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第74話 まさかの再会

 JDC大会では俺達は最高1位になった。

 最終的な順位は2位だったが、最高は1位なのである。1位である(断言)


 1位を獲得したJDC最終日から3日が経ったが、俺達は未だに探索場所をTier2ダンジョンの下層にしていた。

 下層ボスであるクイーンを倒したので今すぐにでも東京にあるTier1ダンジョンには潜れるのだが、潜らない理由は2つある。


 第一に、望月ちゃんのレベルが心もとない。

 俺達は下層ボスのクイーンを倒すまでノンストップで、言ってしまえば特急に乗って来てしまったようなものである。


 一応Tier1ダンジョンの上層に挑めるだけの最低レベルはギリギリ越えているようだが、もう少しレベリングをしてから移動しようという事になった。


『……なんか、本当に流れ作業みたいになってきたわね』


 俺の隣を、いや、やや前を飛ぶ竜乃が蒼い炎を放ってダーク・ソルジャーを焼き殺している。

 口に出した言葉は飽きているようだが、その表情はリラックスしているように見える。


『楽でいいだろ』


『いや、そうなんだけど……これまでとの落差がね……』


 苦笑いしながら声をかけると、同じような笑みが返ってきた。


 もう一つにして最大の理由だが、燃え尽き症候群だ。

 つい3日前まで、俺達は死力を尽くしていた。


 頭に様々な情報を詰め込み、可能な限り多くの敵と戦い、探索と戦闘に時間を割いてきた。

 望月ちゃんに関しては睡眠時間を削ってまでだ。


 けれどそんな忙しすぎたJDCが終わった結果、俺たち三人は無気力になってしまったのだ。

 流石にこんな心境でTier1に挑むこともないだろうという望月ちゃんの提案で、しばらくはTier2ダンジョン下層でレベリングとなった。


 なったのだが。


『もうここに竜乃の敵は居ないだろ……』


『相性って、本当に大事なのね』


 竜乃が目覚めたシークレットスキル、「蒼い炎」。

 名前が正しいかは分からないが、見た目からそう名付けている。


 というか、テイマーでシークレットスキルを所持しているであろう探索者は居るのだが、テイムモンスターで所持しているのを見るのは初めてだ。

 少なくとも俺の知っている探索者のテイムモンスターの中にはない筈。


 東京よりも探索階層が進んでいる京都側は分からないが。

 いや、あるいはテイマーがシークレットスキルを持っていると思っていたのはテイムモンスターのものだったり?


(まぁ、テイマーとテイムモンスターの両方がシークレットスキル持ってるっていうのは望月ちゃんだけな気がするけど)


 蒼い炎がダーク・ソルジャー(弓)に直撃し、消えない炎が敵を浄化していく。

 魔を浄化する性質を持つ蒼い炎はこの階層においてはワイルドカードのようなもので、敵が誰であろうと大きなダメージを与えることが出来る。


 さらにクイーンを倒したことで望月ちゃんのレベルを急激に上げただけでなく、竜乃自身も進化したために火力も十分だ。

 仮に蒼い炎に浄化の力がなかったとしても、それなりのダメージを与えられているはずだ。


『にしても、クイーンを倒したのが竜乃だったから沢山のポイントが入って1位になれたのかもしれないな。俺が倒してたら、1位じゃなかったかもしれない。

 そう考えると、奇跡のような出来事だったな』


『倒したテイムモンスターでそこまで違いが出ないでしょ。きっと虎太郎が倒しても同じだったわよ』


『そっか』


 竜乃はこう言っているが、俺はあの氷堂に勝てるとは思っていなかった。

 それでも1位になれたのは、最後の最後で竜乃が頑張ってくれたからだと信じている。


 だって、そう思った方が納得できたから。


 ――ピリリッ


 背後から電子音が聞こえ、何事かと振り返ると配信ドローンと会話していた望月ちゃんが端末を取り出していた。

 どうやら連絡が来たようだ。


「あ、政府の専属職員さんからですね。明日に顔合わせがしたいみたいです」


 Tier1ダンジョンに挑む探索者パーティには、政府から一人専属の職員が付く。

 この制度は少し前から始まったもので、かつての俺のパーティにもついていた。


(あの人……元気かな……)


 かつて担当になってくれていた元気溌剌な職員を思い出す。

 色々と情報を提供してくれたり、政府側の橋渡しになってくれたりと親切にしてもらったものだ。


“日本に認められたモッチー”

“日本一様のお通りだ。道を開けな”

“最大級のもてなしを要求する!”

