静かな監視者たち
再び動き出す探索の中で、アレクスたちは謎めいた落書きと不良たちに遭遇する。そこに現れたのは、威圧感と異様な存在感を放つ“青髪の女”。彼女は何者で、何を知っているのか――。静かに広がる影と、周囲に迫る不穏な気配。日常と非日常が交錯する中、物語はさらに深い闇へと踏み込んでいく。
『4月 25日 / 16:22』
放課後、再び鳴羽界隈へ向かった。
でも今回は違う。計画があった。
ルーシーとエミリーに話して、友達を呼んでもらったんだ。もちろん、本当の理由は言えない。「都市伝説を調べる」って嘘をついた。
ルーシーの友達は快く引き受けてくれた。俺の方は榊しか頼めなかったが、エミリーはナオコを連れてきた。
全員集まったのは、まい、カズミ、ヤヨイ、それに榊とナオコ。
「みんな、情報収集を手分けしてやろう」
俺の指示で、全員が散らばって噂を探し始めた。目的は、俺が探している少女の手がかりを見つけること。
特にナオコが一番熱心だった。
「うわー、本当に都市伝説の調査なんて!すごく面白そう!」
興奮してる声が聞こえてくる。
正直、みんな楽しそうに見えた。真剣に調べてるというより、遊んでるみたいに。
まあ、当然だろう。本当の理由を知らないんだから。
しばらく情報収集を続けた後、再び集合することにした。
「どうだった?何か分かったか?」
みんなが戻ってきたとき、まいだけが何となく落ち着かない様子だった。
何かに気づいてる感じがする。
「アレクスくん、本当にどうしてルーシーたんとこんなこと調べてるのか分かんないけど...」
まいが言いかけて、急に口を閉じた。キョロキョロと周りを見回している。明らかに緊張している様子だった。
「お化けとかそういうのじゃなくて...この通り全体に散らばってる人たち...私たちを見てるの...」
え?
まいがそんなことに気づいていたとは驚いた。俺は奴らのことを知ってたが、彼女たちを怖がらせたくなかったから黙っていた。まいの観察力は本当にすごい。
「えっ!?」
カズミとヤヨイが同時に反応した。二人とも全く気づいていなかったようだ。
「ねえ、みんな...もう帰った方がいいんじゃない?」
カズミの声に不安が滲んでいる。
ヤヨイは震える手でスマホを取り出した。
「緊急連絡先を用意しておいた方が良いと思います」
真面目な口調はいつも通りだが、明らかに動揺している。
榊の方を見ると、何か考え事をしているようで完全に別世界にいた。結局、まい以外は誰もあの連中に気づかなかったということか。確かにあいつらは明らかにチンピラっぽい格好をしていた。
「私はまだ調べ続けたい」
最後にナオコが俺の近くに寄ってきて、そう言った。
まいが急に不安そうな表情を浮かべた。
「あのさ、やっぱりもう帰ろっかな。みんなも家に帰った方がいいと思うよ」
カズミとヤヨイも同調するように頷いて、まいが歩き始めると後を追った。
「私たちも一緒に帰るね」
「そうですね。もう遅いですし」
榊はまいが離れていく姿をじっと見つめていたが、やがて俺の方を振り返った。
「手伝うぞ、アレクス」
ナオコも同じように言った。
「私も続けるよ〜!まだ諦めないもん!」
残ったメンバーでもう少し探し続けたが、結局何も見つからなかった。この方法で本当に正しいのか、だんだん疑問に思えてきた。
全員が再び集まった時、もうかなり遅い時間になっていた。さすがにもう帰る時間だろう。
その時、ルーシーが何かに気づいたようだった。俺の袖を引っ張って、ある方向を指差した。
見ると、あの連中が全員、一つの店の前に集まっていた。大声で笑いながら話をして、平気で道にゴミを投げ捨てている。誰かに注意されることなんて全く気にしていない様子だった。
「アレクスくん、今度はどうしよう?」
ルーシーの言葉を聞いて、何かしら計画を立てなければならないと思った。榊の方を見る。もしかしたら、彼が何かできるかもしれない。友達として最低な考えだとわかっていたが、他に思いつかなかった。
榊に少し近づく。
「榊、アイデアがあるんだが...お前にしか頼めない。手伝ってくれるか?」
興奮と驚きが混じったような表情を浮かべた。
「俺にできることなら任せろ!」
微笑みながら答えた。
「囮になってくれ」
榊の動きが止まった。汗をかき始めているようだった。
「あいつらの注意を引いて、走って遠くに連れて行くだけだ...」
友達にこんな酷いことを頼んでいる自分が嫌になった。榊の顔を見るのがもっと辛かった。それでも榊は自分の胸を叩いて言った。
「わかった、任せろ!あいつらを俺に追わせてやる」
本当にこの無茶な計画に榊が乗り気だということに驚いた。
