嗤う月に哭く朱色
それは
翠琉が真耶を○○する
少し前の事……
それは
狂気の沙汰の
独占欲
「正式に決まったよ」
いきなり俺の前に現れて、満面の笑みで真耶はそう言った。
この従兄弟は頼みもしないのに、いつもふらりと現れてあの子の報告をする。
何を食べた
何を話した
妖を何体倒した
そんなたわいもない話を……
何で来るのか聞いた事がある。
そしたら『だって、緋岐兄さんには知る義務があるから』
屈託ない笑みを浮かべて
当然だと言わんばかりに
そう宣ったのだ。
“そっち”の仕事の帰りなのだろう、守衣を着たままだ。
それは、つまり、あの子も近くに居るわけで……
俺の不安を見透かした様に、真耶は笑う。
「翠琉なら、あっちの方にいるよ」
暗に居ないと伝えて来る。
「決まったって?」
俺がそう聞けば、嬉しそうに破顔一笑。
「次の宗主と媛巫女」
―― これで、翠琉は俺のものだ
思わず、俺は顔をしかめた。
「今更、必要ないだろ?」
—— そう……
地位とか、役割だとか、そんなもので縛らなくても、二人の心は寄り添っていて。だけど、真耶は溜息混じりに俺に言う。
「判ってないな…」
何を……そう問う前に、真耶が続ける。
「翠琉の背中にはね、羽があるんだ」
高潔なその魂を留めておく事など、誰にも出来はしない。
「俺には翠琉だけ。翠琉が居れば、他は何もいらない」
誰にも渡さない
—— そう……
「翠琉自身にだって、翠琉をあげないよ」
だって、翠琉は全て俺のモノ
「だからね、翠琉が飛び立たないように籠が必要なんだ」
真耶は無邪気に笑う。
―― 神羅一族すら手段の一つに過ぎないと
それから半年後……
あの悲劇は起こった
翠琉の心は、未だ囚われたままで。
「真耶…満足か?」
—— でも
傍観するわけにはいかない。
俺は、翠琉を取り戻す。
そして、未来を一緒に歩いて行く。
『だって、緋岐兄さんには知る義務があるから』
いつだったか、真耶に言われた。
その言葉に、あの時は応えられなかった。
—— だから……
今、応える
『否』と………
知る“義務”があるのではなく、知る“権利”がある。
だから俺には、翠琉を守る“義務”がある。
「翠琉はお前のものじゃない」
翠琉は、翠琉自身のものだ。
「返してもらうぞ」
睨み付けたら、月が嗤った気がした。
END