再生の協奏曲
新しい朝――けれど、心の奥にまだ昨日の戦いの余韻が残っている。
レイナを救い、コーポレーションを倒し、あの戦艦を撃ち落としたからといって、すぐに全てが元通りになるわけじゃない。
でも、世界は確かに動き始めている。
レイナが自分自身の道を歩き始めるために。
そして、アレクスの心にも、何か温かい変化が芽生えつつある。
日常のようでいて、どこか特別な時間。
そんな「再生」の物語が、静かに幕を開ける。
『12月24日 / 9:28』
この戦いに備えていた。奴らが武器を持っていても、俺たちには霊輝の能力という優位がある。
父さんが素早く霊輝の連射を放ち、最初の技術戦車を爆破させた。敵の反撃が始まった。みんな散らばって霊輝を素早く発射し、戦車は瞬く間に無力化された。だが、まだ大勢の兵士が俺たちに向かって発砲している。
この状況を終わらせる最良の方法は、レイナのマネージャーのところに行くことだと分かっていた。
空を飛びながら、行く手を阻むあらゆるロボットを破壊していく。何人かの兵士が邪魔をしてくるが、霊輝で吹き飛ばした。マネージャーは俺が近づくのを見て動揺しているようだった。
だが、俺がかなり近づいた時、奴は笑みを浮かべた。そして奇妙なバリアが奴を守り、俺を後退させた。
誰かがステージに上がってくるのが見えた。その人は――レイナだった。
これが避けられないことだと分かっていた。彼女はまだコーポレーションのやることに強く縛られている。
レイナと戦わなければならないが、殴り合いや霊輝の力を使う方法ではない。
彼女が受け入れることを拒んでいる真実を理解させる時だった。
彼女が手を前に動かすと、ほとんど見えないピアノが現れた。鍵盤だけが見える状態だった。彼女は指を動かし始め、どこからともなく攻撃が現れた。だが霊輝のバリアのおかげで、レイナの攻撃は俺に届かなかった。
「やめろ、レイナ!これはお前が望んでいることじゃないだろう?」
彼女は何も言わない。俺は彼女の近くに霊輝を放ったが、バリアが彼女を守った。
「レイナ!やめろ!」
何度言っても、彼女は何も言わない。こちらを振り返らず、ただピアノの鍵盤に視線を固定している。
マネージャーを見ると、奴は自分が優位で状況をコントロールしていると信じているかのように笑っていた。
レイナは非常に強力な霊輝を持っていて、実際今は自制している。おそらく彼女が本当に聞くべき人たちの声を聞かせ、彼ら自身がレイナの理想を打ち砕くようにするしかない。
「おい!マネージャーさん!なぜ単に諦めてレイナを放っておかないんだ?これが君の敗北だってことは明らかだろう」
マネージャーは怒って一歩前に出て、俺を見つめながら叫んだ。
「なんて不愉快な奴だ!」
レイナの攻撃をかわし続けていたが、マネージャーが油断して何か言うまで待つ必要があった。
「おい!マネージャーさん!君の計画は幼稚すぎるぜ。何かを成し遂げたとしても、そのくだらない計画には穴だらけだ」
「黙れ!無知なだけだ!」
「無知?それを言うのか、マネージャーのくせに科学者でも何でもない奴が」
「黙れ!黙れ!ドクターの言葉を聞くだけで十分だ」
「単純な奴だな。だからお前の敗北は確定してるんだ」
「レイナ!何をしている、そいつを片付けろ!」
「……はい……」
レイナが弾いていた曲が変わった。今度はより速い曲のようで、彼女は素早くピアノの鍵盤を叩いていた。攻撃がミサイルのようなものから、サッカーボール大の大きな霊輝エネルギーに変わり、俺に向かって投げつけられた。バリアはまだ俺を守っていた。マネージャーを再び見る。今度こそ奴の油断を誘う時だ。
「お前の計画なんて役に立たない。苦痛を与えた連中は誰も力に目覚めやしない」
「何がわかる!実験体がたった一人でも力に目覚めれば、世界は変わり、僕だって力を手に入れられる」
何かに気づいた。この言葉を聞いて、この男は力に執着があるようだ。もしかして奴も力を欲しがっているのか?
