系譜の真実
真実は時に、光よりも鋭く心を切り裂く。
アレクスは、答えを求めて再び父と向き合う。
長い間閉ざされてきた家族の秘密——それは彼の「始まり」と「運命」に繋がっていた。
すべては十五年前に起きた悲劇から動き出していたのだ。
『15年前 / アクセル』
全てはあの日から始まった。俺は美しい女性と結婚した。彼女は遠い国から来ていて、俺たちは深く愛し合った。だが、俺たちが出会った状況は……俺が彼女を「敵」から救ったからだった。
結婚後、俺にはやるべき「任務」があった。ソフィーと一緒に、街を静かに脅かす脅威から守ることが俺たちの役目だった。しかし、その「任務」はもう重要じゃなくなった。ただ、結婚したその女性—胡桃に集中したかっただけだった。
俺はヴェスパー家での立場を捨てた...逃げ出したと言った方が正しいかもしれない。ソフィーに話したが、当然彼女は反対した。喧嘩になり、俺たちの友情は崩れ去った。ヴェスパー家での地位を捨てたことで街を危険にさらしたが、そんなことはどうでもよかった。
少し後にアレクスが生まれた。そしてアレクスが三歳になったちょうどその時、状況が変わり始めた。もしかすると呪いのようなものだったのかもしれない。ヴェスパー家とウォルター家では昔から「M」は「P」から離れることはできないと言われている。もし誰かがこの自然の法則に逆らおうとすれば、最終的には禁忌となり、逆らった者だけが影響を受けることになる。
胡桃はいつも他人を助けたがる女性だった。何かの組織や会社に属しているわけではなく、純粋に自分の意志で行動していた。それが俺を惹きつけた理由かもしれないが、その優しさは同時に彼女の弱さでもあった……。
「あなた、今日はアレクスの面倒をお願いします」
「ああ、もちろんだ。今日は何をするんだ?」
「私の両親に会いに行きます。どうやら訪ねて来るみたいで」
「車で迎えに行こうか?」
「大丈夫です。家に連れて来ますから」
彼女は、俺の義理の両親を迎えに出かけた。その日、家を訪れる予定だったのは俺の義父母だったのだが……その日、俺は気づかなかった。考えもしなかった。知らなかった……待っていたのは家族の訪問ではなく、敵の訪問だったということを。
その日、数時間が過ぎてアレクスと遊んでいた時、感じ取った。この能力があるからこそ—胡桃の霊輝が弱くなっていることを。絶望的になり、アレクスを抱えて彼女を探しに出かけた。
車は人里離れた道路で木に激突していた。本来行くべき場所への道でもない。近づくと驚いたことに、車の中には誰もいなかった……だが再び感じた。彼女の霊輝が今度は道路脇の深い森の中にあることを。
空中に浮上して彼女を探すと、胡桃の霊輝がある場所で止まっているのを感じ取った。動いていない。その場所に降り立つと、彼女がそこにいた。立っているのが見えたが、後ろ姿だった。しかし何か変だった。何か奇妙なことが起きていた。
近づいて彼女の肩に触れると、振り返った—と同時に腕で俺を攻撃してきた。ついに正面から見えた時、気づいた……もうこれは胡桃ではないということを。
外見も顔も肌も、全てが何かに消費されたかのようだった。もう人間ではなかった……俺は深い痛みを感じた。何が起こったんだ?彼女に何が起きたんだ?なぜ守れなかったんだ?疑問が次々と俺を蝕んでいく。
彼女が俺に襲いかかってきたが、アレクスを抱えているため素早く避けるしかなかった。アレクスがいることで危険が増すだけだった。胡桃のあの姿は、何かに攻撃されたせいだと分かった。何者かがこんなことをしたんだ。
怒りに満ちて叫んだ。「どこのクソ野郎だ!?」
しかし誰も現れない。
「出てこい!!」
歯を食いしばり、アレクスを抱いていない方の手を強く握りしめた。爪が食い込んで血が出るほど強く。それほど怒りに支配されていた。
突然、後ろから二つの影が襲いかかってきたが、再び避けることができた。この程度の攻撃なら避けるのは簡単だ。その二つの影は義理の両親だった。
「クソッ!!」
霊輝を込めて周囲を無差別に攻撃し始めた。責任者が隠れているなら出てくるはずだと思ったが、どれだけ破壊しても誰も現れない。何もなかった。
