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霊輝  作者: ガンミ
22/130

忘れられる約束

小さな違和感が波紋のように広がる回。二人の行動が少しずつ変わり始めます。

『4月16日 / 7:37』


いつもの通学路を歩いていた。朝は心地よくて、あの交差点の近くの電柱の所に着くと、いつものようにエミリーが待っていた。

でも、何かが違った。


考え事に耽っているようで、顔には孤独感が漂っている。近づいて声をかけた。


「おはよう、エミリー。何かあったのか?」


エミリーは反応して、驚いたようにも見えたが、すぐに挨拶を返した。


「...おはようございます、先輩」


エミリーの隣を歩き始めた。無言で。

一歩進むたびに、足が重くなっていく。エミリーは何かを考え込んでいるようだった。何か言おうとした瞬間、エミリーが立ち止まった。


「先輩、ライラのことこれからどうするつもりですか?」


俺も足を止める。


「とりあえず家に置いて、変なことはしない。今まで話したことと同じで、助けるという事実は変わらない」


きっぱりと答えたつもりだった。でも、エミリーはまだ何かを心配しているような顔をしている。


「昨日、先輩たちが話している間、私ライラの霊輝を分析していたんです。それで気づいたことがあって...」


困惑した俺は、遠くの車の音と、通り過ぎる学生たちの声しか聞こえなかった。エミリーの沈黙が続く。


「彼女の霊輝、私の家族のものと似ているんです...」


その言葉に驚いた。でも、何を意味しているのかわからない。


「どう説明したらいいか分からないんですが、彼女の霊輝は私の家族と同じなんです。もしかしたらライラは...私たちの血筋の、失われた末裔かもしれません」


失われた末裔?エミリーの家族の?


「血筋」という言葉が頭の中で響いた。でも、エミリーの心配はそれで終わりじゃないようだった。


「昨日、ママに叱られました。帰りが遅すぎて。もう二回目だったから...説明しようとしたんですが...聞いてくれませんでした」


エミリーの声が痛々しく聞こえる。


「先輩...助けている彼女たちのこと、どう思っているんですか?ルーシー先輩、アナスタシアさん、それにライラ...本当は彼女たちをどう思っているんですか?」


その言葉に、胸の奥がチクリと痛んだ、言葉が出なかった。

何も答えられずにいた。


「……先輩……もしライラを助けたら、彼女が三人目になるの。でも……助けたら、彼女はあなたのことを忘れてしまう。すべて、なかったことにされる。記憶も、感情も……」


してきたこと。それは――良かれと思ってのことだった。ただ助けたい。その一心で動いてきた。

でも、それは結局、自分の満足のためだったのかもしれない。

それでも、一つだけはっきりしていることがあった。


(……もう後戻りできない)


エミリーがまた歩き始めた。


「ごめん...」


とても小さな声でつぶやく。

なぜエミリーはこんな風に振る舞うんだ?何かが気になってるのは分かるが、言いたくないみたいで、だから先ほどのことを聞いてきたのか。


よく分からないまま、俺は歩くエミリーの横顔を見た。まだ何かを考え込んでいる。


でも、エミリーの言葉は一部正しいかもしれない。

俺は初めて考えてみた。本当は彼女たちのことをどう思っているんだろう?ルーシーのこと、アナスタシアのこと、そして今はライラのことも。まだ会ったことのない女の子たちのことさえ。

何を感じているんだ、本当は?

もっと近い存在になることを、俺は許されるのか?ただ救うだけの役割を超えて、何かもっと...


学校の入り口に着いた時、遠くにルーシーの姿が見えた。こちらに向かって手を振っている。


「あ...」


エミリーがルーシーの存在に気づいた瞬間、明らかに動揺した。


「用事があるから、行くね!」


慌てたように言って、エミリーは急いで立ち去ってしまった。

そう言って、彼女は校舎の方へと歩き出した。後ろ姿が寂しげだったのが印象に残った。


「昨日……ごめんね」


ルーシーがぽつりと呟いた。彼女の表情はどこかぎこちなかったけれど。


「いや、俺こそ。自分のこと、うまく話せなくて……。謝ることなんて、ないよ」


昨日のことを思い出した。ルーシーが怒っていた...少なくとも、そう見えた。自分のことを話す時、家族のことを適当に流してしまった。あれは良くなかった。どれだけ辛い話でも、ちゃんと話すべきだった。

ルーシーは今、家族と呼べる人が誰もいない。だから怒ったんだろう。理解できる。


でも、エミリーの言葉も頭から離れない。本当にルーシーともっと親しくなれるのか?助けたいという気持ちだけじゃなく、もっと深い感情で...


