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霊輝  作者: ガンミ
26/130

涙の契約とまた明日

ライラとの激闘、そして交わされた数々の言葉――笑顔も涙も、すべてが胸に深く刻まれる。アレクスの心に芽生えた決意と、新たな「家族」としての未来。ライラ編は、ここで一つの節目を迎える。

『4月19日 / 12:33』


ライラを見つめて、何かを言おうとした時だった。

ゴロゴロと空に雷鳴が響き、雨が降り始めた。ライラも空を見上げて、もうあの青い雲を無視するつもりはないようだった。


「あの雲、気になってるでしょ?」


無言で頷く。雨が俺たち二人を濡らしていく。

その時だった。

青い雲が突然、地面に落ちてきた。エミリーのすぐ近くに。群衆が雨から逃げ回る中、遠くからエミリーの悲鳴が聞こえた。


「きゃあ!」


ライラと一緒にエミリーの方を見る。あの雲がもう夢喰いに変わっていた。


でも、今まで見たことのない姿だった。虎のような外見だが、体は闇に包まれていて、目は赤く光っている。咆哮を上げると、同時に雷鳴が響いた。


エミリーは夢喰いのすぐ近くにいて、恐怖で倒れ込んでしまった。母親とウィリアムも夢喰いを見て、衝撃で立ち尽くしている。


「待て、ライラ!」


でも、ライラは迷わず鎌を召喚して夢喰いに向かって駆け出した。

止めようとしたが間に合わない。仕方なく後から追いかけることにした。


ライラを追いかけて走っていると、夢喰いがエミリーを狙っているのが見えた。


世界がスローモーションになったような気がした。胸が締め付けられる。エミリーとライラに何かが起こりそうで—

本能的に胸に手を当てた。霊輝の銃を引き抜く。


迷わず撃った。

夢喰いの足に命中。ライラがエミリーの手を取って、二人を遠くへ連れて行く。

撃ち続けた。でも、いくら撃っても倒れない。今まで戦ったやつらとは明らかに違う。


撃つのをやめるわけにはいかない。

背後からウィリアムが近づいてくる。驚いた表情を浮かべて。


「その銃は何だ?」


ウィリアムの声。振り返りたくなかった。


「あとで説明する。今はその夢喰いを倒すのが先だ」


「夢喰い?さっきは比喩だって言ったじゃないか?」


ウィリアムが右手を伸ばした。青いエネルギーが掌に現れ始める。エネルギー弾を放った。

驚いた。これが実戦での天然霊輝か。

それでも夢喰いは倒れない。咆哮を上げて、黒い雷が—空からじゃない、地面から出てくる。

ライラが走ってくる。今度は夢喰いに向かって。


「待てライラ!行くな!」


追いかけた。

ライラが大きく跳躍して、身体を回転させながら両手で鎌を構える。

斬撃が決まった。


切りつけたのに、夢喰いは倒れなかった。ライラの攻撃は奴を後退させただけで、代わりに膝をついたのはライラの方だった。


急いで駆け寄ると、ライラの両手に黒い血管のような模様がより濃く浮かび上がっているのが見えた。まるで蛇のようにうねりながら、体の内側から広がっている。


「やめろ、ライラ!」


首を振って拒否する。息遣いが荒くなっていく。


「だめ...なの...お兄ちゃん...わたし...倒さなきゃ...あの子...友達を...傷つけようとしたの...もう...友達を失いたくないの...失いたく...」


鎌の柄を杖代わりに立ち上がろうとするライラの肩を掴んだ。


「そんな風に自分を犠牲にするな、ライラ!」


俺の急な剣幕に驚いた表情を見せる。もう限界だった。こんな状況を見ていられない。


「俺はお前を失いたくない、ライラ!誰も...失いたくないんだ...」


嗚咽が漏れながら、ライラの肩に顔を埋めた。何も言わないライラに、今何が起こっているのか見えなかった。涙が流れているが、雨でよく見えない。


夢喰いの咆哮が再び響く。慌てて振り返ると、青い光の爆発が夢喰いに直撃していた。

エミリーが手を伸ばし、震えながら立っていた。隣には母親が。


「ママ!私、一人でもできるの!」


叫びながら、また青い光の波動を夢喰いに向けて放つ。

ライラが足を滑らせて倒れそうになる。とっさに支えて、腕の中に抱きかかえた。


ライラを抱きしめたまま、小さな声が聞こえた。


「お兄ちゃん、わたしに素晴らしい日々をくれたのね...こんな気持ち、感じられると思わなかった...」


雨が激しく降っているせいで分からなかったが、ライラが泣いていることに気づいた。俺の頬にも涙が流れ始める。


「わたしに家族って何か教えてくれた...お腹が空いてなくても一緒にご飯食べて...初めてのお友達とも会わせてくれて...」


震える手を俺の頬に当てながら、ライラが続けた。


「ありがとう...アレクス」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが砕け散るような感覚に襲われた。


