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霊輝  作者: ガンミ
112/130

歪んだ愛囁き

嵐の前の静けさが、ほんの一瞬だけ街を包む。

その静寂の中で、アレクスはレイナという存在の「危うさ」に触れ、彼女を縛る“何か”を知ることになる。

そして、遠征を終えたアンジュが再び現れ、世界の均衡が崩れ始めたことを告げる。

それは、日常と非日常の境界が消える前触れだった―― 。

『12月9日 / 17:23』


撮影現場にいた。フォトセッションか何かをやってる場所だ。俺の仕事は食べ物や水を運んだり、周りのものを整理したりすることだった。こういう活動での雑用だな。


昨日、レイナのマネージャーから詳細を全部聞かされた。必要なら学校を休むことも要求されるって言われた時は驚いた。ただのアシスタントにしては極端すぎる。間違いなく、この全ての背後に何かがあると感じていた。


レイナがカメラの前でポーズを取っている。着ている服がやたらと派手で、視線を引きつける魅力を演出していた。


「おい、集中しろよ新人!」


「あ!すまん」


またやってしまった。レイナの美しさに気を取られてしまう。あの魅力があるから、つい見惚れてしまうんだ。


ついに撮影が終わった。レイナが近づいてきた。


「更衣室に来て」


それだけ言って去っていく。俺は残りの仕事を片付けてから、彼女の更衣室に向かった。今のところ、このアシスタントの仕事をするしかない。


更衣室の扉を開けると、レイナが着替えている最中だった。慌ててドアを閉めた。心臓が高鳴り、顔が熱くなった。こんなことが起こるなんて……いや、可能性はあるだろうが、相当な偶然が重ならないと起きないようなことだし、特別な状況が...あー!なんでこんなことを考えてるんだ!


突然、後ろのドアが開いて、レイナが何事もなかったかのように俺を見つめていた。先ほどのことは全く気にしていないようだった。


「申し訳ありません!」頭を下げたが、彼女はしばらく何も言わなかった。


「……なぜ謝るの?」


「なぜって……ノックもしないで入って、お前が……」


「……そう……見られる罪と見る罪、どちらが重い?」


レイナの言葉に困惑した。


「え?」


「何でもない……そもそも人間の体なんて肉でしかない……」


また、あの奇妙な感覚を覚えた。彼女の何かがおかしい。話し方、表現の仕方、いつもの無表情な視線……彼女の中の何かが「壊れて」いるようだった。


「……入って!」


更衣室に入った。結構広くて、箱や服、アクセサリーなど色々なものが置かれていた。


「……この前の話の続きがしたかった……」


「どの話だ?」


「コーポレーションの話」


レイナがコーポレーションについて話したがるなんて驚いた。なぜ今それを持ち出すんだ?


「私の所属するコーポレーションは、ヘイブン・フロント・コーポレーションよ」


その名前を聞いて、全てが明確になった。疑いは確信に変わった。あのコーポレーションが全ての背後にいる。過去を考えれば、ひかりやメリッサとの繋がりも、レイナのことを知っていたから彼女たちを狙うのも納得がいく。


「そのコーポレーションは、お前の力のことを知ってるのか?」


「ええ、彼らが私に制御を教えてくれた」


その言葉に疑問を感じた。連中が彼女に人工的な霊輝の制御を教えられるはずがない。それは不可能だ……では、彼女は何について話しているんだ?


「具体的に何を教わったんだ?」


「……制御を失わない方法...最初は怖かったけど、時間が経つにつれてその恐怖を感じなくなった。彼らは私のためだと言った……」


俺はますます確信した。連中が彼女に何かをしたんだ。彼女の中の何かがさらに変質させられているのかもしれない。


「なぜ俺にこの話をしたがるんだ?」


「……分からない……ただ話したかった」


彼女の言葉も完全には信じられなかった。彼女も何か隠している、秘密のようなものがあるようだ。彼女もこの全てにおいて奇妙な存在だった。


レイナが棚からリップを取り上げながら言った。


「このリップは……秘密を閉じる鍵よ。塗れば塗るほど……言葉がその色に沈んでいく」


彼女はリップを元の場所に戻すと、そこにあった化粧品を全部じっと見つめていた。何を言ってるのか全然分からない。彼女が秘密だっていうのか?


突然レイナがこっちに近づいてきて、じっと見つめてきた。こんなに近くで見るのは変な感じだな。少しだけ俺より背が高いのか。そんなことに今まで気づかなかった。一瞬、別の方向を見てから離れた。


「……明日……私の家に来て欲しいの……」


「は?お前の家に?なんで?」


「……分からない……ただそうしたいだけ。それに……もっと話すことがあるの……」


「今じゃダメなのか?」


「……ダメ……私の家じゃないと……」


急にレイナが俺に近づいてきて、ポケットに紙を入れた。多分住所が書いてあるんだろう。なんで急に家に誘ってくるんだ?


