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第68話 俺達の挑戦の果て

 温かい光に包まれながら、まるでまどろみから覚めるかのように目を開けた。

 どこかの室内だ。ここは、どこだろうか?


 確か自分はクイーンに挑んで、戦って、そして。


『っ!? 痛ってえ!』


 思い出し、体を起こしたところで全身に激痛が走った。

 そうだ、俺はクイーンを倒せなかった筈。なのに、一体何がどうなって。


「ダメだよ虎太郎君! まだ治りきっていないんだから!!」


 鋭く耳に響いた声に体をびくりと震わせて、反射的に伏せの姿勢を取った。

 楽な姿勢ではあるのだが、考えるよりも先に体が動いていた。


 声の方に首を向けてみれば、望月ちゃんが心配そうな表情で俺を見ていた。

 彼女は今も治癒魔法をかけてくれているようで、温かい光が俺を包み続けている。


(……えっと……どうなって?)


 愛しの望月ちゃんに注意されたので、ゆっくりと首を動かして周りを確認する。

 闇に包まれていて暗かった筈の室内は、明るくなっていた。


 けれど遠くに見える不思議な紋様の壁や岩などは、ここがボス部屋であることを証明している。

 戦闘の跡もあるし、望月ちゃんもこうして無事だ。


『起きたのね、虎太郎』


『あぁ、竜乃。いったい何がどうな――』


 竜乃の声の方に視線を向けて何があったのかと聞こうと思ったが、目に飛び込んできた光景に俺は言葉を切らざるを得なかった。


 そこに居るのは竜乃だった。

 そんな彼女とじっと数秒見つめ合い。


『……竜乃……だよな?』


 それがまず出た一言だった。

 目の前にいる竜乃は面影を残しながらも、以前よりも遥かに大きくなっていた。


 それだけではない、体が大きくなったことに比例して顔つきはより凛々しくなり、白い体は光っているようにすら思える。


 これまでは言っては悪いが、ただ白いだけの小さなドラゴンという感じだった。

 けれど今は、竜乃から神秘さすら感じている。


 無垢の白球や審判の銀球が持つような神秘性があるように思える。

 ただあれらの球体が同時に有していた得体のしれない感覚はない。


『あら? お姉さんのこと忘れちゃったの? それともあんまりにも綺麗になったから戸惑ってるのかしら?』


 ふふふ、と微笑むのはいつもの竜乃だ。


 だがなんだろうか。

 この、久しぶりに年上の幼馴染に再会したら美人のお姉さんになっていたような感覚は。


 不思議な気持ちを抱きながらも、俺は彼女がやり遂げてくれたことをようやく悟る。


『……そうか、勝ったんだな。本当に、良かった』


『えぇ、完膚なきまでにね』


『あぁ……すまないな俺の代わりに。けど、ありがとう』


 素直にそう謝れば、近づいてきた竜乃は地面に降り立った。

 俺よりも一回り小さいくらいには大きくなった竜乃と、目線が合う。


『代わりじゃないわ』


 まっすぐに向けられる瞳を見て、金色が綺麗だと、そう思った。


『私は虎太郎の相棒。だから虎太郎が届かない敵には、私が届けばいい。

 私が届かない敵には、虎太郎が届けばいい。

 だから私達は最強、でしょ?』


 見惚れるような綺麗な笑みを浮かべる竜乃と彼女の言葉に、俺ははっとした。


 今まで竜乃を相棒と呼んでおきながらも、全面の信頼を寄せられていなかった事。

 俺が何とかして敵を倒さねばならないと使命感に駆られていた事。


 それらが一瞬で頭を過ぎり、最後に一つだけ大きな事が残る。


 ――あぁ、俺達は本当の意味で相棒になったんだな


 なら、言うことは一つだけだろう。


『そうだな。ありがとう、相棒』


『えぇ!』


 二匹して笑いあう。

 その様子を恍惚とした表情で望月ちゃんが見ていることには気づいていたが、無視した方が良いと本能が告げていた。

 おそらくは竜乃も同じだろう。


“虎太郎の旦那、良かったー”

“っていうか、竜乃ちゃんマジですごかった”

“蒼い炎凄すぎて手に汗握ったわ”

“あのクイーン相手に一歩も引かずに戦うの凄すぎるだろ”

“なんなんだよこのパーティ。全員強すぎるやん“

“モンスターも裸足で逃げ出すわww”

“つーか、クイーンとの戦いのときの竜乃ちゃん凛々しい。なんかこう、竜乃ちゃんじゃないみたい……”

“虎太郎が旦那なら、竜乃は姉御ってことか……”


 コメントも大盛り上がりのようだ。

 見てみると竜乃が蒼い炎でクイーンを倒したらしい。


 蒼い炎って、なんだ?