“なおモッチーは竜乃の姉御と虎太郎の旦那にしか興味が無い模様”

“自分の欲求を満たすために切り抜きを破格の価格で依頼したの聞いて爆笑した”

“しかもそれをキミーパイセンに怒られて適正価格に戻されたの聞いて腹抱えて笑ったわ”


「ちょ、ちょっと皆さん! その切り抜きの話は辞めてください! 優さんに2時間お説教されて心入れ替えましたから……」


 コメント欄と何やら楽しそうな話をしている望月ちゃん。

 切り抜きの依頼とは何だろうか? よく分からないけれど、優さんに怒られたという事だけは分かった。


 これは優秀な飼い獣である俺が慰めなければならない。

 このー、真っ黒な毛並みがですねー、触るとですねー、気持ちいんですよー。

 どうです?(期待のまなざし)


「……あ、専属職員になってくれるのは神宮さんみたいです。神宮さんって、JDC公式配信で解説をしていた人ですよね? そんな人にやってもらえるなんて……」


 JDC公式配信はもちろん望月ちゃん達と一緒に見た。

 だから当然神宮さんの事も知っている。まさかあの人が専属になるとは思ってなかったが。


“はえー、あの人か”

“結構美人さんよね。モッチーと並ぶと絵になるわ”

“でも、職員としての仕事できるん? 配信でしか見たことないけど”

“少し前まで専属職員だったはずだから、問題ないぞ”

“ここで神宮さん出してくるってことは、政府も本気なんちゃうか?”


 コメントでも指摘されていたが、俺も賛成だ。

 望月ちゃんの専属に有名な神宮さんを出してくるという事は、政府は望月ちゃんを重視してくれているという事だろう。


「あ、いえ、実は以前は別の人を提案されていたのですが、断った結果神宮さんになってしまったと言いますか……あ、別に前の人が悪いとかではなくて、ただ男性の方だったので女性の方を希望したらそうなったというか……うぅ、前の人にも神宮さんにも悪いことしたかなぁ」


“なるほど、そういうことか”

“いやいや、自分の意見は通した方がええ”

“専属となると顔を合わせる機会も増えるから、思ったことは言うべきよ”

“実際、合わなくて専属職員変える探索者も居ることはいるみたいよ”

“にしてもモッチーに男性職員を付けるとは……”

“まぁ、モッチーくらいの年頃の女の子は年上の男性に憧れるっていうのもあるから、あんま深く考えてなかったのかもしれん”

“なおモッチーの中では虎太郎、竜乃>>>>>>その他、の模様”


 望月ちゃんが職員変更を希望した本当の理由に言及したコメントは一切流れなかった。

 知っている人が少ないし、その人たちも言葉にするべきではないと思ってくれたのだろう。


「あ、そういえば配信で尽力してくれている優さんも同席して欲しいとのことでした。優さん、居ますか?」


 望月ちゃんが思い出したように言うと、少し間をおいて強調されたコメントが流れて一番上で止まった。


“キミー:了解。あとで端末と場所送っておいて。多分ダンジョン内の望月ちゃんのテントの中だよね?”


「あ、はい、その予定です。分かりました、あとで送りますね!」


 ふむ、以前の俺は配信をしていなかったが、もしもしているとこういった感じになるのか。

 確かに優さんは今や配信でも大人気のキミーパイセンであり、俺達のパーティのバックアップと言っても過言ではない。


 っていうか、そこにすぐ気づくあたり神宮さんは俺達の配信をかなり見返してくれたみたいだ。

 優秀な人材という事だろう。


 以前の俺の担当者は毎回何かを忘れていたので、彼女とは違うという事か。

 政府の職員はポンコツばかりなのかと思ってしまってすみませんでした。


“我らがキミーパイセン、ついに政府にも認知される”

“モッチーを支援するにあたってキミーパイセンと情報交換するのは大事”

“支援力2倍ってことぉ?”

“っていうか、キミーパイセンが羨ましい”

“うぅ……モッチーと個人連絡とってるなんて……”

“キミーパイセンが同性でなければ燃やせるのに……”

“心イケメンだから燃えないかな……“

“キミーパイセンは心が男だから”

“キミー:言いたい放題だけど、僕は心も体も女性だからね”

“やだ、カッコいい……”

“トゥンク”

“キミー:今の発言のどこにそう感じる要素があるのさ……”


「ふふふっ、優さんは頼れる先輩ですよ」


“はい、ここ”

“そういうとこやぞ”

“キマシタワー”

“キミーパイセンがスパダリな要因”

“このテイムモンスターバカはほんまに……”


「あれ? 誰か来ますね。念のためにカメラ下向けますね」


 ふと、前方から足音を聞いて望月ちゃんがカメラドローンを床に向けた。


 ダンジョンは広大だが、探索者に全く会わないわけではない。

 とはいえ、会ったところで軽い挨拶をしてすれ違うくらいだ。


 最近は有名になってきたので驚かれることは多かった。

 今回もその流れかと思ったのだが。


「あー! 望月さんだー!」


 聞き覚えのある声に俺は目を見開いた。

 こちらへと近づいてくる一つのパーティ。


 その先陣を切っているのは、満面の笑みの女性だ。


 姫宮姫乃。

 俺がこの姿になったときにテイムモンスターを使って殺そうとした探索者。


 博愛主義の仮面を被った有名ダンチューバーにして、俺の元推し。

 そして俺がもっとも怒りを抱く相手。


 頭が、真っ赤に染まった。


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