レイナが去った後、ポケットの紙を見た。22時から家で待ってるって書いてある。でも何か変な感じがする。この感覚が消えない。


その奇妙な感覚を抱えたまま家に帰った。まだその感覚は消えずにいた。


『12月10日 / 7:16』


朝食を食べていると、ライラが歯を磨いていて、父さんは外で車をチェックしていた。突然、影の中から彼女が戻ってきた……こんなにも突然に。俺の隣の椅子に座ったのはアンジュだった。


「久しぶりねアレクス!」


食べ物が喉に詰まった。咳き込んだ。突然の出現に驚いて、水を一気に飲み干して食べ物を流し込み、アンジュをじっと見つめていた。衝撃を受けていた、彼女が戻ってきたことに。


「アンジュ?本当にお前なのか?本物か?」


「私以外に誰がいるというのよ」


突然アンジュを抱きしめた。


「ちょっと……何……」


何かを言いそうだったが、結局何も言わなかった。俺も何も言わず、ただ抱きしめ続けた。彼女がまた会えること、無事だったこと、何も起こらなかったこと、それは単純に嬉しくて安心感をもたらしてくれた。


「お帰りアンジュ」


「……お、おお……」


アンジュは話せなくて、何かを言おうとしてどもっていたが、言いたいことが何であれ言えなかった。アンジュに触れた時に感じる感覚があったが、彼女の冷たさが少しずつ熱くなってきた。手が火傷する前に彼女を離した。


「何があったんだ?話してくれ」


アンジュは遠征中に何があったかを話してくれた。いくつかの夢喰いと戦った。人間の世界とは別の世界にいた。赤く光る大きな木があった。放棄された城もあった。


多分そこに『夢』があるのだろう。そしてそこにセレステがいた。ひどい状態だったが、今は治療を受けている。責任者も特別なものも見つからなかったが、少なくとも情報を集めた。


また、この遠征では損失もあった。彼らの世界の数人が戦闘で敗れた。それがアンジュを沈んだ気持ちにしている。しかし、この全ての中でもっと何かがあった。彼女は数日前に人間の世界に戻ってきていた。戻ってから、街に「擾乱」があった。『夢』の責任者が何かを計画していて、それが間もなく起こるかもしれない。彼らの世界の全部門の隊長によると、それが近づいているということだ。アンジュの理論によると、これまでにない最大の夢喰いの攻撃が来るかもしれない。


これを聞いて考えなければならないとわかった。家族の助けを求めなければならない。この問題に立ち向かわなければならない。


「心配するなアンジュ、家族に助けを求めるよ」


「オマエの家族に?」


「そうだ、まだ知らないんだったな」


アンジュが眉をひそめて困惑した。この間に何があったか全て話した。家族の起源を発見したこと、霊輝の力について、そして親父がずっと彼女を見ることができたということを。アンジュは固まって反応しなかった。外にいる間に何があったか全て話し終わると、何度も瞬きして、ついに叫んだ。


「あああああ!!」


「うるさいな!」


「オマエの父親はずっと私を見ることができたのよ?」


「ああ、そう言っただろ」


「あの男」


アンジュは拳を握りしめて怒りながらリビングの方向を睨んでいた。


「テレビを見てる時にあの男は私を見てないふりをして、テレビを消していたのよ。ずっと私を見ることができたなら、わざとやっていたのね。もう!」


「待てアンジュ!父さんを責めるな」


アンジュは、父さんがずっと彼女を見ることができたことで仕返ししたそうだった。唯一気にしているのは、彼女がテレビを見ている時にいつもテレビを消していたことのようだった。


「ところでアンジュ、もう一つ話すことがある」


「何よ?」


「最後の霊輝を持つ少女について」


レイナに会ったことと、彼女と知り合ってからこの数日間に起こっていることを全てアンジュに話した。


「レイナという名前ね……うーん」


「なぜ"うーん"なんだ?」


「別に何でもないわよ、ただ彼女の名前が女王を意味するのが面白いと思っただけよ」


「人間の名前について、そんな詳細を知ってるなんて驚いた」


「知性があることを申し訳なく思うわよ」


「それで、どう思う?」


「オマエの描写から彼女には何かあるようだけど、それが何かはわからないわね」


時間を見ると学校に遅れそうになっていた。考え込んでいるアンジュを残して出かけることにした。後で彼女の家に会いに行くつもりだった。それを考えると、あの奇妙な感覚が再び戻ってきて、鳥肌が立った。


