君の知らない物語
もう、観測板を見なくても判るようになった。
「あれがデネブ、アルタイム、ベガ」
過ぎる記憶に
胸を締め付けられて
零れそうになる涙
堪える様に天を仰ぎ見れば
すぐに織り姫は見付かった。
――でも……
彦星は見つけられない
見つけてあげられないと、私と同じ一人ぼっち。
―― 紗貴独白 ――
―― いつの通りの日常……
ある日、彼は突然こう言った
『今夜、星でも見に行くか』
その台詞に、似合わないと蘭子や将君と笑いながら話したのを覚えてる。
何で突然そんな事を言い出したのか……
ふと思い出した、朝のニュース
その日は丁度、十数年に一度飛来する流星群が夜空を彩る日だった。
―― 彼は照れてしまって
『流星群……見たいんだよ』
顔を赤くして、そう言った。
『たまには良い事言うね』
と、将くんがていちゃんに言っていた。
緋岐君が言ったなら普通に聞こえたのかもしれないけど、それがていちゃんだったから、余計におかしかった。
明かりもない道を、みんなで天体観測用の板を持ってはしゃぎながら歩いた。
夜は嫌い。
どうしようもなく、泣きたくなるから
泣く事を、許してもらえないから
―― 何より……背負った“業”を、思い知らされるから
だから ――……
抱え込んだ孤独や不安に
押し潰されないように
いつもより、はしゃいで不安を感じないようにして……
ていちゃんだけが、そんな私に気付いた。
いきなり繋がった手
熱を持ってたのは、どっち?
『紗貴と、初めて会ったのもこんな夜だったよな』
そんな言葉に思い出したのが、ていちゃんと初めて出会った時のこと。
出会った当初、私の事を“男”だと勘違いしてたんだっけ。
ふざけて言えば『忘れろって』そんな、ちょっとふて腐れた声が返って来た。
『今は……ちゃんと知ってるし』
何だか、むず痒くて
私まで照れくさくなって
“好きなんだね”
なんて聞いてみた。
『好きだよ、星観るの』
先を行きながら、そんな言葉が返って来た。
背中からは、どんな表情 で言ったのか判らない
繋がった手に、少しだけ力が込められて
私は応えるように握り返した。
※※※※※
真っ暗な世界で見上げた夜空は
まるで星が降るようで
……とても綺麗で……
普段見る空とは
全く違う世界で
思わず隣にいる彼を見た。
いつからだったろう
ていちゃんの事を目で追いかけていたのは……
―― どうか
……どうか、お願い
驚かないで聞いて欲しい
私のこの想いを……
『あれがデネブ、アルタイム、ベガ』
ていちゃんは丁寧に指さして教えてくれた。
星に詳しいなんて“なんだか意外だな”……って、思ったけれど
なんとなく、そんな姿も良いなと思えた。
観測板で星を覚えて、空を見る。
そこでやっと見つけた織姫
―― でも……
彦星は見つけられない
見つけてあげられないと、私と同じ一人ぼっち。
その時、夜空を星のシャワーが流れ始めた。
最初は、ポツリポツリと
やがてそれは、大河になって空を埋め尽くす。
思わず私達は感嘆の声をあげて
星の大合唱に魅入ってしまって
―― チラッと……
盗み見るように横を見る。
隣では将君と楽しげなていちゃん
―― 私は……
何も言えなかった。
本当はずっと
ていちゃんへの気持ちを
どこかで理解していた。
見付かったって、届きはしない
駄目だ、泣いちゃだめ……そう言い聞かせた。
強ガル私ハ臆病デ
ていちゃんの気持ちを、気付かない振りしていた。
―― だけど……
胸を刺す痛みは増していく
―― ああ、そうか……
“好きになる”って、そういうことなのね。
どうしたいの?
言ってみなさいよ
―― と、心の声がする。
“ていちゃんの隣に居たい”
そんなこと、叶うはずがないのに
失ってしまうと判っていたなら
隣に居ることどころか
その声を聞く事すら
叶わない日が来ると
判っていたら
もう少し
素直になれたのかな……
あの夏の日の煌めく星
今でも思い出せる
笑った顔も
怒った顔も
大好きだった
素直になれなかっただけ
“卑怯だ”って言われてもよかったのかも知れない
―― 好きだと言えれば……
おかしいよね
判ってたのに
誰も知らない
私だけの秘密
遠い思い出の貴方が
指を差して笑う
無邪気な声で…… ――
今は一人で空を仰ぐ
空に一つ、星が流れた
END
supercellの「君の知らない物語」が、あんまりにも紗貴とリンクしていたのでッ……