侵された祭り
文化祭二日目――笑顔と賑わいに包まれた校内の裏で、静かに運命の歯車が動き出す。
アレクスの日常と非日常が、再び交錯しようとしていた。
それは何気ない一日として始まったが、この祭りの終わりに訪れるのは、ただの「終わり」ではなかった。
光の中に潜む影が、ようやくその姿を現す――。
『10月26日 / 9:00』
文化祭二日目、俺がウェイターをやることになった。この時間はまだ人が少なかったが、時間が経つにつれて人が増えてきて、その中にフィリアとメリッサがやって来た。二人とも席を探すべきなのに、真っ直ぐ俺のところに向かってきた。
フィリアが最初に口を開いた。
「おはようございます、アレクス。こんなに早くからお働きになっているのを見るのは素敵ですね」
メリッサが俺に近づいてきて言った。
「今日はお前に見てもらいたかったんだけど、この天使が隣にいるのも悪くないわよ。一緒に来たの」
なぜメリッサはこんな話し方をしているんだ?文化祭の雰囲気に流されているのかもしれない。
二人をテーブルに案内して、何か注文してもらった。しばらくするとヤヨイが彼女たちに近づいていくのが見えた。どんな占いをするのか見てみよう。忙しくなかったので、距離を置いて聞いていた。
ヤヨイが始めた。「私は占い師よ〜。貴方たちの未来が見えるの〜」
フィリアはヤヨイの言葉を聞いて、驚きと恐れの間にいるようだった。一方でメリッサはとても興奮しているようで、同じテンションで言った。
「聞きたいわよ!わたしの未来はどうなの!」
ヤヨイは偽物の水晶玉を取り出して、「未来を読む」ためのポーズをとった。元中二病のメリッサは、ヤヨイがそんなことをしているのを見て興奮した。
「二つの道が現れるでしょう。選択する道があなたの運命を変えるの」
メリッサは前のめりになって、輝いていた。
「おお!ルートの話ね!?じゃあ一つはグッドエンドで、もう一つはバッドエンド?」
突然、メリッサはバッグから小さな携帯ゲーム機を取り出した。
「よし、セーブしなきゃ」
ヤヨイは困ったように笑った。距離からでも見えたが、ヤヨイが緊張で汗をかき始めたのは確実だった。
ヤヨイが言った。
「セーブ?そういう風には機能しないと思うけど...」
でもメリッサはヤヨイの言葉にあまり注意を払わなかった。
「だって、ラスボス前にセーブしないと後戻りできないじゃない!わあ、こんなイベント久しぶりに見たわよ、すっごく興奮する!」
ヤヨイは今度はフィリアの方を向いた。その瞬間、二人は目を合わせて、同時に視線が交わった時に両方とも怖がった。二人とも肩を震わせた。
その時ヤヨイは落ち着きを取り戻して言った。
「運命の声が聞こえるの...もうすぐ貴方は『試練』に直面するでしょう」
フィリアは微笑んでいたが、少し堅い話し方で言った。
「試練でしたら、それは神様がお与えになるものですね。カードではなく、お祈りで道が開かれると思います」
ヤヨイは完全に動きを止めて固まった。また落ち着きを取り戻して言った。
「そんなに真剣に取らなくてもいいのよ、あはは」
フィリアは優しく頷いたが、鋭い視線で言った。
「ええ、もちろん理解しております。ただ...信仰を軽んじる方は好きではありませんの」
その瞬間、ヤヨイはフィリアの前で緊張したが、別の声が生まれた緊張した雰囲気を遮った。
「おい占い師さん、お前のアドバイス役に立たなかったぞ!道を間違えて負けちゃったじゃない!」
それを言ったのはメリッサだった。フィリアもヤヨイも、ただ彼女を見つめて何も言わなかった。
ヤヨイは静かに去っていった。俺はついに二人に注文の品を渡した。
