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第95話 下から来訪せしモノ

 翌日、俺達は待ち合わせの時間よりも早く来て、機器の前で待っていた。

 飼い主である望月ちゃんはニコニコ笑顔で俺達を見守り、俺と竜乃は思い思いに話をしている。


『それにしても、上位のパーティって凄いわね。

 力押しの一辺倒じゃなくて、連携や技術がこれまで見てきたパーティとは次元が違うというか』


『このくらいのレベルになるとそれが当然になるからな。

 とくにエルピスは各々の連携に力を入れていたんだぜ』


『……なんであんたが誇らしげなのよ』


 ダンジョン攻略を進めているパーティほど、多人数で戦う際の連携がよく出来ている。

 4人だから単純に4倍の強さではない。


 3倍や2倍になってしまうのはまだまだ成長途中のパーティだ。

 俺達はそれを、5倍や6倍、いやそれ以上にまで押し上げていたのだから。


 ――おっと、そんなことを考えていると、ちょうど来たみたいだ。


 機器が作動し、探索者達がダンジョンに入ってくる。

 このような光の地域の、さらに奥に進んだ浮遊街の機器を使用するパーティなど、今は彼らだけだろう。


 思った通り、エルピスの3人が姿を現した。

 元気溌剌な音に、冷静で穏やかな響。

 けれど頼れるリーダーの須王は、なぜか神妙な面持ちをしていた。


「こんにちは、須王さん。音さんに、天王寺さんも」


「こんにちは望月ちゃん」


「こんにちは」


 昨日一日で音とすぐ仲良くなったあたり、最近の若い女の子は凄いなと感じる。

 一方で響に関しては苗字呼びと、依然としてかなり距離があるようだった。


 まぁ、その響はすぐに竜乃に話しかけているし、竜乃も彼と絡むのがまんざらでもない様子なので問題ないのかもしれない。

 にしても響、そんなに竜好きだったんだね。


「こんにちは望月さん、一つ聞きたいことがあるのだけれど」


「はい、なんですか?」


「望月さんは茨城のTier2ダンジョンに以前は潜っていたのよね?」


「はい、そうですよ」


「その……そのときに、探索者に会わなかった? 織田隆二っていう名前なんだけど」


 急に名前を呼ばれ、俺は心臓が止まるかと思った。

 見上げてみると、須王は縋るような表情で望月ちゃんを見ている。


「織田……隆二……男性の方ですよね?」


「ええ……おそらく出会うなら中層だと思うのだけれど……多分一人だったと思うの」


「ごめんなさい……会ったことないですね。いくつかのパーティとはすれ違ったとは思いますが、一人の男性とは……」


「……そうよね。望月さんがTier2の中層に行ったのと、時期は合わないものね」


「須王先輩……」


 はぁ、とため息をつく須王。そんな憂いの表情を見せる須王に対して音が気遣うように声をかけた。

 そんな彼女たちの様子を見て、望月ちゃんは口を開く。


「あの……その人がどうかしたんですか?」


「ええ……昨日、私達のパーティにはもう一人前衛が居たという話をしたでしょう?

 それが織田隆二って名前なのよ。最後に連絡を取ったときの彼が居た場所が茨城のTier2ダンジョンだったから」


「そう……なんですか……」


「さすがにTier2の中層のモンスター相手に後れを取る筈はないと思うし、何も言わずにパーティから抜けるような人でもないの。だから何か事故や事件に巻き込まれているんじゃないかと思っているんだけど、全然情報がなくて……」


「織田さんの両親に聞いてみるとかは……」


 真っ先に思いつきそうなことを望月ちゃんが尋ねると、須王は首を横に振った。


「一応連絡は取ってみたけど、ここ数年は会ってすらいないと言われてしまったわ。

 彼は独身で独り暮らしをしていたから、本当に分からなくて……」


 俺と両親は仲が良くなかった。正確には父親と悪かった。

 彼は俺が探索者になることに反対していたし、探索者として成功すると、逆に稼ぎが良くなった俺を良く思わなくなった。

 結果として俺は家族から距離を取るようになったわけだ。


 それにしても、話を聞いているとTier2の中層で送ろうとしたメッセージはやはり須王には届かなかったらしい。

 化け物の電気に妨害されていたし、落ちた先では端末はイカれてしまったから。


 結果として俺は誰も知らない場所で死に、今はこうしてモンスターの姿になっている。


(須王……)


