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第99話 もう一度、希望となるために

「虎太郎君! 大丈夫!?」


 背中を触れられる感触と共に温かさが体を包む。

 ゆっくりと目を開ければ、目を潤ませ、心配そうにのぞき込む望月ちゃんの姿があった。


『大丈夫ー』


 小さく吠え、微笑み、頷く。

 そうすることで俺が居なくなるという心配がなくなったのか、望月ちゃんは深く息を吐いた。


(あー、でもこれ動けるまで時間かかりそうー)


 ジンジンと痛む体を堪えつつ、俺は目を瞑る。

 どうやら紫電の使い方にまだ慣れていないのか、体への負担が大きいようだ。


 夢中になっていて頭の中で何発の銃弾を回したのかさえ覚えていないが、今は多用を控えるべきだろう。

 ふと、頭の中で一度だけ邂逅した異次元を思い出した。


(けどそうなると……常にさっきの俺よりも紫電を纏っていたあの化け物はすげえな……)


 俺とて上位探索者の一人。強さに対する渇望がある。

 あそこまでの強さを手に入れられれば、と思う事だってあるわけだ。


 そんな事を思っていると、須王達も俺の元に駆け付けてくれた。


「望月さん、一応周りは見てきたけれどモンスターの姿はなかったわ。とはいえ、いつ遭遇するか分からない……」


 周りの警戒を念のためにしてくれていたようだ。

 目をうっすらと開けて確認すれば、音はすぐに望月ちゃんに力を貸し、俺への回復魔法を強めてくれる。


 響は俺と白い虎の戦いの痕に驚いていたが、浮遊街の外壁の外を確認し、そこから白い虎を落としたという事を悟ると微笑んだ。


「……流石は虎太郎君だな」


 小さく呟いたために誰にも聞こえなかったとは思うが、耳が良いので俺は聞こえた。

 響に素直に褒められた経験はあまりないので、少し歯がゆさがある。


 須王が俺の正面に回り込み、正座をして頭に触れてきた。


「虎太郎君、激戦お疲れ様。まだ辛いと思うから、移動できるようになったら教えて? 簡易テントまで行って、安全なところで休みましょう」


 須王の言う通りであるので、一回だけ頷く。

 望月ちゃんの回復魔法のお陰でゆっくりなら歩けそうだったので、立ち上がる。


 皆の心配そうな顔が目に映るが、疲労しているだけなので問題はない。

 もう一度こくりと頷けば、須王がすぐに探索者用簡易テントを近くに設置してくれた。


 そこまで望月ちゃんに回復魔法をかけられながら、響と須王に左右から支えられながら移動する。

 まるで老人の介護のようだなと思ったが、須王よりも俺の方が誕生日が早かったことを思い出して、一瞬だけ真顔になってしまった。





 ×××





 探索者用簡易テントの中に入り、俺は伏せの態勢を取って一休み。

 望月ちゃんのお陰でもう普通に動けるようにはなっていたが、大事を取って休憩をすることにした。


 ふぅーっと息を吐く俺の横で、飼い主が立ち上がる。

 ポケットから端末を取り出した望月ちゃんは、須王に向けて口を開いた。


「須王さん、そろそろ時間的にも今日の探索は終わりになりそうですね。……その……えっと……」


 言いづらそうに言葉を濁す望月ちゃんに対して、須王は微笑んで頭を下げた。


「望月さん、二日間という短い間だったけれど、ありがとう。あなた達との探索は、とても楽しかったわ。

 ……最後のユニークとの戦いを見て、私達では足手まといになると分からされたけれど、もっと強くならなければならないとも思わされた」


 そこで須王は一旦言葉を区切り、少しだけ気持ちに整理をつける時間が空いて、そして再び口を開いた。


「前衛が一人、居なくなったっていう話はしたでしょ? 私達、それからちょっと意地になっていたところがあったの。

 あいつの代わりは居ない。あいつが戻ってくるまで、3人で頑張るんだって。

 上位探索者なのに、3人で無理して……光の地域に挑んで……リーダー失格よね」


「そんなことないです! 須王先輩はパーティの事を考えてくれたし、私だってそれが一番だって思っていました!」


「俺も……自分が織田先輩が帰ってくるまでの代わりを務めるって言いましたから……」


 俺が居なくなっても、須王は俺が帰ってくるのを待っていた。

 音だって、響だって同じで、ずっとエルピスという居場所を護ろうとしてくれていた。


 そのことは泣きそうになるくらい嬉しく思う。

 けれど。


「ありがとう二人とも……でも、ずっと前から私達は気づいていたのよ。

 もう、あいつは居ない。戻ってこないんだって。私達がしていることは居場所を護っているんじゃない……あいつの幻影に、囚われているだけなんだって」


「「…………」」


 残酷なことを言うが、須王の言う通り、今3人でエルピスを存続させることは先が見えていない。

 俺は居なくなってしまったが、須王達にはこれから先がある。


 だから3人には、俺が居たこれまでではなく、俺が居なくなったこれからを大事にしてもらいたいと思う。


「ごめんなさいね望月さん……急にこんなこと言って」


「いえ、私も虎太郎君や竜乃ちゃんを失えば、立ち直れないと思いますから……」


「そう……ありがとう。

 でも望月さんに会って、虎太郎君と一緒に戦って、色々なことに気づかされたわ。

 まだまだ上には上がいるってこと。私達は先を目指せるってこと。

 不思議ね……虎太郎君と一緒に居ると、なんかあいつの事が話しやすくなっちゃうのよ。

 戦うときの雰囲気もなんか似ているし、感化されちゃっているのかも」


 そう言って微笑んだ須王はしゃがみ込み、俺と視線を合わせる。

 その後ろに立つ天王寺兄妹も共感できるところがあるのか、うんうんと頷いていた。


「なんて……言ったら君に失礼か。あいつと違ってものすごく男前で、カッコいいもんね」


 むっ!? いや、同一人物なんだが!?


 聞き逃せない発言に目を丸くしている俺をよそに、須王は立ち上がって再び望月ちゃんに視線を向けた。

 昨日会ったときとは比べ物にならないほど、それこそ俺が居た時の決意が籠った目をしている。


「私達、もう一度再出発しようと思う。

 あいつの代わりを見つけるのか、それとも他のパーティと合併するのかは分からないけれど。

 でもあのときみたいに皆でしっかりと決めて、またここに戻ってくるわ」


「須王さん……そうですね。きっと織田さんという方も、そう願っていると思います」


「望月さん達も、頑張ってね。あなたと竜乃ちゃんと虎太郎君なら、絶対に下層に行けるわ。

 ううん、きっとその先だって」


「そうそう、望月ちゃん達だったら絶対いける! これからも配信を見て、応援してるからね!」


「竜乃ちゃんも虎太郎君も強い。三人ならどこまででも行けるさ」


 須王、音、響、エルピスの面々が、俺達を応援してくれる。

 かつての仲間からの声援に、胸の奥がジーンと熱くなるのを感じた。


「はい! 頑張ります!」


 望月ちゃんの返事が、簡易テントの中に響き渡った。


 約8年の歴史を持つ探索者パーティ、エルピス。

 関東の上位パーティの一つは、この日を境にTier1ダンジョンから姿を消す。


 再び4人となり、またこの中層へと戻ってくることになるらしいのだが。

 それはまだまだ、先の話だ。


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