 そう思い、竜乃の方を向いて聞いてみた。


『あぁ、虎太郎には説明しておくわ。蒼いブレスが吐けるようになったんだけど、それは――』


 竜乃の説明はやや長かったものの、言われたことは多くはなかった。

 それを聞き終わり、俺は驚いていた。


 おそらく竜乃の蒼い炎はシークレットスキルの一種だ。

 俺が知る中で、蒼い炎も、魔法を打ち消す力も、闇を払う力も聞いたことがない。


 今の竜乃の説明を聞くに、彼女専用のスキルなのは間違いないだろう。

 っていうか、それなら竜乃は聖なる竜、聖竜だったってこと?


 なにそれ、クソカッコいいじゃん!!!!


 在りし日の少年の心を思い出し、思わずテンションが上がってしまう。

 それが態度に出ていたのか、竜乃に微笑まれてしまった。


“なんかさ……竜乃ちゃん、大人になった?”

“分かる。雰囲気が凛々しい”

“今の見てると、竜乃ちゃんが虎太郎の姉みたいだな”

“どうしよう。竜乃の姉御って言葉がしっくり来すぎるんだが”


 流れるコメントにはあまり目を向けないようにする。

 俺も竜乃のお姉さん度が天元突破している気がするが、気のせい――じゃないだろう。


 いやでもなんというか、竜乃をお姉さんだとは認めたくない俺も居る。

 どうすればいいんだ!!


 そんなことに悩んでいると、少し離れていた望月ちゃんが戻ってきた。

 彼女は俺達の間にしゃがみ込み、手のひらの上の指輪を見せてくる。


 そうだ。こんなときは望月ちゃんを見て心を落ち着かせよう。

 あぁー、望月ちゃんのしゃがみ姿可愛いんじゃー。


「見て見て二人とも。今回のボスドロップはテイマーでもつけられる装備があったよ。

 使用者の魔力を大幅に高めてくれる指輪だって。これで二人をもっと活躍させられるね」


 天使のような笑みを浮かべて心底嬉しそうに告げる望月ちゃん。

 このダンジョンのボスドロップは今まで装備できないものが多数だったが、ここに来てようやく当たりを引いたらしい。


 しかもTier2ダンジョン下層のボスドロップ品と言えば、その能力は中層や上層のものとは次元が違う。

 ボスの強さも壊れているならば、そのドロップ品も壊れている。


 当たり前である。これでドロップ品が貧弱だったらクレームを入れに行くくらいだ。

 どこに入れればいいのか全く分からんけど。


 望月ちゃんが指輪を身に着け(もちろん薬指ではなかった。素晴らしい配慮である)、深呼吸する。

 震える手で、ゆっくりと端末を取り出した。


“来た”

“来た”

“来た”

“頼む”

“いや、流石になるやろ”

“竜乃の姉御が頑張ったんやで? 政府分かっとるよな?”

“これで1位じゃなかったら……”

“信じるものは救われるんや”


 コメントもこれから起こるであろう歴史的瞬間にざわついている。

 Tier2下層ダンジョンボス、クイーンは倒した。


 あれは望月ちゃんからしたら、間違いなく格上で強敵だった。

 だから、ありえるのだ。あの頂を、氷堂を越えることが。


 望月ちゃんの震える指が、端末の液晶に迫る。

 ゆっくりと、ゆっくりと。


 たった一つの動きなのに、全員がそれを固唾を飲んで見守っていた。

 指が、液晶に触れた。


「…………っ」


 望月ちゃんが息を呑むのが分かった。

 俺の位置からは彼女が持つ液晶の画面は見えない。


「……だよ」


“モッチー?”

“どうした?”

“何位だった?”

“2位? 1位?”


 望月ちゃんは端末から目を離して、竜乃を、そして俺を見る。

 俺と目を合わせったままで、口が動いた。


「1位だよ」


 時が止まるような静寂の中、その言葉の意味をようやく理解し。


『1位!?』


『嘘!? 本当に!?』


 望月ちゃんが膝をつき、端末を俺達に見せてくれる。

 そこには、夢にまで見た「1」という文字が表示されていた。


“きたぁぁぁぁああああああ!”

“1位だぁぁぁあああああああ!”

“頂点取ったぞ――!!”

“モッチーが、ナンバーワンや!”

“お前がナンバーワンなんだよ!!!”

“良かった……ずっと応援してきて本当に良かった……”

“俺もう涙が止まんねえよ”

“すごい。すごいしか出てこない”

“おめでとう。本当におめでとうやで!”


 コメント欄も称賛の声に溢れている。

 望月ちゃんも涙ぐんでいて、俺も泣きそうだ。


 お姉さんっぽくなった竜乃でさえも、子供のように喜んでいる。

 三人で頑張った結果が数字となって出てきたのだ。嬉しくないわけがない。


 参加してから、これまで色々なことがあった。

 けれど、諦めずに突き進んで良かったと今なら思える。


 天井を見上げ、満足したように息を吐く。

 これまで闇に包まれていたからか、それとも気持ちの問題か、部屋は先ほどよりも明るく思えた。


 JDC最終日。

 俺達はついに夢を叶えることができた。


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