謎の男の予言
修学旅行――。
それは、日常から少し離れた「特別な時間」だ。
だが、アレクスにとってはただの行事ではなかった。
見知らぬ街「ブラックブロング」への旅は、新たな出会いと、まだ見ぬ真実への一歩。
父の背中に感じる微かな影、アンジュの遠征、そしてアナたちの新たな武器。
それぞれの想いが動き出す中、運命の歯車は確かに音を立てて回り始めていた――。
『11月10日 / 8:19』
授業の真っ最中、昨日のことを思い出していた。あのスーツの男と、父さんに渡した手紙のことを。父さんに渡した時、驚いた顔をしていたが冷静で落ち着いていた。でも俺の前では読まなかったし、俺も何も聞こうとしなかった。
突然、先生の声が思考を遮った。
「聞いてくれ、諸君。来週は修学旅行があるから準備しておくように」
またしても驚かされた。修学旅行?学校でそんなことをするなんて思ってもみなかった。色々な時代、色々な国の学校を転々としてきたせいで、違いが大きすぎる。でも修学旅行…調査もできるし楽しめそうな良い機会に聞こえた。
しかし先生は続けた。
「ちなみに君たちも知っての通り、今年の旅行先はこの街の外だ」
は!?
頭が真っ白になった。修学旅行がこの街の外?別の場所に行くなんて思ってもいなかった。でも、もしかしたら……もしかしたら違う視点から次の女の子を探せるかもしれない……少なくともそう期待している。
『11月11日 / 20:37』
部屋にいると、ドアがノックされた。
「アレクス、入ってもいいか?」
「ああ」
父さんが入ってきて、来週の修学旅行の参加許可書を渡してくれた。でも父さんは何か考え込んでいるようだった。部屋を見回して、俺の部屋を分析するように眺めてから、じっと俺を見つめた。
「どうした、父さん?」
「いや、何でもない。これからどうしたいのか考えていたんだ」
「ああ、俺も考えてる」
「聞いてくれ、アレクス。自分のやりたいことを見つけるのは難しい作業だということは分かっている。多くの人が諦めて、試そうともせず、ただ流されて想像もしなかった場所に辿り着いてしまう」
「ああ、分かってる。真剣に何をするか考えてるよ」
「プレッシャーをかけるつもりはないが、大学に行くなら決めなければならない時期が近づいている。それとも働き始めたいなら、それに反対する理由はない。結局は君の人生だからな」
父さんは思いやりを持って、俺にアドバイスをしようとしていた。父さんが秘密を隠しているのは分かっているが、それでも俺のことを心配してくれている……もしかして今話すべきか?真実について……でも父さんの顔を見ていると、できなかった。どう聞いたらいいのか、何を言えばいいのか分からなかった。
気がつくと、父さんはもう部屋から出ていこうとしていた。ドアを閉めて、俺は一人考え込んでいた。
父さんは悪い人じゃない。どんな秘密を隠していても、憎んだりはしない。でも何故か、以前のような信頼を取り戻すには、まだ何かが足りない気がしている……もし母さんがまだ生きていたら、俺に何て言ってくれただろうか?
『11月12日 / 15:51』
学校から帰って来て、家に入ろうとした瞬間のことだった。ドアを開けた途端、妙な風が吹いて、視界の端で庭の植物の間に何かが動いたような気がした。振り返って確認してみたが、何も見えなかった。
「今のは何だったんだ?まさか『夢』か?」
急いで家の中に入ったが、胸の中の緊張感は収まらない。ライラはまだ学校から帰って来ていない。彼女の学校は俺のより遠いからな。家中を見回してみたが、何もない。何も起きていない。アンジュがここにいてくれたらいいのに……そういえば、今頃あいつは何をしているんだろう?
