二日目 勇者とのクエスト
不定期で頑張ります、趣味みたいな感じなので。
…朝か、毎日寝る時間とか何も気にせずに暮らしてたから起きた時の時間の把握に困るんだよな。
確か朝飯を用意してまた二度寝したのか…。
今日は引きこもり生活二日目、つまりゆっくり本を読め「レーイー!ちょっと一緒に来てほしいんだが…ってなにしてるんだ?」
「い、いやなにも?つーかどうしたんだ勇者、珍しく僕の部屋まで来て、なんかやばいことでも起きたのか
僕の引きこもり生活はここで終わった、本も読めなさそうだな…。
「いや俺が部屋まで来るの別に珍しく無いだろ…ちょっと難しいクエストがあって…魔法でアシストしてほしいんだけど今大丈夫か?」
「ん…まぁ大丈夫、ギルドのクエスト受けてきたのか?」
「あぁ、これから現場に行くだけだ」
「用意するからちょっと待っててくれ」
「わかった」
唐突に用ができてしまった、とりあえずいつものセット(魔法の帽子、緊急時の転移石、全属性耐性付きローブ)
をパパっと取り出す。
魔法の杖はいつでも取り出せるように魔法庫に入れてあるから、もし忘れて攻撃魔法の威力が下がり役立たずになることは取り敢えずないようにしている。
さっさと寝間着から着替え、呼ばれた時間から数分が立った頃、リビングへ向うと大剣を磨いている勇者の姿があった。
「おい、準備終わったぞ…相変わらずピカピカだな、
その剣」
「あぁ、普段から使い続けているんだ。せめてこうやって綺麗に、そして大事にしないと駄目だろ?レイも杖を大切に扱っているじゃないか」
「いやお前程では無いわ…ほらさっさと行くぞ、誰か困ってるかもしれないだろ、お前はお人好しの勇者様なんだから」
「あぁ、俺は人々を幸せにするために皆の象徴にならなければいけないからな!
…あの時、レイをスカウトして本当に良かったよ。」
「それは僕も…」
「…なにか言ったか?」
「いやなんも言ってない!…聞き間違いじゃない?
…それよりここからどこに行くの?」
「あぁ…こっから…西の平原の奥の崖付近にいるシルバートカゲだな。銀の部分を火の魔法で溶かして攻撃する作戦をした方が良いと思ってレイを読んだんだ。」
「りょーかい、緊急時の作戦はいつもどうり?」
「あぁ、判断次第で即座に転移石で移動させてくれ。」
「…いままでこれ使ったのたったの数回だけどな、まぁ用心用心」
「油断したら簡単に死ぬからな…いままで見てきた」
「失礼かもしれんがあんまりお前が気にするな、その亡くなった人たちもこの職業にわざわざ付いてるんだ、覚悟位してて当たり前…のはずだ、多分。」
「そう……だな、これからも救える者を救い最強に恥じない生活を心掛けよう!」
「うっ…それ僕に言う?」
「レイは早寝早起きから始めたほうが良いな」
「……はい」
そんな雑談をしていたらあっという間に平原行きの西門に到着していた、この街から出るには列に並び、
ギルドカードやら商人専用カードとかを出さないと出られないルールになっている。
つまり結構な用がないと街からは絶対に出られなくなっているということだ。
理由はなぜか?
それは簡単、危険な生物がうじゃうじゃいるからだ。
街は様々な工夫がされ安全になっているがそこから一歩でも出ると…魔界の方からやって来た特殊なモンスターと出会い戦闘!とかシャレにならない、間違いなく死ぬ。
「おい、ちゃんとカード持ってきたか?」
「当たり前だろう、俺はレイの方が心配なんだけどね?」
「馬鹿言うな、僕が忘れたのはたったの一回だけだ、それよりもっと常習犯がいるだろ?僕らのパーティには」
「あぁ〜…そんなこともあったね?」
そう、元々僕らのパーティの女子はどっちもアホというかポンコツなのだ、見た目は可愛いし姉御肌と妹感満載なアホで周囲からの人気は高いのだが…まぁ色々ダメダメだ
そんな中でも忘れ物が多いのがルナの方。
アヤは僕が荷物チェックしてるからギリギリセーフなので多分…大丈夫だ、なんとかなる。
そして肝心のルナ……なのだが
なんとほぼ毎回忘れているっ!
