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霊輝  作者: ガンミ
121/130

決別の旋律

新年を迎える準備が進む中、レイナの毎日はゆっくりと変わり始めていた。

コンサートを終え、束の間の静けさの中で、彼女はこれまで触れられなかった“普通の生活”を一つ一つ経験していく。


映画、食卓、友人との会話――

誰かと過ごす時間が当たり前ではなかった彼女が、少しずつその温かさに触れていく。


そして、訪れる年末。

積み重ねてきたすべての想いが、ついに“ある瞬間”へと繋がっていく。


本編はレイナの“決別”と“はじまり”が交差する章。

『12月25日 / 21:55』


レイナを探しに向かった。彼女は汗を拭いているところだった。俺を見ると、走ってきて抱きついた。


「アレクス!」


安堵の表情を浮かべている。生き生きとしていた。


「素晴らしかった」


「ありがとう」


「全部感じられた……信じられない」


顔を赤らめて頭を下げた。突然スタッフの一人が声をかけてきた。


「もうお帰りの時間です!」


レイナはさらに頭を下げた。何かを思い出したようだった。


「そういえば……どこに行っても一人なのね。あの邸宅も、アパートも……ただ一人で」


「違うぞ、レイナ」


「えっ!?」


「俺の家に来るか?」


「えー……」


真っ赤になって考え込んでいる。スタッフがまた声をかけた。


「終了しました。皆さんお帰りください」


「聞いただろ。帰る時間だ」


緊張した様子で赤い顔のまま頷いた。出口に向かって歩いていく。外にファンが待っているかもしれないが、幸い誰もいなかった。


腕で彼女を支えて、勢いをつけて空に舞い上がった。


家に着くと、父さんとライラが少し困惑していたが、新年まで彼女を泊めたいと説明した。父さんは少し迷ったが、家に泊まることを許可してくれた。


空いている部屋がなかったので、俺の部屋で寝ることになった。俺は布団で、彼女がベッドで。


「床で寝させてしまって……ごめんなさい」


「問題ない。前にもこうやって寝たことがある」


まだ不満そうで罪悪感を抱いているようだった。


「……それなら、私の隣で寝る?」


心臓が跳ね上がった。毛布をめくって俺が入れるようにしてくれた。


「いいんだ、レイナ。お前はただ寝てろ」


「……あまり眠くないし……眠らなくても平気かも」


「寝ろ。体を大事にしろよ」


また横になって、眠りについたようだった。


明日から始まる。彼女にもう一度あの感情を体験させるチャンスが。明日がその時だ。


『12月26日 / 15:36』


今日は学校の最終日で、冬休みが始まる。友達は俺を誘ってくれたけど、今日はレイナと過ごしたかった。


学校の入り口を出ると、何か騒がしい。もう帰ったはずの友達までそこに残っていて、周りの人たちと一緒に騒ぎに引き込まれていた。その中にルーシーの姿もあったので、近づいてみた。


「何だよ、この騒ぎは?お前らカラオケ行くんじゃなかったのか?」


ルーシーが振り返ると、驚愕の表情で前を指差す。俺も振り返ると...


「えっ!?」


そこにはレイナがいた。ここまで来たのか。


「アレクス!」


レイナが気づいて手を振り、笑顔で駆け寄ってくる。学校のみんなの前で俺に抱きつく。周りがどよめく。


榊は驚いて固まってる。まいは口をぽかんと開けてる。ルーシーは額に手を当てて...まあ、彼女なら理由は察してるか。やよいは目を覆って見たくないって感じ。カズミは完全に硬直。カケルは敗北したような顔。竜児は無表情で見てる。


