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第87話 そして、かつて居た場所へと

「お疲れ様、虎太郎君」


 リング上で光の文字を見上げていた俺の背に、声がかけられる。

 振り返ると、もう回復したのか望月ちゃんが竜乃と共にリングに上がってくるところだった。


【勝利を掴みし者よ、報酬を受け取るがよい】


 再び音がして正面を向くと、光の文字が変化していた。

 それと同時、部屋の奥――3体のモンスターが立っていた場所に光が集まり、宝箱が現れた。


 チラリと目線を向けると、銅鑼を叩いていたモンスターの姿もない。


「あれが超級魔法なんだね。凄い威力で、私びっくりしちゃったよ」


『本当、虎太郎はどこまで強くなるんだか……』


 興奮した様子で、胸の前で拳を握る望月ちゃんと、やや苦笑い気味の竜乃。

 二人の反応に違いはあれど、どちらも俺を褒めてくれていた。


 鼻、高くなっちゃいますねぇ。


“初めて見たわ”

“いつか使えるだろうとは思ってたけど、ここで使えるとはなぁ”

“レベル的にはTier1上層で使える探索者は多いけど、普通は魔法特化の職業だし”

“っていうか、火なんだな。雷かと思ってたわ”

“分かる。なんか虎太郎の旦那って雷って感じするんだよな”

“それを言ったらモッチーもだけど”

“実際、持ってる攻撃魔法ほとんど雷だしな”

“飼い獣と同じ魔法を習得している飼い主、エモいです”

“なお、習得しているではなく、習得した、の模様”

“今の虎太郎の旦那なら、他の属性の超級魔法も使えるんじゃね?”


 配信のコメント欄も、先ほどの俺のブレイズエンドに言及しているものが多い。

 やはり魔法の最上位というのに皆興味があるのだろう。


 魔法には段階があり、初級から始まって、中級、上級と上がり、一番上が超級となる。

 なお超級魔法は攻撃系統の魔法しか存在しない。


 そのため防御系統の魔法はロックフォートレスやボルト・ゼロなどの上級止まりだ。

 当然だが、超級魔法は俺が使った火以外にも、水や光など様々な属性がある。


 これらの属性に関しても、おそらく使えるとは思うのだが。


(雷は……なぁ……)


 たった一つ、俺が最も得意とする雷の超級魔法に関しては使える気がしなかった。


 一応、どういった魔法なのか見たことはないが知ってはいる。

 トールハンマーと同じく一撃のみだが、威力が上昇した魔法だったはずだ。


 けれど何故か今の俺はそれが使える気がしなかった。

 まるでまだ時期じゃないと言わんばかりに封印されているような、はたまた使ってはいけないと本能が訴えているような、そんな不思議な感覚だ。


 数々の窮地を打ち破ってきたトールハンマーの上位互換が使えないのは痛いので、何とかしたいところではあるのだが……。


「なんか良いものが入ってればいいんだけどなぁー」


 望月ちゃんに並んでリングを降りて宝箱に向かう。

 彼女はこう言っているが、あまり期待は出来ない。


 ボス討伐の報酬は完全にランダムだからだ。

 一応初回討伐時は装備が追加で出ることが多いが、挑んだ探索者が装備できない可能性が高い。


 そこは一致させておけよと前々から思っているのだが、よくよく考えるとパーティ全員の分の装備を提供するのは無理な話か。

 パーティの内の一人でも、と思わなくはないが、無いものを強請っても仕方がない。


 望月ちゃんは宝箱に手をかけ、開く。

 直前までわくわくしていた表情は、中を確認すると難しい顔へと変わった。


 どうやら、テイマーの装備ではなかったようだ。


“残念”

“残念”

“い つ も の”

“今のところTier2の下層ボスだけなんじゃね? テイマーの装備が出たの”

“このシステムマジで何とかして欲しい”

“まぁ、売って探索資金にするのが普通だから”


 配信向けに望月ちゃんがボス討伐の報酬を紹介し始める。

 装備は弓使い用のものだった。売りに出すのは確定である。俺達のパーティに弓使いが加入することは、おそらくない。


 レアなアイテムを軽く紹介している最中に、一つのコメントが流れた。


“そういえば、モッチーって左手にも腕輪付けてるよね? 配信前に手に入れたやつなの?”