「アレクスくん」


ルーシーの声で我に返った。


「もしよかったら、今度一緒にお出かけしませんか?」


頭が真っ白になった。

ルーシーが...俺を誘っている。

彼女の顔を見た。少し不安そうで、目が落ち着きなく俺を見つめている。

ルーシーと時間を過ごせば、お互いをもっと理解できるかもしれない。


「ああ、いいな」


「本当ですか?」


ルーシーの表情がぱっと明るくなった。でも、ライラのことを思い出す。まだ彼女を助けなければならない。


「来週でもいいか?もし構わなければ」


「え?」


一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに嬉しそうに頷いた。


「はい、もちろん!」


来週まで待つことなんて全然気にしていないようだった。いや、もっと先でも...来月でも来年でもずっと待ってくれそうな、そんな幸せそうな顔をしていた。

その表情を見て、胸の奥で何かが動いたような気がした。


『15:37』


家に帰る途中、今日の授業のことを考えていた。クラスメートたちのことが少しずつ分かってきている。ルーシーにも問題なく話しかけられるようになったし、以前の俺とは違う人間になれている気がした。それに、ルーシーの誘いのことも頭から離れなかった。


でも、少なくとも今度の土曜日はライラと出かけなければならない。

そんな時、携帯が震えた。取り出してみると、メッセージが来ていた。送り主は...アナスタシア。


『こんにちは、あたくしのこと覚えてる?アナスタシアです。病院で会いましたよね』


驚いた。あの日以来、番号を交換したにも関わらず、彼女と話していなかった。謝罪することにした。


『ああ、覚えてる。連絡しなくてすまなかった』


『気にしないでください♪ あたくしも忙しかったので』


その言葉にほっとした。すぐに次のメッセージが届く。


『良かったら、今度お会いできませんか?』


汗が出てきた。慌てて返信する。


『どの日がいい?』


『土曜日はどうですか?』


溶けそうになった。緊張しながらタイプする。


『日曜日はどうかな』


アナスタシアからの返信が遅かった。それが余計に緊張を高めた。ようやく返事が来る。


『大丈夫です。日曜日にお会いしましょう』


大きく息を吐いた。一瞬でプレッシャーが解放された。

でも同時に気づいた。この先数日間、かなり忙しくなりそうだ。


家に向かって歩き続けていると、遠くから青い雲が家の上に浮かんでいるのが見えた。いや、浮かんでいるというより、まるで引っかかっているように見える。


これが何を意味するのか分かっていた。

夢喰いが現れたのだ。こんなに長い間現れなかったのに。

それよりも、ライラのことが心配で仕方がなかった。

家の中に駆け込んで、リビングルームへ向かう。扉を開けた瞬間、ライラとアンジュの声が同時に聞こえた。


「ライラ!!」


「きゃー!」

「うわっ!」


信じられない光景だった。

ライラとアンジュが何事もなかったように、テレビで映画を見ている。


アンジュが怒った顔で言った。


「なんで急に叫びながら帰ってくるのよ?何かあったの?」


アンジュの無神経さに腹が立って、頭を軽く叩いた。


「あっ」


再び怒った顔になる。


「なんで頭を叩くのよ!喧嘩でも売ってるつもり?」


「お前、自分の目的を忘れたのか?外に夢喰いがいるぞ」


アンジュは眉を上げて、困惑した表情が意地悪そうな笑顔に変わった。


「あー、大丈夫よアレクス。家の周りに結界を張ってあるから、あいつらは入ってこられないの。まさか、ライラをオマエがいない間に無防備にしておくとでも思った?」


目を細めて睨んだ。

勝手に行動することを前提にしているのか。それに、いつの間に家に結界を張ったんだ?