もうこの状況、説明のしようがない。レイナの手を取って走り出す。誰も追って来ない隙を見て、空へ飛び立つ。これ以上騒ぎになる前に逃げよう。


空中でレイナを抱えてると、彼女が笑い始める。


「ふぅ~、はは……」


本当に楽しそうだ。俺にしがみついて、顔が近い。


「今度はどこに行くの?」


「まず正体隠した方がいいな。お前を知ってる人多いし、昨日のコンサートでもっと増えただろ」


レイナが純粋な笑顔を見せる。心臓が跳ね上がる。


残りの一日は、公園を散歩して過ごした。


『12月27日 / 17:55』


夕方、父さんが映画を持ってきた。みんなで見るらしい。


「さあ、映画が始まるぞ」


ライラが嬉しそうにしてる。遠くで奇妙な影が動いてるのに気づいた。


「アンジュ!お前も来い!」


アンジュが恥ずかしそうな顔で影から出てきて、ソファに座った。ライラが俺にくっついてきたが、レイナも俺にくっついてきた。


「お兄ちゃんはわたしのなの!」


「違う、ライラちゃん。アレクスは私と一緒にいる。この映画...怖い」


「違うなの!わたしと一緒にいるなの!」


両方から腕を引っ張られ始めた。父さんはただ見てて、にやにや笑ってる。


「これはホラー映画じゃないんだが……」


二人とも静かになって、顔を赤くした。でもライラがまた俺の腕を引っ張り始めた。


「それでもお兄ちゃんをわたしの隣にいてほしいなの」


レイナも俺の腕を引っ張り返した。


「私も」


映画の間中ずっとこんな感じだった。おかげで何の映画だったのか全然分からなかった。


その後、みんなで夕飯を食べた。レイナは食べる必要がないのに、みんなと一緒に座ってる。アンジュもいるし、セレステもいる。そういえば、彼女たちは人間の食べ物を食べられるのか?試しに勧めてみたら、驚いたことに食べられた。霊的な存在なのに、これを感じられるなんて意外だった。


こういう家族の時間は特別だ。でもまだレイナに見せてやりたいことがある。彼女がまた人生を楽しめるようになるまで、もっとたくさんのことがある。


『12月28日 / 11:15』


レイナをアナの家に連れて行った。霊輝の壁、痛みの壁を乗り越えることができた皆に会わせたかったんだ。ルーシー、アナ、ライラ、ひかり、メリッサ、フィリア、ルビー、スズ、ノア……みんながここにいる。エミリーもいるが、彼女は他の皆とは関係ない。


皆でレイナと話していた。俺はもうメッセージで皆にレイナの状況を説明していたから、みんな事情は分かっている。レイナが皆の中で平等感を見つけること……それを体験する必要があったんだ。


しばらく話は続いていたが、ある話題が出てきて、皆が俺をじっと見つめ始めた。何の意味があってこんなことをしているんだ?全員に見つめられるのは居心地が悪い。これは視線の競争なのか?


また一日が終わった。毎回こうだ。レイナを霊輝から解放する瞬間が近づいてきている。


『12月29日 / 12:21』


レイナが今日俺に話していた。新しい、もっと広い視野を見つけているという。皆と話したことがレイナに大きな変化をもたらしたようだ。


「一人一人が私に何か面白いことを教えてくれた……信じられない」


「そして、まだ足りないものがある。大きな日がついに近づいてきている」


彼女は微笑んでいる。その瞬間が来ることを楽しみにしているみたいだ。俺も準備をしないと。正月は別の場所に行くことになっている。神社の近くで新年を迎えるんだ。宿があって、そこに泊まることになっている。その日のために荷物をまとめていた。


