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霊輝  作者: ガンミ
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二人だけの戦場

再びアレクスの視点へ――。アナスタシアとの再会は、互いの秘密を明かし合う大切な時間となる。語られる過去と真実、そして心に芽生える新たな想い。その一方で、アンジュの様子にはどこか影が差していて……。

『4月 20日 / 12:42』


病院の入り口を見ると、アナスタシアが走ってくるのが見えた。


「大丈夫?アレックス、怪我でもしたの?」


緊張しながら笑顔を作る。


「大丈夫だよ、アナスタシア。ただ...」


何が起こったのか説明できない。あまりにも複雑すぎる。でも、アナスタシアは何か決心したような表情を浮かべていた。


「...あのね、近くに素敵なレストランがあるの。一緒に来てくれる?」


誘いを受けることにした。

数分歩いた後、レストランで向かい合って座っていた。周りを見回すと、ここは少し...いや、かなり高級すぎる場所のようだった。でも、そんな場所の印象はどうでもよくなった。アナスタシアに集中しよう。


向かい合って座っているのに、なぜか視線を合わせることができない。お互い何も言わない。沈黙がただ流れていく。


「お待たせいたしました」


ウェイターが料理を運んできて、ようやく静寂が破られた。

アナスタシアはクリームパスタを注文していた。俺はもっとシンプルに、ビーフステーキ一枚だけ。

思わず彼女の料理を見つめてしまった。意外な好みだった。


「食べてみる?」


突然の質問に驚いて、慌てて手を振る。


「いや、俺は...」


アナスタシアは俺の反応を見て笑った。


「あら、そんなに驚かなくてもいいのよ」


アナスタシアが箸を揺らしながら、一口だけ食べる。視線は宙を彷徨っていたが、やがて落ち着いた声で口を開いた。


「知りたいことはたくさんあるけれど、一番大切なことだけ聞くわ」


その瞬間、彼女の瞳が俺の目を捉えた。そして霊輝について語り始める。人工的な霊輝を持っていた時の話を。

もちろん、俺は既に知っていることだった。でも何も言わなかった。彼女が勇気を振り絞って話してくれているのに「ああ、知ってる」なんて言うのは失礼すぎる。だから最後まで黙って聞いていた。

話し終えた後、アナスタシアは何かに気づいたようだった。俺が全く動揺していないことに。


「知っていたのね。何か知っているのでしょう?」


俺は静かに頷いた。

ライラのことがあった後、もう隠し事はやめようと決めていた。もう霊輝から解放された彼女たちに対して、曖昧にしたり隠したりするのはもうやめよう。


「全部話す」


俺は霊輝のこと、どうやって彼女と出会ったのか、そして最終的にどうやって解放したのか、すべてを説明した。


アナスタシアは話を聞き終えると、驚いたように瞬きを繰り返した。そして指を唇に当てて考え込んでいる。

その仕草を見て、思わず視線を逸らした。キスをして解放したと言ったことが急に恥ずかしくなってきた。


「ふふ、嘘をつかれると思っていたわ」


俺は慌てて彼女の方を振り返った。その結論に疑問を抱いて。

見つめながら、混乱していた。

でも、彼女はさらに身を寄せて、自信に満ちた笑顔を浮かべる。


「……でも、もし嘘をついてたら……無理やりでも、本当のことを吐かせるつもりだったわ」


アナスタシアが挑発的でありながら、同時に妖艶な視線を向けてきた。


緊張してしまう。額に汗が浮かび始め、顔が熱くなってくる。でも、こんな風になりたくない。


「う...嘘をつくつもりなんて...本当になかったんだ」


アナスタシアは微笑み続けている。その美しさに圧倒されそうになる。彼女の顔を見ているだけで、その美貌は信じられないほどだった。


「この一週間、あたくしのことについてずいぶん調べてみたわ」


アナスタシアが今度はもっと真剣な話をしようとしているのに気づく。


「でも、あたくしが以前持っていたような力を持った存在については、何も見つからなかった」


どうやってアナスタシアが調べたのか驚いた。図書館にでも行ったのか、それとも古い資料が保管されている場所にでも。そんな疑問を脇に置いて、アナスタシアは自分と同じような存在がいるのかどうか知りたがっているようだった。


