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霊輝  作者: ガンミ
103/130

覚悟のキス

失う覚悟が、愛を本物にする。

ノアとアレクス、それぞれの想いが交わる夜――

“忘れる”という残酷な運命を前に、二人が選ぶ答えとは。

そして、迫りくる“夢”との最後の戦いが始まる。

『10月27日 / 7:02』


学校の準備をしながら、昨日の出来事が頭から離れなかった。あの謎の霊輝攻撃...あの『夢』から俺を救ってくれたのは一体誰だったんだ?エミリーは家族を誘ってなかったし、みんな忙しかったと言っていた。ライラでもなかった。じゃあ誰が?誰があんな強力な霊輝攻撃を放ったんだ?


それに、アンジュも姿を現さなかった。一体何が起こってるんだ?


「アンジュ!」


静寂。何も起こらない。彼女は現れない。


もうノアを霊輝から解放する時だ。今日こそやらなければ。もう時が来たと思う。


「アンジュ!今日ノアを霊輝から解放するぞ!...もし聞こえてるなら、その時が来たら必ず現れてくれよ!」


誰もいない周りに向かってそう言った。アンジュが聞いているかどうかも分からないが、俺は学校へ向かった。


『21:47』


ノアがいるキャンピングカーに向かった。今日彼女を解放するために。ただ近くの公園の周りを散歩するという口実で連れ出したんだ。歩いていると、ノアが俺の様子に気づいた。


「どうしたの?アレクス、すごく緊張してるじゃない」


「何でもないさ...ただ、昨日色々なことがあったんだ...」


「話してくれる?」


彼女を心配させたくなかったが、何かが俺を突き動かした。だから昨日起こったことを全て話したんだ。ノアは明らかに怒っていた。でもなぜ怒ってるんだ?


「ちっ...くそっ...」


「どうしたノア?」


「腹立つのよ...あんたが戦ってたのに...あたしがそこにいなかったってことが...あんたを助けられなかったってことが...あの化け物どもはまだあんたを狙ってる。あたしだって役に立てたかもしれないのに」


「そんな風に考えるなよノア!お前だって危険な目に遭う必要はない」


「そんなの知らないわよ。あんたを助けたい。あんた一人でああいうものと戦ってるのを見てるのは...つらいのよ...あの時みたいに」


周りのみんなの支援があるにも関わらず、俺はまだ自分がどれだけ弱いかを痛感していた。今まで...まともに戦えていない。誰も守れていない。じゃあ一体何をすればいいんだ?強くなるために何が足りないんだ?


俺はさらにフラストレーションを感じた。ノアがそれに気づき、これまで以上に心配そうな表情を見せた。突然、彼女が俺を抱きしめた。この行動で俺は言葉を失った。何も言えなかった。彼女も黙ったままだった。


街灯に照らされた夜の寒さの中、道端でそうしていた後、ノアが言った。


「あんたを助けたいのよ!何かできることがあるはず...何か分かったような気がするの...あんたがあたしに示してくれたの、自分の行動で、大切な人のためにどこまでできるかってことを」


そう言いながら苦しんでいるようだった。俺には正確な理由は分からなかったが、推測はできた。ノアはこの間にずいぶん変わった。全てから距離を置いていた人から、世界をあるべき姿で見ることができる人に変わった。これも彼女が霊輝から解放される準備ができている証拠だ。


でも...彼女を守るために、ひとつ真実を告白しなければならなかった。


彼女が霊輝から完全に解放されるために必要な最後の詳細を明かす時が来たんだ。俺は彼女の肩を掴み、少し距離を取って話せるようにした。


「ノア...告白しなければならないことがある...」


俺のこんな真剣な様子を見て、ノアは緊張して怯えているようだった。


「どうしたのよ、アレクス?なんでそんな真剣な顔してんのよ?」


「...霊輝から解放する前に、知っておかなければならない真実がある」


「真実?何のことよ?」


「もう霊輝から自由になる準備はできてる...だが、その前に告白しなければならないことがある。霊輝から解放されると...俺のことを忘れてしまうんだ」


ノアは沈黙した。反応しない。だが...少しずつ表情が悲しげになり、涙がゆっくりと溢れ始めた。その表情は俺に向けて純粋な苦痛だけを示していた。


「嫌よ!...どうして?そんなの馬鹿げてるわ!」


真実を否定にすがりつくように見えた。両手を顔に当てて、これを受け入れようとしている。俺は彼女を落ち着かせようとした。


「聞いてくれ、ノア!俺を忘れても大丈夫だ。約束する、ずっとお前のそばにいる」


だがノアは俺の言葉に耳を貸さないようだった。苦痛に支配されている。


「ノア!」


俺が声を荒げても、彼女は絶望的に泣き続けた。近づこうとすると、彼女は俺を突き飛ばし、床に倒れ込んだ。


「なんで今更言うのよ?あたしに...こんなことをした後で?」


深い痛みだけが彼女の目に宿っていた。彼女は残酷な皮肉に気づいただろう。過去と人間性を取り戻すために、40年間で唯一良くて真実だったもの、俺との現在を犠牲にしなければならない。


