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第9話 再び見つけた希望

(どうしたものか……)


 ユニークモンスターとの死闘を繰り広げてから、時間が経った。

 ある程度の日数が経ってからも、俺は未だに上層に居た。


 格上のスールズを倒してさらにレベルアップした俺は、上層の敵ならば問題なく倒せるくらいには強くなっていた。

 このダンジョンで生きていく以上、本来ならばさらに下の中層に場所を移すべきなのだろう。


 元探索者という視点からしても、今の俺ならば中層でもやっていける。

 けれど上層から動いていないのには理由があった。


 まず第一に、このまま進んで良いのかということだ。

 中層に行き、下層に行き、そこでダンジョンのラストボスを倒した場合にどうなるのか。


 探索者ならば次のダンジョンへと向かえるだろう。

 けれど俺はこのダンジョンのモンスターだ。


 もしも下層のボスを倒してしまえば、敵の居なくなったこのダンジョンに閉じ込められる形になる。

 成長もできず、達成感も無くなり、檻に閉じ込められた獣のようになってしまうのが不安だった。


 けれどそれはあくまでも理由の一つに過ぎない。

 大きな理由は別にある。


(あの子……居ないなぁ……)


 どれだけ時間が経ったのかは分からない。

 けれど俺は未だに救ってくれたあの子を探し続けていた。


 出会った場所がこの上層なのは間違いない。

 だからこそ、ここを離れて中層に行く気がどうしても起きなかった。


(とはいえ……こんなに探索しても見ないもんか?)


 上層を当てもなく歩きながら、俺は今までを振り返る。

 ユニークとの戦闘までは隠れる必要があったこともあり、上層を探索する時間がそもそも少なめだった。


 けれど、今では十分な実力を得たために平然と歩きまわれている。

 ダンジョン内においては時間が正確には分からないものの、それなりの日にちは経過しているはずだ。


 当然探索をしている時間もかなりのものになっているが、あの子を見ることはなかった。


(目撃する探索者の顔ぶれはほとんど同じになってきたんだけどなぁ)


 いくら隠れて移動できるようになったとはいえ、同じだった人間の探索者と戦うことは憚られた。

 そのために、今も探索者の足音を聞けば茂みなどに身を隠すようにはしている。


 隠れて観察している限り、このダンジョンの上層に潜っている探索者はほとんど目にしたと言っていい。

 ダンジョンの1つの層を攻略するのはそれなりに月日を要することなので、そうなるのは自然なことだ。


 けれど朝から晩まで、来る日も来る日も探すが、あの子を見ることはなかった。


(……ひょっとすると、たまたま上層に居ただけだったり?)


 おぼろげな記憶ではあるが、あの時彼女は一人だったように思える。

 パーティを組まずにダンジョンに挑戦する探索者は一定数居る。


 けれどモンスターテイマーという職業でソロ探索をするケースはかなり稀だ。

 あの子が高レベルの探索者で、たまたまこの上層に居た、という事も考えられなくはない。


(……とはいえなぁ)


 考えたところで、それはあくまでも想像の範疇を出ない。

 出会った上層を離れて、中層に行く理由にはならなかった。


 小声で唸りながら、俺は上層を進んでいく。

 考えても考えても答えが出なくて、嫌になり始めた時。


 ――ザッ


 聞こえた足音に顔を上げる。

 姿は見えないが、何かがこちらへと向かってきている。


 探索者のものではないために、身を隠せる場所を探すのは中断する。

 警戒し、魔法を唱えて準備をすれば、やがて一体のモンスターが向こうからのそのそと歩いてきた。


 熊型のモンスター、グリズリー・ベア。

 鋭い爪を持つ、注意すべきモンスターの1体だ。


 とはいえそれは上層に挑む探索者の場合。

 今の俺にとっては相手にならない。


 事前にセットしておいた魔法を開放すれば、背後に魔法陣が展開して光の剣が複数飛ぶ。

 そのうちの二本をひっかきで弾き落とすことには成功したものの、残りの剣はモンスターを串刺しにした。


 中級魔法ながら威力も本数も大幅に強化されているため、一発で倒しきることが出来る。

 体を傾け、地面へと仰向けにモンスターは倒れた。


 灰になり、グリズリー・ベアは魔石へと変わっていく。


(……魔法でこの強さ。この体はやっぱり、あの化け物のものなのか?)


 ユニークを倒したとはいえ、そこまで多くのモンスターを倒し続けたわけじゃない。

 探索者としての感覚なら、上層のモンスター相手に圧倒できるほどではない筈だ。


 にもかかわらず魔法も物理も威力が桁外れに強い。

 探索者として考えるなら、このダンジョンの下層でも通用するのではないかとさえ思える。


 それは、俺があの化け物の体を得たからではないだろうか。


(俺の死体はあったけど、あの化け物の死体はなかった。

 俺とあの化け物が入れ替わったのは荒唐無稽だけど、人間である俺がモンスターになるようなありえないことが起こっているんだから、それでもおかしくはない)


 最初はモンスターになって、しかも探索者の頃よりも弱くなっていることに相当なショックを受けた。


 けれど今となってはこの体の強さにワクワクしていた。

 姿は変わってしまったけれど、成長速度は目を見張るものがあり楽しくて仕方がない。


 少し前にやったRPGゲームの強くてニューゲームをやっているみたいだった。


(でもなぁ……ステータス見れないのがなぁ……)


 強いという感覚があるものの、やはり数字という目に見えるものが欲しかった。

 またスキルに関しても、俺が知らないものを習得している可能性だってある。


(どうやったら知れるんだろ?やっぱりモンスターチェッカーか?)


 仮に俺があの化け物になっていた場合、モンスターチェッカーに情報は表示されない。

 けれど逆に言えば表示されないという事はあの化け物の可能性が高いという事だ。


 詳細が知れなくても、あの化け物である可能性が高いと分かるだけで十分だ。

 けれど、そのためには探索者を倒して奪う必要がある。


 流石にその選択肢は取りにくかった。


 そのうち念じるだけで自分のステータスを確認できるようにはならないだろうか。

 そんな事を思っていた時だった。


 ――ザッ


 足音を聞いて、考えるよりも先に体が動いた。

 人間の足音を聞いて姿を隠したのはこれまでで体に染みついた習慣だ。


 けれど草むらに入ったときには、予感がしていた。


 足音は軽かった。

 足音は一つだった。


 まさか。


 そう思い、茂みの影から足音の方を注意深く観察する。

 遠くに映ったのは、小柄な影。


 身長的に少女くらいの年齢だろうか。

 足音から予想した通り、彼女は一人だった。


 辺りを注意深く観察しながら、ゆっくりとこちらへと近づいてくる。

 左を見ていた彼女は、ゆっくりと視線を右へと向ける。

 その途中で彼女の顔を確認することが出来た。


 短い茶髪の髪に、眼鏡。

 それを確認して、息が止まった。


(あの子だ……)


 長い間待ち続けた邂逅に、口を開けて動きを止めてしまう。


(やっと……会えた)


 そう思ったとき、さらに近づいてきた少女を見て俺は口をさらに大きく開けた。

 先ほどは思わぬ再会に呆けた顔をしてしまった。


 けれど今は、あまりの衝撃に口をただ開くことしか出来ない。


(あぁ……)


 失意のどん底の声を心の中で出してしまう。


 あの子の横には、ふわふわと浮遊して彼女に付き従う小さな白いドラゴンの姿があった。


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