彼女はルーシーのことも、ライラのことも何も知らない。助けなければならない他の女の子たちのことも話していない。


緊張してしまう。今、このことをアナスタシアに説明しなければならない。

緊張しているのは明らかで、当然彼女も気づいていた。


「アレクス...何かもっと知っているのね?」


ルーシーとライラの話をした。二人とも霊輝を宿していたこと、そして俺が現在も探している他の七人の少女たちについて。人工的な霊輝から解放されなければならない少女たちが存在することを、アナスタシアに理解してもらうために全てを話した。


なぜこの使命を背負うことになったのか、その理由も明かした。アンジュのことを話すのは少し気が引けたが、状況を理解してもらうには必要だった。


話を聞き終えたアナスタシアは、顎に手を当てて考え込んでいた。


「そう...あたくしと同じような存在が他にもいるのね...あたくしが唯一の存在だと思っていたのに...」


アナスタシアの表情には失望のようなものが浮かんでいた。なぜそんな顔をするのか、理由はわからなかった。ただ、その表情を見つめることしかできなかった。


「そういえば、調査をしていた時に聞いた話があるわ」


突然話題を変えたアナスタシアの言葉に、俺は注意深く耳を傾けた。何か重要なことを教えてくれそうな予感がした。


「鳴羽界隈で聞いた都市伝説なの。大学の近くで『不死身の賭け少女』と呼ばれる少女がいるという噂があるのよ」


「不死身の賭け少女?それはどういう意味だ?」


首を横に振るアナスタシア。


「詳しいことはわからないわ。でも、もしも本当に他にもあたくしのような存在がいるなら、その目立つ少女も助けを必要としている一人かもしれないわね」


可能性について考えてみたが、結論は出なかった。もっと詳しく調べる必要がある。


アナスタシアはまだ何かを考えているようだった。


「ところで、先程言及していた霊的存在のアンジュについて...どのような方なのか教えてもらえるかしら?」


なぜそんなことを聞くのか、なんとなく察しがついた。


アンジュについて説明し終えた後、アナスタシアの表情に変化が現れた。


「その人工の霊輝を得た時、確かに...説明に当てはまる人に会った記憶があるわ」


ああ、そうか。理論的には、アナスタシアが人工霊輝と完全に融合した時にアンジュと出会っているはずだ。でも一瞬のことだったから、曖昧な記憶になっているのも当然だろう。


それ以上考えるのを諦めたように、今度は俺をじっと見つめ始めた。

その視線の強さに、また緊張してしまう。


「何か...アナスタシア?」


彼女は手をテーブルに置いて、小さく首を振った。


「何でもありませんのよ。ただ、考えてみれば全て辻褄が合うのです...記憶にはなくても、話してくれたことと知っていることが全て一致するわ。そんなに優しい方のことを忘れてしまって、あたくしはとても悲しい」


