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第55話 光に絡めとられた獣

 宙に浮かぶ白い球体を見ながら、俺はその特性を冷静に観察する。

 敵は1体。主な攻撃手段は光の射出。


 そして取り囲むように浮いている2本の光の帯で、攻撃を防ぐ。

 この光の帯の防御範囲に制限はなく、全方向の攻撃に対しても先ほどのように防ぎきってしまうようだ。


 つまり、奴を倒すには奴の防御を貫けるほどの攻撃力が必要となる


(真っ先に思いつくのは、トールハンマー。けれどあの魔法も本質的にはイグニッションと同じ広域攻撃。威力が高くても、最適な攻撃でない可能性がある)


 攻撃してくる様子のない白球を睨みつけながら、俺が放てる最強の魔法について考える。

 けれどそれは最適ではないように思えた。


 それにトールハンマーは強力すぎるが、今の俺では複数回撃つことは難しい。

 たった一発に賭けるよりは、最適な手段を取るべきだ。


 グッ、グッと前足で地面を押し、感触を確かめる。

 この下層では物理的な攻撃を手段として取ることはできなかった。


 だが、こいつ相手ならばそれが取れる。


『竜乃、フォロー頼む。でも可能な限り近づくな』


『ちょっと、虎太郎!?』


 焦る相棒の言葉を無視して、俺は地面を蹴って奴に向けて駆ける。

 あっという間に大きくなる奴の白いボディを確認するよりも先に、白い線が俺を貫く。


 素早くステップを踏み、横に跳び退いて光線を避け。

 右の前脚を勢いよく振るった。


 爪が目にも止まらぬ速度で動いた光帯に阻まれ、金属音を鳴らす。

 見た目に似つかわしくない音を鳴らすものだな、なんてことを思った。


 直後、俺を貫く3本の白い線。

 それを跳びあがって避け、体を横に回転させて尻尾を奴に打ち付ける。


 その攻撃も光の帯に阻まれるが、反作用の力で体ごと横に動かして次の光線を避ける。

 俺が全身全霊で光線を避け、奴は俺を捉えようと複数の光線を俺目がけて放つ。


 避けながら奴の防御を崩そうと奮闘する俺。

 そんな俺をなんとしても捉えようと光線を連発する奴。


 時折飛来する竜乃のブレスを光の帯で防いでも、奴の光は俺だけを狙うようになっていた。

 短い光線で、俺の息の根を止める為に。


(いいぞ! もっと来い!)