「……お前、いつの間にそんなことを?……」


「ここに来てからずっとよ! えっへん! 感謝していいのよ、アレクス」


ライラが手を叩きながら興奮した様子でアンジュを褒め始めた。


「さすがアンジュなの!」


アンジュはその褒め言葉にまんざらでもない様子で、少し得意げな表情を浮かべている。


呆れてソファにどっと身を預けながら、大きなため息をついた。


「で、どうなんだ?お前が直接倒しに行くつもりじゃないのか?」


アンジュがこちらに近づいてきて、いつもの小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「オマエがやればいいじゃない。いつまでも霊輝の訓練をサボってちゃダメよ」


見つめ返したが、さっきまでの皮肉めいた笑みはもう消えていた。どうやら本気で訓練の必要性を感じているらしい。

...確かにそうだ。


霊輝の探知だって、いつも他人頼みじゃダメだ。戦う力があるなら、自分で上達すべきだろう。

立ち上がった。

外に出て、あの夢喰いと戦うことに決めた。


ルーシーが使っていた剣を呼び出した時のように、今度はアナスタシアの武器を呼び出してみよう。あの優雅な拳銃を。

そう決めて、家から外へ向かった。


道の真ん中で上を見上げた。

家の屋根の上に、あの青い雲がまだアンジュの張った結界にへばりついている。


目を閉じて、胸に手を当てた。指先に何か金属的なものが触れる。アナスタシアのことを思い浮かべた。彼女が使っていたあの上品な拳銃のことを。


もっと近くに感じられるようになったので、引っ張ってみた。胸から拳銃を取り出す。でも、ルーシーの剣と同じように、この拳銃もアナスタシアが使っていたものとは違っていた。黒くて、金色の装飾が施されている。


引き金を引く。

乾いた銃声が響いた瞬間、空が揺れた。青い雲が裂け、何かが落ちる。


ライラとアンジュが家の扉から顔を覗かせた。

いつものように変身し始めた。今度は爬虫類のような姿だが、人間の特徴もある。そして相変わらず、体全体が闇の塊のように見えた。


動物のように襲いかかる準備をして走ってくるのを見て、迷わず拳銃を構えて撃った。


青い弾丸が夢喰いに命中した。だが、ダメージが足りない。

次の瞬間、強烈な衝撃が体を襲った。


「うっ!」


体が宙に舞い、アスファルトの上を転がった。擦り傷の痛みが全身を駆け巡る。激痛に歯を食いしばりながら、必死に頭を上げた。

夢喰いがこちらに向かって来る。

銃を構え直そうとしたが、腕が痛くて動かない。


「お兄ちゃん!!」


ライラの声が響いた。

振り返ると、ライラがこちらに走ってくる。だが、夢喰いが俺たちの間に立ちはだかっていた。アンジュもライラの後ろから刀を構えて駆けてくる。


「やばい...!」


ライラが危険だ。

夢喰いがライラの方を向いた。


「ライラ、逃げろ!」


立ち上がろうとしたが、体が思うように動かない。アンジュが間に合うかどうか分からない。


その時だった。

ライラの胸から、眩い青い光が溢れ出した。


「なんだ...?」


次の瞬間、ライラの手には巨大な鎌が握られていた。刃は漆黒で、柄は血のように赤い。

ライラの表情が変わった。怒りに満ちている。


「許さないなの...!」


一瞬の動きだった。

ライラの鎌が夢喰いを真っ二つに切り裂いた。夢喰いは黒い煙となって空中に消えていく。


「お兄ちゃん!」


ライラが慌てて駆け寄ってきた。アンジュも息を切らしながら追いついてくる。


「お兄ちゃん、大丈夫なの?」


「ああ、大丈夫だ」


ライラに支えられながら立ち上がった。銃が青い粒子となって消えていく。


その時、気づいた。

ライラの手に、黒い血管のような模様が浮かんでいる。


「ライラ...その手...」


ライラの手に浮かび上がった黒い血管のような模様を見つめていると、急に俯いてしまった。深い悲しみを湛えた表情で、すすり泣きながら呟く。


「これらの奇妙な跡...血管みたいに見えるでしょう?これがわたしが死んでいく証拠なの...」


その言葉を聞いた瞬間、足元がふらついた。霊輝がライラに何をしたんだ?あの奇妙な跡は一体...


アンジュの方を振り返ると、彼女もライラの手の跡を見つめていた。驚いた表情を浮かべている。


迷わずアンジュに向かって声をかけた。


「アンジュ、ライラの手にあるあれは何だ?」


アンジュが振り返る。恐怖に満ちた顔で、唇が震えているようだった。しばらく沈黙が続いた後、ようやく口を開いた。


「それは霊輝の武器が原因よ。ライラはその『個性』を霊輝の武器に持っているの」


アンジュが以前に説明してくれた内容が、やっと理解できた。でも、なぜこんなことがライラの命を奪っているんだ?なぜこんなことになってしまったんだ?