彼女は走って行ってしまった。追いかけようとしたが、遠ざかる姿を見て力が抜けた。立ち止まった...追いかけることができなかった。ただ去っていく姿を見守るだけだった。


一人の時間を与えるべきだと思った。今日彼女を解放する計画は無駄になった。この真実を知ることが彼女に本当に大きな影響を与えた。だが俺は確信している、彼女は立ち向かうだろう。逃げはしない。もう変わったんだ。それを確信していた。解放は明日にした方がいい。


最終的に家に戻った。代わりにアンジュを再び呼び出そうと決めた。一時間の間、名前を叫び続けた。どれだけ呼んでも彼女は現れない。アンジュが必要だった。助けが必要だった。なぜ現れないんだ?どこにいる?


疑問は推測に変わった。ただ最悪を想像しているだけだが...まさか彼女もセレステのように消えたのか?あちらの世界の者たちが連れて行ったのか?それとも発見されたのか?どんどん心配が浮かんできた。


「くそっ!」


ベッドの枕を殴った。全てが悪い方向に向かっている気がするが、諦めない。あらゆることを試さなければならない。深呼吸して立ち上がり、部屋の窓を開けて思い切り叫んだ。


「アンジューー!!」


その時、後ろで足音が聞こえた。振り返ると、そこにはあの黄金の瞳、艶やかで暗い髪、いつもの気取った視線があった。アンジュがついに俺の前に再び現れた...だが彼女は怒っていて、俺に近づくと足を蹴った。


「痛っ!おい、それは痛いぞ!」


彼女は肩をすくめたが、何か重要なことを言いたいようだった。蹴りはたぶん彼女らしい、そう言えるようなものだった...


アンジュが蹴りを食らわせた理由を説明し始めた。


「あの蹴りはオマエがノアと長時間かかりすぎたからよ」


「でも他に何ができたんだ?彼女には時間が必要だった」


「はいはい、そうねぇ...この間に私はセレステの可能な居場所を発見したのよ」


「マジで!? どこにいるんだ?」


「この世界と別の世界を繋ぐ亀裂を発見したの。恐らくその別世界が夢喰いや最近現れている『夢』の発生源かもしれないわ」


「実際、昨日俺は一匹に襲われたんだ」


「何だって!?」


「心配しないで、誰かが助けてくれたから...実は昨日だけじゃなくて、前にも別のに襲われたことがあるんだ」


アンジュは額に手を当てて考え込むような仕草を見せた。


「クソ...謝るわ」


「なんで?」


「オマエがそいつらと戦っている時に側にいなかったからよ。あの存在、現れる『夢』っていうのはオマエ一人で立ち向かうべき敵じゃないの。下手をすれば何か悪いことが起こっていたかもしれない」


アンジュは俺のことを深く心配しているようで、思考にふけりながら、この間姿を現さなかったことに苛立っているみたいだった。


「心配するな。アレクス、今起こっていることに関わらず、オマエがノアを解放する時には必ず現れるから。でももうやらなきゃダメよ!」


「大丈夫だ、明日には彼女は良くなってるはずだ」


二人とも何も言わずに見つめ合った。話すべきことがたくさんあったし、多分アンジュにも話すことがあったんだろう。でも何故か、アンジュを見ていると変な感じがした。今まで感じたことのない、一番奇妙な感覚だった...視線を逸らして、自然な感じで話題を変えながら、彼女がいなかった間に起こったことを全て話し始めた。でも話している間、彼女をまっすぐ見続けることがほとんどできなかった...なんでこんなことが起こってるんだ?


とにかく、明日はノアと話す。そして彼女の痛みが終わる瞬間が遂に訪れる...


『ノア』


ベッドに横になって、枕を強く抱きしめてた。アレクスの言葉が頭から離れないのよ。記憶から消えるって...そんなことありえるの?でもこの狂った世界じゃ、そんなバカげたことも可能なんでしょうね。あいつがあたしに嘘をついたことなんて一度もない。本当のことを言ってくれたのよ。嘘をつきたくないから教えてくれた...それが分かるから、余計に辛いわ。


アレクスには勇気があったのよね。あたしに真実を話す勇気が。今になって思うけど、あたしってバカだった。逃げ出すなんて。アレクスはあたしのことを想ってくれてるの。それはもう疑いようがないわ。あの化け物から守ってくれた時だって...


