最後の使い手
穏やかな再会と和解ののち、ようやく訪れた静かな時間。
だがその裏で、アレクスの探していた“最後の少女”の存在が、現実の中に輪郭を現し始める。
偶然の出会いが運命を呼び寄せ、霊輝と人工霊輝、そして“コーポレーション”という名の影が交錯する。
静かな街の中で、物語は再び動き出す――。
『11月29日 / 10:18』
リビングにみんなが集まっていた。父さんとソフィーさんは何も言わず、明らかに緊張している様子だった。
「父さん、ソフィーさんと話すことがあるんじゃないのか?」
父さんはソフィーさんの方を振り返ったが、何も言わずただ緊張しているだけだった。すると突然、ソフィーさんがエミリーの方を振り返って言った。
「エミリー!なぜ私を騙してここに連れてきたの?」
エミリーは腕を組んで聞こえないふりをした。それが母親を怒らせたが、驚いたことに父さんが割って入った。
「落ち着けよ、ソフィー。エミリーをそんな風に叱るなよ」
「甘やかすことしか知らない父親の助言なんて聞きたくないわ」
「何だって?」
この親同士の議論は緊迫したものじゃなく、むしろこれが二人の付き合い方みたいだった。
「ソフィー……どのくらい経ったかな?はは」
父さんが不意に話題を切り替えたことで、張り詰めていた雰囲気が一転した。
でもソフィーさんは反応せず、少し怒った様子で父さんを見つめていた。
「せっかくここにいるんだから...謝りたいんだ」
その言葉を聞いてソフィーさんは振り返った。とても驚いていた。
「すまない!……いつもお前が正しかった。でも俺は一つの可能性にしがみついていた……単純な考えにしがみついて、俺だけじゃなく高い代償を払わせてしまった。あの時の俺の決断はお前にも影響を与えたはずだ。だから、すまない!」
父さんは頭を下げて謝罪した。ソフィーさんは怒りを捨てたようで、今度は心配そうに父さんを見つめていた。
「頭を上げなさい、アクセル」
父さんが顔を上げると、二人は再び見つめ合った。父さんが笑顔を見せると、ソフィーさんも笑顔を返した。父さんが立ち上がり、ソフィーさんも同じように立ち上がった。父さんが握手のために手を差し出すと、迷うことなくソフィーさんと握手を交わした。過去の違いに終止符を打つような行為だった。大人らしく向き合い、お互いを受け入れたんだ。
ウィリアムはこの瞬間を見て嬉しそうだった。エミリーは泣きそうになっていた。下に降りてきたライラは俺の後ろに隠れていたが、少し悲しそうに見えた。でもライラの悲しみは何か遠く、この状況とは関係ないようだった。
何か言おうとした時、筋肉質の男が突然叫んだ。
「ああああ!!」
俺はその男を見ただけで、これがエミリーが話していた曾祖父だと推測した……でもなぜ叫ぶんだ?この家族にはこんな変な人がこんなにいるのか?
「そうだ!これが和解の仕方だ、愛しい子孫たちよ」
なんという呼び方だ。どうやら感動の瞬間に叫んだだけらしい。間違いなくこの家族はみんなそれぞれエキゾチックだ。
最終的にエミリーが曾祖父を正式に紹介した。名前はトムというらしい。エミリーによるととても強いとのことだった。俺は一瞬、文化祭であの日起こったことを思い出し、もしかして彼があの『夢』に対して助けてくれたのかと疑問に思ったが、首を振った。
「俺じゃない!」
「じゃあ誰だったんだ?間違いなくあの時、強力な霊輝を見たんだが」
突然父さんの声が割って入った。
「アレクス……俺だった」
「えっ!?」
「あの日、敵の霊魂を感じた。強敵がいることが分かって、お前がその敵と一人で戦っているのを見た。ただ俺の攻撃を放って敵を倒しただけだ」
言葉を失った。あの日のことは父さんの仕業だったのか。あの瞬間であいつを倒した霊輝は父さんのものだった。今の俺の力と父さんの力の差がこれほどあるなんて、信じられなかった。
「父さん!」
「ああ?どうした、アレクス?」
「今すぐ霊輝の訓練がしたい」
突然曾祖父のトムが言った。
「それなら今、みんなが集まっているこの機会を活かして訓練しよう。それに、君たちを驚かせるものを教えてやろう」
曾祖父トムの技術は大いに役立つかもしれない。いわばベテランで、きっと多くの戦闘技術を知っているはずだ。
「攻撃に名前をつける方法を教えてやろう!」
それを聞いて俺は固まった……名前?攻撃に?