『22:10』


空を飛びながらレイナの住所を辿って行った。指示された場所に着くと、家というよりは豪邸だった。巨大な庭には植物、木々、花、装飾品が溢れていて、この豪邸の構造を見ただけでも、彼女が単なる有名人ではなく、相当な金も持っていることがわかる。


彼女のメモに書かれていた通り、屋敷の南側の窓の近くにそっと降り立った。窓を叩くと、すぐに開いた。レイナは相変わらず無表情で、手を差し出してきた。


「どうぞ……」


手を取って中に入ると、彼女は窓とカーテンを閉めた。部屋はとても広く、暗かったが、全てがきちんと整理されているのがわかった。


突然、後ろから抱きしめられた。


「何してるんだ?」


「……マッサージがしたかっただけ……」


「そんなの必要ない。話したいことがあるって言ってたろ」


座る場所も何もよくわからなかったので、彼女のベッドに近づいた。すると彼女も俺に近づいてきて、寝間着のガウンを着ているのに気づいたが...突然それを脱いだ。下に着ていた下着は、あまりにも挑発的だった。


「え、ちょっと待て!何してるんだ!?」


彼女は何も言わずに俺をベッドに押し倒した。立ち上がろうとしたが、また押し倒されて、彼女が俺の上に座った。


「……動かないで……」


突然、首の近くに冷たいものを感じた。振り返ると、彼女は針のついた拳銃のようなものを持っていた。今まで感じていたこの奇妙な感覚は、これが原因だったのか。彼女の冷たさは、もしかして……人を殺すような悪いことをしてきたからなのか……。


「なんでこんなことするんだ?」


「……命令されたから……」


「俺をアシスタントにするって話も、その計画の一部だったのか?」


「……いえ……計画はその後に来たもの……」


「じゃあ本当に俺をアシスタントにしたかったのか?」


「……」


「レイナ、お前は何をしようとしてるんだ?ただ命令を受けるだけか?」


「……」


「奴らが望んでることは、お前が望んでることじゃないだろ。やめろ!」


「……アレクスを誘惑しろって……あの人たちが命じてきた……アレクスを始末しろって……邪魔だって……でも……」


言葉には迷いがあったが、表情と声はその言葉と一致していなかった。しばらくの間、二人はただ見つめ合った。彼女は視線を逸らし、その奇妙な拳銃を遠くに投げ捨てた。最終的に俺の上から降りて、何も言わずにガウンを着直した。


彼女が盲目的に、あるいは強制的に誰かの指示に従っているのは明らかだった。でも誰の?そしてなぜ?


ベッドに座ったまま、彼女の答えを聞かなければならなかった。


「なぜ俺を殺そうとした?」


「……私は……」


「じゃあ誰に命令された?」


「……言えない……」


「なぜだ?命令だからか?」


レイナは何も言わない。本当に話したくないようだ。きっと彼女が企んでいることや受けた命令が何であれ、運良くその場から逃れられたのは偶然だったんだろう。間違いなく、彼女が命令に逆らったことで、彼女だけでなく俺にも何かが起こるかもしれない。


「帰った方がいいな」


「待って……」


足を止めて振り返る。わずかな光に照らされた彼女を見ると、表情は相変わらずで、声も感情を見せていない。それでも俺を止めるために声をかけてきた。


「……これはアレクスのせい……」


「……?何が俺のせい?」


「アレクスが言った時……できるって……」


霊輝から彼女を解放できると俺が言ったことを指しているようだ。どうやら彼女の奥底で何かが動揺し、それで迷いが生じたのかもしれない。それが彼女が悪いことをしなかった理由でもあるのかもしれない。


「……私に何が起きているのかわからない……もし言うとすれば……命令は鎖ではない。踊る蝶は誰の糸にも縛られない」


気づいたことがある。彼女はいつもこういう風に話す。まるでそれが彼女の表現方法のようだ。


「その蝶が踊っているって言うなら、何が起きているのか教えてくれ」


「……口にした真実は、もう誰の手にも戻らない」


なぜそんな風に話し続けるんだ?哲学的な言葉なのか?それとも別の何かなのか?彼女を理解することができない。感情の欠如は、昔知っていた誰かを思い出させる。でもその人でさえ、レイナほど難しくはなかった。何かが彼女を縛っている。


帰ろうと振り返ろうとしたが、彼女の足音が聞こえた。俺のセーターを引っ張って止めようとする。


「今度は何だ?」


「……まだ私のアシスタントでいてくれる?」


信じられない。ほとんど俺を殺しかけたのに、まだわがままにそんなことを求めている……でも断れない。彼女のアシスタントでいることが、今のところ彼女の近くにいる最良の方法だ。彼女を霊輝から解放したいなら、近くにいなければならない。


