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第84話 白き竜は誰にも止められない

 戦闘開始後、真っ先に動いたのは竜乃だった。

 十分に距離が離れているなら、そこは彼女の間合い。


 素早く勝負を決める為に放ったのは、紅と蒼を混ぜたドラゴンブレス。

 挨拶代わりの一撃と言ってはあまりにも強力すぎるその一撃を、双剣士は防ぐのではなく避けた。


 リング上を素早く走り、竜乃の近くへと詰めようとする。

 しかし、体全部で動く双剣士に対して竜乃は首を動かすだけで良い。


 その違いが大きいことは双剣士も分かっていたのだろう。

 炎を掻い潜るように避けながら、奴は右手を力の限り振るって剣を投擲した。


 地上に居る奴が空中に居る竜乃を墜とすにはこの方法しかない。

 タイミングは完璧で、剣の動きも早い。けれど。


『甘かったな』


 竜乃はすでに一度その攻撃にやられている。

 しかもその時は消滅しかけのダーク・ソルジャーが放った武器にだ。


 こんな風に何かしてくるのが目に見えている双剣士の攻撃など、今の竜乃に当たる筈もない。

 軌道を完全に見切った竜乃は炎を吐くことを継続したまま体をねじる様にして飛ぶ。


 地上に居る双剣士の元に。


 発射地点と着弾地点。その間の距離があったからこそ、双剣士は竜乃のブレスを避けることが出来た。

 その距離が縮まれば、当然対応は難しくなる。


 片方の剣を離した双剣士に竜乃のブレスを防ぎきるほどの防御は作れないのだろう。

 二色の火が、双剣士を捉えた。


 竜乃はそのまま近い距離で旋回しながらブレスを放ち続ける。

 双剣士はなんとかブレスのダメージを軽減しようとするが、威力の高い持続攻撃の前にHPがじわじわと削られているのが分かる。


 クイーンのように魔というわけではないので蒼の炎の特攻は入らないが、二色のブレスはこのダンジョンの中層でも通じる程の高火力だ。

 双剣士に手出しが出来ない空中から一方的に嬲れる竜乃の勝ちが確定したと思ったが。


 視界の隅で、何かが光るのを見た。


 双剣士が投げた剣だ。回転する刃が光を反射して、僅かに光っている。

 あれはどうやら一方通行ではなく、ブーメランのようなものという事だろうか。


 それなら、再び双剣士の元へと返ってくるはずだ。

 そしてその軌道に、旋回してブレスを放ち続けていた竜乃が入った。


 前からの攻撃だけでなく、後ろからの予期せぬ攻撃。

 流石上層のボスの一体、クイーンのように多芸だと言わざるを得ない。


『竜――』


 声が届くかは分からないもののそこは危険だと竜乃に伝えようとしたが、同時に気づいてしまった。

 タイミングが完璧で、竜乃が今気づいても避けられないと。


 光を反射する刃は風を切り、優勢な白竜の元へと吸い込まれるように飛ぶ。

 あのままでは、背後から貫かれてしまう。


 竜乃と目が合い、彼女の目元が笑った気がした。


 これまで以上に力強く羽ばたいた竜乃はさらに上空へと。

 そのまま体を縦に一回転し、より強く一回だけ羽ばたいた。


 いまなお飛び続ける双剣士の剣。それ目がけて羽ばたいたときの風が殺到し、速度を増させる。

 避けられたことと自らの剣を利用されたことで双剣士の動きが一瞬だけ止まった。


 竜乃は息を大きく吸い、剣を追いかけるようにとどめのドラゴンブレス。

 もはや双剣士の予期していた速度すら越えた剣は再び手にしようと上がり始めた奴の腕を無視し、その体に深く深く突き刺さった。


 そしてその直後、動きを止め、剣を持つもう片方の腕を力なく落とした双剣士が二色の炎に飲み込まれる。

