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第43話 ランキング、ついに2桁へ

 俺達が下層に進出してから早くも一週間が経過した。

 初日のダーク・ソルジャーでの戦闘の後は、俺達の内の誰かが危なくなるような戦いは起こらなかった。


 単に運がいいというわけではない。

 あの日の誓いを、俺も竜乃も望月ちゃんも忘れずにいるからだ。


「虎太郎君! 今のうちに!」


 崖の上から弓矢を放ってくるダーク・ソルジャー(弓)の攻撃を防ぎながら、望月ちゃんが叫ぶ。

 その向こうでは、竜乃がダーク・ソルジャー達の動作を少しでも見逃さないように真剣な瞳でドラゴンブレスを放っていた。


 望月ちゃんの魔法の実力も、竜乃のブレスの実力も上がっている。

 下層のモンスターを倒したことで、望月ちゃんのレベルが上がっている証拠だ。


 ようやく、下層のモンスターとのレベル差が埋まり始めたといったところか。


『お前の相手は、俺だ!』


 敵の後衛部隊を望月ちゃん達に任せ、俺は奴に向かって叫ぶ。

 目の前で紫色のオーラを纏い、じっとこちらを見ている気配を漂わせているのは、黒い馬に乗った一人の騎士。


 だが奴は人間ではない。

 身を包む鎧の隙間からは人間の肌ではなく、ダーク・ソルジャーと同じ闇が見えていた。


 ダーク・ナイト。

 下層のモンスターの中でも、レベルが高い。


 姿だけを見るならば、ダーク・ソルジャーの上位種に見えるだろう。

 だがこの下層のテーマは暗黒。


 それゆえに、ダークと名の付くモンスター達は上位種のような位置づけではなく、むしろシリーズと言える。


 ダーク・ソルジャーやダーク・ナイト以外にも闇の体を持つモンスターが多い。

 さらに残りの敵の種別もヘル・ドッグなどの闇を連想させるモンスターしかいない。


 奴の跨る馬が前足を持ち上げ、俺を威嚇する。

 そして奴が手綱を引き、漆黒の鋼鉄ブーツで馬の腹を蹴った。


 奴が、こちらに駆けてくる。

 中層でのスカイホースよりも早く、激突すれば衝撃も大きい筈だ。


 だが奴の攻撃手段は馬による突進ではない。

 右手に構えたランスでの一撃だ。


(速い……だが、対応できる!)


 俺だけに限れば実力は下層でも十分に通用する。

 流石に探索者界隈で有名な下層ボスに勝てるかは分からないが。


 風を纏い、さらに加速するダーク・ナイト。

 そして俺が間合いに入った瞬間に奴は僅かに馬を左に動かした。


 奴自身が持つランスで俺を串刺しにするために。


(ならその全てを、根本から壊す!)


 地下空間であるダンジョンに風が吹いた。

 砂と共に巻き上がった風が俺を中心に発生。


 上方向にガクンッ、という衝撃を感じると同時、俺は飛んだ。


 竜巻。

 時計回りに回転しながら集まってきた風は、衝突すると同時に上へと巻き上がる。


 本来ならば敵を攻撃するための風の中級魔法、サイクロン。

 それを俺は回避に使用した。


 空気により全身の体毛が遊ばれる。風に乗った土の香りを感じたときには、俺は風に突き上げられて上空に浮かんでいた。


 眼下には突然発生した竜巻に驚いて俺を見上げているダーク・ソルジャー達。

 そして少し下方でバランスを崩しかけている、同じように飛ばされたダーク・ナイト。


(獲った)