たとえば……
『あっ…ルっルナカード持ってないの!どうしよう勇者』
『えっ…ここまで結構距離あるんだけど、どうしようなの…レ、レイ〜…』
『そのすがるような目でこっち見るなよ、移動魔法は一日一回までだから無理!』
『ルナ〜忘れるの何回目?』
『わ、わかんないの…どうしようアヤ』
『あっ!いい案思いついた』
『まじでマスター!』『レイ!本当か!!!』
『レイならなんとかするって信じてたの!』
『勇者が爆速で走って取ってくればいいだろ、普段から人間離れしてるお前なら行けるよ、余裕余裕!』
『えっ?』
結果、こうして忘れる度に勇者が爆速で取りに戻り、この街の噂話になるまでこの行為を繰り返している。
…非常にまずい、ギルド内でも最強パーティとか名乗っているのに…というか順位的に最強なのだが、こんな残念集団でいいんだろうか、戦闘とセンスだけはあるんだこのチーム、色々欠点あるけど。
「はぁ、ほんとに大丈夫なの僕達…」
「きっと大丈夫だよ、だって勇者の俺がわざわざスカウトした最高のメンバーだからね。」
「そのわりには僕出会って速攻スカウトされたんだけど?」
「あれは魔法使いを初めてちゃんと見たから興奮しただけさ…」
「んー…まあ良いか」
こうした他愛も無い思い出話をしていると、いつの間にか順番になっていた。
「ギルドカードをお見せ下さい」
「どうぞ」「……」
こういう瞬間が一番緊張する、しかも相手は国直属の兵士だ、圧が凄すぎる。
「はい、ギルドカードの確認が終わりました。
それと…勇者様と勇者パーティの方ですよね?」
「はい!なにか困ったことが…?」
「実はここ数ヶ月、シルバートカゲの様子が少しおかしいとの報告を受けたので、くれぐれも注意して下さい。」
様子がおかしい?
元々シルバートカゲは倒すことが困難なモンスターとして有名だ、その理由は魔法使いが少ないから。
だからこそ今回僕達までクエストが回ってきた、そのシルバートカゲが更に強くなっていると考えると…今日はとても疲れる1日になりそうだ。
そんなことを考えていると、勇者と兵士の会話が終わりそうだった。
「そうなんですか…わかりました!丁度シルバートカゲの討伐クエストを受けてきたので、無事討伐して帰ってきます、それでは…」
「はい、無事を祈っています、原初神ヴァルドス様の名の下に…」
こうして西門をくぐり抜け、まっすぐ平原に向かって歩いて行くと段々木々や背の高い草むらが増えてくる。
こういう場所は左右からモンスターが飛び出てきてやられてしまうパターンがかなり多いことが特徴だ、初心者パーティは油断していないつもりが油断している事が多いのでこういう事が起こってしまう。
…にしても、様子が変とはどういうことなのだろうか?
「……」
「どうしたんだ?レイ、ここは街の外なんだから、油断していたら危ないぞ」
「すまん、シルバートカゲがどんな変化してんのか気になって」
「あー…それは俺も気になってる、しかも報告が
〈見た目〉とかの事じゃなくて様子だもんな」
「やっぱそこ?」
「そうだな、油断せずに行こう…油断していたら
っ!こういうモンスターが急に現れるからな!」
『ガルル…』 『ガァ゙ヴ!』
『ガゥガゥ!』 『ガルヴヴ…』
魔法庫から杖を取り出し、状況を把握する。
左の草むらから唐突に現れるノーマルウルフの群れに勇者が速攻で大剣の斬撃を入れる。
モンスターが若干怯むその隙に僕がやることはただ一つ…妨害魔法を入れることだ。
つまり魔法使いの僕の役目は主にアタッカーのサポート、それだけだ。
「〈スロータイム〉…勇者!」
「あぁ!!」
元々戦闘時の立ち回りは僕が考えている、つまりこのパーティの連携自体は僕を殺しさえすれば崩すことが可能だ、まぁそんなこと許すはずがないが。
そしてモンスターに攻撃する場合、無理に突っ込まず、僕の妨害魔法を待ち、魔法陣が見えたこの瞬間、そして敵が驚き油断を見せるこの数秒の間に…
モンスターの首は落ちている。
相変わらず綺麗な断面だと思う。
毎日磨いている勇者様の大剣だ、痛みもなく殺される…という意味ではコイツの優しさなんだろうか?
死んだモンスターはバラバラになり空に吸い込まれるように消えていく、そして心臓のような魔法石のみが残り最初から存在していなかったように消えていくのだ、一体どこに行くんだろうか?