 彼女達が俺を探してくれたのは嬉しく思うし、心配をかけてすまなかったとも思う。

 けれど今の俺が彼女に対して自分の正体を明かすことはどうしてもできなかった。


 彼女に気づかせたり、あるいは音のテイムモンスターである狐を介して伝えることはもしかしたらできるかもしれない。

 けど人間だった俺がモンスターになっているなんて荒唐無稽であるし、なにより今の俺は望月ちゃんのテイムモンスターだ。


 須王達と望月ちゃん、その両者に俺が織田隆二であるという事を告げることはできない。


「あの……織田さんと連絡が取れなくなったのはいつの事なのでしょうか?」


「結構前よ……それこそ望月さんが配信を始めるよりも前ね」


「なるほど……私が配信を始めたのは上層からですので、その前だと分からないですね。ごめんなさい」


「いえ、私の方こそ急にこんな話をしてごめんなさい。さあ、気を取り直して始めましょうか。

 今日もよろしくお願いします」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 須王と望月ちゃんはお互いに頭を下げ合う。

 その後、須王は俺を見て微笑んだ。


「虎太郎君も、今日もよろしくね」


『ああ』


 何も言えないし、何も明かせない俺には、ただ小さく吠えるしかできなかった。




 ×××




「虎太郎君、挟み込むぞ!」


『おうよ!』


 盾と剣を持つ光の騎士に対して、俺と須王は左右から仕掛ける。

 素早い動きで俺は右に、須王は左に。


 彼女よりも少し早く俺の方が肉薄し、前足を力の限りに振るって盾ごと騎士を吹き飛ばす。

 剣を持ったまま左へと飛んでいく騎士。


 そいつの持った剣を器用に避け、甲冑の間に剣をすべりこませて斬りつける。

 魔力でコーティングされた刃が甲冑から出てくると同時に、頭上から火の剣が降り注ぎ、その頭に突き刺さった。


 甲冑の兜を変形させながら貫いた炎の剣。

 普通ならば即死の一撃を受けているにもかかわらず、光の騎士は剣を振るってくる。


 そこには痛みを感じず、敵を倒すだけの機械のようにも思えた。


 けれど、そこは上位探索者の須王。

 振り下ろされた剣を両手で握った剣を使って防ぎ、後退しつつ弾く。


 左手を剣から離して光の騎士に向ければ、手のひらに魔法陣が展開。

 そこから光で出来た鎖が飛び出し、騎士を拘束する。


 そして動きが止まったところで、その側頭部目がけて力の限り紫電を纏わせた爪をぶつけた。


 甲高い金属音が響き、奴の首が捻じ曲がる程の力を加えたことでHPが一気に減っていく。

 やがて赤いバーはドットも残さず消え去り、奴は膝をつく。


 その姿が塵となって消えていく姿を確認した後に、俺は辺りを見渡した。

 竜乃は響と共に敵を倒したところであるし、音と望月ちゃんが戦っていた最後の一体も、もう虫の息だ。


 ――ジジッ


 もう俺達の勝利は確定だろう。


 ――ジジジッ


 昨日もそうだが、今日も戦う敵が変わるわけではない。

 光の地域の敵は強くはあるのだが、俺達の方が実力は上。


 特に俺と須王の連携はまるで阿吽の呼吸で、倒している敵の数はパーティの中でも多い。

 もしもこのパーティで光の地域のボスに挑めば、問題なく勝てるだろう。


 ――ジッ


 空間が、割れる。

 地面に次元の裂け目が現れ、そこから何かが出てくる音を聞いた。


『……は?』


 音に気づいて、そちらを向く。虎が、居た。


 真っ白な――それこそ日本の神話に登場する白虎を彷彿とさせるような虎が。


「あれは……なに……」


 同じように虎に気づいた須王が反射的にモンスターチェッカーを取り出して向ける。

 ピコンッという電子音を聞くと同時に、須王が表示された内容を読み上げた。


「……レベル帯は……Tier1下層」


 情報が表示されるという事はTier0ではない。そのため、絶望的な状況は避けることが出来た。

 けれどその情報は、依然として最悪な状況であることに変わりはない。


 Tier1下層、それはこの東京ダンジョンではまだ到達者すらいない階層であり、このモンスターが下層からの来訪者、つまりユニークモンスターだからだ。


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