「今まではおそらく霊輝のエネルギーを作り出すことしかしていないだろう?」
「そうです」
「霊輝はただそのエネルギーを敵に放つだけのものじゃない。形と名前を与えなければならん。言い換えれば、何かを描きたいなら想像力に従って形を探さなければならない。霊輝も同じことで、完成したら名前をつけるんだ」
その論理について考えた。霊輝は自分が作り出すものに形と名前を与えることなのか。だからあの時父さんはあの言葉を叫んでいたのか。
俺と家族全員は霊輝について話し続けた。霊輝に形を与え、名前をつけることを学ばなければならない訓練について。
『11月30日 / 9:39』
ベッドに横になってスマホでSNSを見てた。なぜか至る所でピアニストのレイナが復帰したってニュースが出てる。みんなその話ばっかりだ。どこを見てもこのニュースが一番話題になってる。
あ……そういえば、修学旅行のホテルで見た女性だ。間違いない。あの時見た女性がレイナか。確かに芸能人って感じの見た目だった。長いダークブラウンの髪、大人っぽくて冷たい雰囲気。その目は人を見定めてるみたいで……スレンダーだけど、彼女らしい魅力が際立ってた。
正直、アナも美人だけど……レイナは初めて見た時、目を奪われる感じだった。まあ、結局どっちも同じくらい魅力的だよな。
ちょっと調べてみよう。情報によると25歳、幼い頃からピアノ、歌、ダンスを習ってたらしい。9歳の時にテレビドラマで脇役デビュー。そのドラマでピアノを弾くシーンが話題になって一気に有名になった。その後音楽アルバムも出したけど、どうやらピアニストとしての活動の方が好きだったみたいだ。少しずつ有名になって、メディアでも色々やってた。
でも去年変なことが起きた。突然姿を消したんだ。所属事務所は曖昧なコメントしか出さなかった。明確な説明もなし。忙しいスケジュールが入ってたのに、全部キャンセル。謎だらけだ。
もっと深く調べてたら、あるスレッドを見つけた。「注意!消される前に見ろ!」って書いてある。入ってみたら、コメントはほとんどなかった。去年のコンサートでレイナが突然倒れたって話が出てた。でもコメントの一つに、その日の動画を添付したものがあった。「あの日レイナさんは倒れただけじゃない。青い光が彼女に降り注いで、すぐに消えた」って書いてある。
動画を再生した瞬間……凍りついた。
あの光は間違いない……霊輝だ。人工霊輝。このユーザーが撮った動画は、レイナが霊輝と融合した瞬間を捉えてる。間違いない。
でもレイナが最後の一人なら、どうやって有名人に近づけばいい?普通なら不可能だ。でも俺には力がある。何かできるかもしれない。
そういえば、ホテルで見た時、彼女の周りには警備員がたくさんいた。なぜあんなに厳重に守ってる?もしかして、周りの誰かが彼女の持つ力を知ってて、保護してるのか?
信じられない。最後の人工霊輝使いと出会ってたのに気づかなかった。しかもこんな形で知ることになるとは。
明日、みんなに話してみよう。動き始めて、彼女を探しに行く準備をしないと。
……アンジュがいてくれたら、もう少し……賑やかになるのになぁ。
『12月1日 / 15:40』
学校からルーシーとエミリーと一緒にアナの家に向かっていたんだが、今日の寒さは歩くのが辛すぎた。バスを待つことにしたんだ。
突然エミリーがくしゃみをした。
「大丈夫かエミリー?」
「うん……でもここで待ってるのも寒くて……私、寒いの嫌いなの!」
エミリーのために何か温かいものを買いに行こうと決めた。
「待ってろ、何か温まるもの買ってくる」
「大丈夫よアレクス先輩、無理しないで」
「このままじゃ風邪ひくぞ。すぐ戻る」
以前バイトしていた一番近いコンビニに向かって走った。でも到着する前に、街の周りがざわついていた。人々が何かを探すように辺りを見回している。俺の目の前の光景は奇妙で不思議だった。それを無視して、何か温かいもの……コーヒーでもあればエミリーが温まるだろうと思って店に入った。
外に出ると、まだ騒ぎが続いていた。今度は好奇心に駆られて、何が起こっているのか見に行くことにした。少し歩いて周りを見回したが、人々はもう諦めたようで帰り始めていた。
そして俺は広い公園にたどり着いた。とても大きくて、こんな場所は見たことがなかった。そのとき遠くに何かを見つけた。この大きな公園のずっと向こうに、誰も周りにいない状態で一人立っている人がいた。
その人をよく見ると……目がはっきりと捉えた瞬間、それはあの女性だった……レイナ。