「ああ、アシスタントでも何でも続けるさ」


何も言わない。振り返って彼女を見ることもしない。どうせ表情は変わらないだろう。窓を開けて、振り返ることなく出て行った。


結局、彼女を訪ねて発見したのは、彼女が一種の暗殺者かもしれないということ、あるいはそうではなく単に誰かの命令に従っていただけかもしれないということだ。まさにそのせいで、彼女は何かの囚人のように見え、自分の意志で話すことを妨げられている。責任者を早く見つけなければならないと感じた。そうしなければ、レイナは自分の意志で何もできないままだろう。


『12月11日 / 6:38』


今朝、激しい雷の音で目が覚めた。いつもより早い時間だった。窓のカーテンが外の景色を隠していたが、落ちる稲妻の光は恐ろしいほどで、ベッドからでも見えた。


立ち上がって外を確認しに行った。とても強い風が吹いていて、雲がとても暗く見えた。まだ暗いせいで完全には見えなかったが、雷鳴が響き、稲妻が走っていた。


背後にアンジュが現れた。


「アレクス、大きな問題があるのよ」


「何だ、アンジュ?」


「外のあの雲は自然じゃない……夢喰いが引き起こしているのよ」


「何だって!?」


再び窓から外を確認した。あの雲を見つめていると、本当に普通に見えた。


「まさか俺だけに見えるのか?」


「違うわ。この現象は違う。夢喰いに関連している可能性はあるけど、確実に誰もが例外なく見ることができるの」


父さんとライラに話しに行こうと走った。昨日の朝にアンジュが言ったことを伝えられていなかったので、今起こっていることについてアンジュと一緒に話すために、みんなをリビングに集めた。


リビングに集まると、父さんが最初に言った。


「アンジュさんですね、よろしく」


父さんが挨拶したにもかかわらず、アンジュは腕を組んで無視した。この間ずっと父さんにしたことで、まだ怒っているのだろう……でも今はそれが問題じゃない。


「アンジュが外の雲は夢喰いのせいだと言ってる。何かが起ころうとしているかもしれない……」


父さんは腕を組んで考え込んだ。


「何を企んでいると思う?」


今度はアンジュが前に出た。


「私が説明させてもらうわよ」


アンジュは誇らしげに胸を張った。いつもの典型的な態度だった。


「報告と理論によると、私たちが知らない誰か、『黒幕』とでも呼びましょうか、この全てに関わっている可能性があるの」


「つまり?」


「夢喰いが街全体を攻撃しようとしているのよ……動機は分からないけど、あの雲は自然じゃない……あの雲こそが夢喰い本体なのよ」


「何だって!?」


みんなが同時に叫んだ。それを聞いて、外のあの雲が全て夢喰いだって...でも今まで見てきたものとは違うじゃないか。なぜ?


「でもなぜあの雲は青くないんだ?いつも現れる時は」


「進化したからよ。あれは単純な夢喰いじゃないの」


外で大きな雷が鳴った。ライラは怖がって父さんにしがみついた。


「奴らと戦うべきか?」


「そうよ」


こんなに多くの夢喰いとどうやって戦えばいいのか心配だった。


「でもこのような攻撃は急には起こらない。計画が必要なのよ」


アンジュはそう言うことに確信を持っているようだった。本当に何かを待っているのか?何かを計画しているのか?もしそうなら、これをして何を求めているんだ?


「アンジュ!奴らの目的を知ってるのか?」


「全然分からないわよ!」


外の激しい雨が家の屋根を叩き始め、さらに雷が鳴り、窓のカーテンから稲妻の光が恐怖を感じさせた。


「エミリーに連絡すべきだ!」


でもスマホを探しに行く前に、誰かがドアを激しく叩いた。ドアに近づいて開けに行こうとしたが、父さんが言った。


「待てアレクス、俺が開けるべきだ!」


「大丈夫、俺に任せてくれ」


父さんが近づいてきたが、俺の方がドアに近かった。開けるとそこにはエミリーがずぶ濡れで立っていた。急いで中に入ってきて、寒さで震えていた。


「エミリー?ここで何してるんだ?」


話すことができなかった。寒さで震えていたんだ。父さんがライラに言った。


「ライラちゃん、急いでタオルを持ってきて!」


一体何が起こってるんだ?エミリーがここで何をしてるんだ?この奇妙な状況が何なのか理解しようとしていた。

次回、

嵐は形を取り、街を飲み込もうとしていた。

そして、その空から降り立つのは……一人の“女”。

赤い月の下で、彼女は約束を果たすために現れる。

だがその最中、レイナとの理解に向けた歩みの前に、

アレクスが無視できない“何か”が立ちはだかる。

夢と現の狭間で、運命が静かに交錯する――。

物語は、さらなる「真実」と「邂逅」へと進み出す。

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