榊は短く震えるような歩幅で彼らの方へ歩いて行く。近くまで来ると、大きく息を吸い込んで全力で叫んだ。
「おい!そこで突っ立ってるジジイども!暇人か!」
全員が怒りの表情で榊を見つめた。
男たちの一人が眉をひそめて、舌打ちしながら一歩前に出た。
「……はァ? てめぇ、今なんつった? このクソガキが……調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
榊は走り出し、その集団も怒った顔で彼を追いかけ始めた。
ルーシーとナオコに榊をもっと近くで見守っていてもらうよう頼んで、俺はエミリーと一緒に、奴らがいた場所で何か見つけられるかどうか確かめに行くことにした。
あの連中がいた場所を見回す。でも、そこにあるのは地面に散らばったゴミだけだった。店の壁には落書きで汚されていて、スプレーで変な言葉が書かれている。
「おい、先輩!これ見て!」
エミリーが突然声を上げた。
急いで彼女の元へ向かう。指差している方向を見ると、壁に目立つ絵が描かれていた。星とジョーカーのトランプのような図柄だ。
一見すると、ただの落書きにしか見えない。でも、何かが妙に気になる。よく見ると、下の方にかすかに見える文字があった。場所と時間が書かれている。
まるで...どこかの店への招待状みたいだ。
「先輩!」
いきなりエミリーが走ってきて、俺の後ろに隠れるように抱きついてきた。
「どうした?」
振り返ろうとした時、気配を感じた。
誰かが戻ってきていた。さっきの連中の一人が、敵意むき出しの表情で俺たちを睨んでいる。
「おい、ガキども!何してやがる、あぁ!?」
テレビやネットで見るような、典型的な不良の話し方だった。
突然、そいつが振り返って誰かに向かって叫んだ。
「おい、そのガキは放っといて、こっちに来い!!」
囲まれた。
全員がこちらに向かってくる。どうやって身を守ればいい?霊輝の武器を使うしかないのか?でも騒ぎを起こしたくないし、被害も出したくない。
だが...奴らに危害を加える気があるなら。
逃げ場はない。ゆっくりと手を胸に当てながら、そいつと近づいてくる連中を見据えた。距離が縮まるにつれて、プレッシャーが増していく。
本当に霊輝の武器を使うのか?
エミリーの手が俺の腕を強く握っているのを感じた。俺の後ろに隠れながら。
その時だった――
「てめぇら、誰の許可もなしに一般人に手ぇ出してんねん、コラ!」
鋭い女の声が響いた瞬間、その声の主が俺とエミリーの前に立ちはだかった。
背中越しに見えるのは、輝く青い長髪。ゆったりとしたズボンに、腹部が見えるほど短いシャツを着ている。
「すみません姉御!!!」
先ほどまでの連中が一斉に整列し、声を揃えて叫んだ。妙な呼び方だが、この女への敬意...いや、恐怖が伝わってくる光景だった。
エミリーの様子を確認しようと振り返ると、まだ俺の後ろに隠れたまま目を閉じている。
再び前を向くと、その女がゆっくりと振り返った。
丸い黒いサングラスをかけ、絶対的な自信に満ちた笑みを浮かべている。近づいてくる姿を見て気づいた。この女、かなり背が高い。俺をわずかに上回るかもしれない。
しゃがみ込んで俺と目線を合わせ、白い歯を見せながら笑う。
「おい、お前何か知りたがってんねんな~」
この女が探していた人物かもしれない。だが、確証はない。
「ずっと見てたんやで、お前らのこと!」
まだ笑顔を崩さずに言い放った。
息が止まった。心臓が跳ね上がり、体の中がぐちゃぐちゃになった気分だった。
この女が俺たちを監視していたと、今はっきりと認めたのだから。
女がサングラスを外し、俺から少し離れた場所に移動する。笑顔を保ったまま言った。
「興味あんの? 今夜ここに来てや~!」
指差したのは道の向こう側にある小さな店だった。一階は普通の店に見えるが、脇に二階へと続く階段が見える。
信用していいものかどうか分からない。普通なら信用しないだろう。でも、何かがこの女は間違いなく何かを知っていると告げていた。
女は先ほどの連中のところへ戻っていき、まるで叱っているかのような、いかにもヤンキーらしい口調で何かを言っている。
俺はエミリーに話しかけた。
「おい、エミリー。悪い奴らはもう行ったぞ。目を開けても大丈夫だ」
エミリーが少し頭を出したが、まだ震えているのが分かる。
「...エミリー...さっきの連中に怖がらせられたのは分かるが、あの女の霊輝を分析できるか?」
あの女を指差す。エミリーは一瞬目を閉じたが、すぐに答えた。
「何も変なものは感じないです...探してる人じゃないと思います」
完全に行き詰まった。あの女の言葉に従って今夜ここに来るべきか、それとも...どうすればいいんだ?
