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第91話 天元の華

「嘘っ、望月さんじゃん!」


 向こうから歩いてくる集団の中の一人、優梨愛が顔を輝かせて言った。

 溶岩に照らされた短い金髪と、手首やベルトに付けた小物におしゃれを感じる。


 そんな彼女を、後ろから見守る夫妻は優しく諫める。


「おい優梨愛、急に叫ぶな。向こうもこっちも配信中なんだから」


「優梨愛ちゃん、興奮するのは分かるけど落ち着いて、ね?」


 二人の言葉に優梨愛はえー、と文句を言いながらも控えめにこちらに手を振った。

 先頭に立つ黒髪の少女は、それを聞きながら頭を下げた。


「望月さん初めまして。私達は天元の華です。私は君島愛花、こっちから伊藤優梨愛に武田和香さんに明さん、こちらのお二人は夫婦なんです」


「あ、ご丁寧にどうも。望月理奈です。こっちが虎太郎君で、竜乃ちゃんです」


 愛花さんと理奈ちゃんが互いのパーティメンバーを順に手で示して説明する。

 不意に愛花さんが下を向く俺達の配信カメラドローンに気づいた


「あ、配信ですがカメラ向けてもらっても構いませんよ、こちらも配信はしていますので」


「あ、それなら私も映してもらって大丈夫です」


 二人は互いに頷いて配信ドローンを操作する。

 地面を向いていた二つのドローンが正面を向き、俺達と天元の華を捉えた。


“うおー、本当に天元の華だ”

“こうやって最上位探索者に出会うと、モッチーって来るところまで来たんだなって感じする”

“最前線の仲間入りや”

“にしても天元の華は美人さん揃いだな”

“明さんもイケメンや”

“つーか、優梨愛ちゃん不貞腐れて頬膨らませてるの可愛いww”

“和香さんは名前の通り穏やかそうな人だな”

“愛花さんってこれぞリーダーって感じの凛々しい人だよな”



‘望月さんに会えるかなって思ってたけど、本当に会えるなんて’

‘JDC大会見てました! 凄かったです!’

‘最高1位おめでとうございます!’

‘うわぁ、生虎太郎君だ! カッコいい!’

‘竜乃の姉御が飛んでいるところを生で見れるなんて……’

‘たった一人と二匹でこの中層に来るなんて、マジで凄い’

‘関東最強のソロ探索者は伊達じゃないです!’


 俺達と天元の華、両者の配信コメント欄も大盛り上がりで、滝のようにコメントが流れていっている。

 どちらも好意的なものが多く、お互いにお互いを受け入れているようだ。


 この中層クラスになると、普段から配信をしている探索者パーティは少ない。

 それも相まって、良い反応を示していた。


「ねえねえ望月さん、モッチーって呼んでいい?」


「え? はい、構いませんが……」


「本当!? アタシモッチーのファンなんだよね、配信も見てるんだー。

 あえてすごく嬉しい! よかったらこれからも仲良くしてくれると嬉しいな!」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 優梨愛さんの明るい雰囲気に気圧されてはいるようだが、望月ちゃんは彼女に親しみは感じているようで、笑顔で受け入れていた。