『12月30日 / 20:25』


空は曇っていて、もうすぐ雪が降りそうだ。レイナは窓の外を見て、雪が降るのを待っていた。でも突然、また自分の人生について考え込んでいるようだった。


「アレクス……私が霊輝から自由になったら、どうなるの?」


「分からない。でもその時は俺がそばにいる」


彼女は何も言わず、雪が降るのを待ちながら窓の外を見つめ続けている。


「雪が降るのを待つのに随分辛抱強いな」


「私の……辛抱強さよ」


明日あの宿に出発する。他の皆もこのことを聞いて、同じ場所に部屋を予約したらしい。きっとみんなに会うことになるだろう。


突然レイナが叫んだ。「ああ!」


「どうした?」


「雪!」


外で雪が降り始めた。たいした量じゃないし、軽い雪だったけど、空から雪が降って、通り過ぎるものすべてを白く染めていくのを見るのは気持ちよかった。


『12月31日 / 15:45』


その宿に着くと、案の通りみんな来ていた。ルーシーがアナと話しているのが見えた。フィリアとルビーが引き戸の近くで話しているのに気づく。メリッサがひかりと話していて、驚いたことに、ひかりの隣にはヤヨイがいた。受付のソファにはスズがノアと一緒に座っている。ライラはひかりに気づくとすぐに駆け寄っていった。


父さんは見覚えのある顔ぶれに気づいたが、何も言わないことにした。レイナのための最後の準備をしなければならない。


レイナが俺の隣に立ち、手を取った。震えている。でもこれが、彼女の中にあるあの霊輝を終わらせる時だった。


午後の残りの時間はみんなと過ごし、楽しく話をした。その後、温泉に入った。俺は覗き見をするような奴じゃないから、他の連中が入浴している時に見に行こうなんて思わない。だが、覗き見の問題があるとすれば、それは俺じゃなくて誰か他の奴らの方だろう……さっさと温泉から出た。


ついに夜が近づいた。俺とレイナはみんなから離れ、二人きりになった。夜空を見上げる。新年が来た。向かい合って立つ。ゆっくりとレイナに近づく。指が絡み合う。唇が重なった。暖かい感覚の中にいると――


影からアンジュが刀と共に現れ、霊輝が再び吸収された。


俺はレイナに、解放された後に何が起こるのかを話さなかった。彼女の手には、記憶が詰まったあの小さなノートがあったからだ――。


『1月1日 / 00:03 / レイナ』


眠っているような感覚……でも起きている。手の中で小さなノートの重みを感じる。記憶で満たされたノート。何かを失ったような軽い感覚があるけれど、恐怖はない。


アナスタシアの言葉を覚えているから。


あの日、彼女は私と二人だけで話した。暗号のような言葉だった。でも理解できた。そういう言葉を理解するのは得意だから。だから今日、記憶のノートを持ってくることがきっと助けになると分かっていた。


目を開けると、遠くで花火の音が聞こえる。新年を祝う音。隣には男の子がいる。微笑みながら花火を見つめている。なぜここにいるのか……分からない。でも知る必要がある。


ノートをめくり始める。何が起こったのかを理解しようとして。


12月1日――彼と出会った日。彼はコーヒーの缶をくれた。なぜかは分からなかったけれど、飲んだ。


12月7日――彼があの言葉を言った。再び希望をくれた言葉を。数日間、彼と話し続けた。彼と……彼と。


12月23日――不死の人生を持つ私のために、彼は自分の命を犠牲にする覚悟を示した。


12月24日――彼は家族と共に戦った。悪い人々から私を解放するために。


12月25日――私のピアノコンサートに来てくれた。とても嬉しかった。


その後の日々は彼の家で過ごして――12月31日まで。そこには書いてあった。


『レイナ、絶対に忘れないで!』


涙が溢れる。彼を見る。名前がそこに書かれている。ノートに。


「アレクス!」


振り返って微笑む。忘れてしまったことなど気にしていないかのように。近づいて強く抱きしめる。泣くことしかできない。指先が痺れているのを感じる。私の病気が戻ってきた。でも今は大丈夫。彼に頼ることができるから。すべて大丈夫。もう一人じゃない。アレクスと一緒にいる。彼の隣に私の居場所がある。彼との居場所が。