「馬鹿野郎!そんなことは絶対に起こらない」
「ちっ、黙れ!」
「嫉妬してるのか?レイナや俺が持っているものを、お前が絶対に手に入れられないものに」
「黙れと言っている!」
「絶対に手に入らない。俺はこの力の本質を知っている。お前やあの連中には永遠に理解できないものだ。偽りの理想にすがりついて、人をコントロールしたいだけ。お前らこそ本当の馬鹿で無知な連中だ」
「黙れ!黙れ!黙れ!」
マネージャーが狂気に陥っているようで、両手を耳に当て、頭を振って聞いたことを否定しようとしていた。突然俺を見て、今度は目が現実から切り離されたようだった。
「お前は何も知らない。コーポレーションは人間の力を目覚めさせるためにあの実験をしたんだ。レイナはその証拠だった。もしその力を目覚めさせることができれば、超能力者の軍隊を作ったり、それ以上のことができる。これは進化の頂点だが、それを達成するにはレイナだけでは不十分だ。彼女の状況を話すと、すぐに彼女に人々のためになることをしていると信じ込ませるのが非常に巧妙だった。そんなものは嘘っぱちだ。コーポレーションが真実を教えてくれてから、レイナの力は真の進化であり、新しい秩序への一歩だとわかっていた。だから僕の理想と完全に一致していたので、彼らの言うことを何でもしたんだ」
レイナは困惑してマネージャーを見つめ、指が震え、震える声で言った。
「……そ、それは本当?」
「どう思っていたんだい?レイナさん、もう馬鹿げたことを言うのに疲れた。コーポレーションは最初の日から君に嘘をついていたんだ」
「……そ、それは……嘘!」
「嘘じゃない、真実だよ。君はただの実験体の一人にすぎない。ただし、全員の中で最も特別だ。それが唯一の違いだ」
「……そ、そんな……はずが……」
「そうなんだよ。そして今、もう一度言おう。僕たちに従うだけでいい。もう何もないだろう?他に何が残っている?友達?そんなものは最初からなかった。家族?みんなもう死んでいる。もう何もない、レイナさん。僕たち、コーポレーションが君に残された全てだ。だから黙って従え」
レイナは力を失ったようで、手が落ち、頭を深く垂れ、前屈みになった。彼女を見て俺は叫んだ。
「レイナ!お前は一人じゃない!」
彼女は空中に浮かんでいる俺を振り返った。ゆっくりと彼女に近づき、彼女の前に到着した。マネージャーが叫んだ。
「レイナさん、今がチャンスだ!そいつを殺せ!」
しかし俺は霊輝を放って奴を吹き飛ばした。俺の前にはただレイナがいるだけで、彼女はとても落胆し、敗北したように見え、何もする気力がないようだった。
「アレクス……私には本当に何もない……」
「そんなことはない!まだ何かある」
「何もない!彼の言う通り、全てを失った……従うことしか残っていない」
彼女は泣き始めたが、俺はレイナの肩に手を置いた。
「まだ何かある!」
「……そんなに確信があるなら……私にまだあるそのものって何?」
「他に何があるって?俺がいるじゃないか」
彼女は何も言わなかったが、もう一度泣き始めた。ゆっくりと俺に近づき、抱きしめて、ただ泣くだけで俺に顔を隠した。その抱擁は温かく感じられた。
遠くにいるマネージャーは、吹き飛ばされた衝撃で傷ついているようだった。
「貴様らに払わせてやる、畜生が!」
奴はジャケットから妙な武器を取り出して俺に向けた。だがその瞬間、霊輝の光線がその武器を破壊した。みんなが振り返ると、そこにはライラが笑顔で立っていた。マネージャーをからかうように舌を出している。
周りをよく見回すと、ウィリアムも父さんも、ここにいた全ての兵士たちを倒していた。
「畜生!畜生!貴様たちは皆化け物だ。僕にはもうこれしか選択肢がない!」
今度は妙なリモコンのような装置を取り出した。
「これで、この場所全体が爆発する。誰も生きて帰れないぞ」
「馬鹿か、お前も死ぬんだぞ!」
「構わない。僕はレイナさんが死なないことを知っている。彼女が生きている限り、実験を続ける覚悟ができているんだ」
こいつは本気でこの場所を爆破するつもりだった。攻撃の準備をしたが、俺もウィリアムもライラも父さんも、何もできる前に突然銃声が響いた。皆が立ち止まる。