褒められて、苦笑いが出てしまう。

すると、彼女が手を伸ばして俺の手に触れた。

細い指と少し長めの爪が、なぜか俺の手にしっくりと合う感覚がした。


「記憶よりも感情の方が深いところにあるから...だから初めて会った時、胸が痛んだのでしょうね」


彼女の微笑みには、いくつもの感情が混ざり合っているのが分かった。


「もしかして、これが...愛?」


そう言われた瞬間、顔が熱くなった。間違いなく赤くなってる。


「ふふ、手が震えてるわよ、アレクス」


くすくすと笑うアナスタシア。やっぱり顔が赤いのがバレてた。感じるもんな、この熱さ。

食事を終えて、レストランから出た。


「もう少し、一緒にいてもらえるかしら?」


彼女からの頼み。断る理由なんてない。


「ああ、構わない」


特に目的もなく歩いていると、公園を見つけた。ベンチに座って、しばらく無言。


「あたくし、もっと君と時間を過ごしたいの」


そんな静かな時間を破ったのは、やっぱり彼女だった。

体が固まる。


「な...何の話だ?」


小さくため息をついて、悲しそうな表情を浮かべる彼女。


「君、他の女性のことを話してくれたわね。二人にキスをしたって」


電車が脱線するような感覚。この話題はコントロールできない。


「あたくし、羨ましいの...今の君との距離が」


心臓がバクバクする。背筋がピンと伸びて、緊張で体が硬直してしまった。


「君のクラスの女の子も、君の義理の妹になる子も...みんなあたくしにはない親しさを君と共有してるのね」


視線を落とすアナスタシア。まだあの悲しい表情のまま。

彼女がこんなに悲しそうで真剣な顔をしているのを見て、唾を飲み込んだ。最大限に神経を抑えて...