そうしてもう少し時間が経ち、休憩時間がもうすぐ来た。約束したとおり、ルーシーと少し時間を過ごしに行くつもりだった。
ついに休憩時間が来て、教室を出てルーシーを探したが、廊下を歩いていると父さんとライラが到着するのが見えた。
父さんが俺に気づいて、遠くから挨拶してくれた。ライラが駆け寄ってきて、
「お兄ちゃん、教室はどこなの?」
「ちょうど二つ先だ」
父さんが周りを見回しながら言った。
「文化祭を見ると昔を思い出すな」
言いたくなかったが、驚きで言葉を失ってしまった。父さんが若い頃に文化祭に参加していたなんて、考えもしなかった。別の方を向くと、廊下を吹奏楽部が通っていくのが見えた。
「父さん、後でコンサートがあるんだ。学校の吹奏楽部がやるから、良かったら見ていかない?」
「おお!コンサートか、見てみたいな」
ライラが俺の隣に近づいて言った。
「わたしも見たいなの。でも、お兄ちゃんがステージに出てくれた方がもっと格好良いのに」
なんだか悪戯っぽく言っているようだった。ライラがこんな冗談を言うなんて、どうしたんだ?気づいたが、ライラが時間と共に変わっているような気がする。段々大人になってきているのか?よく分からなかった。
「お兄ちゃん、どこを見に行くのがおすすめなの?」
少し考えた。正直、エミリーや他のみんなと一緒に回った場所以外はあまり見ていない。
「この街の100年前の写真を展示している場所があるんだ。興味があるかもしれない」
ライラは興味を示したようだったが...父さんはその提案をひどく嫌がっているようだった。
「他に何かないのか、アレクス?写真を見るのは少し...」
「他にも場所はあるけど、全部回ったわけじゃないから、何をおすすめしていいか分からない」
「そうか...じゃあ、君の教室を見に行こう。また後で会おう」
ライラが俺の背中を軽く叩いて、父さんと一緒に去って行った。二人が遠ざかっていくのを見ていた。
ライラは確かに変わっているようだった。記憶にある彼女ほど内向的でも恥ずかしがり屋でもない。もうあの子供っぽい雰囲気もあまりない。何が彼女をそんなに大人になりたがらせているんだ?ただ考えすぎなだけで、ライラが自然に成長しているだけかもしれないが...
父さんはどうだ?街の写真の話をした時、明らかに嫌がっていた。何かを見ることを拒否する反応は明らかだった。そう...父さんは確実に何かを隠している。でも一体何を?
俺の家系がエミリーの家族の親戚から来ているということはもう分かっている。父さんは俺が知っている以上のことを知っているに違いない。でも、まだ父さんと話す時間を作れずにいる。エミリーの母親に聞いたことを知ってからずいぶん経つのに、まだ父さんと話せずにいる。
父さんが何かを隠しているのは分かっている。でも、どうやって近づいて、そのことについて聞けばいいのか迷っている。その話題を持ち出すということは、俺がこの街に来てからしてきたことも明かさなければならない。ある意味で、俺も父さんに嘘をついてきた。二人とも同じことをしているから、同じ立場にいるんだ。
廊下の窓に近づいて、学校の入り口の中庭を歩いているルーシーに気づいた。急いで会いに行こうとしたが、人混みがひどくて階段を降りるのがとても遅くなった。やっと外に出ると、辺りを見回したがルーシーを完全に見失ってしまった。あちこち探し続けることにしたが、一体どこに行ってしまったんだ?
学校中を探し回ったが、ルーシーがどこにもいない。あちこち走り回って...バカだな、俺は。霊輝で直接彼女の存在を感知すればいいじゃないか。目を閉じて、ルーシーの霊輝に集中する。
あった...彼女の霊輝を見つけた。人混みをかき分けて走り、外の屋台まで辿り着く。そこには...