 体に命令し、魔法を組み上げる。

 風もあるが、俺の体から放出される熱量で体毛が逆立つのを感じた。


 その熱に気づいたのか、ダーク・ナイトが頭を上げて俺を見た気がしたが、もう遅い。


 準備は整った。

 歯を噛みしめ、喉を鳴らし、放つ。


 俺が居る場所よりもさらに上の空間が開く。

 先は何も見えない、どこに繋がっているか知ることはできない裂け目。


 そこから、炎の鉄槌が降ってくる。

 火の上級魔法、スパイラル・フレア。同じ火の上級魔法であるイグニッションが大地から沸き上がる噴火を想起させる攻撃なのに対して、こちらは天から降り注ぐ。


 上空に浮かされているだけでなく、バランスを崩していたダーク・ナイトに避けることなど出来はしない。

 だが俺はすぐに次の準備をする。


 これまでの階層なら、あるいは他のダンジョンの下層であっても、もう倒しきっただろう。

 だがこのダンジョンで考えるなら、まだ足りない。


『続けて食らえ!』


 光の剣を召還し、今なお炎に焼かれ続けるダーク・ナイトに突き刺す。

 奴は言葉を発することが出来ないため、叫び声や断末魔を上げない。


 けれど雰囲気だけで、奴が苦しんでいることがはっきりと分かった。


『終わ……りだぁ!』


 さらにダメ押しとばかりに雷の中級魔法、ボルテックスを奴にぶつける。

 中級でありながら、威力は上級のスパイラル・フレアと同等。


 いや、それ以上と言える雷は奴のHPを削りきり、消し炭にした。

 時間はかかったものの、結果は上々だろう。


 大地に降り立っても、まだ勝負は終わっていない。

 意識をすぐに切り替え、次と言わんばかりにダーク・ソルジャー(弓)を見上げた。


 危機を感じることが出来るのか、数体が一歩後ずさる。

 さあ、ここからは一方的な蹂躙だ。






 ×××





 下層に来てから、俺の中での戦い方ががらりと変わった。

 この体は魔法よりも物理攻撃の方が得意だ。


 これまで魔法は敵に対するけん制であったり、物理攻撃のきっかけとして使っていた。

 まあ雷の魔法に関しては、そうではなかった気がするが。


『お疲れ虎太郎。それにしても、もう魔法中心の戦い方も完璧ね』


 望月ちゃんに念のために体の調子を調べられる、いつものご褒美タイムの後。

 こちらに羽ばたきながら向かってくる竜乃に声を掛けられる。


『あぁ、最初は手こずってたけど、ようやく慣れてきたよ。

 とはいえ魔法の発動には時間がかかるから、どうしても時間はかかるんだけどな』


『本当に厄介よね。触れられないっていうのは。これを機に虎太郎も……いえ、なんでもないわ』


『?』


 竜乃の言葉に首を傾げる。


「あっ!!」


 急な大声にびっくりして飛び上がりそうになるのをおさえる。

 一体何事かと竜乃と共に視線を向ければ、全身で喜びを表現した望月ちゃんの姿が。


 そんな彼女は俺達二人、いや二匹の視線を感じ、こちらを向いて満面の笑みを浮かべた。


「竜乃ちゃん! 虎太郎君! すごいよ! 2桁だよ!」


 俺達の元に駆け寄り、端末を見せてくる。

 そこには、99という数字が表示されていた。


 この下層に来た時が200位代。

 そこから1週間かけての2桁は、素晴らしい結果だろう。


 特にここ2日ほどは上位のポイントの伸びがすさまじく、俺達の順位は伸び悩んでいた。

 けれど毎日探索していた努力が報われたという事か。


『やったわ! やったわよ理奈!』


『あぁ! 俺達が上位100組に入ったってことだろ!?』


『もう虎太郎ったら、それはあくまでもこの大会ならってことよ。

 でも、とっても嬉しいのは私も同じ!』


 あまりにも嬉しくて、意味もないのに体を動かしてしまう。

 竜乃もいつも以上に羽ばたきが力強い。


 2桁達成にコメント欄も沸いているようだった。

 これまでも順位が上がるたびに喜んでくれていたが、桁が変わった今回は喜びも桁違いという事だろう。


「うーん、でも大会が終わるまであと10日かぁ。目標達成できるかなぁ……」


 不安を漏らす望月ちゃん。

 タイムリミットは近い。けれど俺の中には、望月ちゃんの目的を達成するための一つのプランがあった。


 あとは望月ちゃんか、あるいは優さんが俺と同じ情報を持っていることを願うばかりだ。


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