「そんなこと言うな、ライラ。まだまだ生きる理由があるだろう。まだ何も見てないじゃないか。だから...だから...」


喉に詰まったような感覚で、自分の無力さを痛感していた。

再び夢喰いの咆哮が響く。


少し視線を逸らすと、ウィリアムがエミリーに近づいているのが見えた。エミリーは相変わらず霊輝を放ち続けている。そして今度は、エミリーの母親も加わった。手を伸ばし、ウィリアムやエミリーよりもさらに強力な霊輝の嵐を放つ。


大きな爆発音と共に、鋭い咆哮が聞こえた。

再びライラに視線を戻すと、俺の頬に当てた手はまだ震えていたが、精一杯の笑顔を浮かべていた。


「エミリーちゃん、あの日私の話を聞いてくれたの...彼女って本当にすごいなって思った...私よりもずっと霊輝を使えるのに...でも怖がってる...私と彼女、お友達になれるかなって思ったの...でも今は...」


震える手を握りしめたが、何も言えなかった。ライラは少し身体を動かして、俺により近づこうとした。


「この瞬間を忘れちゃっても...忘れないことがあるの...」


ライラがさらに近づいてきて、小さな声で囁いた。


「好きになったの...」


はっきりと聞こえた。その瞬間、唇が重なった。

しかし、影の中からアンジュが現れた。手には刀を握っている。


「ライラ。これで自由になれる」


刀の切っ先がライラの背中に向けられる。


「アンジュ!ライラは助かるんだろう?な?」


必死に叫んだ。

アンジュは真剣な表情で頷いた。

青い光がライラの胸から強く輝き、アンジュの刀身へと移っていく。同時に、エミリーとその家族が攻撃を合わせ、巨大なエネルギーの波が夢喰いを直撃した。夢喰いはその光の中に消えていく。

でも、もうそんなことはどうでもよかった。

ライラを腕の中でしっかりと抱きしめながら、アンジュが霊輝を抜き取る様子を見つめていた。


「ライラ!」


エミリーとその家族が駆け寄ってくる。

ウィリアムも、母親も、アンジュを見つめていた。

アンゲは何も言わず、ただ横目で彼らを見ただけだった。


「君は...まさか?」


ウィリアムが驚いたような声を上げた。何かを知っているようだったが、アンジュは影の中に消えてしまった。


「病院に連れて行きましょう」


エミリーの母親がライラの首に指を当てて言った。

ライラを抱えて、全員でウィリアムの車に向かって走った。

車の中で聞こえるのは雨音だけだった。

ライラをしっかりと抱きしめている。もう大丈夫だと分かっているのに、胸の奥で何かが壊れたような感覚があった。

無力感が俺を包み込んでいた。


『4月20日 / 9:37』


昨日のことを思い出していた。

ライラを病院に運んだ時、医者たちは「危険な状態です」と言っていた。でも今日はもう完全に回復している。なぜかは分かっていた。


昨日起きたもう一つの出来事。ウィリアムが俺に父さんへの電話を強要したことだ。問題になるのは分かっていたが、ウィリアムは夢喰いや霊輝のことを隠すために嘘をついてくれると約束した。


実際にウィリアムは俺のために嘘をついてくれた。それでも父親は俺から直接事実を聞きたがった。

何を言えばいいのか分からなかった。

父さんが怒るか、もっと悪いことになるかと思った。でも驚いたことに、また一度も優しく理解を示してくれた。


またもや、だった。

父さんに対して抱いていたイメージが、どんどん自分の思い込みだったことが分かってきた。距離を置いている冷たい人間だと思っていたが、実際は思っているより優しい人だった。