「ルーシー!」
振り返った彼女を見て、思わず吹き出してしまった。両手いっぱいにありとあらゆる食べ物を抱え込んで、口の中もパンパンだった。
「はは!」
「もう!なんで探しに来るって言ってくれないのよ?」
口の中のものを飲み込んでから、怒ったようにルーシーが言った。
「悪い、つい夢中になっちゃって」
文化祭を二人で回りながら、いろんな屋台を見て回った。こんな風に時間を過ごすのは、きっと一生の思い出になる。昨日も今日も、みんなが文化祭を見に来てくれた。そろそろ文化祭も終わりの時間だ。学校のバンドがコンサートを始める予定で、ルーシーを一番いい場所から見せてやりたかった。
「ルーシー、ついて来い!」
「え?どこに行くの?」
手を取って、周りに誰もいないのを確認してから、ルーシーの腰を抱いて飛ぶ準備をする。
「しっかり掴まってろ」
空中に舞い上がり、すぐに屋上に降り立った。今日は立入禁止になっているが、飛べる俺には関係ない。
「すごい...ここから全部見えるのね」
ルーシーが安全な場所から眺めながら言った。
「すごいだろ?」
「うん...でも、こんな風にルール破るのって、ちょっと罪悪感があるわ」
ルーシーが罪悪感を感じているのを見て、俺も同じような気持ちになった。でも、彼女のために何かしてやりたかった。俺と同じように、これが彼女にとっても最後の文化祭なんだ。ルーシーは留年を繰り返していたが、今度こそ本当に最後の文化祭。何か記憶に残るものを贈りたかった。
バンドが演奏を始めた時、背後から視線を感じた。振り返ると...そこには『夢』が立っていた。
ルーシーも気づいて振り返る。そいつは静かに、何も言わずにただそこに立っていた。
「何の用だ?あっちに行け!」
だが返事はない。異常に黄色く光る目がルーシーを見つめ、まるで分析するように観察してから、再び俺に視線を戻した。
こいつの見た目はかなり威圧的だ。爬虫類のような目つきで、肩まで届く黒い長髪、クマのような影、表情は凍りついたまま微動だにしない。白い体にフィットしたスーツに正確な線が入り、高い襟、非対称の短いマント、画面のように光るパネル付き。膝まである ブーツ。厳格で効率的な雰囲気で、小さな鏡やクリスタルがベルトから下がっている。
しばらくそのままでいたが、戦いの構えを取ろうとした時、ようやく口を開いた。
「待て。ここで戦うべきではない、男よ」
「気遣いは嬉しいが、お前には別の目的があるんだろう?」
「...そうかもしれんが、それを教える義理はない...」
「まあ、どっちでもいいか」
「戦いたいというなら、受けて立とう...私はルシッド。『夢幻十刃』第八位の『夢』だ。男の決闘を受け入れよう...」
ズボンのポケットに手を入れ、ゆっくりと何かを取り出す。出てきたのは...槍だった。あんなサイズのものが、どうやってポケットに入っていたんだ?
霊輝を込めて攻撃を放つが、簡単に避けられる。ルーシーが俺の後ろに隠れようとし、俺は彼女を守ろうとする。ここにいるのは危険だ。こいつを遠ざけようと思うが、周りには人がいる...友達も含めて、みんなに何かあったら大変だ。
慎重に戦わなければならない。
ルシッドが槍を構え、奇妙なポーズを取る。いつでも飛びかかれるような構えだった。
霊輝の障壁を準備した。その瞬間、ルシッドが槍を持って襲いかかってきたが、障壁が攻撃を止めた。奇妙な金属音が響いて奴を後退させる。
「なるほど...本当に噂通りだな...」
またルーシーに視線を向けやがった。この野郎がかり見てるのが腹立たしくてたまらない。
「おい、何を見てるんだ!?お前の相手は俺だろ!」
一気に奴に向かって突進し、霊輝の小さな爆発で攻撃を開始した。だが奴はうまく防御する方法を知っていて、すべての爆発をその槍で受け止める。同じように攻撃を続けたが、奴は強固に防御を続けていた。
「...なるほど...あそこにいる女...使えそうだ...」
「ルーシーを見るのをやめろ!」
今度は我慢できなかった。奴に向かって強力な霊輝の爆発を放つ。幸い、バンドの音楽がうるさくて誰も気づかなかったようだが...ルシッドが突然視界から消えた。
周りを見回したが、どこにもいない。突然ルーシーが叫んだ。
「アレクス、上よ!!」
急いで上を見上げると、奴が槍を持って急降下してきていた。だが...標的は俺じゃない。ルーシーに向かっている。
急いで動いて攻撃を阻止しようとし、霊輝の連射を放ったが、一瞬止めただけだった。奴は片手で槍をルーシーに向かって投げつける。
避けることができず、槍がルーシーの胸に当たるのを見て、ただ呆然と恐怖に震えるしかなかった。彼女のもとに走ったが、槍は消え去り、ルーシーには目に見える傷一つなかった。
怒りに満ちて振り返り、叫んだ。