 なにもたった一人で勝とうなんて思ってない。

 俺が奴を惹きつけ、余裕のできた竜乃が援護し、望月ちゃんが支える。


 こいつは分からないだろう。

 二人に被害が出ないだけで、俺がどれだけ戦いやすくなっているかを。


 あぁ、それにしても


 最近は味わっていなかった肉弾戦に心が跳ねていることに気づく。

 あぁ、そうだ。やっぱり俺はこういうのがいい。


 魔法も良いだろう。誰かをサポートするのだって悪くはない。

 けれど俺自身が戦いたい。


 剣でも、拳でも、爪でもなんでもいい。

 どうやら俺は、敵と近くで緊迫した殺し合いをしたいようだ。


『戦闘狂だなんて、認める気はなかったんだけど、なっ!』


 かつてのパーティリーダーの姿を思い浮かべる。

 うんざりしたように他のパーティメンバーに愚痴を言ったことがあったが、どうやら俺も同じ穴の狢のようだ。


 呟きながら左の前脚で斬り裂き攻撃。

 光の帯に弾かれても攻撃の手は緩めない。


 魔法を回避にも攻撃にも用いて、むしろ少しずつペースを上げていく。

 竜乃も間髪を入れずに何度もブレスを放ってくれている。


 望月ちゃんもずっと強力な支援魔法を使い続けてくれている。

 本来の俺達の、いや全力を出せる戦い方だ。


 俺の爪が光の帯に激突し、ついに奴を吹き飛ばした。


 例えあらゆる攻撃を防ぐ光の帯を持っていたとしても、強大な力で奴を吹き飛ばすことはできる。

 そしてこれは大きな一歩だ。


 今この瞬間、俺は奴の防御を上回った。

 そう感じ、一気に勝負を決める為に仕掛けた。


 背を低くして四肢を全力で稼働させ、一瞬で最高速へ。

 その速度のままに、逃がすものかと右の前脚を振るう。


 光の帯が高速で移動し、振り払おうとしている場所で交差する。

 それでも構わなかった。


『貫かせてもらう!』


 俺の全速力、体重、そして全力をかけた爪の一突き。

 これ以上はないと俺の体がそう告げている。


 そんな一撃は帯の交差点に突き刺さり、そして。

 一つめの光の帯にヒビを入れた。


 食い込む爪。しかしその進みは二つめの光の帯に届く前に。


『っ!?』


 鐘の音が響き渡る。

 先ほどまでとは比べ物にならないほどの白い光が俺の光を貫く。


 これまでのような5本や6本どころではない。

 何十本もの数えきれないほどの白線が蜘蛛の糸のように。


 けれど俺とて全く学ばないわけではない。

 勝利を確信した瞬間こそが最も危ないという事を嫌というほど学んできた。


 この攻撃は全力だが、捨て身の攻撃ではない。

 この攻撃は戦いを決めるためのものだが、最後だとは考えていない。


 風が、俺の体を包む。

 何かがあったときに後方に吹き飛ばしてくれるように用意していた風魔法、ウインドバースト。


 本能に任せて発動した風に乗り、離脱を試みる。

 そうしてまた距離を取り、一旦落ち着いてから再び接近戦に持ち込むつもりだった。


 俺にとっては、ただの仕切り直しの一環だった。


『ぐぁあ!!』


 けれど奴にとっては、大きな一手だったのだろう。

 右の前脚に痛みが走ると同時に、光線で焼かれたことを知る。


 混乱するしかない。今まで白い線は無かった筈。それなのに。


(俺の体に、通してあったのか!?)


 奴の光の帯に俺の爪が突き刺さっていた時間。

 その間に奴は俺の爪を通して体内まで白い光を通したのだろう。


 俺に決してバレないように。

 悔しさはある。だがそれを強く自覚するよりも前に、全身の血が凍る錯覚を覚えた。


 痛みで反射的にひっこめようとした右の前脚は、微動だにしなかった。

 その時になってようやく気付いたのだ。


 俺の爪は奴の光の帯を一枚突破して止まったのではない。

 奴によって、止められたのだと。


 強い風が俺の体を運ぼうと吹くが、捕らわれた前足が許してはくれない。

 顔を顰める程の風を感じたすぐ後に。


『ぐっ……あっ……』


 全身を襲う鋭い痛みに目を見開いた。

 どこを貫かれたのかなんて分からない。ただ痛くない部分などないくらい、激痛が体中を走っている。


 息を吐き出せば、不快な血の味がした。


 用は終わったとばかりに前足を離され、未だに吹いていた強風によって俺は力なく飛ばされる。

 体中が、熱い。耳鳴りが、止まらない。体にある嫌な感触は、血だろうか。


「―――――!!」


『―――!!』


 誰かが、何かを叫ぶ声を聞いて、全身を突き抜けるような衝撃を受ける。

 冷たい感触を感じて、そこでようやく地面に伏していることに気づいた。


(あ……)


 顔を上げれば、白球が目に入る。


(どう……して……)


 どうしてもっと警戒しなかったのか。


 奴の元となる銀の球体が、まるで人を嘲るような動きをしていたことを見ていた筈だ。

 奴自身が俺達を挑発するように光帯を動かしていることも見ていた筈だ。


 それなのになぜ、このようなことが起きると予測できなかったのか。

 予測していてもそれで足りないと、なぜ思わなかったのか。


(でも……今更か……)


 こうなってから後悔したところで、時間は戻らない。

 それにどれだけ考えたと仮定しても、それはもしもの話でしかない。


 だって、奴は俺よりも強いのだから。


 諦め、ゆっくりと目を閉じる。

 温かさは感じるが、それ以上に寒い。寒くて仕方がない。


 少し、眠ろう。


 あぁ、それにしても。


 同格ならともかく、それに残したものに負ける、か。









 ――キニクワナイナ


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