今度は彼女の方が頬を赤らめた。


「あたくしも、君の近くにいたいの」


彼女の言葉に、思わず肩を強ばらせた。

胸の奥が、じわりと熱くなる。


……そりゃ、そんなふうに言われたら、平然とはしていられない。

でも、責めるつもりはなかった。

むしろ、今ならわかる。


アナスタシアは、俺に――少なくとも、何かしら特別な感情を抱いてくれている。

そんなふうに、俺には思えた。


「あたくし、君の家の近くに住居を探しているのよ」


「はあ!?」


突然そんなことを言われて、思わず声が出てしまった。何て返事をすればいいのか全く分からない。

アナスタシアが俺の顔に近づいてくる。


「家の住所を教えてもらえるかしら?」


頭の中が混乱している。これは間違いなく問題になる。そう分かっているから、住所を教えるのを躊躇してしまう。


「今そんなこと言われて、教えられるわけないだろう」


俺の返事を聞いて、アナスタシアがいたずらっぽく微笑んだ。そして、さらに近づいてくる。

突然、腕に何か柔らかいものが当たった。

見たくない。でも、これが何なのかは完全に分かっている。

これが女性の武器か。男に対する卑怯な手段だ。

でも、抵抗できない。


「お願いよ、教えて」


アナスタシアの息遣いと優しい声が耳元に聞こえる。

完全に負けた。これは戦争で、俺の完全敗北だ。

諦めて、彼女が離れてくれることを願いながら住所を教えた。

満足そうに微笑むアナスタシア。

しばらくしてから、立ち上がった。


「今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかったわ。いつか君にお返しをするから」


間違いなく、アナスタシアの美しい外見だけじゃなく、その笑顔が彼女をより美しく輝かせていた。俺を魅了するものがあった。

手を振りながら去っていく彼女。

俺はまだベンチに座ったまま、ぼんやりと考えていた。


結局、アナスタシアに真実を話したのは悪くなかった。

今までルーシーにも、ライラにも、本当のことを言うのが怖かった。でも、アナスタシアとあんな風に話せたことで、全てが変わった。

もう決めた。


これからは変わる。俺が何者なのか、彼女たちに対して何を感じているのか、その気持ちをどう受け入れるべきなのか。全部受け入れてやる。


ルーシーには話すつもりだ。彼女が覚えていない、俺との記憶について。ライラにも同じだ。もう隠さない。

障害があるなら最後まで立ち向かう。でも、もう逃げない。


ベンチから立ち上がり、空を見上げた。夕焼けに染まる雲が、空全体を覆っている。


明日は、今までとは違う「明日」になる。こんなに自分自身に対して決意を感じたことはなかった。

弱い自分はもう終わりだ。

現実と向き合う。誰も苦しませない。そして、母さんが持っていたあの志を貫き通す。

人を助けるという、あの志を。


『4月 21日 / 7:11』


学校に行く準備をしながら、アンジュと少し話をしたくなった。


「アンジュ、ちょっと時間ある?」


ベッドの端に座りながら声をかけた。

影の中からアンジュが現れたが、いつもと様子が違う。元気がないというか、悲しそうに見えた。


「何を?」


ゆっくりと俺の方に歩いてくる。近くで見ると、金色の瞳がいつもより暗く沈んでいる。それでも、重要なことを話さなければならない。


「アンジュ、みんなに起こったことを話すつもりだ」


アンジュは特に反応を示さない。本当におかしい。


「あ、そう...別に問題ないわよ。人工霊輝がある間は言わないでちょうだい」


これで何も俺を止めるものはない。ルーシーとライラに全てを話すことができる。


「私、昨日もうライラには全部話したから、心配しなくていいわよ」


それには驚いた。まさか彼女が先にライラに真実を話すとは思わなかった。でも、よく考えてみれば当然かもしれない。アンジュとライラは友達なんだから。


「ありがとう、アンジュ」


お礼を言うと、アンジュは喜ぶどころか、もっと悲しそうな表情になった。


「お礼なんて言わないでよ...そもそも全部私の責任なんだから...」


そんな自己嫌悪は見ていられない。


「そんなふうに自分を責めるなよ。間違いを犯したとしても、それを直そうとしてる。それが大切なことだろ」


でも、アンジュは片手でもう一方の腕を押さえるような仕草をした。まるで痛みを堪えているように見える。

何か言いたそうに口を開き、そして……その声は、わずかに震えていた。


「その他にも、霊輝から解放する時は真実を話した方がいいと思う。結局、彼女たちはもう...私を見ることができないから...」


アンジュの声が震えているのに気づいた。いつもの彼女らしくない。何かがおかしい。


「許してもらう資格なんて私にはない」


冷たい声でそう言った時、確信した。間違いなく何かがアンジュを苦しめている。


なぜ今なのか?もしかして、もう限界なのかもしれない。ずっと抑えてきた何かが、ついに表に出始めているのか。


女の子たちが彼女を見えなくなることが理由なら、俺やライラやエミリーが仲介すればいい。それなのに、なぜこんなに悲しそうなんだ?

何か言いたい。でも、適切な言葉が見つからない。

それでも、このままにしておくわけにはいかない。


「アンジュ...何がそんなに辛いのか分からない。ライラのことか?それとも他に何かあるのか?」


アンジュは俺の方を見ようとしない。誰の顔も見たくないような様子だった。


「私が何を感じるかなんて、オマエには関係ないでしょ」


距離を置こうとする彼女の態度が、逆に心配になった。


「ふざけるな。問題があるなら、一番信頼できる人に話すのが普通だろ」


アンジュが振り返った。その表情は完全に驚いていた。


「それに、感じることから逃げてばかりいるじゃないか。お前たちの種族には感情がないのか?人間と同じように感じることはできないのか?」


アンジュが震えているのが分かった。でも、部屋の明かりが薄すぎて、彼女の表情をはっきりと見ることができなかった。

アンジュは視線を下に向けて、それからまた俺を見上げた。薄暗い部屋の中で、その金色の瞳が一番目立つ輝きを放っていた。でも、その後に言った言葉は完全に予想外だった。


「...それじゃあ、私のことを...友達だと思ってるの?」


思わず立ち上がって、アンジュに近づこうとした。でも、彼女はどんどん影と融合していくようで、いつでも消えてしまいそうだった。


「そうだ、友達だから。他に何だと思えばいいんだ?」


アンジュは影の中に消えながら言った。


「私みたいな存在が、人間を友達だと思うのって...変かしら?」


すぐに首を振った。


「変じゃない。友情っていうのは、そんなことで決まるもんじゃないだろ」


それでも、アンジュはただ微笑んで、仮面を顔に当てた。


「そう...アレクスは...私の友達なのね...」


そして影の中に完全に消えてしまった。

結局、何がアンジュをそんなに悩ませていたのか分からなかった。でも、最後のあの微笑みを見て、何となく感じた。もしかしたら、アンジュは自分自身を理解し始めているのかもしれない。


今はそっとしておこう。後で話してみれば、また元のアンジュに戻るかもしれない。

そう思いながら、家を出て学校へ向かった。

次回、アレクスはついにルーシーへ、彼女が失った記憶の真実を打ち明けることになる。彼女はどう受け止めるのか? そして、それが仲間たちにどんな変化をもたらすのか? 新たな日常に訪れる揺らぎに、ぜひご期待ください。

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