01 転生手続きは迅速に?
「番号札4番の方〜こちらへどうぞ〜」
主人公小森大夢は眠い目を擦りながら周りを見回す。
「ここは一体どこだろう?」
コンクリートではない石の壁、石の綺麗なタイルでできた床、窓からは光が差し込むが、ちょっと冷たい部屋の空気。
4番の人が呼ばれたが、周りには誰も居ないので自分かもしれない。手元にある番号札は掠れててハッキリとは読めないが1桁な事はわかる。沢山あるカウンターの中から慌てて可愛い黒髪のメガネをかけたお姉さんの居るカウンターへ向かってみる。
「ではこちらに自身の名前と年齢を記載してください。並びに要望があればその他の欄へお願いします。」
何の用事で役所に来てるのかは定かではないが、多分何か必要な手続きを行うために来たのだろう。言われるがままに書き慣れない万年筆を走らせ空欄を埋めていく。
『小森大夢』『20歳』男女の欄はもちろん男へ丸を付けた。
「あの〜その他って書いてあるこの欄は空白でも良いですよね?」
あまりに抽象的すぎたので僕はお姉さんにそう聞いてみた。そしたら優しい口調でこう教えてくれた。
「欲しい物とかどんな人間になりたいかとか抽象的な物でもいいですよ。先日は生まれ変わりたいなんて書かれた方もいらっしゃいましたよ。」
そう言われたのだが眠くて頭が回ってない。とりあえず思いつく欲しいものでも書くために、最近の記憶を総当りして思いついたもので空欄を埋める事にした。
【ベーシックインカム】
最近お昼のニュースで見たからだ。国会で議論されてるとかなんとか… 最低限の生活費が支給されるらしい。毎日を過ごすのが辛かった僕にとって衣食住を始めとする不安だけは無くなるなんて中々良さげなんじゃないか?
「こちらで承ります。あら!前生きてた時の名前と性別と年齢を同じにするなんて、よっぽど前世が楽しかったんですね!」
(は?このお姉さん今前世って言ったよな?)
「住民票が発行できましたので、貴方は晴れてこの世界の住人です!こちらを資料としてお渡しします!素敵な生き方を!」
夢から覚めたような目をしながら僕は大慌てで資料を受け取りお姉さんに問う。
「前世って!僕は死んだのか?ってかここ役所でしょ?住民票の発行早すぎないですか?偏見かもしれないけど、お役所ってのは時間がかかりまくるっていうでしょ?お役所仕事とか言っていつもめちゃくちゃ時間かかるだろうが!」
出口の光へと謎の力で吸い寄せられる。そんな中お姉さんは笑顔で上を指差す。僕はカウンターの上を見上げると吊るし看板に小さくこう書いてあった。
【転生・出生届】
「自分でちゃんと確認してから書きましょうね!ベーシックインカムが何なのかはよくわからないですが、ちゃんとそれっぽい物を準備しておきます!取り消しはできないので、これからの幸運を祈ります!あと役所の人は貴方と違ってしっかりと働いているので仕事が遅いなんて事はないんですよ?」
一切反論ができない。今まで人と同じように普通に生きてこれなかった僕に反論する事など出来なかったのだ。
自分で書いただろというお姉さんの思いが伝わって来るような蔑んだ目で見送られながら僕は叫びながら外への謎の力に吸い寄せられる。最後まで抵抗はしたものの、扇風機の風を受けて芸人さんが凄い顔になるバラエティー番組のアレみたいな力に僕の抵抗は虚しく追い出されてしまった。