遠くにヘリコプターがいて、狙撃手がマネージャーを撃ったのだ。スピーカーから声が聞こえてきた。
「そんなことをすれば、俺に面倒をかけるだけだ」
マネージャーは血を流して地面に倒れた。同時に奇妙な戦艦が空に現れた。
「あれは何だ!?」
レイナが俺にもっと近づいてきて、あの空の戦艦が何なのか知っているようだった。
「……あれは……コーポレーションのCEO」
スピーカーの声がまた聞こえてきた。
「自己紹介をしよう。私はラインハルト・フォン・アイゼンクロイツ、ヘイブン・フロント・コーポレーションのCEOだ」
これほど重要な人物が現れたのは、単に自慢するためではないと感じた。スピーカーの声は邪悪な男の声で、説得できそうにないのは明らかだった。その声がまた話し始めた。
「10秒やる、帰って来い、レ・イ・ナ」
レイナの名前をそう綴る方法は、まるで退廃的に聞こえる。レイナが何もしないように俺が前に立った。
「何をしているつもりだ?俺と戦うつもりか?」
「ああ、そのつもりだ」
「馬鹿げている。貴様に力があっても、俺にも戦う方法がある」
「上等だ、馬鹿野郎!間抜け!負け犬!阿呆!」
「なんて口の悪い奴だ。レイナ!殺せ」
レイナは震えていた。まだ従おうとする名残があったが、俺がすぐに彼女を抱きしめた。
「レイナ、もうこいつらの言うことを聞く必要はない。もう十分だ。放っておけ」
レイナは何も言わなかった。スピーカーの声は苛立っているようだった。
「うんざりだ。こんなのを見るのは耐えられない」
銃声が響いたが、俺の霊輝バリアがその弾丸を止めた。さっきの狙撃手からのものだった。ウィリアムがすぐに何かしようとしたが、スピーカーの声が止めた。
「動くな!何かしようとすれば容赦しない。今現在、レイナには装置が付いている。誰かが何かしようとすれば、彼女を爆発させる」
そんな残虐なことを聞いて、皆が麻痺した。レイナは震えて自分の手を見つめ、震え声でささやいた。
「わ、私……わ、私……私の体に何をしたの……?」
スピーカーの声は今度はレイナの苦しみを楽しんでいるようだった。
「はっはっは!今頃疑問に思うのか?レイナ、貴様の不死身の体は俺だけのものだ。このような場合に備えて爆弾を埋め込むアイデアは俺が考えた。貴様に何も起こらないことを知っているし、このレベルでも、誰かが貴様を俺から遠ざけることから守るために、そういうものを付ける必要があったんだ」
「狂ってる!」
「狂っている?少年よ、狂気の問題ではない。世界は自然のように規則に支配されている。適者生存、最強者のみが頂点に立つことができる」
俺は罠にかかったと感じた。レイナは地面に座り込んで泣き始めた。また弾丸が俺の霊輝バリアに当たった。いつまでも持たないだろう。何か考えなければ。
周りを見回したが、何も見えなかった。その時、何かに気づいた。そこに倒れているマネージャーを見て、それからあの戦艦を見た。この全てに何か奇妙なことがあった。嘘に気づいて笑って、戦艦の奴に叫んだ。
「おい!レイナの中の爆弾について言ったことは嘘だろ!」
「ほうー、なぜそんなに確信している?」
「あいつはさっきこの場所全体を爆破しようとしたが、お前の傭兵が止めた。なぜだと思う?」
「……良い質問だ……」
「それから、この場所全体と一緒に爆発すると脅そうとする……お前の行動は矛盾している!」
沈黙した。何も言わなかった。そして突然笑い始めた。
「ははははは……!」
「何がそんなに面白い?」
「はあ……素晴らしい。脳みそのない単純な猿だと思っていた。本当に驚きだ」
霊輝を込めてその戦艦に向かって放ったが、奇妙なバリアがそれを守った。スピーカーの声が叫んだ。
「やれ!」
だが何も起こらなかった。続いて爆発音が聞こえ、狙撃手がいたヘリコプターが墜落した。
「何!?」
遠くから援軍が到着していた。ソフィーさんとトムじいさんが助けに来てくれたのだ。
突然その戦艦が撃ち始めた。放つエネルギーは電気のようだった。レイナを抱えて空に舞い上がり、電撃レーザー攻撃を避けながら飛んだ。他のみんなは霊輝の必殺技を放ち始めた。
巨大な爆風が戦艦のバリアに激突した。でもエネルギーは消えない、そのままバリアを押し続けてる。