アレクスと話さなきゃ。この運命を受け入れなければならないの。これが最後の試練なら、乗り越えてみせるわよ。たとえあいつのことを忘れても、あいつはあたしと一緒にいてくれる...そんな気がするのよ。


ベッドに起き上がって座った。そして、あたしは人生で最も成熟した、そして英雄的な結論に辿り着いたの。犠牲を受け入れることにした。あたし自身のためじゃない。あいつのために。あいつがあたしにしてくれたすべてのために、普通の生活という贈り物をあげるのよ。たとえそれが、あたしを救ってくれた男を決して思い出せないことを意味してもね。


愛がエゴイスティックなものから、完全に無償のものに変わったの。


「あいつが幸せになってくれればいいのよ...たとえあたしの記憶にいなくても」


その時、キャンピングカーのドアがノックされた。駐車違反かなんかで怒られるのかと思ったけど、ドアを開けるとそこにいたのはアナスタシアだった。


「アナスタシア?何してるのよ?」


「君とお話ししたくて」


「...入りなさいよ」


アナスタシアが入ってきて座った。突然の訪問に困惑してたわ。


「で、何の用?」


「最近とても頑張っている、ある男の子についてお話ししたいの」


アレクスのことを言ってるのは明らかだけど、なんでこんな回りくどい言い方をするのよ?まるで彼の名前を避けてるみたいじゃない。


「そうでしょうね。で、あんたは知ってるでしょうけど、再び自由になるために必要なことがあるのよ...忘れることが」


その言葉を聞いて、アナスタシアが何を言ってるのか分かった。そうだ、アレクスが言ってたじゃない。あたしと同じように、アナスタシアも霊輝を持ってたって...もしアナスタシアがそれを持ってたってことは、彼女もアレクスのことを忘れたってことよね。


「まさか―」


でもアナスタシアが手を上げて、静かにするように示した。黙って、彼女の話を聞くことにした。


「よく聞いて。とても曖昧な方法だけれど、それに立ち向かう手段があるの。でも、それを成し遂げられるかどうかはあなた次第よ」


アナスタシアは相変わらず奇妙な話し方で、アレクスの名前を避けながら話してた。でも、彼女が言いたいことは分かったわ。アレクスを「思い出す」方法を教えてくれてるのよ。その時が来た時のために。


しばらく話した後、沈黙が訪れた。何を考えていいか分からなかった。


「なんでこんなこと言うのよ?」


「あたくしはあの人のためにこうしているの。そして、みんな幸せになる資格があると思うから」


アナスタシアは本当に心の優しい人なのね。あいつのためにここまでしてくれるなんて。安堵したわ。再び自由になった時、本当にあたしを大切に思ってくれる人たちに囲まれてるって分かったから。


ただ安堵の笑みを浮かべることしかできなかった。他に何も考えられなくて。


『10月28日 / 21:27 / アレクス』


ノアのキャンピングカーに向かった。あいつはいつものように、ここに連れてきた時からずっと同じ場所にいる。一度も動いたことがない。


ドアに近づくと、自動的に開いた。ノアが俺をじっと見つめている。その表情を見て気づいた—彼女は状況を受け入れる覚悟ができているようだった。霊輝から解放された後に起こることの現実を。


「入って」


ノアが俺をキャンピングカーに招き入れた。どうやら彼女はどこかに行きたがっているようだった。エンジンをかけて、静かな夜道を走り始めた。


しばらくして、車の展望台近くで停車した。ここからは夜の街が見渡せて、山々のシルエットまで見える。ノアが外に出たので、俺もついていった。


何も言わずに、ただ景色を眺めていた。やがて彼女が振り返って話しかけてきた。


「アレクス...決めたわ。あたし、また自由になりたい。解放してほしいの」


ノアに近づいて、その肩に手を置いた。ゆっくりと彼女に近づこうとしたその時...