そこに……謎の存在、俺にとって未知の実体が現れた。人間のような外見だが、明らかに人間ではない存在。それは街をいつも脅かす「敵」の一体だった。
怒りに支配された俺は、この出来事の責任者かもしれないその存在と戦う準備を整えた。
だが...その存在が突然胡桃の声で話し始めた。
「あなた、攻撃しないで……」
「ちっ……」
その存在が胡桃のふりをしているのは明らかだった。でもあの声を聞いて、俺は迷った。
「あなた、痛いの、助けて!」
「……お前は...お前は胡桃じゃない!」
霊輝のエネルギーを込めて、そいつに向かって放った。だが奴は軽々と避ける。アレクスを腕に抱えているせいで近距離攻撃ができない。完全に追い詰められていた。
その時、そいつが胡桃の声のまま本性を現した。
「なかなか騙しにくいのね」
「クソが、彼女の声を真似するのはやめろ!」
「あ〜怖い〜」
怒りが爆発寸前まで来ていた。でもアレクスの顔を見ると、少し落ち着けた。何としてでも守らなければ……認めたくないが、胡桃はもうここにはいない……泣きたくなるほど彼女の死が辛いが、今はアレクスに集中しなければ。同じことが起こらないよう、絶対に守るんだ。
そいつが近距離攻撃を仕掛けてきた。空中で霊輝の障壁を作って防御する。アレクスを一人にして戦うわけにはいかない。誰も助けてくれる人間はいなかった。障壁は攻撃を受けるたびに弱くなっていく。
もう持たないと悟った時、全身を使ってアレクスを攻撃から守った。受けた衝撃で草と泥だらけの地面に叩きつけられる。体中が痺れていた。
そいつが恐ろしい笑みを浮かべた。足音が聞こえる。胡桃と両親が近づいてくる……かつて彼らだったものが。
逃げ場はなかった。アレクスは泣いていて、俺は動けない。すべてが終わりのように思えたが……再び運命が動いた。「M」と「P」の種族は常に共存しなければならない。
突然霊輝の突風が現れ、そいつに素早くダメージを与えた。ソフィーが俺を救いに来たんだ。
「大丈夫、アクセル?」
彼女が助けに来てくれたのを見て、すぐに理解した。血統、家族、ルーツ、本当の種族……それは決して逆らってはいけないものだ。完全に人間じゃない、「M」なんだから。ソフィーは「P」。いつものようにチームとして、バランスを保ってきた。でもそれに逆らった結果がこれだ……なんて馬鹿だったんだ。
残りの戦いは彼女が引き受け、そいつを倒してくれた。生まれて初めて無力感を味わった。家族の中では最強だったのに、愛する人を守ろうとして完全に失敗した。
その後、そいつが倒されると胡桃と両親は「人間」の状態に戻った……見た目だけは。でも実際にはもうこの世にはいない...
葬儀で、それまで以上に辛くなった。最愛の人、人生で一番愛した人を失った痛みに耐えられなかった。泣いて叫んで、葬儀にいた全員が俺の取り乱した姿に驚いた。でもソフィーが平手打ちで現実に引き戻してくれた。
「しっかりしなさい、アクセル!!」
ソフィーを見つめた。彼女はいつも親友で、家族だった。一緒に青春時代を訓練で過ごした。彼女だけが俺の痛みを理解できる……。
その後、ある日ソフィーの家を訪ねた。アレクスも一緒に連れて行った。彼女から大事な知らせがあると言われていた。
ところが、そこで初めて知ったんだ。彼女はすでに結婚していて、二歳になるエミリーという娘までいた。アレクスはその時、四歳になっていた。
まさかそんなことになっているとは思いもしなかった。あの時、胡桃の葬儀で一緒にいたのに、彼女は一言も触れていなかったのだから……。
アレクスとエミリーが一緒にいるのを見た。アレクスがエミリーの小さな手を握っている。彼にはまだ完全には理解できないだろうが、彼女は遠い従姉妹だ。二人がそうやって仲良くしているのを見て、家族の「呪い」がアレクスとエミリーにも続いていることを再び悟った。でもまだそれに逆らいたい気持ちがあった。
「ソフィー、アレクスにはこのことを秘密にしておきたい」
「それがもっと問題を起こすってわかってるでしょう?」
「わかってる……だから考えがあるんだ」
その考えとは、常に移動し続けることだった。いつも街を変え、国を変えていれば、二度と「敵」と遭遇することはない。