彼の手からエネルギーの斬撃が飛んだ。続いてソフィーさんが両手を上げ、エネルギーを集めて大きな霊輝の球体を作る。あの戦艦のバリアがついに割れ始めた。
最後にトムじいさんが得意げに笑いながら右手を伸ばした。
「『カオスディザスター』!」
爆発でバリアが完全に吹き飛んだ。
怒りに満ちた声がスピーカーから響く。
「くそったれども全員!レイナ!従え!あいつらを始末しろ」
レイナは俺から離れ、うつむいた。
でも彼女は戦艦に向かって飛んでいく。
「よくやったレイナ。さあ、あいつらを消せ!」
レイナは動かずに顔を上げ、声を張り上げた。
「ラインハルト!」
「な、何だレイナ?」
「……本当なの?ラインハルトがやろうとしていることは?本当にそんなことを計画してるの?」
「当然だ。貴様も同じ気持ちじゃないのか?人間どもの愚かさをコントロールし、特権的な立場から正していく力を持つ。当然迷わずやるさ」
「……じゃあ、あなたが私に言ったこと、みんなが言ったことは……嘘だったの?」
「嘘と思いたければ勝手にしろ。一部は本当だった」
「……もう物扱いされたくない……もう空虚な気持ちでいたくない……もう痛みを感じたくない……」
「それで?貴様の存在はもうこの世界では無意味だ。世界のため……いや、俺のための実験体に過ぎん」
レイナが両手を上げ、勢いよく前に下ろした。スピーカーの声が今度は焦っていた。
「おい、何をしている?」
レイナがピアノの鍵盤を弾き始めた。悲しく憂鬱な音楽が響く。彼女は力強く弾いていた。
「くそ!反逆するというのか」
戦艦がレイナに向けて撃ったが、バリアが攻撃を吸収した。レイナが全力で叫んだ。
「みんな!離れて!」
俺たちは距離を取り、遠くから見守った。音楽がより不気味になっていく。
戦艦が上部の砲台に大きな力を溜めて電撃エネルギーを撃った。空中で爆発したが、レイナはまだピアノを弾いている。指の動きがより速くなり、突然音楽が止まった。
「聞けレイナ、俺に何かすれば薬はもうない。永遠に病気で、今度こそ死ぬぞ」
奇妙な網がレイナに落ちて麻痺させたが、彼女は空中に浮いたままだった。他のみんなが止めろと叫ぶ中、俺は危険を冒して近づいた。レイナの上の奇妙な網を取り除き、腕で支えた。
「レイナ!」
「ア、アレクス?」
「レイナ、病気でも俺はお前を救いたい。普通に戻っても、その病気を治したい。俺が、俺がお前の病気を治す」
彼女は再び泣きそうになって俺を抱きしめた。この抱擁で様々な感情が混じった感覚を感じた。決めたんだ。俺は勉強をレイナのその病気を救うことに捧げる。まだやることがある。未来で彼女を待っている。
あの男の声が俺とレイナを嘲笑った。
「はははは……!面白いな。世界最高の科学者でさえ彼女を治せない。その不死性も取り除けない」
「ちょっと黙ってろバカ野郎!」
俺は拳を握りしめた。レイナを見つめ、彼女も俺の目をじっと見つめて手を伸ばした。俺が手を取ると、指を絡めて二人で霊輝エネルギーを溜めた。
「ちょ、ちょっと待て!」
でも待つつもりはない。二人の霊輝爆発が戦艦を複数の爆発で破壊した。
レイナを抱えて飛び去りながら、戦艦が地面に墜落してさらに爆発した。
ウィリアムはラインハルトというあの男が爆発で死んでいないよう飛んでいった。まだ彼がしたことの代償を払わせなければならない。死は彼の罰ではない。
結局俺たちは皆で帰ったが、途中でレイナが自分のアパートに帰ると言った。一人でいる時間が欲しい。俺は彼女の願いを聞き入れた。明日は彼女の帰還コンサートになるはずだった。
『12月25日 / 19:00』
ついに、その時が来た。今夜はレイナのコンサートだ。ピアノを弾く彼女を見ようと、たくさんの人が集まってきた。でも、昨日のニュースのせいで…彼女のマネージャーとコーポレーションのことで、みんなそのことばかり話している。
もちろん、霊輝のことは一般には明かされていない。でも、レイナがあの場所で何を経験したかは、みんな知っていた。
レイナがゆっくりと、優雅にピアノに向かって歩いてくるのを見た。一つ一つの動きが自信に満ちている。ピアノの前に座ると、軽く指の準備運動を始めた。
