺の能力を確認したいなら...


決断した。

手のひらをひかりの近くに向けて、意識を集中させる。エネルギーが手を通って流れていくのを感じる。そして次の瞬間、淡い青い光が手のひらを包み込んだ。


ひかりの表情が変わった。驚きというより...安堵のような顔だった。


「これが俺の霊輝だ、ひかり」


彼女はただ俺を見つめている。


あの表情は何を意味しているのだろう?その答えは今は出せない。でも一つだけ確かなことがある。俺の霊輝を見て、ひかりは明らかに安心したようだった。


より強い決意を込めて言った。


「本気だ。お前を探してたのは、助けたいからなんだ」


ひかりが振り返ってこちらを見た。その言葉を信じているのかどうか、表情からは読み取れない。せめて少しでも信頼してもらいたいと思いながら待っていると、ひかりはまだ迷っているようだった。その瞳が何かを探すように俺を見つめている。もしかして、憧憬のようなものを探しているのだろうか...


唇が震えている。何か言いたそうだが、言葉にできずにいる。考え込むように頭を掻いて、そして突然笑った。


「わはは!」


困惑を示すより、俺は静かに待つことにした。その小さな笑いには、まだ押し殺された感情が込められているように感じられたから。


「ひかり、もしよければ聞かせてほしい。お前のことを知りたい。なぜ霊輝を手放したくないのか、知りたいんだ」


初めてひかりの表情が和らいだ。もう敵意も疑いも見せていない。ゆっくりと俺に近づいてきて、耳元で囁くように言った。


「本当に聞きたいの?」


迷わず頷いた。

ひかりは少し離れて、また視線を逸らした。話す気があるのかどうかわからないが、もう迷いはないようだった。


「じゃあ、話すわ」


『××××年 / ひかり』


夕方だった。わたしの年齢なら、もうとっくに家に帰ってる時間だろう。でも、別にどうでもいい。両親がわたしが帰ろうが帰らなかろうが、気にしやしないから。


ブランコを漕いでいた。前に、後ろに。靴の裏が砂を擦る音がサリサリと響く。


ふと視線を感じて、足を地面につけて止まった。


少し離れたところに女の子が立っていた。何か言いたそうにこっちを見てる。人見知りかな?


まあ、話しかけてみるか。


立ち上がって、その子に近づいていく。充分な距離まで来たとき――


「待ってや!ウチ、紫茜!お前と勝負しに来たんやでー!」


びしっと指を突きつけられた。表情も挑戦的だ。

でも、なんだか可笑しくて。


「わはは!」


笑いが漏れた。


「おい、なんで笑うんや~!本気で言うてんねん!!」


茜の顔が真っ赤になった。怒ってる。

これが、わたしと茜の最初の出会いだった。お互い、真っ直ぐで、何事にも立ち止まらない。そんな二人の友情の始まり。


あの日から、いつも茜と一緒に遊ぶようになった。


二歳年下だったけれど、そんなことはどうでもよかった。わたしにとって、初めてできた本当の友達だった。


その頃、中学校に入学することになっていたけれど、正直そこで何をするのかもよくわからなかった。やることなんて特になかった。


茜は家から抜け出してきていた。両親の喧嘩を聞きたくないからだって。


その部分では、お互いを理解していた。家族の中で、わたしたちのことを気にかけてくれる人なんていなかった。


そんな共通点が、わたしたちを結びつけた。


茜といると、本当の繋がりを感じることができた。この子はわたしを理解してくれる。わかってくれる。そう思えた。


でも、何ヶ月も一緒に過ごしていたのに、茜は一度も兄がいることを口にしなかった。


秋のある夜。


「ひかり、ウチの兄ちゃんに会わせた~いねん!」


茜がそう言った時、どう反応していいかわからなかった。


今まで一度も話に出さなかったのに、急に?


それに、少し裏切られたような気持ちになった。


わたしは一人っ子だ。兄弟がいるということがどういうことなのか、よくわからない。茜は、わたしにとって兄弟に一番近い存在だった。

家族の話をした時、てっきり茜は家族全員を嫌っているのだと思っていた。


でも違った。

茜は兄のことを、とても大切に思っているようだった。


あの会話から数日が経った日。


いつものように公園に向かうと、茜がいた。でも...今日は違った。


隣に背の高い男の子がいる。眠そうな目をしているくせに、なぜか絶対的な自信を漂わせている。なんだこいつ。


「ひかり、紹介するで~!ウチのゆう兄ちゃんなんよ!」


茜がそう言った時、その男はあくびをした。眠すぎて自己紹介もできないのか。


近くで見ると、わたしより一歳くらい年上かもしれない。でも、その無関心な態度が気に入らない。まるでわたしを馬鹿にしているみたいじゃない。


「ゆう!なんでそんなに眠そうなの?もう牛乳飲んで寝る時間?」


挑発的に言ってやった。


「ええ?ひかり?...」


茜が驚いた声を上げたけど、知ったことじゃない。


でも、ゆうは何も言わない。ただわたしを見つめているだけ。


これも腹が立つ。


「どうしたの?話せないの?」


そう言った瞬間、ゆうが笑った。


挑戦的な笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。


「へえ...面白い態度だな。お前、名前なんて言うんだっけ?」


その余裕たっぷりの口調に、わたしの闘争心が燃え上がった。


「ひかりよ!絶対に忘れないでよね!」


ゆうは歯を見せて笑った。

まるで、ずっと探していた何かを見つけたような顔をして。

次回は、ひかりの過去がさらに明かされていく。なぜ霊輝にそこまで執着するのか、そして何を失い、何を抱えてきたのか。アレクスたちが知ることになる真実とは? ひかりの物語は、なお深く続いていく。

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