 自らの放った剣と竜乃の火により、その命を燃やし尽くされていく。


 留まるところを知らないドラゴンブレスはクイーンの時のように、今回もまた双剣士を灰に還すまで燃やし続けた。

 彼女の火の後に残るものは、何もなかった。


【勝者、挑戦者!】


 竜乃がブレスを止めると同時に、試合結果を報告する光の文字が現れる。

 一戦目は危なげなく竜乃勝利に終わった。まあ、心配なんてしていなかったけど。


 途中ちょっとだけ、ほんのちょっとだけしんぱ……驚いただけだけど。


『ふふん、楽勝ね』


 得意げな顔をして俺達の元へと帰ってくる竜乃。

 竜ながら、その鼻はまるで天狗のように伸びているようだ。


「お疲れ様、竜乃ちゃん!」


“おつかれー!”

“おつかれさま!”

“爽快な勝利ありがとう!”

“竜乃の姉御最強!!”

“やっぱクイーン戦で覚醒した竜乃の姉御は止まらんて!”

“やだ、俺の推しのテイムモンスター、強すぎ……”

“やだ、カッコいい……“

“名前的に間違いなくメスの筈なのに、なんでこんなにカッコいいんや……”


 竜乃をねぎらう望月ちゃんとコメント欄。気持ちは俺も同じだ。


『お疲れ、竜乃。最後の剣のやつ、よく分かったな』


 不思議に思っていたことを口にする。

 あのとき竜乃からは間違いなく双剣士の放った剣の軌道は見えていなかった筈だ。


 けれど竜乃は綺麗に返ってきた剣を避けるだけでなく、風を放つことで攻撃の一手にもしてみせた。

 あれはまるで、返ってくることが分かってたかのような行動だった。


 俺の質問に対して、竜乃は「ああ」と軽い調子で返事をする。


『分かったというか、警戒していたってやつよ。もしかしたら投げた剣が戻ってくるかもしれない。あるいはその剣から魔法が放たれるかもしれない。正直、何が来てもおかしくはないと戦うときはずっと思ってるわ……あの女なら、それくらいやってきた筈だし』


 竜乃がいうあの女がクイーンであることはすぐに分かった。

 確かにクイーンならばそのくらいはやってくるだろう。あれは技量に関しては俺を上回っていた。


 一度倒した敵でありながら、竜乃の中ではクイーンはまだまだ強大な敵だったという認識が強いようだ。

 浄化の炎との相性が良かったのと、覚醒直後という事で倒せたと考えているのだろう。


『……本当、頼りになるよ』


 以前から頼りにしていたが、クイーン戦後は特にだ。

 かつて共に前線を支えたパーティリーダーと同じ……いやそれ以上に俺は竜乃を頼りにしている。


『……ありがと』


 そっぽを向きながらも、ぎこちないお礼に苦笑いする。


“モッチーが珍しく竜乃の姉御と虎太郎の旦那の絡みを見て悶えていない”

“でも竜乃ちゃんが終わったという事は……”

“さすがのモッチーもこの状況では緊張するか”

“モッチー、深呼吸だ。ここが正念場やぞ”

“ここを勝てさえすれば後は虎太郎の旦那がやってくれる。いつも通りのモッチーで行くんや”


 コメント欄が騒つき、視線を向けてみれば胸に手を当てて大きく息を吐く望月ちゃんが居た。

 この上層のボスは人数分用意されるが、内一体は必ず強化されたモンスターとなる。


 その一体と戦うことになるのは、パーティのエースとなっている探索者だ。

 俺達のパーティならば、間違いなく俺だろう。


 なら、次の挑戦者は。


【試練に挑む者達よ、次の試練だ。月の心を持つ少女の敵は、強大な魔法を扱う古の使徒なり】


「はい!」


 元気よく返事をして、リングへと歩き出す望月ちゃん。

 次の一戦こそが、この上層ボス戦の正念場だ。


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