年月が過ぎたが、事情により故郷のメトロポリスに戻らざるを得なくなった。もしあそこに戻れば、また何かが起こるだろう。でも同時に、この数年でアレクスとの関係がより遠くなったことにも気づいた。それに、アレクスが何にも馴染めず、すべてから切り離されているように見えることも感じていた。
そうやってこの街に戻ることになった。母親の死から本当の出自まで、アレクスに真実を隠し続けた年月。でも結局...家族のルールに逆らうべきではなかった。そして今に至るまでのすべての出来事へと繋がっていく……。
『11月21日 / 23:40 / アレクス』
この真実を聞いて、全てが理解できた。父さんが俺に真実を隠していたのは、俺を守りたかったからなんだ。父さんは最後まで俺を「普通」の人間にしようと努力していたけど、結果は父さんが期待していたものじゃなかった。母さんの死は実際には「敵」と呼ばれる何かによって引き起こされたものだった。そして父さんはエミリーの母親の仲間だった。二人で街を守っていたんだ。家族の中で「街の守護者」みたいな役職があったらしい……。
全ては既に知っていることと一致していたけど、まだ解決すべき疑問がいくつかあった。
「父さん、本当にあんたの苗字はヴェスパーなのか?」
「……ああ……それが俺の本当の苗字だ。今使っている苗字は母さんのものだよ」
きっと俺が生まれた時から、父さんは俺を家族に関連するすべてのことから遠ざけるつもりだったんだ。だから母さんの苗字を俺に与えたのか。
「それでスズのことはどうなんだ?なんであの子を見て動揺したんだ?」
「それは……過去の世代ともっと関係があることなんだ」
「どういう意味だ?」
「何年も昔、ヴェスパーの一人が魔術師と結婚したことがあってな」
そう言われて、ウィリアムが前に似たようなことを言っていたのを思い出した。
「そのヴェスパーは確か家系図では俺たちの……ひいひいひいじいさんだったかな……まあ、7世代くらい前の祖先ということにしておこう……」
とても古い世代の祖先が魔術師と結婚した。でもそれが父さんがスズを見て動揺することとどう関係があるんだ?
「なんでそのひいじいさんのことを持ち出すのかまだ分からないんだけど?」
「その祖先が子孫を残してから、すべてのヴェスパーも魔術師の血を持つようになったからだ……あの少女が魔術師だと分かった時、完全に動揺してしまった。何かが起こったのか、それともお前が何かを発見したのかと思ったんだ」
「でもどうやってスズが魔術師だって分かったんだ?彼女の霊輝で?」
「いや、知っておくべきだと思うが、魔術師たちは普通の人間のような霊輝を持っている。彼らの力は霊輝ではなく、体の別の源から来ているからな」
「じゃあどうやって分かったんだ?」
「匂いでだ」
「匂い?」
「ああ、あの子は魔術師の匂いがしていた。すべての魔術師や魔法使いは独特な香りを持っていて、とても認識しやすいんだ」
「……俺には彼女から変な匂いなんてしなかったけど」
「それはお前がその能力を訓練したことがないからだ。知っておいてほしいが、俺は小さい頃から戦闘能力と探知能力を訓練してきた」
「もしかして自慢してるのか?」
「全然そんなつもりはないが、要約すると、俺が学んだものは少なくとも三つの探知方法がある。まず霊輝の使用だ。それを感じ取って認識することで痕跡を記録できる。次に霊魂を感じ取ることだ」
「霊魂?そんなの聞いたことないぞ」
「霊輝を探知するよりも複雑な能力だ。霊魂というのは誰かの全て、その存在感、力、パワー……それが霊魂を感じ取ることだ。この能力があれば強力な敵でも探知できる」
そんな説得力のある能力が存在することに驚いた。
「そして最後の探知方法はあまり知られていない。我々ヴェスパー家だけが開発したもので、匂いを基に魔術師や魔法使いを探知することだ」
父さんが俺の知らない、ウィリアムでさえあまり助けてくれなかった多くのことを知っているのに驚いた。そしてウィリアムといえば、思い出したことがある。一度彼らが会ったことがあった。
「それで思い出したことがあるんだけど……ライラが病院にいた時のこと覚えてる?」