 流れてしまった。


「あ……よくぞ聞いてくれました! これはですね、なんとですね、虎太郎君が持っていたものなんです! もう一度虎太郎君との運命的な出会いを説明しますね! あれは……ちょっとしたトラブルでモンスターハウスに置き去りにされたときの事でした。そこに颯爽と現れた虎太郎君は敵をばっさばっさとなぎ倒し、私達を助けてくれたんです。でもでも、クソダンジョンの仕様なのか何なのか知らないのですが、ユニークモンスターが大群で現れて虎太郎君に殺到したんです! いくら虎太郎君がかっこよくて強くて完璧な存在でも――」


 そして始まる望月ちゃんのマシンガントーク劇場。

 コメント欄は阿鼻叫喚に包まれる。


“すまんて”

“隙を見せてはいけない(戒め)”

“これもう何度も聞いたってー”

“毎回思うけど、ちょっとしたトラブルのとき人殺せそうな顔してるのなんなん?”

“絶対ちょっとしたトラブルじゃないって、あれ”

“ク ソ ダ ン ジョ ンwwww”

“クソダンジョンww”

“めっちゃ言うやん”

“誰か止めてくださーい”

“現実に戻してあげてくださーい”

“キミーパイセン!!”


 このままでは埒が明かなくなりそうだったので、座り込んでいる彼女の頭をじゃれつくように俺の頭で擦りつけた。


「わっ……こ、虎太郎君、くすぐったいよ……あはは……」


 望月劇場、キャンセルに成功しました。

 あのまま続けてたら俺が褒め殺されてしまう。続きは探索者テントで、ね?


“旦那ぁぁぁあああああ!”

“神!”

“やっぱ旦那なんだよなぁ”

“キミーパイセンを越えるストッパーが現れたところである”

“キミーパイセン仕事しろ”

“キミー:そもそも立場的には君達と同じくコメント欄にしか居ないんだから無理だよ。よほど酷いときは連絡するけど”

“鬼、悪魔、キミーパイセン!”

“どうしてやる前から諦めるんですか!?”

“諦めんなよ!”

“キミー:個人的な感情でBANしていいかな……”


 コメント欄が不穏な動きをしているが、優さんが統制するから大丈夫だろう。

 今も「すまんて」「嘘です」「すみません」のコメントで溢れているし。


『理奈も止まったし、次行きましょうよ』


「あ、そうだね。進もうか」


 竜乃の鳴き声に促されて、俺達は奥へと進む。

 宝箱の奥に伸びていた通路を歩けば、下へ続く階段が現れる。


 その前には、下に向かう探索者を見張る政府職員は存在しない。

 彼らの役目はレベルが大きく足りていない探索者を弾くこと。その役目は上層のボスが代わりに担ってくれているからだ。


 ちなみに東京のTier1ダンジョンは中層までしか攻略されていないので、そもそも政府職員が配置されていなかったりする。

 京都のTier1ダンジョンは深層まで攻略されているが、そちらでは中層はともかく下層に配置する政府職員が居ないとかで問題になっていた気がする。


 ……そもそもTier1の下層に行ける段階で最上位探索者なのは間違いないし、そこに寄生探索者を連れた状態でボスを倒せる人間なんて、あの氷堂以外に居ないから無意味だろ、とそのニュースを見て思った記憶がある。


 Tier1ダンジョン挑戦パーティには専属職員がつくので、そもそも寄生行為など起こらない気がするのだが。

 なんともお役所の考えることはよく分からない。


「ここを下ったら、中層だね」


 立ち止まり、先の見えない下り階段を見下ろしながら望月ちゃんは言う。


“本番ってこと”

“ついにモッチーが東京側の最前線に”

“まぁ、Tier2ダンジョンクリアしたときから分かってたこと”

“このまま中層もあっさりクリアすんべ”

“いや、中層は流石に簡単には……”

“この上層がチュートリアルみたいなものってよく言われてるからな”

“簡単に行ったら関東の上位探索者が足踏みしてないだろっていうのはあるけど、モッチー達ならって思うわ”


 コメント欄でも、中層に対する多種多様な意見が見受けられる。

 俺達の力を信じる人、中層の難しさを警戒する人、大きく分けてこの二つに二分されていた。


 けれど、俺の思いは少し違う。

 中層はこの上層とは色々と次元が異なるのは間違いないけれど。


(戻ってこれたってことか)


 そこは、かつての俺が諦めた場所だからだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

上層を突破し、次からは中層になります!

これからも虎太郎達のダンジョン攻略を楽しみにしていただけますと幸いです!


「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです


皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!


なお、マルチ投稿している2サイトですが、カクヨムの方が先行公開しています。

その内追いつきますが、続きが気になる方はよければどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16817330656567271391

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