遠くからルーシーと他のメンバーが心配そうに近づいてくるのが見える。どうやら遠くから一部始終を見ていたようだ。
ルーシーが最初に口を開いた。
「アレクスくん、大丈夫?」
ルーシーを見る。全部話したいが、ここには榊とナオコもいる。全てを話すわけにはいかない。
ルーシーが俺の様子を見て、何か察したらしい。
「アレクスくん、疲れてるみたいだから...帰りましょうか?」
みんなが歩き始めた時、俺はルーシーに目で合図を送った。後で話したいことがあるって。
駅で別れる時、榊とナオコが先に行って、エミリーも帰っていった。ルーシーと二人きりになった。
「さっきの女のこと、変なことがあったんだ」
詳しく話すと、ルーシーの目が真剣になった。
「何を決めるにしても、あたしが手伝うから!」
いつものように、助けたがってる。そんなルーシーを見て、ため息をついた。
「...分かった。頼むよ」
今日のところは、とりあえず家に帰ろう。ルーシーと別れて、家に向かって歩いていた。
でも、家が見えてきた時、心臓が止まりそうになった。窓に影が立ってる。
夢喰いが戻ってきてる。でも...なんで窓のすぐ近くに?アンジュが結界を張ったんじゃなかったのか?
その疑問で頭がいっぱいになった瞬間、夢喰いがこっちを振り返った。
顔らしき部分に、ぞっとするような笑みが浮かんでいる。
「うっ...!」
思わず声が出た。
その瞬間、夢喰いは消えた。
一体何が起きてるんだ?
家の中に駆け込んで、リビングに向かった。
ライラがソファに座って膝を抱えて体を丸めていた。横になったまま、料理番組をぼんやり眺めている。退屈そうな表情だった。
そんなことよりも、ライラに何も起こってなくて安心した。でも、ふと思い出す。アンジュはどこだ?ライラを守るって言ってたじゃないか。
ライラに近づいて尋ねた。
「ライラ...アンジュはどこだ?」
俺が帰ってきたことにやっと気づいたらしく、ソファに座り直して元気のない声で答えた。
「上にいるの...お兄ちゃんには話してないの?」
どうやらライラは何か知っているようだった。
「何も聞いてない。お前、何か知ってるのか?」
ライラは迷うような表情で俺を見つめた。言うべきかどうか悩んでいるようだったが、そのまま何も言わずにテレビの方を向いてしまった。
あまり詮索しない方がいいと判断した。もしかすると、俺の知らない何かでアンジュと喧嘩でもしたのかもしれない。
上に話をしに行こうと歩き始めた時、ライラが突然止めた。
「待って、お兄ちゃん!」
振り返ると、心配そうな表情をしていた。
「アンジュが言ってたの。家の近くに夢喰いがいるって...それも、進化したやつだって」
危険な響きだった。またあの衝動が湧いてくる。何でも早く解決したいという気持ちが抑えられなくなった。
深く考えずに外に飛び出して叫んだ。
「どこに隠れてても出てこい!」
息を吸い込んで、もう一度叫ぶ。
「くそったれ!!」
声が枯れそうになるまで叫んでしまった。喉が痛い。これだけ大声を出せば、もしあの夢喰いが近くに隠れているなら、出てくるはずだ。少なくとも俺はそう思っていた。
でも、何も現れない。
ふと視線を上げると、二階の窓にライラとアンジェが顔を覗かせているのが見えた。二人とも驚いたような、それともちょっと呆れたような表情をしている。
ああ、そうか。
街中で一人で叫んでいる俺の姿は、相当恥ずかしくて惨めに見えるだろう。もう一度二人を見上げようとしたが、今度は彼女たちの視線が俺の横に向いているのに気づいた。
なんだ?