父さんの肩が驚きで緊張した。どうやらもう俺が何を言おうとしているか分かっているみたいだ。その反応を見れば明らかだった。
「あのアフロヘアの人覚えてる?」
「ああ」
「ウィリアムって言うんだ」
「ああ、知ってる」
「じゃあ知り合いなのか!?」
「ソフィーの弟だからな、知らないわけがないだろ」
「でも知り合いなら、なんで話してる時に何も言わなかったんだ?」
「そうだな……どう言えばいいか……あいつはとても天然なんだ」
父さんの言葉を処理できなかった。ウィリアムは俺に対していつもとても真面目で責任感のある姿を見せていたのに、天然だなんて全然そんな風には見えなかった。
「きっとウィリアムは気づかなかったんだろう。あいつはいつも何かを考えてるからな」
「……すまない、ちょっと休憩させてくれ。理解できない」
「ああ、あいつはある意味とても謎めいてるんだ。戦闘では決して目立つことはなかったが、戦略を立てる目は確かだった」
「もしかして天才なのか?」
「そこまでのレベルとは言わないが、「敵」と対峙する時、あいつはいつも計画を用意していた。たとえそれが失敗しても、もう次の計画を準備していたんだ」
「……ところで、なんでいつも「敵」って言うんだ?「敵」って何なんだ?」
「そうだな……「敵」は「敵」だ……」
眉をひそめた。とても困惑していた。「敵」という概念や参照が理解できなかった。
「ただ「敵」だと言うのか」
「つまり、俺たちの家族では「敵」という言葉を使って、街の秩序を乱すすべての者たちを総称してるんだ」
この情報を処理し始めた。「敵」と言う時は、それが名前や呼び方を持っていようがいまいが関係なく、ただラベルとして呼んでいるだけなのか。でも街を狙う「敵」がいるって何だ?
「なんでそんなに多くの「敵」が現れるんだ?」
「俺たちの世代のほぼすべてが、この街に現れる何かと戦い続けてきた。あるいは俺たちの特別さゆえに標的にされてきた……言い換えれば、「敵」とは俺たちが戦い続けてきたすべての存在だ。あらゆる種類の生き物、実体、野心的な人間、奇妙な人々、あまり人間的でない存在……少しずつ全部だ。約七世代にわたって戦い続けてきた」
一つのことが理解できた。ヴェスパー家もウォルター家も常に戦闘状態にあった。いつも何かが現れて彼らを狙い、常に戦わざるを得ない状況にある。だから「敵」と呼ぶんだ。いつでも何かが現れて、その脅威と戦わなければならないかもしれないから。まさに今、俺が『夢』と戦っているように。
もしかするとそれが家族内で「呪い」と呼ばれていたものかもしれない。戦うことが運命、エミリーの近くにいること、家族の不文律に逆らうことは運命そのものに逆らうことなのかもしれない。
奇妙な感覚に襲われた。言葉にできない感覚が胸を締め付ける。自分が世代を超えた重荷だということ。でも本当に誰も悪くない。これは俺たちの種族固有のものだ。それが俺たちなんだ。それが今向き合わなければならない真実だ。
もう質問することはないと感じた。十分だった。眠くなってきた。ただ寝たい。
「もう寝ようと思う」
「おやすみ、アレクス……」
でも行く前に、まだ話すべきことが一つあると感じた。
「父さん!」
「どうした?」
「言ったとおり、『夢』って呼ばれる存在と戦ってる……訓練を手伝ってほしい……父さんと同じくらい強くなりたい」
これを聞いて、父さんは驚いた。その驚きは顔に明らかに表れていた。微笑んで言った。
「任せろ。訓練してやる。だが俺は甘くないからな、覚悟しろ!」
「ああ!待ってる」
寝に向かった。このすべてを知り、父さんの支援があることで、新しい自分として自分自身を見るようになった。明日からは普通の日に見えるかもしれないし、そうでないかもしれない。でも俺は朝倉アレクスは変わったんだ。すべての真実を知り、みんなからもらった支援すべてを受けて、明日からは違うと感じていた。新しい始まりが待っていた。
次回、
真実を受け入れたアレクスは、過去に分かたれた家族を再び結びつけようと動き出す。
それぞれの少女たちもまた、自分なりの道を歩み始め、日常の中で新たな一歩を踏み出していく。
失われた時間を取り戻すように、絆と想いが静かに交わる。




