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第94話 彼女なら、きっと

 未だ誰も越えていない2段階目の光の地域。

 そこで俺達とエルピスの面々は円陣を組んで座り込んでいた。


「あの望月さんと一緒に探索できるなんて嬉しいです! 早速ですけど、色々お話聞かせてくださいね」


「あ、はい、よろしくお願いします」


 いつも通りの望月ちゃんに対して天王寺の妹、音はテンションが高い。

 望月ちゃんに出会えたというのももちろんあるだろうが、どこか無理をして作っているような気がする。


 それに、チラチラと須王の方を伺っているのも気になった。


「私達は3人パーティで、こちらの須王先輩が前衛で戦士、うちの兄の響が後衛で弓使いです。私は音といいます! 後衛でモンスターテイマーですっ!」


 弓使いという言葉に、望月ちゃんの顔が少しだけ強張った。

 男性で弓使いという事を考えると、あの男を連想してしまうのだろう。


 彼女には少し悪いとは思うが、響とあの男は違う。

 そういった意味を込めて近づいて寄りかかると、穏やかな笑顔で撫でてくれた。


「私は望月理奈です。虎太郎君が前衛、竜乃ちゃんが中衛、私が後衛です」


 みれば分かるという事でテイマーという話はしなかった。

 しかしこうして見てみると、俺が抜けたせいでエルピスのバランスは悪く、須王の負担が大きく思える。


「足引っ張らないように頑張りますんで!」


「いえ、そんな……」


「パーティを組むと望月さんの経験値の取り分も減ってしまいますし……」


「うーん……」


 これまでの人生でここまでかしこまられた経験があまりないであろう望月ちゃんはやや戸惑った様子を見せ、チラリと俺に視線を向けた。

 少し言おうか言わまいか逡巡した後、彼女は口を開く。


「全然大丈夫ですよ。虎太郎君が一緒に戦いたがっていたので」


「その子が……」


 右側から声を聞いてそちらを向けば、須王と視線が合う。

 彼女は俺をじっと見続けているが、その視線はもう俺を見定めるようなものではなくなっていた。


 どこか懐かしいモノを見るかのような、そんな。

 須王は視線を望月ちゃんに戻して、深く頭を下げる。


「よろしくお願いします」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 こうして俺達は初の団体戦に挑むのだ。

