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第86話 新たな魔法の習得

 敵のモンスターがリングに上がり、望月ちゃんと竜乃がゆっくりとリングから降りる。

 そうすることで俺達だけがリングの上に残り、光の壁が再び立ち上がった。


 さて、ここからは俺の戦いだ。


 正面に仁王立ちする敵を見つめる。

 豪華な装飾が施された仮面は、上層ボス最後の一体の証。


 エースと呼ばれる、探索者パーティで一番強い者に対応する強力なモンスターだ。

 俺の正面のモンスターの得物は太めの両刃剣に、宝石があしらわれた大きな丸盾。


 俺が魔法ではなく物理が得意なことを正確に見抜き、戦士タイプのモンスターをダンジョンは用意したようだ。

 リングの上にも光の文字が表示される。今回が最後だという通達だろう。


【試練に挑む者達よ、最後の試練だ。■■■■■■■■■■■の敵は、古の王なり】


 なんだ? 光の文字の一部が塗りつぶされ……いや、色々な文字が複数重なって、かつその部分だけ現れては消えを繰り返しているので読み取ることが出来ない。


 あれは、俺を表す部分か?

 そこまで考えて納得した。今の俺は元々探索者の織田隆二であり、あのTier0モンスターでもある。


 一言で表すのが難しいという事なのではないだろうか。


 響き渡るのは、試合開始を告げる鐘の音。その音を聞いても、俺はその場から動かなかった。

 対して奴は勢いよく剣を振るい、盾を構えながらこちらへと近づいてくる。


(……どうするか)


 正直言うと、この戦いは間違いなく俺が勝つ。

 今俺の目の前にいる奴は強くはあるが、クイーンには及ばない。


 Tier2ダンジョンの下層のボスが一致団結して何とか倒す相手なら、Tier1ダンジョン上層ボスは個々人の戦いだ。

 クイーンをほぼ一人で足止めして、イレギュラーがなければおそらく勝てていた俺が負ける可能性は限りなく低いだろう。


 ……油断はよろしくないが、れっきとした事実である。


(試してみるか……)


 どうせ勝つ確率が高い一戦なのだ。それなら、今後に繋がることをしようと考えた。

 最愛の望月ちゃんは、俺のために時間をかけてトールハンマーを見せてくれた。


 なら俺も、新しい魔法をやってみてもいいかもしれない。


 試す魔法の属性をすぐに火へと決めた俺は奴に対して接近戦を挑む。

 放つにしても、準備をする時間は必要だ。


 身を屈め、素早く奴の間合いへ。そして奴の剣よりも早く、紫電を纏わせた右前脚の爪を盾に意図的に突きたてた。

 金属がぶつかる甲高い音が響き、奴が衝撃に仰け反る。


 剣による攻撃すらキャンセルさせた光景を見て、確信する。

 接近戦においては、明らかにクイーンよりも下だと。


(この感じだと、おそらく数回打ち合えば盾を弾き飛ばせる、奴の体を斬り裂ける……けど)


 もちろんそれでも構わないが、俺としてはどうしても試したかった。

 今現在、半分程度まで準備が進んだ新しい魔法。


 この上層のフロアモンスターでは弱すぎて放つ機会がなかった。

 けれどこいつ相手なら、十分な時間をかけて準備が出来る。


 俺の体から発せられる紫電の電流が音を立てて弾ける。

 その音か、あるいは俺自身の雰囲気に気圧されたのか、奴が少しだけ下がろうとする。


 けれどそれではいけないと思ったのか、下げた足に再び力を入れて強く踏み込んだ。

 薙ぎ払うような剣の軌道。それを瞬きすることなく捉え、跳びあがって避ける。


 さらに続けての盾を構えての突進が見えたので、口を大きく開き。


『止まれ!!』


 リング中に響き渡る咆哮で、奴の動きを止めた。

 浴びせられた音圧で奴は体を震わせている。盾でのバッシュ攻撃もキャンセルできたことだろう。


 この瞬間に、残りを組み上げる。

 魔法そのものは知っているし、見たこともある。それにこの体なら、放てるはずだ。


 あのダンジョンで出会ったTier0の化け物、黒い獣なら放てるはずだから。


 体の痺れから解放された奴は剣を強く握りしめ、自身にいくつかの強化魔法をかける。

 文字通り奴の本気という事だろう。けれど、それでもまだ俺の方が上だ。


 上方から力の限り振り下ろされた剣を見て、俺は頭に防御魔法を展開し、そして。

 力の限りの頭突きを下から突き上げた。


 ガキンッ、という音を立てて剣が弾かれるのを確認する。

 頭に展開した防御魔法にもヒビが入ったが、問題はない。


(……やっぱり、防御に関しては地属性の魔法の方が得意だな。体を護るように展開するのは難しい。まぁ、当たったところで俺の防御力なら問題はないと思うけど)


 先ほどの斬り下ろしの時に用意していたのであろう、奴が飛ばしてきた岩の剣を避ける。

 飛ばしてきた剣の数は三つ。しかし見た目からは想像がつかないほど身軽な俺は、それに当たることはない。


 左に飛んで一つを、そこから真上に跳んで二つを、そして三つ目を体を縦に回転することで尻尾で弾き落とした。

 その間に奴は体勢を立て直し、剣を構えて踏み込んでくる。


 俺が地面に着地するのと、奴が串刺しにするような突進攻撃をするのは同時だった。

 おそらく、当たれば大ダメージは必至の攻撃。しかし、見えている。


 余裕をもってその攻撃の範囲から横に跳ぶことで避けた俺は、奴の胴体に力の限り頭から突っ込んだ。

 わき腹を捉えられ、衝撃で吹き飛ばされる奴を見る。


 奴は石造りのリングを、砂ぼこりを上げて転がった。

 それでも闘志は消えることなく、次の瞬間には剣を床に突き立てて起き上がろうとしている。


 けれど、もう時間だ。ずっと準備していた魔法が、たった今完成した。


『行くぞぉ!!』


 力の限り咆哮して、魔力の行使。

 体内の魔力が一気に放出され、一つの魔法を作り上げる。


 火の上級魔法、イグニッションを越える火力の火柱が打ちあがる。

 轟音を立てて下から上へ、まるで水が滝のように落ちるのを逆向きに見ているような噴出。


 それだけで奴のHPを全損させるのに足るのに、火柱の内部で爆発が起きる。

 火柱の中央から、一回り大きな火の輪が発生し、内部を弾き飛ばしていることを教えてくれる。


 強大な存在が消滅する際の大きな爆発にも似た一撃を見上げ、歓喜。

 成功した。それも大成功だ。以前見た時よりも、今の俺の方が威力は高い。


 火の超級魔法、ブレイズエンド。

 文字通り全てを終わらせる業火の体現を、習得した。


 火柱は段々と音と大きさを小さくしていき、やがて消える。

 当然、その後には何も残らなかった。奴の姿はおろか、灰すらも。


【見事なり。勝者、挑戦者!】


 頭上に俺の、俺達の勝利を祝する光の文字が出現した。



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