 それにしても、優梨愛さんは見かけ通りグイグイ来るタイプなんだな。

 まぁ、相手を不快な気持ちにさせない距離の詰め方が上手いというか……。


「おい優梨愛、あまり望月さんを困らせるなよ。すみませんね望月さん、優梨愛は結構な頻度で望月さんの配信を確認してまして、興奮しているみたいで……」


「えー、明さんだってあたしと一緒に見てたじゃない! この子はいつか俺を抜くって」


「優梨愛、そ、それは……」


「そうですよ明さん、いつも私に望月ちゃんは凄いんだって話してくれるじゃないですか」


「和香まで……」


 優梨愛と和香に対して苦笑いをする明さん。このパーティの中では保護者側であり、かつ関係は良さそうだ。

 女性パーティで男一人だけってちょっと肩身せまいというか、何とも言えないときありますよね、分かります。


 ガタイの大きい明さんが背の低い優梨愛さんと和香さんに対して焦っている光景は珍しくはないのか、向こうの配信ではいつもの事のように受け入れられていた。

 彼は彼でこういった立ち位置という事なのだろう。


「わ、私も知ってます。テイマー日本一の武田明さんっ!」


「……なんか、望月さんにそう言われると照れ臭いな」


 戦場の魔術師とも呼ばれる明さんは望月ちゃんと同じテイマーの職業だ。彼と彼のテイムモンスターの力はすさまじく、テイマーとしては日本一かと目されている。

 同じテイマーである望月ちゃんは明さんをテイマーとして尊敬しているらしく、目が輝いていた。


 勉強熱心な望月ちゃんにとって、誰よりも実力と実績を兼ね備えた明さんは目指すべき人でもあったのだろう。


「望月さんは、これからここの中ボスですか?」


 パーティメンバーと望月ちゃんのやり取りを見ていた愛花さんがそう言う。

 体を向けるときの反動で、腰に下げた一本の刀が揺れた。


「はい、そのつもりです」


「そうですか。施設的には一つ目だから、特に問題はないと思いますよ。虎太郎君と竜乃ちゃんなら二つ目でも問題はないと思いますけどね」


「……君島さん達はここが二つ目ですか?」


「愛花でいいですよ。君島だと妹と混ざるでしょう。はい、たった今、クリアしたところです」


「おめでとうございます!」


「ありがとうございます」


 確か天元の華は以前闇の地域を攻略していた筈だ。つまりこれで2つの施設をこの東京ダンジョンで初めてクリアしたことになる。

 彼女達はこの層のボスへの挑戦権も手に入れたわけだ。明日にはネットニュースにも乗るだろう。


 二つ目の施設をクリアするのは難しいのだが、天元の華は強い。

 最近現れたパーティながら、破竹の勢いで攻略を進めていた。


 テイマー日本一の明さんは言うまでもなく、その妻である和香さんもトップクラスのヒーラー兼サポーターである。

 さらに優梨愛さんはその見かけからは想像もつかない速度で戦場を駆けまわり、敵を殴り蹴りのバーサーカーっぷりを発揮している。


 そしてリーダーでもありエースである愛花さんは、攻守ともに優れたオールラウンダーな最上位探索者だ。


「それでは私達はお先に失礼しますね。ボス討伐、頑張ってください」


「はい、頑張ります!」


 まだまだ話し足りなくはあるが、ここは中層の施設内。

 愛花さんがそう言うと、優梨愛さんは望月ちゃんの手を取った。


「残念だけど、モッチーまたね! 今度は優ちゃんと一緒にお話ししよ!」


「ほらほら、いくぞ」


 明さんに背中を押されて連れていかれる優梨愛さん。

 その後ろを、ニコニコと笑顔を携えた和香さんが続く。


 残ったのは、エースでありリーダーでもある愛花さんだけだ。


「少しだけ失礼しますね」


 そう言った愛花さんは俺達の配信ドローンに向き合って、その中のたった一人に優し気な視線を向けた。


「優、頑張ってね」


“キミー:うん。ありがとう、お姉ちゃん”


 それはこれまでのどの場面よりも早いコメントだった。

 ずっと言いたかった言葉のようにも感じられた。


“てぇてぇ”

“てぇてぇ”

“姉妹愛、ええなぁ”

“凛々しい雰囲気からの穏やかなお姉ちゃん顔はずるいって!”

“感動しました。愛花さんのファンになります”

“こんな完璧な姉が居て、しかもモッチーと仲良いとかキミーパイセンは重罪では”

“むしろ前世でどんな善行詰んだらこうなるんだよ”


「そ、それじゃあ私もこれで」


 配信のコメント欄で優さんを揶揄ったり、自分を褒める言葉が増えてきて恥ずかしくなったのか、すぐに視線を外して頭を下げて優梨愛さん達を追う愛花さん。

 彼女はその途中で不意に足を止める。


「これからも配信楽しみにしていますね。頑張れ、望月ちゃん」


 ニッコリと笑って再び駆けていく愛花さん。

 最後の口調と声は俺達のバックアップに、とてもよく似ていた。


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