 人数は4人と2匹。数は単純に倍だ。この多さで戦っていけるのかと、一瞬だけ考えた。






 ×××






 結論から述べると、その不安は杞憂だった。


『足止めするわ!』


 竜乃のドラゴンブレスが、輝く鎧を着た騎士を飲み込む。

 それに合わせて、状況を冷静に見ていた響は素早く弓を構えた。


 直後、彼の構える矢は巨大化し、さらに青の光に包まれる。

 放たれた矢は回転しつつ、巨大な衝撃波を残しながら敵へと向かっていく。


 竜乃が攻撃した光の騎士に矢は命中し、そのHPを削り切った。


「コンちゃん、お願い!」


『任せよ』


 音は狐に指示を出し、狐はバフを撒きながら敵に接近。

 立ち止まった狐を光が包めば、それに呼応するように敵が紫の紐に囚われた。


 そんな敵達を、望月ちゃんと竜乃と響が攻撃する。

 正直言って、中衛から後衛の攻撃力は大きく上昇したと言っていい。


 音に近づいて離れないあたり、望月ちゃんは相変わらず響を警戒しているようだが。


 そして一方、俺達前衛組はというと。


「虎太郎君、そっち行ったわよ!」


『了解!』


 当然ではあるのだが、噛み合っていた。

 最初からそこにいたかのような、そんな感覚。


 須王の動きの全ては今まで通りで、だからこそ織田の時の戦い方を今の体に合わせるだけで良い。


『須王、後ろだ!』


 さらに俺は今使える手札が織田のときよりも多い。

 須王の背後を取ろうとした光の騎士を火の剣で串刺しにすれば、すぐに須王が振り返りざまにその首を落としてくれた。


「ありがとうっ!」


 須王は最初こそ、俺達のあまりの息の合いっぷりに驚いていたようだった。

 しかし、しばらくすると戦いが楽しくなってきたのかこれまでの須王が帰ってきた。


 美人だが、その雰囲気や口調から冷たくぶっきらぼうな印象を受ける彼女の本質は戦闘狂だ。

 今も、口の端が吊り上がっているのが確認できる。


 昔はそれを弄ったこともあったが、この姿になると俺も同類だったということを最近知ったばかりだ。


 最後に残った騎士も俺が斬り裂いて倒し、この戦闘も俺達は勝利した。

 これでこのパーティを組んでからの勝利は三件目だ。


「皆、怪我はない?」


 戦闘終了後、いつものように須王がすぐにパーティメンバーの確認に入る。

 特に苦戦するような相手ではなかったので、誰にも怪我は見受けられない。


 一通り確認した後に、須王は望月ちゃんに近づいた。


「望月さん、ありがとう。正直、私達ではこの地域のモンスター相手に少し苦戦していたから助かるわ」


「いえ、そんな……」


「それに、虎太郎君にもあいつのこと思い出させてもらったわ」


 戦闘終了後にまだ余韻が抜けきっていなかったのだろう。

 須王が思わず漏らしてしまった言葉を、望月ちゃんは聞き逃さなかった。


「あいつ……?」


「あ……忘れて――」


 そう言いかけたところで須王は俺を見て、そして何か思いとどまるような表情を見せた。

 彼女は何かに迷い、そして口を開く。


「いえ、別に隠すことでもないわね。私達、昔は四人パーティだったのよ。私と同じ前衛が居たのだけれど……虎太郎君と一緒に戦ってると思い出しちゃってね」


 暗くなりつつある雰囲気を悟り、望月ちゃんはやや声を張った。


「そうだったんですね……で、でも少しでも元気になって頂けたなら良かったです!」


「ええ、そうね。ありがとう」


 望月ちゃんに向けて笑顔を作る須王。

 けれどその笑顔は、どこかぎこちなかった。





 ×××





 その後、俺達はモンスターを倒しつつ光の地域の浮遊街を探索した。

 パーティ制度のために俺達のレベルはまったくもって上がらなかったが、連携力は増している。


 音と望月ちゃんは仲良さげに話しているし、響は響でよく竜乃を見ている。

 おそらく、竜乃がカッコよくて見惚れているのだろう。目が輝いている。


 そんな響の心情を感じ取っているのか、望月ちゃんも少しだが雰囲気を和らげていた。

 相変わらず音にべったりだが。


 一方で俺の隣には須王が陣取り、共に歩いている。

 当然会話はないが、不思議と嫌な緊張感もなく、むしろ慣れ親しんだ雰囲気だ。


 それを感じ取れるのは俺だけだが。


「あ、機器があったわ」


 隣を歩く須王が現実へと戻れる機器を見つける。

 このメンバーでだいぶ歩いてきたので、今日はここら辺で終わりだろう。


 機器に近づき、起動させたところで須王は振り返る。


「望月さん、私達はいつも探索終了時は簡易テントで振り返りをするのだけれど、参加する?」


「あ、振り返りって言っても本当に軽くで、ちょっと休むのがメインですよ!」


 すぐに音がフォローを入れる。

 恒例の反省会だ。ちなみに反省会という名の駄弁り会である。


 なお、望月ちゃん達の方にもある文化だ。


「はい、参加させていただきますね」


 反省会に特に抵抗のない望月ちゃんが頷くと、須王はすぐに簡易テントキットを広げた。

 中に全員で入り、各々好きな位置に座り込む。


 望月ちゃんと俺達は出口に一番近い位置だ。

 全員が座り込んだことを確認して、須王が告げる。


「まずは望月さん、本当にありがとう。助かったわ」


「いえ、私も良い経験になりました。ありがとうございました」


 望月ちゃんの言葉は嘘ではない。

 同じテイマーである音とは意見交換をしていたし、須王の動きは注意深く観察していた。


 彼女もまた、得られるものがあったという事だろう。


「竜乃ちゃんも……それに虎太郎君もありがとうね」


 竜乃に軽く視線を向け、一方で俺とは長時間視線を絡ませる須王。

 彼女は俺から何かを感じ取ってくれている。


 それが、彼女に伝わるまで。

 おそらく俺が死んだことで前を向けなくなってしまった彼女が、彼女達がもう一度前を向くために。


 もう少しな気がした。


 体を動かして、俺は飼い主を見上げる。

 俺からは伝えられないので、望月ちゃんに目で訴えた。


 彼女は俺と目を合わせ、いつものように意図をくみ取ってくれる。


「明日で休日も終わりますが、須王さん達は探索を?」


「? ……ええ、そのつもりよ」


「では、よければ明日も一緒に探索しませんか? 虎太郎君がしたがっているみたいなので」


「虎太郎君が……」


 目線を向けてくれたので、軽く吠えて返した。


『やろうぜ!』


 いつも須王にかけていた言葉。

 それが聞き取れる筈はないのに、須王は目を見開いた。


 やがて穏やかな表情になり、「ええ」と呟いた。


「こちらからお願いするわ。望月さん。それじゃあ端末の連絡だけ交換しちゃいましょうか」


「はい」


 端末を取り出し、やり取りをする須王を見ながら思う。

 須王に、エルピスに前を向いてもらいたいと。先に進んでもらいたいと。


 声にできなくても、共に戦ってきた須王になら通じると、そう信じて。


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