胸が締め付けられるような感覚があった。

それが昨日の出来事で、今日は病院の待合室で父さんが医者たちと何かを話している。


自分の手を見た。まだ震えていた。

色々なことが頭の中を駆け巡っていた。未熟で、無力で、とても弱い自分。もっと強ければ、ライラをもっと上手く守れたかもしれない。

でも、昔聞いた言葉を思い出した。


『たらればは存在しない』


取った行動だけが今日の結果なんだ。

父さんが近づいてきて言った。


「ライラに会いに行こう」


父さんと一緒にライラの部屋に入った。

先に父さんが近づいて声をかける。


「ライラちゃん、大丈夫かい?」


ライラは軽く頷いて、父さんを見つめた。


「はい、大丈夫なの」


胸が締め付けられるような気持ちになった。距離を取ろうと決めた。近づきすぎるのは危険だ。何が起こるかわかっているから。

でも、ライラが俺の方を振り返った。戸惑いながら言う。


「この人、誰なの?」


視線を逸らした。

父さんが驚いて、少し慌てた様子で言った。


「ライラちゃん、アレクスを覚えてないのかい?君を助けて、家まで連れて帰ってくれたんだよ...覚えてないの?」


ライラは父さんを見つめて、驚いた表情を浮かべた。でも、小さな声で答える。


「ごめんなさい...覚えてないの」


「お医者さんを呼んでくる!」


父さんは慌てて部屋から出て行った。


二人きりになった。

ライラがじっと俺を見つめている。でも、その視線をまともに受け止めることができない。

また、あの無力感が肩に重くのしかかってくる。喉に何かが詰まったような感覚。拳を強く握りしめた。

このときが来ることは分かっていた。

でも、実際にライラが俺のことを忘れているという現実は、予想以上に重い打撃だった。

それだけじゃない。

ルーシーのことも、アナスタシアのことも思い出してしまう。

考えれば考えるほど、心が壊れそうになる。

視界が滲み、堪えきれずに涙が頬を伝った。


その様子を見たライラが、目を大きく開き、ベッドから立ち上がる。

俺に駆け寄り、戸惑いながらも手を伸ばし、優しく言った。


「だ、大丈夫……か? お兄ちゃん……」


その言葉を聞いた瞬間、膝から崩れ落ち、床に座り込んだ。

どうしようもなかった。


自分が抱えきれないほどの重さを、今、ようやく感じていた。

涙が止まらなかった。


ルーシーもアナスタシアも、心を解放して前に進むことができた。でも、ライラとの思い出は違った。あの家での時間、彼女がいるだけで部屋全体が明るくなっていた。一緒に過ごした瞬間の数々が、もう二度と戻ってこない。


突然、ライラが俺を抱きしめた。

予想していなかった温かさに驚いて、動けなくなった。彼女の心臓の音だけが聞こえてくる。規則正しい鼓動が、俺の耳に響いていた。


「忘れても...覚えてなくても...わたしの気持ちは変わらないの」


ライラの小さな声が、静かな病室に響いた。

その言葉を聞いた瞬間、涙が溢れ出した。止まらなかった。

母さんが死んでから九年。あの時以来、こんなに泣いたのは二度目だった。まさか、また同じような涙を流すことになるなんて思ってもいなかった。


ふと、母さんの言葉を思い出した。

『泣いちゃダメよ、アレクス。泣き止まないと、宇宙人に連れて行かれちゃうからね』


悲しい時にいつもそう言ってくれた母さん。おかしな言葉だったけど、不思議と心が軽くなった。


それでも涙は止まらなかった。

ライラが俺を抱きしめ続けてくれている。何も言わずに、ただそうしていてくれた。

病室には静寂だけが流れていた。


『11:53』


その後、医者たちがライラを診察した。記憶を失った本当の理由は俺に関係していることを知っていたが、医者たちは外傷による脳への損傷が原因だろうという結論に達した。そんな説明を聞きながら、俺と父さんに向けられる言葉に黙って頷くしかなかった。本当のことを知っているのは俺だけなのだから。


父さんはライラをもう少し病院に置いておくことにした。


医者たちと話している父さんの姿を見ていると、一人だけ医者らしくない人がいることに気づいた。そこで昨日のことを思い出した。ウィリアムが父さんと話していた時、父さんは妙に神経質になっていて、落ち着きがなかった。ウィリアムの顔をまともに見ようとしていないような、そんな感じだった。ウィリアム自身は気づいていないようだったが。