その時、気がついた。レイナが微笑んでいるのを。安堵の笑顔だった。ピアノを見つめながら…彼女が最も愛するもの、最もやりたかったことを。再び、それと向き合っているんだ。もう感じることができないと思っていたものと。
レイナはゆっくりと指をピアノの鍵盤に置き、目を閉じた。
そして、弾き始めた。
『レイナ』
指が鍵盤に触れる瞬間……忘れていた感覚が蘇る。感情を込めて弾くということ。ただ音を鳴らすのではなく。
もう昔のようには戻れない。あの頃の感覚を取り戻すことは……不可能。でも、それでいい。今は見える。私を待っていてくれる人が。私を必要としてくれる人が。アレクス……目を開かせてくれた。真実に。
ドの音――始まり。すべての重荷がここで解き放たれる。そう、すべてはここから始まった。アレクスとの出会い。私を変えた言葉。
レの音――鎖。過去に縛られていた音が解けていく。彼が壊してくれたから。あの暗い過去はもう……影に怯える必要はない。
ミの音――未来。まだ遠い光に向かう旋律。前に進みたい。空っぽの人生はもう嫌。生きる理由を……もう一つ見つけたい。まだ見つけるべきものがある。
ファの音――罰。沈んだ心が鍵盤に刻まれる。行動には代償が伴う……それも分かってる。病気がまた戻ってくるという罰も。
ソの音――祈り。響きが昇る。束縛からの解放を求めて。自由になった今……明日はまだそこにある。まだ信じることができる。
ラの音――楽園。手の届かないものが最も美しく……最も悲しい。人生にはその両方がある。でもそれが人生を唯一無二にする。
シの音――死。そして同時に……次の始まり。この曲は終わる。でも次の曲が始まる。
一つ一つの音階……一つ一つの音符に意味がある。感情がすべて込められている。ピアノから生まれるすべての音に。
客席を振り返る。アレクスを探す。見つけた。視線が合う。そのまま見ていて……お願い。
曲を続ける。でも考えてしまう……観客は本当に感じてる?私の感情を?音に込めた想いを?伝わってる?
もう一度客席を見る。みんな集中してる。私に。私の音楽に。感じてくれてる...私の感情を。
嬉しい。泣きそうになる。ピアノを弾き続けながら。
時間が飛ぶように過ぎる。もっと弾いていたい。でも最後の曲の時間。
拍手。歓声。感動の声。コンサートを終える時間。
「次が最後の曲。でも……歌う」
観客が興奮する。マイクを調整する。指が反応する。考える前に……衝動に任せて曲が始まった。
声を張り上げる。全力で。指はピアノの鍵盤を早く叩く。この曲を全力で爆発させる時。感情を叫ばなければ。
「♪静寂を裂き 響き渡る 私の声」
声がさらに力強く。音楽も歌声もすべてがゆっくりからリズミカルに。速く。エネルギッシュに。
これが私。みんな見てる?感じてる?理解してる?本当の私の感情が爆発してることを。
今度は恥ずかしがらずに観客を見る。みんな笑顔。感動してる。見てくれてる。何らかの形で。
私の観客。この人たち全員が私を見てくれてる。私の音楽を聞いてくれる。私の歌を、作曲を愛してくれる。だからファンと呼ばれる。
忘れてた……完全に。本当は一人じゃなかった……。
でも何より理解したこと。いつも私と一緒にいたのは――私自身。私だけが自分を理解できる。私だけが前に進める。自分自身を見失っていた。忘れてしまっていた。いつも私と一緒にいた人がいるということを。それは私自身。私だけが内面の傷をすべて乗り越えることができる。
でも光が必要だった。アレクスが教えてくれた。迷子になった私自身がどこにいるのか。彼なしでは……こんな風には前に進めなかった。
ついに曲が終わる。汗をかいてる。病気のせい?それとも本当に疲れ?
もうそんなことはどうでもいい。コンサートは終わった。生きてここにいることが嬉しい――
ありがとう。
次回――
レイナ編ついに完結。
すべての少女の心は救われた。
失い、迷い、泣き、願い――そして、前を向いた。
けれど……物語の片隅で、ただ見守り続けた“彼女”の想いは、誰が救うのだろう?
答えのない問い。
触れられなかった願い。
語られなかった真実。
物語は最終局面へ。
残された謎、残された絆、残された使命。
終わりのための、最後の旅が――静かに幕を開ける。