「一体何をしたんだ、この野郎!!」
奴は何の表情も見せずにそこに立ち、冷静に答える。
「あの女は私の実験に完璧だった。安心しろ、彼女の命に別状はない...少なくとも今のところは...」
「ちっ...畜生!何をした!?」
「...本当に知りたいのか?自分の目で見てみろ...」
ルーシーが音を立てて、ゆっくりと動き始めるのが聞こえた。その間、ルシッドは今やったことを説明する。
「彼女は今、明晰夢を体験している。彼女だけがそこから出ることができる...もちろん、夢だと気づければの話だが...」
怒りに駆られて、拳を握りしめると爪が手のひらに食い込んだ。体の中で何か奇妙なことが起こっているのを感じた。
「お前を殺してやる!」
一瞬で動きのスピードが上がるのを感じ、ルシッドの顔に拳を叩き込んだ。放つ一撃一撃が前のものより強くなっているようだった。今度は奴も霊輝の爆発で防御できなかった。
胸に手を当て、拳銃を取り出してルシッドの胸に狙いをつけて発砲。明らかに命中したが、倒れない。
さらに怒りが込み上げ、今度は鞭を召喚してルシッドを縛り上げた。続いて格闘用グローブを取り出し、驚異的なスピードで動いて全力で何度も何度も殴り続けた。
最終的に、目に見えるダメージを受けたにもかかわらず、ルシッドは苦痛を訴えることなく、何の表情も見せない。ただじっと見つめてくるだけで、それがさらに怒りを煽った。
だが次の一撃を放とうとした瞬間、何かに止められた。服が破れたルシッドの胸の見える部分に、奇妙な傷跡があった。それが恐ろしい形で動き始め、ついに開いた。開いた時、それはまるで深淵の底を見ているようで...完全に暗黒だった。
「開け『夢痕』」
と言った瞬間、そいつの体が変わり始めた。状況が異常すぎて、急いでそいつから距離を取った。まさか戦闘能力の一つを使ってるのか?風が激しく吹いて、何かがルシッドを包み込んでいるようだった。最終的にそれが開いた時、そいつの外見は完全に変わっていた。
今度は肌が灰色—薄い灰色で、手と腕の部分には鱗のようなものがあり、背後からはワニのような奇妙な尻尾が出ていた。今度は手を伸ばすと、槍がゆっくりと手に現れた。戦う準備ができていた。
「これが貴方の最期です...男よ」
胸に手を当てた。今度はフィリアから受け継いだ霊輝を使うぞ。でも今回は霊輝の鳥を作る代わりに、盾として使えるものを作ってやる。今度は霊輝のライオンを出した。霊輝のライオンがルシッドに向かって突進した。そいつは殴ろうとしたが、霊輝の塊なので爆発する以外何も起こらなかった。霊輝のライオンが戦っている間、ルーシーを腕に抱えて起こそうとしたが、反応しなかった。
「ルーシー、起きろよ!」
頬に触れたが反応しない。絶望が俺を蝕み始めているのを感じた。轟音が響いた。霊輝のライオンが倒され、ルシッドは何事もなかったかのようにそこにいた。もう何をしていいかわからなかった。他の霊輝の武器を使ってみることもできるが、どれほど効率的だろうか?そいつがゆっくりと近づいてきた。俺とルーシーの前で止まり、静かに見つめた。
「...終わりです、男よ...貴方の最期です...」
槍を使う準備をした...本当にこれが俺にできることの全てなのか?...本当にこれが限界なのか?...本当にまた一度、こういう連中の前で失敗するのか?いつも俺を追ってくる敵の前で何もできない怒り、絶望、無力感の混合を感じた...なぜこんなに弱いままなんだ?何が足りないんだ?
ルシッドが攻撃しようとした瞬間、青い閃光が目から輝き、一瞬で謎のエネルギー、霊輝の雪崩が突然ルシッドを襲い、空中に吹き飛ばした。同時に花火と一緒にその謎の霊輝の爆発が空中で炸裂した。
一体何が起こったんだ?
突然エミリーが飛んできて、俺の隣に着地した。
「アレクス先輩!戦ってるのを感じました。何があったんですか?ルーシー先輩はどうしたんですか?」
「『夢』との戦いだったが、お前の攻撃のおかげで勝てた。ありがとう」
でもエミリーは眉をひそめて、すごく混乱した様子で言った。
「アレクス先輩...私は何も攻撃してませんよ」
「えっ?...じゃあ誰が?」
考える前に、ルーシーが目を開け始めた。
「何があったの?」
安堵を感じた。詳細も何が起こったかも気にならなかった。ただルーシーが再び目を開けてくれたことが嬉しかった...
でも疑問が俺の中に植え付けられていた...
こうして文化祭は終わりを迎えた。疑問と謎、そしてまだノアの状況も終わっていない...。
次回、ノア編がついに完結を迎える。
アレクスは、彼女を救うための「代償」を知ることになる。
記憶と想い、そして未来。すべてを懸けた選択の先に、何が待つのか。
犠牲と解放の物語が、静かに幕を開ける。