驚いた。彼女がそこに一人で立っていた。一歩前に進んで近づこうとしたが、もう一歩は踏み出せなかった。でも近づかなければならなかった。ゆっくりと彼女に向かって歩き、もっと近くで見ると驚いた。彼女は両手でぬいぐるみの熊を抱えていた。視線は地面に向けられ、俺が最後の一歩を踏み出して彼女の前に立っても振り向こうとしなかった。
ようやく彼女が顔を上げた。メディアで見た時とは違って、髪型が違っていた。髪の一部が右目を覆っていたが、その冷たい視線は同じだった。俺は……彼女の存在に圧倒された。
冷たい風が吹いて、エミリーのところに戻って買ったコーヒーを渡さなければならないことを思い出させた。でも三つのコーヒーを買っていたので、自分の分を彼女に渡すことにした。無言で彼女に手を差し出すと、彼女はコーヒーの缶を見つめて俺の行動を理解できずにいた。
「飲め!これで温まるだろう」
彼女はとてもゆっくりと手を伸ばしてコーヒーの缶を取った。その瞬間、遠くから声が聞こえた。
「おい、お前!!」
逃げなければならないと感じた。彼女から離れるべきではなかった。彼女は霊輝から救い出すべき最後の人だったのに、彼女の前ではあまりにも圧倒されて選択肢がなかった。
最終的にエミリーとルーシーのところに戻って、今起こったことを話した。当然二人とも驚いた。
『12月2日 / 8:00』
教室にいたが、まだ先生は来ていなかった。みんなレイナの話をしている。どうやらクリスマスの日にコンサートをするらしい。昨日、ほんの少しの間だけ会ったことを思い出した。よく考えてみると、なぜあんなに近くにいたのに彼女の霊輝を感じなかったんだ?変だった。今まで出会った女の子たちの霊輝は、近くにいる時はいつも感じることができた。特別なケースもあったが、レイナの場合もそれなのか?近づいても感じなかった理由はそれか?
もう考える時間はなかった。先生が教室に入ってきたからだ。でも集中できない。昨日、みんなと話したことを思い出していた。レイナにどうやって近づくべきかについて。全員が同じ結論に達した—彼女に近づくのはとても困難だということだ。セレブリティだから警備員に囲まれているし、マネージャーもいるだろう。スケジュールも詰まっているはずだ。
でも、この全てに一つの欠陥がある。彼女は人工霊輝を持っているということだ。つまり、彼女の状況を知っている人が少なくとも一人、もしくは数人はいるはずだ。これは推測に過ぎないが、論理的に考えればそうなる。どこに住んでいるか、どこに現れるかを知ることは不可能だし、彼女の霊輝を探知するのも無理だ。人工霊輝は自然な霊輝を探知する従来の方法では感知できない。その存在感、あの感覚をどうやって記憶しておけばいいのかわからない。人工霊輝の時だけ起こることだが……。
でも、何かを思い出した。エミリー!ずっと彼女は人工霊輝を記憶することができる。アナを探していた時にやったじゃないか。そうだ!ずっと彼女はそれができていた。どうしてそんな重要な詳細を忘れていたんだ?その時エミリーは、アナの霊輝を覚えているからあの時見つけることができたと言っていた。エミリーが一緒に来てくれるか、そのやり方を教えてくれれば、レイナがどこにいるかわかるかもしれない。
昼休みか放課後にエミリーと話さなければならない。
『12月3日 / 15:39』
家に帰るつもりはなかった。あの大きな公園を見に行こうと決めた。歩きながら、昨日エミリーと話したことを思い出した。彼女は人工霊輝の存在感をどう表現すればいいかわからないと言っていた。他の霊輝と同じようにやってるだけで、何が違うのかわからないって。でも俺には無理だ。家系の遺伝子のせいなのか?まあ、どうでもいい。
大きな公園に着いて辺りを見回した。誰もいない。遠くを何人か通り過ぎていくが……そのとき、木々の間に彼女がいた。またあの場所で。木の下に座って、完全に動かずにいる。
近づくと、彼女は公園の草に視線を向けていた。話しかけようとしたその瞬間、やっと俺の存在に気づいたようだった。そして同時に感じた……彼女の霊輝を。なぜか今になって感じ取れた。でも……彼女がもっと顔を上げて、その目と俺の目が合ったとき、彼女の霊輝がどんどん大きく、重くなっていくのを感じた。あまりにも重くて息ができなくなりそうだった。
俺がほとんど息もできない状態なのに、彼女は何もしなかった。反応もしない、動きもしない。ただじっと見つめてくる。いつものあの表情で。初めて会ったときと同じように、俺はまた……彼女に威圧感を感じていた。
なぜだ?なぜこんなことになる?