「ごめん……私、アレクスを忘れて……」


「大丈夫だ。俺はレイナを忘れてない」


抱き合いながら、再び誰かの温もりを感じることができる。誰でもない。愛する人の温もりを。


数分後、彼が頭を撫でて言う。


「明けましておめでとう、レイナ」


「うん……明けましておめでとう、アレクス」


突然、引き戸の向こうから多くの声が聞こえる。


「ずるい!」


「私にも新年のお祝い言って欲しい!」


「お兄ちゃん、ずるいよ!」


アレクスが立ち上がって戸を開ける。みんながこの瞬間を覗いていたことが明らかになる。やっていることに恥ずかしそうな顔をするだけ。


彼女たちも彼にとって大切な人たちなのだろう。結局のところ、アナスタシアがそう言っていた。


振り向くと、彼女が私を見て微笑んでいる。共犯者のように。


アレクスを見ると、彼もみんなと一緒にいるときに幸せそうだった。今この瞬間の幸福は私だけのものでも彼だけのものでもない。幸福はここにある。みんなと一緒に。


『1月1日 / 00:21 / アレクス』


みんなに新年の挨拶をした。これで全て終わったんだ。ここに集まった女の子たち全員が霊輝から解放された。もうやることはない――いや、待てよ。まだ完全に解決していないことが一つある。アンジュはこれからどうするつもりなんだ?


改めて、ここに集まったみんなを見回した。


ルーシー。――以前は笑うことなく、まるで幽霊のような存在感だった彼女が。今は、本当に楽しそうに笑っている。


アナスタシア。――以前は人に近づくことを恐れていた彼女が、今はこんなにたくさんの人に囲まれている。


ライラ。――成長し続けたいという意志を見せてくれた。いつか必ず成し遂げるって分かる。


ひかり。――以前は過去に囚われていたが、今は前に進んで、やりたいことをたくさん考えられるようになった。


メリッサ。――以前は別れを恐れ、最も愛するものを失うことを怖がっていたが、今はもっと強くなれる。


フィリア。――以前はもっと陰険で、誰かに超越されることに執着していたが、今は対等な存在でいることだけに集中している。


ルビー。――以前は前進することに必死だったが、自分を犠牲にしていた。今は犠牲にすることなく、自分の気持ちにもっと素直になれる。


スズ。――以前は四つの壁に囲まれた場所に閉じこもり、誰とも本当のつながりを持てなかった。今は誰とでも話すことができる。


ノア。――以前は自分を人生を無駄にした人間だと思っていたが、今は制限なく前進し、本当に人生を楽しむことができる。


そして。


レイナ。――障害と喪失に満ちた人生を歩んできたが、ここにいて、不確実な未来に向き合っている。


彼女たちはみんな……俺の女の子たちだ……愛している女の子たちなんだ。


突然、セレステが隣に現れた。


「アレクス、邪魔して悪いんだけど――アンジュを見なかった?」


「いや、お前と一緒にいたんじゃないのか?」


「――嫌な予感がするの」


「どうした?アンジュに何があったんだ?」


動揺した。みんながそれに気づいて振り返った。


セレステが困った表情で言った。


「――アンジュが消えたの」


奇妙な感覚が俺を襲った。胃がひっくり返り、心臓が加速する。神経が――アンジュが消えたって?なぜだ?何をしているんだ?なぜ今になって?


みんなが緊張した状況に心配そうな表情を浮かべている。

頭の中を占めるのはただひとつーーなぜアンジュが消えたのか。

レイナ編はすでに幕を閉じ、

彼女は自らの足で未来へ歩き出した。

仲間たちもまた、それぞれの道を見つけ始めている。


――しかし。


ずっと影で動き続け、誰よりも“見届けていた”あの少女がいる。

彼女の運命だけは、まだ誰にも語られていなかった。


アンジュが消えた。

残されたのは不安と、胸騒ぎだけ。


次回から始まるのは、

「最後の旅路」 へと繋がる、新たな幕開け。

すべての謎、すべての想いがひとつに収束していく。


霊輝はここからクライマックスへ――。

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