あのまま消滅してしまうのか、人間の僕が考えることでもないけれど…。
「おい、そろそろ探知魔法掛けとくぞ、言ってた場所に近いだろ、気付かれてもおかしくない」
「わかった、………レイどうした、なにかあったのか?」
「いやー、死んだモンスターってどこに向かっていくんだろうなと」
「…天国に行くのは無理だろうね、モンスターに生まれた時点でヴァルドス様の言う楽園には入れない…」
「だろうなー…お前はともかく、僕は絶対地獄に堕ちるだろうし」
「そんなことは無いと思うぞ?レイは優しい人間だよ」
「勇者から見たらそうかもな」
「確かに、俺は勇者パーティの魔法使いしか知らないね」
「だろ?」
原初神ヴァルドス、古くから伝えられてる神様。
その名の通り一番最初の神様でこの街、スヴェートエルデでは広く伝えられ崇め建てられている、なんでも
『この世には天国と地獄という死後の世界があり、
生きている内にヴァルドス様への感謝を告げ、善い行いをした者だけが天国という楽園で過ごせる』らしい
僕はまずこの街の出身じゃないから信じていたけど、他三人は思いっきり信者だ、といっても別に原初神を信じていない僕に対しての差別とかは無く、普通に過ごしている。
引っかかるのはただ一人。
この街に生まれ育ったはずの友人である。
正直アイツは何を考えているのかわからなすぎて考えるだけ無駄な気さえするのだ、こう考えていること自体なにかされているのではないか?とか思ってしまう自分がいる。
っと…これは、二体?まさか様子がおかしかったのは子供がいたからか、つまりこのシルバートカゲは子供を守るために常に警戒態勢ということだ、こういうときは…。
「おいっ!勇者待て…」
「どうしたレイ、まさか…」
「あぁ、探知魔法が引っかかった、すぐそこの岩…
あれだ、右上の崖付近の岩陰、あそこに居る。」
「報告通り、様子がおかしいのか?」
「いや、恐らく様子がおかしかったのは妊娠していたからだろう、今も探知魔法では二体引っかかってる、この一ヶ月かそこらのどっかで生んで育ててる途中なんだろ、足場を奪うからその隙に頼む。」
「了解、こうも戦闘が続くと嫌になるよ、レイも油断しないでね」
「わかってる…妨害魔法〈フロストノヴァ〉」
魔法を唱えるとシルバートカゲの足元から氷が徐々に広がり下半身まで凍らせて動けなくしていく、つまり
この魔法は敵の足元を凍らせて一時的に動けなくさせる氷魔法だ。
そして作戦通り…僕が妨害魔法を放ち、勇者が斬りかかったその瞬間…
「攻撃魔法…〈フレイム〉っておいおい…それするなら…こっちだな!〈フラムバーン〉
…そりゃまぁ子供守るよな、生んだばっかりで申し訳ないけど、これも仕事だから。」
僕が炎魔法で銀を溶かし、勇者が斬撃をくらわせる…
ただ当初の予定とは違い、シルバートカゲは子供が居た…だから身を挺して子を守ろうとしたのだ、立派な母親だと思う、僕もそんな人が欲しかった、こいつ等はモンスターだけど。
でもそのままにしておくと銀が上手く溶けていない状態なため、勇者の大剣がメタル部分を斬れないままモンスターが油断している最大のチャンスを逃す事になってしまうのだ。
…だから僕は即座に攻撃魔法を変えて二体とも超高温で燃やした。
勇者はそれを理解したのか一瞬緩めた斬撃にまた力を込め大剣は持ち味の切れ味で二体同時に一刀両断してこのクエストは終わった。
「討伐完了、証拠の魔法石も出てる…帰ろうか、レイ、サポートありがとう」
「あぁ、移動魔法使うからこっちこい。
…こういう事あんま気にすんなよ、どうしても気になるなら勇者辞めた方が良い」
こいつは強い、この国の人間のクセに精霊と魔力があり、しかも使える『世界最強の大剣使い』だ。
しかし結局は人間、欠点はある。
それは…精神的に不安定であることだ、こういう生き物としての信頼関係を見せられると途端に勢いが下がり弱体化していく…そんな慈悲深くて優しい生活だからギルド内でも勇者として人気者なんだけどね。
だからこそサポートするのだ、僕の役目は魔法使いというだけでは無い、この人間をいい方向へ導かなければいけない。
この勇者パーティ自体、『勇者』が居ないとなりたたない、結局全員こいつになにかと拾われたり才能を見出され人生を救われている。
まぁ、僕も拾われた一人なんだけどね。
だから…
「僕達も…まぁ最低限の勇者サポートしてやるから」
「ありがとう…けどあそこまで親子の愛情見せられると辛くなるんだよ、僕らは殺しを仕事にしてる、でも少しでも進むために、前を向いて、ギルドの代表として前に進みたいんだ…勇者として」
「わかってる、お前はそういうヤツだ、優しいよ」
「そうだな…さて!話を変えようレイ、今日の夜飯はなんだ?レイの作るご飯は美味しいからな、毎日の楽しみだ」
「そうだなー…ま、帰って決めるわ、楽しみに待ってろ善人」
それに、今が楽しいなら良いと思う、少なくともこいつの日常は幸せそうだ。
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「マスター!おかえりっ!!ルナと夜ご飯作ったから食べて良いよ♡」
「勇者の分はルナが頑張ったの!褒めて褒めて!」
「僕ら進む前に死ぬかも」
「いやー…はは、……本当にどうしよう」
結局この晩は『とても頑張り』完食した、モンスターと戦うよりもきつかった、もうあれが悪の親玉だろ。
ダークマターがすげぇニヤニヤゲラゲラ笑ってたよ、
勇者の方はめちゃめちゃ笑いながら食べてたけど明らかに無理してた……取り敢えず…
「回復魔法〈ヒール〉……うぷっ…勇者にも掛けに行こ、多分手遅れ…な気がするけどやらんよりマシだ、これ」
レイが引きこもれるのはいつになるんでしょうか?