空中に奇妙で歪んだシルエットが浮かび上がった。


慌ててその影を見上げると、ルシッドが戻ってきていた。しかし、ひどく傷ついているようだった。手足が欠けていて、痛みを訴える様子もない。


ノアが俺の視線に気づいて空を見上げた。あの姿を見て怯えている。


「アレクス、あれ何よ?」


「『夢』だ。文化祭の日に俺を襲ったやつ」


ノアが俺の前に立ちはだかり、胸が青く光った。盾が腕に現れて、戦闘態勢に入った。でも、彼女は戦闘タイプじゃない。


「待てよノア!何してる!?」


「当たり前でしょ!あんたを守るのよ!」


こいつに何かされるわけにはいかない。胸に手をやって杖を取り出そうとした時、影からアンジュが刀を手に現れた。


ルシッドがアンジュを初めて見た瞬間、異常なほど動揺した。


「貴様!忌々しい!貴様らの種族は存在の表面から消え去るべきだ!」


初めて見るほど取り乱している。アンジュは何も言わず、ただ戦闘態勢を整えた。


杖で地面を叩くと、周囲がすべて変化し始めた。今度の環境は緑の草原で、木々以外は誰も何もない。この創造された空間で、あいつと戦う時だ。


アンジュが刀で攻撃するが、ルシッドがかわした。銃を取り出して撃つと、ルシッドがよろめいて、アンジュが切りつけることができた。それでもしっかりと立っている。


ルシッドが槍を取り出して、アンジュを攻撃する準備をした。今度は鞭を取り出して、奴の唯一の腕を縛り上げた。槍が地面に落ちて、完全に動けなくなった。


アンジュがこの隙に致命的な一撃を準備したが、ルシッドが動いて、アンジュのその斬撃で自分の腕を切らせて逃げようとした。


霊輝の鳥を放って爆発させ、混乱させた。続けて本を取り出すと、ボールペンが手に現れた。「脱出不可能」と書く。


その瞬間、高い石の壁がルシッドを囲んで、逃げ道を完全に塞いだ。アンジュが高く跳躍して攻撃態勢に入り、叫んだ。


「『終解、光喰め、天雷』」


アンジュの刀の先端から奇妙な白い光の線が現れて、一撃でルシッドを真っ二つに切った。


しかし...奴はまだそこに浮かんでいる。怒りに満ちてアンジュを睨みつけていた。


「忌々しい...貴様とその種族め...」


目を動かすと、その瞬間槍が動いて、素早い動きで俺に向かってきた。ルシッドが叫んだ。


「その人間が全ての元凶だ!」


かわすことは不可能だと感じた。でも...


ノアが俺の視界の前に突然現れた。彼女の盾で俺に向かって飛んできた槍の衝撃を受け止めたが、ノアはその攻撃を辛うじて耐えているだけだった。遠くからルシッドが笑いながら黒い煙の雲の中に消えていく。


「あははは!...」


アンジュがすぐに刀を構え、手を動かして何かをした。


「『霊唱, 土砦』」


大地が軋み始め、盛り上がってきた。俺は素早く立ち上がり、ノアに近づいた。前回と同じように彼女を支えて、一緒に盾が投射する壁を貫こうとする槍の攻撃を逸らそうとした。


俺はノアをしっかりと支えたが、ゆっくりと後ろに押し戻されているのを感じた。壁にひび割れが入り始めた。アンジュは別の何かをしようとしているようだったが、俺の注意は今ノアに集中していた。


彼女が全力を尽くしているのを見て、俺はまた自分がとても弱いこと、彼女や他のみんなを守るために何かが足りないことを感じた...でも、これが諦める時なのか?


俺はノアをもっと近くに引き寄せ、その瞬間、突然ノアにキスをした。ノアの胸が青く光り始めた。彼女はキスに驚いたが、アンジュが忙しくしている間、彼女の霊輝を吸収できるものは何もなかった。彼女の胸は青く光り続けた。


「それ何だったのよ?」


「まあ、ただやる気を出してもらいたかっただけだ」


ノアは赤面し、それから光っている自分の胸を見て動揺した。


「何これ!? あたしの胸が光ってるわ!」


「心配するな、全部うまくいく。集中してくれ」


俺が彼女と一緒に力を合わせると、どういうわけか理解できない方法で、俺も彼女の盾をコントロールできるような気がした。二人の力が混ざり合い、全力で押し返すと、槍は押し戻された。


アンジュが何かをし、刀で槍を地面に叩きつけた。俺とノアが全力で押すと、アンジュの攻撃と共に槍が割れ始め、ついに砕けて千の破片となって爆発した。


爆発で俺は地面に倒れ、ノアが俺の上に倒れ込んだ。ついに全てが終わった。


俺の上にいるノアが安堵の笑みを浮かべ、今度は彼女が俺にキスをした——まるで俺が前にしたあの突然のキスのようだった。


その瞬間、アンジュがノアの後ろに刀を持って現れた。いつものプロセスが始まり、アンジュがノアの霊輝を吸収し始めた...


ついに全てが正常に戻った。彼女のキャンピングカーの隣にいた。俺は眠っているノアを腕に抱いて、星空を見上げていた。ただそこにいて、彼女が再び目を開けて、また話しかけられる瞬間を待っていた。

次回、ノア編が静かに幕を閉じる。

記憶を失っても残る“絆”が、彼女に新しい朝をもたらす。

そして、物語は次の章へ――

最後の少女と、未知なる脅威が動き出す。

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