結局何もできずに去ってしまった。何も言わずに。なぜチャンスを無駄にしているんだ?何が俺を止めているのかわからない。明日もまだあの場所にいるなら、この感情を全部押し殺して、とにかく話しかけてやる。念のため、エミリーも連れて行こう。
『12月4日 / 15:42』
今日、学校を出た後、エミリーと一緒にあの大きな公園に向かった。エミリーには距離を保ってもらって、レイナの霊輝を感じ取れるようにしたかったからだ。
公園に着くと、エミリーはかなり遠くに留まり、俺は昨日と同じ場所へ向かった。でも今度は彼女はそこにいなかった。周りを見回したが、どこにも見当たらない。
公園中を歩き回って探し続けた結果、ついに見つけた。今度は木の上に座って、そこから全てを見下ろしていた。近づくと、また彼女の霊輝を感じた。まるで息を奪われるような感覚……これが彼女の圧倒的な力の現れなのか?
レイナが視線を下ろして俺を見ると、いきなり飛び降りた。本当に突然、怪我するかどうかなんて気にせずに。でも予想通り、彼女の現在の状態では傷一つない。それでも、あまりにも荒っぽい降り方だった。
彼女が近づいてくる。感情を抑えながら、ようやく話しかけた。
「よう!」
彼女は答えない。ただその冷たい眼差しで俺を見つめるだけ。髪が右目を隠している。
「怪我とかしてないよな?そんな降り方、もっと気をつけた方がいいぞ」
でも返事はない。近くで見ると、まるで人形を前にしているような新たな印象を受けた。とても作り物じみて見える……。
突然、レイナが初めて口を開いた。
「……誰?」
「俺はアレクスだ」
「……サインは……しない……」
「いや、サインが欲しいわけじゃない」
「……じゃあ……何?」
「話がしたいんだ」
「……ごめん……インタビューは……予約制……」
彼女と会話するのは奇妙だった。優しいトーンだが、ゆっくりとしたペースで、何事にも言い訳があるようだった。
「聞いてくれ、レイナ。俺はお前が持ってるものを知ってるんだ!」
「……コーポレーションの……メンバー?」
コーポレーション?驚いた。
「今何て言った?」
「……コーポレーション……」
「でもメンバーって言ったよな?何のことだ?」
「……違うの?」
混乱しながら状況を理解しようとしたが、レイナは別の方向を向いて歩き始めた。
「待てよ!」
後を追ったが、彼女は何も言わない。完全に無視している。
「待てって言ってるだろ!」
軽く振り返って言う。
「じゃあ……コーポレーションの...メンバーなの?」
まだその コーポレーション のメンバーかどうか聞いてくる。
「違う、違うよ!でもちょっと止まってくれ!」
「……無理……帰らなきゃ……」
奇妙な風が俺を止めた。彼女が作り出したもののようだった。そして一跳びで空へ飛んでいった。
またしても驚かされた。どうやって飛行能力を使えるんだ?レイナとの出会いは、進歩よりも疑問を増やしただけだった。
エミリーが後ろから近づいてきた。疲れ切った様子で、まるでマラソンを走ったかのように息が苦しそうだった。
「アレクス先輩……はぁ……はぁ……息が……できない……」
「どうしたエミリー?」
「……あの人の...霊輝が……重すぎるの……何分も……離れようとしてたけど……はぁ……はぁ……息苦しくて……」
エミリーがレイナの霊輝に俺とは違うレベルで影響を受けているのを見た。なぜこんなことが起きているんだ?ちくしょう、アンジュがここにいてくれたら。
次回、
アンジュの戦いが再び幕を開ける。
彼女は仲間を失いながらも、異世界で“救出”という使命を果たす。
その一方で、ルビーが取引した“代償”が明らかになり、アレクスと彼女の関係にも大きな波紋が走る。
そして――アレクスは“最後の少女”レイナにさらに踏み込むことになる。
すべてが交わり始める中、運命は、静かに最後の道を歩み始める。