そんな緊張と疑念を抱えたまま、一日は何事もなく過ぎていった。
『11月13日 / 21:01』
部屋でマンガを読んでいた時、外から音が聞こえてきた。ゆっくりと窓に近づいて、カーテンを少しずらして外を覗いてみた。目に飛び込んできた光景に、体が硬直した。
アンジュの世界の人たちが、まるでパレードでもしているかのように通りを歩いている。服装を見れば明らかにアンジュの世界の人間だ。一体何をしているんだ?好奇心と心配が胸の中で渦巻いている。アンジュが無事であることを願うばかりだ……いや、間違いなくあいつは大丈夫だろう。疑う理由はない。
『11月14日 / ??:00 / アンジュ』
今日、大量のレイスドールがこの奇妙な次元の門での探索を完了するために集まった。この数日間、アレクスに会いに行くことができずに、夢喰いの痕跡を全て消し去っていたが、『夢』が現れる気配はない。それに、セレステはこの門の中にいるはず……単なる予感だが、そうあるべきだと感じる。
この遠征には マルコ隊長 が来た。探索に長けた優秀なレイスドールだ。コロン中佐 も参加している。ルートの発見と新天地の探索に精通した専門家だ。彼らとこれだけの部隊が揃えば、あの中に入って何かを成し遂げられるだろう。
全員の準備が整い、中へ入った。最初に私たちが目にしたのは、人間界のような光景だったが、全てが廃墟と化していた。そして何より、あの奇怪な『樹』がすべてを見下ろすように聳え立ち、周囲が赤い光で輝いていた。一体この世界は何なのか?
レイスドール同士なら、霊的な存在感で互いを察知することができる。セレステを見つけるために集中した。やはり、彼女はここにいる。予想通りだが、とても遠くにいた。
「聞け、奥へ進むぞ」
マルコ隊長が刀を地面に突き刺すと、全員の足元から船が浮上し始めた。乗っていた全員が船と共に空中へ舞い上がり、空を航行する準備が整った。しかし、空中であまり進まないうちに、誰かが待ち受けていた。よく見ると『夢』だった。戦いの構えを取っているようだ。
船は砲台を準備し発砲したが、『夢』はそれを回避した。今は戦いたくないが、これが彼らの世界なら、侵入者を阻止しようとするのは当然だろう。だが、レイスドールとその一体の『夢』との数の差は圧倒的。この力の差が私たちの優位だった。
他のレイスドールと共に戦いの準備を整えた。どれほど時間がかかるかわからない戦いが始まった。
戦いながら、なぜかアレクスの姿が脳裏に浮かんだ。なぜこんな時に彼のことを考えるのか?私に一体何が起きているのか?理解しようとしても、正しく思考することができない。この『夢』への攻撃に集中すべきだった。
終わりのない戦いのように思えたが、その『夢』は突然考えを変えたようで、何の理由もなく全速力で遠ざかっていった。一体何をするつもりだったのか?単純に去っていったのだ。
マルコ隊長は最大警戒を保ちながら前進を続けるよう命じた。これから多くの戦いが待ち受けているだろうが、セレステに会いに行かなければならない。彼女を救出しなければ……なぜなら……彼女は友達だから。
『11月15日 / 13:38 / アナスタシア』
開発室で、ついに長い間取り組んでいた武器の開発を完成させることができたの。スズと一緒に何度も試行錯誤を重ねた結果だったわ。
「成功しましたね、アナ?」スズが控えめに尋ねてきた。
「まだ分からないわ。設計と機能は完成したけれど、実際の効率性についてはまだ確証が持てないの」
あたくしたちは二人で、魔術師たちとのスズのコネクションを通じて入手した特殊な材料を弾薬として使用できるよう設計したこの拳銃を見つめていたの。でも、本当にテストする必要があったわ。
「アナ、もしかしてアレクスにお知らせした方がよろしいのではないでしょうか?」
「ええ、その通りね。連絡すべきだわ」
あたくしはアレクスにメッセージを送ったの。もしこの武器をテストするなら、彼が最適な人選だったから。ついに、これで彼と一緒に戦える手段を手に入れることができたのよ。この戦いをもう一人で歩む必要はないわ。今度は皆の支援を受けることができるの。あとは、この拳銃を複製して、みんながアレクスと共に戦えるようにするだけだった。
