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第79話 Tier1ダンジョンへ

 眠りから覚めるように、目を開ける。


(いつもの簡易テント……いや……)


 見慣れた光景かと思ったが、空気が少し違う。

 ここは、もしや。


「こんにちは、竜乃ちゃん、虎太郎君。虎太郎君はダンジョンの移動は初めてだね。ここは東京のTier1ダンジョンの上層だよ。……ここだけの話、虎太郎君がダンジョン移動できてよかったよ」


 愛しの望月ちゃんの発言を聞いて、感じたことが正しかったことを悟る。

 ついに探索者だった頃の俺が挑んでいたダンジョンまで戻ってくることが出来たようだ。


 感慨深い気持ちになる一方で、俺は安心してもいた。理由は望月ちゃんが言ったことと同じだ。


(ダンジョン間の移動が出来て良かった……)


 テイマーとテイムモンスターは一心同体で、ダンジョンを変えてもテイムモンスターを呼び出すことが出来る。

 だから望月ちゃんは竜乃をどのダンジョンでも呼び出せるのだが、俺との繋がりは竜乃のものとは少し違うために心配していた。


 結果としては問題なかったようだが、やはりテイムの関係は白い糸が表しているということで間違いなさそうだ。


「それじゃあ、配信付けるね」


 望月ちゃんがドローンを操作して配信を開始する。

 すでにSNSで告知はされていたのか、開始するや否や多数の視聴者達が入ってきた。


“こんにちはー”

“待ってた”

“久しぶりの探索者テントや”

“虎太郎の旦那と竜乃の姉御もおっすおっす”

"いつ見ても凛々しいぜ"

"モッチーも相変わらず元気そうで何より"

"昨日はしっかり休めたかい?"


 こんな風にコメントが溢れるのも昔なら考えられなかったことだ。

 JDC大会を2位という好成績で終えたことで、俺達は配信界隈でも注目を浴びている。


 それこそ有名ダンチューバーと並ぶと言っても過言ではない。

 だが、俺達のダンジョン攻略はまだまだ続く。


「皆さんこんにちは。今日からTier1ダンジョンを攻略していきます。……私初めて東京に来たのですが、人が多くて驚きました。あと、駅ちょっと広すぎて迷ってしまいました」


“ついにTier1に来たか”

“ダンジョン側にモッチーの凄さを分からせるんや”

“Tier2ダンジョンもすごかったけど、Tier1はもっとすごいんだろうか”

“モッチー東京初か。確かに最初は驚くかもな”

“駅は魔宮だってはっきりわかんだね”

“標識に従って移動したのに違う出口に出るのなんでなの……”

“分かる。俺も駅で迷って先輩に助けてもらったことあるわ。あの人達なんも見ないでどんどん進むから、構造全部覚えてるんだろうな”

“モッチー、拠点を東京に変えるの?”


 ちなみに俺は東京生まれ東京育ちのために、Tier1ダンジョンに挑むからといって遠出する必要はなかった。

 他の探索者は宿を取ったり引っ越す人も居たが、望月ちゃんは茨城在住なので来やすくはあるはずだ。


「あ、いえ、住んでいるところから東京へは電車で行けますので引っ越しとかはしませんよ。

 でも休日は家に戻るのが大変なのでホテルを取るつもりです。お母さんがついてきてくれたのですが、旅行だってはしゃいでました」


“はしゃぐモッチーママ草”

“モッチーママか……モッチーと同じで狂……いやなんでもない”

“はえー、とはいえ電車乗って遠くまでお疲れ様やで”

“娘以上にはしゃぐ母親……悪くないです”

"学校もあると思うし、あんまり探索で無茶しないでね"


俺も望月ちゃんのお母様は気になるが、こんな体になった以上会うことはないのだろうなと思う。


「ふぅ……それじゃあこれから挑むTier1ダンジョンの上層について簡単に説明しますね。知っている人も多いと思いますが、念のために。

 この上層のテーマは砂漠みたいです。上層はあまり広くなく、Tier2ダンジョンの中層にも満たないみたいですね。

 ただ以前の下層の暗黒城のような場所があって、砂竜の墓場って名前です」


 これから挑むTier1ダンジョン上層の説明を始める望月ちゃん。

 彼女の言う通りTier1ダンジョンの上層はあまり広くなく、もっと言うと出現するモンスターもそこまで強くはない。


 もちろんTier2ダンジョン下層のモンスターよりはやや強いのだが、そこのボスを倒した探索者ならば苦もない相手ではある。

 Tier1の上層は通過点、というのはTier1ダンジョンに挑む探索者達の共通認識だ。


 まぁTier1ダンジョンに挑める探索者の割合が一桁パーセントなので、全探索者で考えると難関層に違いはないのだが。


「それで、この層のボスを倒すには砂竜の墓場に行かないといけないんですよね。そこで鍵を手に入れないとボスの居る施設に入れないみたいで……」


“クッソ怠くね”

“実力は足りてるんでしょ? 直接ボスに挑ませろや”

“自信がないからって閉じこもるボス……こーれはクソ雑魚の香り”

“砂漠ってことはサボテン型の敵とかサソリとか居そうやな”

“つーか間違いなく地下なのに太陽があるダンジョンおかしいだろ”

“自然法則仕事しない定期”

“いつも通り虎太郎の旦那と竜乃の姉御で敵ボッコボコにすんべ”


 視聴者も思い思いの事を書き込んでいる。

 ボスの居るピラミッドまではダンジョンの入り口からまっすぐ進めばつくのだが、砂竜の墓場は西にあるためにやや遠回りとなる。


 だがTier2下層の時と違ってレベリングを重点的に行う必要もないし、順位のために虱潰しにモンスターを倒す必要もない。

 下層ではかなり時間をかけたが、それよりは早く攻略は完了するだろう。


「えーっと……皆さんの言いたいことも分かりますが決まりですので、まずは砂竜の墓場に向かって鍵を手に入れますね」


 ダンジョンの決まりに文句を言う視聴者に今後の動向を説明する望月ちゃん。

 俺も遠回りだが決まりは決まりだと思うし、もっと言うと望月ちゃんのレベルを念のためにもう少しあげておきたいので、この決まりは逆にありがたかった。


 今の状態でもここの上層ボスに負けることはないと思うが、念には念を、というやつだ。


「じゃあ竜乃ちゃん、虎太郎君、行こうか」


 ダンジョン事情を説明し終わった望月ちゃんは俺達に声をかけ、出口へと向かう。

 テントの幕を開けた彼女に従って外へと出ると、じめっとした風を感じた。


 むっとした熱気を感じ、砂が毛に交じっていくのが分かる。

 あまりの気持ち悪さに、自分を覆う風のベールを作り出した。


『虎太郎……それ……私にも頂戴……』


『あぁ、いいぞ。ただ戦闘時は取れるかもしれないけど』


『移動中だけでも全然ありがたいわ』


 元々かけるつもりだったので、竜乃と望月ちゃんも風の魔法で作り出したベールで包む。

 流石に戦闘時は激しい動きをするので完全に砂を防ぐことはできないが、移動中くらいは問題ないだろう。それにこれ、涼しいし。


「ありがとう虎太郎君」


『気にするな』


 軽く望月ちゃんに吠えながら、前回来た時はパーティメンバーとこの上層の環境について散々文句を言ったなと思い出した。


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