疑問に思って振り返ると、そこには予想もしていなかった人物が立っていた。
「あ……えっと……その……アレクスって、叫ぶのって趣味なの?」
アナスタシアだった。困惑した表情で、明らかに緊張しながらそう尋ねてくる。
顔が熱くなった。汗まで出てきた。こんな恥ずかしくて惨めな姿を見られるなんて、恥ずかしさで死にそうだ。
「あ...いや...その、えっと...」
何とか取り繕おうとしたが、言葉が出てこない。恥ずかしさのあまり、つい口から出てしまった。
「家に...入る?」
しまった。
思わず言ってしまった言葉に自分でも驚いたが、アナスタシアの表情が明らかに期待に満ちたものに変わるのを見て、さっきまで感じていた恥ずかしさなんてどうでもよくなった。
アナスタシアを居間まで案内して、二人とも座った。もっとも、俺は距離を置いて反対側のソファに座ったが。急に家に来られて、なんとなく緊張していた。
夕日の光が窓から差し込んでいる。その薄暗い光のせいか、アナスタシアがいつもより美しく見えた。光はほとんど入ってこないのに、なぜか。
「あのね、アレクス」
アナスタシアが俺の方を振り返った。
「もうこの近くに住まいを見つけたのよ。素敵な場所だわ」
ああ、そういえば俺の家の近くで住む場所を探していたんだった。思っていたより早く見つけたな。
「おお...どこだ?」
「二つ先の通りにあるわ」
自慢するような笑顔を浮かべている。
アナスタシアを見ていると、なんとも言えない感情が湧いてきた。彼女は最初、自分に起こっていることがすべて俺と関係していると気づいた。それだけじゃなく、情報を集めて、真実を知ろうとしていた。
本当に、アナスタシアは信じられないほど大人で責任感がある。
そんな彼女を少し羨ましく思って、視線を逸らした。
「アレクス、少しお疲れのようだけど…何かあったら話してくれる?」
その変化に気づかれてしまった。
もしかすると、もっと彼女を信頼してもいいかもしれない。彼女なら助けてくれるかもしれない。
そう思って、今やっていることを話すことにした。今週調べてきたことを一つずつまとめ、アナスタシアに簡潔に説明していった。
すべてを繋ぎ合わせた断片的な情報だったが、彼女は真剣な眼差しで耳を傾けてくれた。
説明を終えると、彼女は一瞬だけ目を伏せ、すぐに目をまっすぐ見て頷いた。
「……なるほど。それで、その場所に行くつもりなのね? じゃあ、同行するわ」
その強い言葉に、胸の奥が少し温かくなる。
中の迷いが、少しずつ解けていくのを感じた。
アナスタシアの協力を得られて安心したものの、今度は別の問題が浮上した。こんな遅い時間に外出することを、どうやって父さんに説明すればいいんだ?
そんな時、アナスタシアを見ていると、いいアイデアが浮かんだ。
視線を感じたアナスタシアが頬を染めて言う。
「何ですの、アレクス?そんなにあたくしを見つめて」
「アナスタシア、頼みがあるんだ。父さんの前で、俺を大学の説明会に連れて行くって嘘をついてくれないか?」
計画を説明する。鳴羽界隈には確か大学があったはずだ。アナスタシアには大学の関係者か何かのふりをしてもらって、説明会に参加者が複数いるとでも言えばいい。
アナスタシア自身は俺の提案に疑問を抱いていないようだったが、何かが引っかかるらしい。
「でも本当に、そんな理由で君のお父様が納得してくださるのかしら?」
「大丈夫だ、きっと通用する」
そう言ったものの、アナスタシアは眉をひそめたまま、まだ疑わしそうな表情を浮かべている。
「頑張ってみるわ」
軽く肩をすくめ、苦笑しながら答えた。
「大丈夫。うちの父さん、適当に自信持って言えばすぐ信じるから」
誇れることではないが、事実だ。
父さんは、理屈よりも雰囲気を重視するタイプなのだ。
会話が途切れて、沈黙が部屋を支配した。誰も次に何を言うべきか分からない状況だ。アナスタシアは少し緊張しているようだった。
その時、リビングのドアが勢いよく開かれた。
ライラが飛び込んできたが、アンジュの手を引っ張っている。しかし、アンジュは明らかに入室を拒んでいるようだった。
またライラの行動だ。悪意がないのは分かるが、アンジュは何かを受け入れることに抵抗しているらしい。少なくとも、俺にはそう見えた。
次回、新たな出会いと謎がアレクスの前に立ちはだかる。次なる少女を探す旅路は、ますます混迷を極めるが……その前に、あの“青髪の女”との関わりが避けられない。彼女は敵か、味方か――その答えの一端が、次の幕で姿を現す。