そして使用方法の練習も必要ね。アレクスと一緒に戦える手段がついに手の届くところにあることが、あたくしはとても嬉しかったわ。
「スズ、急いで他の拳銃も開発しましょう。皆が一丁ずつ持てるように」
「はい!」
こうして、あたくしたちは次の開発に取り掛かり、戦う手段を確保するために動き始めたの。
『11月16日 / 22:05 / ???』
夜の監視をしていた。二人とも最近見かけないよう気をつけていたが、もうこのまま放っておくわけにはいかないことに気づいた。自分自身も逃げ出したかったのに、運命が俺をここに連れ戻した。ここに戻ることの危険は分かっていたが、それでも戻ってきた。
夜は冷たく感じられる。到着してから周りで奇妙なことがたくさん起きていることにも気づいていた。あの奇怪な生き物たちがこの数ヶ月間ずっと現れ続けている。だが最近、それらの生き物よりもさらに異質な何かを感じる。霊的な存在を感じ取れる。
その時だった。その存在の一つが近づいてくるのを感じた。そこには空中に浮かんでいる誰かがいた。俺も空中に浮上し、その個体と戦う準備を整えた。
相手が振り返って俺を見た。肥満体型だが年配の男性のような外見で、灰色の口髭と髪、疲れたような眼差し、そして右目を横切る傷跡があった。手には……棺桶?全身白い服装をしていた。
「……何者だ?」
その個体は黙ったまま俺を見つめている。応答がないということは、敵対モードに入っているということだ。戦闘準備を整えたその時、その個体が手を伸ばした。
「待て、汝は……」
重々しい声だった。まさに老人のような声調だ。
「汝の正体を知りたい……我の目的は若者を見つけることだった……なぜ大人がここにいる?」
その男は多くの疑問を抱いているようだが、理解できない。
「知らないな。俺も疑問に思ってる。なんで高齢者が真夜中に空中浮遊してるんだ?」
沈黙し、俺を凝視していた。眠そうな目が突然持っている棺桶に向けられ、その瞬間素早く動かして俺に急襲を仕掛けてきた。だが当然、俺はすぐに察知した。人生のほとんどを訓練に費やしたのは伊達じゃない。
「何?我の攻撃を回避したのか?」
「悪いが爺さん、奇襲攻撃を避けるのは得意なんでな」
その男は再び静かに俺を観察していた。深い沈黙の後、再び口を開いた。
「汝も『特別』な者の一人か?」
「何のことか分からない」
「では……自己紹介をしよう。そうすれば理解できるかもしれぬ」
男はため息をつき、目を閉じて言った。
「我はソムナ。第六『夢幻十刃』である」
夢幻十刃のメンバー?それは何だ?疑問は尽きないが、きっと答えてはくれないだろう。
「おい、ソムナ。あの生き物たちが現れたのは お前の仕業か?」
「生き物?...何のことだ?」
知らないふりをしているのか、本当に知らないのか...
「とぼけるな。暗闇でできた体を持つあの存在たちのことだ」
「...彼らは生き物ではない...夢喰いだ」
会話についていけない。理解できないことが多すぎる。
突然、ソムナがその棺桶を動かした。
「いずれにせよ...汝も排除する」
戦うしかない。手を伸ばして拳を握り、ソムナの視界から消失した。
「何だと!?」
その瞬間、彼の背後に現れて確実な一撃を与え、地面に叩きつけた。衝撃で土と舗装の石が四方八方に飛び散った。
「一体汝は何者だ?」
「俺が何者か...子供たちの未来を心配する、ただの父親だよ」
「……」
「もう何も言わないのか?なら……」
ソムナの最後の試み。棺桶を動かして俺に反撃を仕掛けようとしたが、俺はすでに攻撃の準備ができていた。
「『オメガブラスター』!!」
両手の掌から巨大なエネルギーが発射され、ソムナを完全に包み込んだ。地面が震え、最終爆発で彼の存在の最後の粒子まで分解した……これが霊輝の真の使い方。その真の力の使い方のほんの一部だ。
そのソムナという男は黒い煙の塊となって消え、空中に溶けて消失した。こんなに簡単に片付けられたのか?