なぜ父さんはあんな風に振る舞ったのだろう。

そんなことを考えていると、父さんがその人物と一緒に近づいてきた。シャツにピンクのストライプのネクタイをした男性だった。

父さんが俺の隣に座る。


「アレクス、ライラを家に連れてきた時は、息子が反抗期にでもなったのかと思ったよ」


「おい!」


父さんは笑って続けた。


「でも本当に不思議だな。ライラがいるだけで、俺の日常が変わった。多分、お前の日常もそうだろう?」


父さんの視線が、俺の中に忘れていた何かを呼び起こした。いや、忘れていたというより、感じることをやめていた感覚だった。


「アレクス、お前があの時ライラを助けたいと言った気持ち、本当に驚いたよ」


父さんが何かを思い出すように宙を見つめた。その目に、何か特別な光が宿っている。


「お母さんを思い出したよ。あの人もいつも皆を助けたがっていた。だから、お前の口からそれを聞いた時は驚いたな」


言葉が出なかった。俺が...母さんに似てる?


「だから俺も思ったんだ。お母さんがしていたように、俺も何かしなければならないって...」


父さんは少し沈黙した後、続けた。


「ライラからお前に孤児院での生活を聞かされた時、俺も何かしなければならないと思ったんだ」


父さんが俺を見つめる。今まで見た中で一番優しい笑顔を浮かべて。


「アレクス、ライラに家族になってもらいたいか?」


目が見開かれるのを感じた。迷う理由なんてない。反対する理由もない。


「はい!!ライラには俺たちと一緒にいてもらいたいです!」


父さんが笑って、先ほどの男性を指差した。


「こちらはレイモンドさんだ。ライラを正式に家族として迎えるための手続きを担当してくれる」


「初めまして、アレクスさん」


レイモンドさんが手を差し出してきた。

礼儀正しく握手を返したが、それ以上何も言えなかった。父さんを振り返る。


「いつからこれを計画してたんですか?」


「はは...一昨日に彼に連絡を取ってからかな。サプライズにしたかったんだ」


父さんが少し笑いながら答えた。


「君も、今度から立派な兄貴だな」


父さんが立ち上がり、レイモンドさんに別れを告げる。それから俺の方を振り返った。


「先に帰る。車を持ってくるから、明日ライラを迎えに来る。その間は...」


父さんを見つめ返す。お互い何も言わない。でも、しばらくしてから親父が口を開いた。


「まあ、ライラに行って、別れを言いなさい。ただし、『さようなら』じゃなくて、『また明日』って言うんだ」


頷く。

父さんが去っていくのを見届けてから、また泣きそうになった。でも今度は、もしかしたら嬉しさのせいかもしれない。ライラに昔した約束を思い出したんだ。彼女は忘れているかもしれないが、なんらかの形でライラが俺たちの家の近くにいてくれる。


涙を堪えて、ライラの病室に向かった。彼女に近づいて言った。


「また明日な、ライラ」


彼女は笑顔で答えてくれた。


「また明日なの、お兄ちゃん」


ゆっくりと部屋から出る。心の中で何かが蘇ったような気がした。今度こそ、もう自分に嘘をつかない。不信や臆病さに裏切られるのはごめんだ。今度は全力で戦う。自分のため、彼女たちのため、友達のために。


駐車場に出ようとした時、スマホが振動した。見ると、アナスタシアからのメッセージだった。


『遅いよ〜!すっごく遅い!今日デートの約束してたの覚えてる?』


「あ!」


慌てて返信する。誤字なんてどうでもいい。


『ごめん忘れてた今病院にいる』


送信してすぐに返事が来た。


『病院!?どこ?今すぐ行く!』


このメッセージの勢いに圧倒された。しかもまだ続いている。


『場所は!? 住所は!? 早く教えて!!』


ため息をつきながら、病院の名前と住所を送った。


仕方なく、父さんに「友達と約束がある」と伝えたら、多少不審がられつつも許してくれた。

車の窓が閉まる音を聞きながら、エントランスの壁にもたれかかった。


……思考は、もう追いつかない。

でも――


また、何かが始まる予感だけは、確かにあった。

ポケットの中のスマホを握りしめ、空を見上げた。


「やれやれ……また面倒なことになりそうだな」


小さく呟きながら、アナスタシアを待った。

次回はライラの視点から、これまで語られなかった真実が明らかに。アレクスとの出会いから今日まで、彼女が何を見て、何を感じてきたのか――その物語が、ライラ編の結末を彩る。

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