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第48話 VS 暗黒の皇帝

 暗黒城は地下2階層、地上6階層から成る広大な施設だ。

 攻略開始時点でJDCのイベントが終了するまでは残り10日。


 俺達は一日に2階から多くて3階のペースで城の攻略を行った。

 城の中はモンスターだらけ。少しでも広い部屋に入れば、次から次にモンスターが現れる。


 イメージとしてはモンスターハウスがほぼ全ての部屋で起こるようなものである。

 けれど低い階層ならば出てくるのはダーク・ソルジャーを始めとする一般的なモンスターばかり。


 ダーク・テイマーなどの上位のモンスターは通路でごく稀に出てくるくらいだ。

 とはいえ階が上がってくればモンスターのレベルも上がってくる。


 攻略後半になると流石に攻略のペースも落ちてくる。

 そして暗黒城に挑んで4日目。


「ここが最上階、ですね」


 俺達は最上階の最後の部屋の扉の前に居た。


 モンスターを倒すというのが目的である以上、広い城の中をしらみつぶしに探索する必要があった。

 ストレートで最上階を目指すならばともかく、遠回りをする以上、時間がかかるのは仕方がない。


 それでも、4日というハイペースでここまで来ることが出来たのは、望月ちゃんのレベルが上がることでモンスターを倒すペースが上がったからに他ならない。


“この扉の先の中ボス倒して、暗黒城完全制覇や”

“にしても、本当にモンスター多かったな。挑んでからずっと戦闘戦闘……”

“途中からモッチーのレベルが上がってきたからペースも上がってきたけど、もうダーク系の敵は見飽きました”

“攻撃手段だけなら復唱できるぞ。戦っても勝てないし、戦いたくもないけど”

“ここに居る視聴者の皆がダーク博士になったのは間違いない”


 コメントも敵モンスターにはもう、うんざりしているようだ。


“でも、あれだけ倒したから順位もいい感じだしね”

“16位でしょ? キミーパイセンのいう通り、この扉の先を倒せばTOP10入りそう”

“初見です。こんにちは”

“初見です”

“初見の数もだいぶ増えたし、ランキング上がってからどんどん視聴者数も増えてるしな”


 暗黒城に出現するモンスターの数は、下層攻略中に遭遇するモンスターの数を大きく上回る。

 この施設を一つ攻略するだけで、下層に何日も潜った分の経験値を入手することが出来るのだ。


 まぁ他に得られるものはないし、多数の敵と戦うことは危険なことでもある。

 だから今回のようにイベントでランクインするという目的でなければ訪れることはなかっただろう。


 結果として、ランキングは16位まで上がっていた。

 ここから先はほとんど団子状態。コメントの言う通り、この先の中ボスを撃破すればTOP10に入る可能性は十分にある。


 ランキングが上がったことにより、望月ちゃんの配信に訪れる人は爆発的に増えた。

 2桁になったときも大きく増えたが、暗黒城に入ってからはさらに加速している。


 それこそ大手企業のダンチューバーにも迫る勢いだ。

 コメントの数も膨大な数に上り、優さん一人では対処できなくなったために、よくある質問というページまで作って対処しているという。


 本来ならば人気になっていることに喜ぶところなのだが、暗黒城に挑み、さらに踏破しようとしている。

 嬉しくはあるのだが、今は探索に集中したかった。


「では……行きます」


 暗黒城の探索に慣れていた望月ちゃんも、流石に緊張した面持ちだ。


 扉に手をかけ、それを押せば自動で開く。それはこれまでのボス部屋の扉と同じ仕組み。


 扉の先は城の最上階。

 そして西洋式の城の最上階にある広間と言えば、謁見の間である。


 外で動いている人工的な冷たい光の影響で、部屋の中がよく見える。

 奥にあるのは二つの玉座。けれどそのうちの一つはボロボロで、もう一つに関しては倒壊して原形を留めていない。


 そしてその手前。謁見の間の真ん中ともいえる場所で俯いている大男が一人。

 ダーク系統のモンスターと同じ漆黒の体に黒くなったボロボロの王冠。

 手に握るのは身の丈ほどの大剣。


 この暗黒城の主、ダーク・エンペラー。

 文字通りこの城の皇帝である。


「思ってたより……大きい……」


 Tier2ダンジョンの下層の、しかも暗黒城の施設のボスともなると動画でも公開されている数は少なかったらしい。

 目を通した筈の望月ちゃんが思わず呟いたのも無理はないだろう。


 ゆっくりとエンペラーの頭が動く。

 非常にゆったりとしたスピードで、頭を上げたように見えた。


 奴には顔がない。

 ただ暗い闇だけが、頭の形を成しているだけだ。


 目はないけれど俺達をじっと見ているような視線を感じた。

 何も言わないまま右手に持つ大剣に力が入り、右足を前に出す。


 そして体を前に傾け、俺達の方に。


『焼き焦げなさい!』


 向かう前に、竜乃の炎のブレスが襲い掛かった。

 先手必勝。この暗黒城に入ってからというもの、竜乃が常に先陣を切ってくれていた。


 毎回毎回、かなりのダメージを敵に与えてくれていたのだが。


「……やっぱり、他のモンスターとは違う」


 竜乃に強化魔法を送っていた望月ちゃんの言葉通り、ドラゴンブレスを受けてもエンペラーに大きなダメージは無さそうだ。


 もちろん、全くダメージを受けていないわけではない。

 けれど、まだまだ相手は余裕のようだ。それこそ炎の中で動けるくらいには。


 大剣を手に、こちらへと向かってくるエンペラー。

 その動きをしっかりと見て、俺自身も魔法で応戦する。


 発動する魔法は事前に準備していた雷の中級魔法、ボルテックス。

 本来ならば上級魔法のトールハンマーをぶつけたかったところだが、俺の今の実力ではトールハンマーの魔法を準備した状態で保持しておくことが出来なかった。


 けれど中級魔法とはいえ、俺が最も得意とする雷属性の魔法。

 それなりのダメージは与えられると思ったのだが。


 返ってきたのはエンペラーが痺れ、怯む光景ではなかった。

 むしろ態勢を崩すことなく、大剣を振るってきた。


 エンペラーの動きをしっかりと見ていたために、後ろに飛ぶことで避けることは出来た。

 だが切っ先が体毛を掠るという、本当にギリギリの回避となった。


(思った通りか!)


 縦方向に振られた刃は横に跳んで避け、突き刺しの攻撃は風魔法の援護を受けて飛び上がって避ける。

 重量があるとは思えぬスピードで振られる大剣を必死に避けながら、俺は内心で舌打ちをする。


 ダーク系統のモンスターは全員が魔法に対する耐性を持つ。

 そしてその系統のボスともいえるダーク・エンペラーはさらに強い耐性を持つ。


 純粋に魔法防御やHPが高いことも相まって、俺の魔法でもあまりダメージが与えられていないくらいだ。


(こりゃあ……思った以上に竜乃頼みになりそうだな)


 物理、魔法共に今の俺では役に立ちそうにない。

 出来ることと言えば、奴の攻撃を惹きつけることくらいだ。


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