心配なのはアレクスとライラちゃんだ。二人は俺の子供だ。守らなければならない。だがエミリーを見た時、家族の運命が再び予言されていることを知った。
アレクスと話をする必要がある...彼が本当は何者なのか、真実を伝えなければ。それに、ライラちゃんと知り合ってから、彼女も俺やアレクスと非常に似た霊輝を持っていることに気づいた。アレクスが俺に隠れて何かをしているのも知っている。
それに……あの女性のことも……だが彼が修学旅行から戻ってきてから話そう。それが俺の決断だった……。
『11月17日 / 8:15 / アレクス』
学校の外でバスを待っていた。修学旅行で街を出るバスだ。クラスメイト達は皆興奮している様子で、ルーシーも同じように興奮していた。まいや他の女子達と話している。
そんな時、榊が近づいてきた。
「おい、北の街に行く準備はできてるか?」
「ああ、でも緊張してるんだ。この街に来てからずっと時間が経つけど、街を出るのは初めてだから」
「心配すんなよ!俺たちが行く場所は信じられない景色と歴史ある古い場所があるんだぜ」
「へえ〜面白そうだな」
「確実に俺たちが向かう街の名前、知らないだろ?」
「全然分からない」
「ブラックブロングって言うんだ」
「なんて印象的な名前だ……」
「だろ?」
新しい街に一人で行くことに不安を感じていた。三日間だけとはいえ、神経が警戒状態になっている。ついにバスに乗る時間が来た。先生が皆を整列させ、誰も足りないかチェックしている間に、バスは目的地に向けて出発した。
窓から外を見ながら旅路を眺めていた。店、ガソリンスタンド、車、山々が遠ざかっていく。気分が……悪くなった……この街がどんどん離れていくのを見て。この街は自分にとても多くのものをくれた場所だから、遠ざかっていくのを見ると深く悲しい気持ちになる。高速道路に入ると、空き地と木々しかなくなった。高速道路では荷物を運ぶトラック、他のバス、そして何台かの車が通り過ぎていく。
次の街に近づくにつれて、空が灰色になり始めた。雲が完全に太陽の光を遮っている。これはただの2時間程度の旅行のはずで、バスでそんなに長い旅になるわけじゃない。
しばらくして、街が見え始めた。遠くから非常に高い建物群が見える。メトロポリスとは違って、ブラックブロングはさらに技術的に進歩しているように見えた。それらの超高層建築物で区別できる。何か違う材料を使って建てられたような外観をしている。道中では、とても古いが手入れの行き届いた寺院のようなものも見えた。
街にもう少し入ると、すべての光景がまったく新しいものだった。車は今まで見たことのないような外観をしていて、巨大なスクリーンには商品の広告、至る所にロボットがいる。こんな技術的進歩のある場所にいたことはなかった。
ついに学校が予約した特別なホテルに到着した。このホテルの中にもロボットの助手がいて、すべてが何らかの自動化システムを持っているようだった。皆で先生の周りに集まって、部屋の割り当てとそこへの行き方の説明を聞いた。
今何を考えればいいのか分からない。結局、この街でのこの体験は価値のあるものかもしれない。
部屋割りはペアで、当然男女混合じゃない。俺の友達とは誰も一緒になれなかった。ホテルでルームメイトになったのはロバートだった。
そういえば、昔ヤツに嫉妬したことがある。ルーシーが霊輝から解放された時、ヤツが近づいていったんだ。あんなに簡単そうに見せやがって... 嫉妬したぜ、あの時は。でも時間が経って分かった。ヤツは良いヤツなんだ。背は高いが、心は優しい。
「よろしく、アレクス。ルームメイトになったな」
「あぁ、よろしく」
実は今まで会話したことがなかった。多分、まだ少し嫉妬... いや、正確には羨ましいって気持ちがあるからかもしれない。ヤツの外向的な性格、周りの人間と簡単に馴染む能力。俺にはないものだ。
よく考えてみると、嫉妬というより羨望だな。自分でも認める。ロバートを羨ましく思ってる。
先生が30分以内に準備して出発するよう指示を出した。この街を巡る遠足が始まるらしい。いくつかの観光地を見て回るんだと。俺とロバートは部屋に直行して、割り当てられたクラスのグループと合流する準備をした。
ロバートがデジタルカメラを持っているのに気づいた。この旅行の思い出を残したいんだろうな。
他のみんなと合流するために歩いていた時、突然男が現れた。ホテルの廊下を走ってきて、ロバートを軽く押した。でも走ってきた男の方が地面に倒れた。ほとんど仰向けに。
男の目には怒りと絶望が混じっていた。再び立ち上がりながら叫んだ。
「邪魔だ!」
そしてそのまま去っていった。俺もロバートも、何が起こったのか理解できずに呆然と立ち尽くした。
一体何だったんだ、あれは?
旅の終わりは、新たな始まり。
次回、アレクスたちはブラックブロングでさらに奇妙な出来事に直面する。
ホテルで出会う“走る男”と、その裏に隠された意外な真実。
そして帰郷後、父アクセルの「もう一つの顔」がついに明らかになろうとしていた。
穏やかな旅路の裏で、父子の運命が交わり始める――。