疑問は次々と浮かんでくるが、今は疑問を抱くよりも、どうやって助けるかを考えなければならない。


全身を駆け巡る痛みをこらえながら、歩こうとした。ライラが俺のすぐ隣まで歩いてきて、アンジュは少し後ろから付いてきた。

静かに、そして小さく呟いた。


「……家に帰ろう」


家に入ると、ソファに身を投げ出した。ライラの軽率さに責任を感じてしまう。兄のような気持ちになって、声を上げた。


「ライラ、何を考えてたんだ!危険だったかもしれないだろう!」


ライラの表情が曇る。叱りすぎたかもしれない。慌てて彼女を抱きしめた。


「もう二度とあんなことするなよ。約束してくれるか、ライラ?」


「...はい」


弱々しい返事と共に、ライラが俺の胸に顔を埋めた。

アンジュが少し近づいてくる。いつもの小馬鹿にしたような表情じゃない。誇らしげでもない。ただ、安堵しているように見えた。ライラと俺を見つめながら口を開く。


「アレクス、詮索するつもりはないけど、オマエが授業に出てる間、ライラと話してたのよ...」


話を続けようとした時、ライラが慌てたように手をひらひらと振り始めた。まるでアンジュに黙っていてほしいと訴えているかのように。


アンジュが諦めたような笑みを浮かべて、結局最後まで言わなかった。


何を言おうとしていたのかはわからないが、ライラに関することなのは明らかだった。


ライラが再び俺の胸に頭を押し付けてくる。今度は何かを聞こうとしているみたいだ。耳を俺の心臓に近づけて、にっこりと笑った。


「お兄ちゃんの心臓の音って、とても綺麗なの」


その言葉を聞いて、顔が熱くなった。何も言えずにいると、ライラが言った。


「あ、心臓のドキドキが速くなってるのよ、ふふ...」


からかうような笑い声に、恥ずかしくて目を閉じたくなった。でも、閉じなかった。胸の上でライラが俺の心音を聞いているのを見つめ続けた。


なぜこんなことをするのか、よくわかっていた。他の女の子たちと同じように、ライラには生きている人間の感覚がない。この音を聞くことは、きっと懐かしいものなのだろう。


そのままの体勢で、ライラが小さくつぶやいた。


「もうずっと、わたしの心臓は鳴らないし、お腹も空かないの...わたしが何なのかわからないけど、この音を聞いていると嬉しくなるなの...」


ライラは微笑んで目を閉じ、俺を抱きしめた。


彼女の体に触れることはできても、温かさは感じられない。それがまた胸を痛めて、彼女を解放したいという焦りが心を支配した。

すると、ライラが突然言った。


「お兄ちゃん、わたしをこの霊輝から解放してくれるって信じてるなの。だから...約束して!霊輝から自由になっても、ずっと一緒にいてくれるって!」


その言葉に、一瞬躊躇した。

ライラが霊輝から解放されたら、俺のことは完全に忘れてしまうことを知っている。でも、それでも。この約束が自分にどれほどの痛みをもたらすかわかっていても、俺は決めた。

彼女に「はい」と言うことを。


決心していた。この先どうやって一緒にいられるのか、全く分からないけれど。


でも、心の奥で何かが気づき始めていた。重要な何かに。

ルーシーもアナスタシアも、なぜか俺が原因だと分かっているみたいだった。記憶の中に俺がいないはずなのに、二人の中の何かが俺を呼んでいる。記憶を失った原因として。


ライラを見た。それからアンジュの方に視線を向ける。

アンジュの表情は迷子のように見えた。悲しくて、何より孤独そうで。まるで今見ているものを、また一度否定しようとしているかのように。


それでも、決めた。

この約束は、何があっても守る。どうやってかは分からない。でも、絶対にやってみせる。

アレクスの決意は、これから物語の流れを確実に変えていきます。

そして、エミリーはその渦中にいる存在として、ますます重要になっていきそうです。

次回はさらに疑問が膨らみ、展開が動き出します。ぜひ続きも読んでみてください。

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